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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第11章 Case1[終]:終焉とともに迎える朝日

 十代後半の少年、かつて戦死した仲間のひとり、ジンの姿をした敵。両者ともに、相手について確証を得た。

「生きていた。いや、蘇ったというべきか」

「今度()(たお)す……」

 ノークが(つるぎ)を振り下ろすと、ジンも剱で受け流す。交錯する剱の音が周囲に響く。

「斃すなら全力で来い」

 ジンが煽るように言い、ノークは制御できない力をぶつける。

「おい! 知り合いなのか!?」

 リフィナ女王は、2人の会話について聞く。幸いにも、魔族たちは手を出さずに待機しているようだ。

「ヤツは、ディフォルミス。過去に、俺たちから全てを奪った敵です」

 (けん)のとき。カノムのとき。そして、ノークのときも奪おうとしている。

 ディフォルミスは変幻自在に()った人物に変貌(へんぼう)して、記憶や声、性格までもを模写する。つまり、こいつが変化できる人物は喰われたということ。ディフォルミスが喰った人間の数は、計り知れない。それこそ、少なく見積もっても何千という数だろう。

 戦闘スタイルはジンの面影が垣間見えるが、粗い部分がある。剱は一撃一撃が重く、手が(しび)れる。このまま後先考えずに戦う訳にもいかず、ノークは一瞬だけドラゴン魔女の方を見た。魔族の元エースであるヤツが残っている限り、この国は魔族に敗北したままだろう。ディフォルミスの出現によって均衡が破れ、元エースと対等に戦える兵士など残っていない。もしも、ノークとディフォルミスが相討ちになった場合、元エースがリフィナ女王たちへ襲いかかるだろう。そうなれば、全滅する。

 ディフォルミスとの戦闘を継続し、ドラゴン魔女を先に。そんな余裕があるのだろうか。それにドラゴン魔女へ攻撃した途端、黙って見ている他の魔族が一斉に攻撃することになれば……

「魔族には特性がある。自分よりも強い相手に勝ったヤツとは、戦わない。魔族とて、勝てぬ戦いはしないようだ。現に、彼らが攻撃しないのは、トップと互角に戦っているから。自分より強い相手だと考え、手を出さない。ケンが負ければ、話は別だがな」

 ディフォルミスの独り言がどこまで正しいかは分からない。もし本当なら、とある説明がつく。魔族と均衡状態を保っていた理由。魔族は民が自分よりも強いと感じて、攻撃を仕掛けなかったのではないか。先の大戦で敗北したことで、魔族は民が自分達より弱いと考え、国を襲うようになった。そう考えると筋が通る。

 ディフォルミスはジンの姿で(つるぎ)を振るい、技を繰り出す。衝撃破となって襲いかかり、ノークも技で対抗する。互角のように見える。

 ディフォルミスが振るう剱が、ノークの頬を(かす)める。切り傷をいくつも作り、血が頬や腕を伝う。(かろ)うじて大きな傷にはなっていないが、小さな傷が増えていく。

 ノークの攻撃もディフォルミスに届くことがあっても、ディフォルミスは血を流さない。持久戦になれば、出血の量でノークが先に倒れそうだ。さらに、額や眉を掠め、流れる血が右目に入りそうだ。

 息が切れる。少し目眩(めまい)がする。視界がぼやけるときがある。血が出すぎている。ノークは流血で右目が開けなくなり、右側が死角になる。ディフォルミスの攻撃で特に右で防御すべきときに、見えずに攻撃を喰らう。そのまま足がフラつき、倒れてしまう。

(どうすればいい……。勝てる算段が見えない)

 倒れたままディフォルミスの方を見ると、丁度後ろの方にドラゴン魔女の姿が見える。

(いっその事……)

 博打を打つのもひとつ。最善の策ではないことは重々承知している。ただ、それ以外の選択肢が見つからない。

 ノークとディフォルミスとのダメージ蓄積は歴然だった。誰が見ても、ノークのほうが劣勢だ。頭にも傷を負って、全身が血塗れになり、地面が血で染まる。

 意識が朦朧(もうろう)とする。ディフォルミスは、ノークの攻撃を喰らっていても、まだ平気な顔をしている。

「あれだけ圧倒していたにも関わらず……、ヤツは何者なんだ……」

 圧倒的な力を有するディフォルミスに対して、何もできないリフィナ女王は、傷だらけで衰弱していくノークの姿を見て、涙が止まらない。嗚咽(おえつ)。兵士たちもその場から動くとさえ出来ず、震えていた。圧倒的な力で強敵を斃してきたノークが、全力を出しているにも関わらず、今やボロボロになっている。自分達が手出しするなどできるはずもなく……。

 やはり、敗北するのだ。この国はもう……。多くの民が改めて思う。ノークの戦いを見て、諦めていた中で一縷(いちる)の希望を持つことが出来た。そして、民は思うだろう。ノークは想像以上に善戦した。

 ディフォルミスがノークの方へと近づく。防御態勢になれず、致命傷になりそうだ。

 ノークは乱れた呼吸を整えて、最期の力で立ち上がり、剱を握りしめる。立っているだけで精一杯。ノークの持つ黒雲の剱が少しずつ光を発し始める。最初は弱い光だったが、段々と強くなり輝き始める。

「暴発は覚悟の上」

 黒雲の剱からバチバチと白いオーラのようなもの、将又稲妻や電撃のようなものを発する。ノークは右目を瞑ったままで、血塗れの腕を振り上げ、剱を大きく振り下ろす。

 すると、剱から爆発が起き、連続した爆発がディフォルミスの方へと向かう。ディフォルミスは避けることなく、爆発が直撃。さらに貫通して、入口の方へ。ドラゴン魔女が防御することなく、連続的な爆発の攻撃を喰らい、入口の壁も爆発により崩れ始める。入口の崩落と爆発による煙で、明かりが消えた。真っ暗な中、崩れる音が響く。

 崩落が落ち着き、しばらくして、エギナがランタンに火を灯す。ランタンで周囲を見渡すと、入口とディフォルミス、ノークのいた辺りで崩落が発生したことが確認できた。壁や天井が崩れて、瓦礫の下だ。

 兵士を中心に、瓦礫の撤去を始めた。天井には達しておらず、瓦礫の山を乗り越えれば、外に出られそうだ。兵士の1人が、外へ確認に向かうと、魔族が攻撃をしない。

 ディフォルミスという敵が言ったことが本当ならば、魔族は民たちの方が強いと感じたのだろう。理由は、ノークが多くの敵を薙ぎ払い、ディフォルミスとも渡り合った。民から攻撃を仕掛けず、このまま睨み合えば、崩れた均衡が復活し、維持することができるだろう。


 眩しい朝日が昇る。いつも見ていた朝日と同じだけれども、気持ちは違う。

 多数の犠牲を払い、全滅を覚悟したが、ノークの活躍により国は再スタートする。しかし、そこにノークはいない。

 リフィナ女王は、数日後に兵士の報告を、エギナから聞いた。魔族の元エース、ドラゴン魔女はノークの最期の攻撃で斃れた。ノークは瓦礫に埋もれ、圧死。多少医療知識のある兵士によれば、圧死よりも先に出血性ショックによって死亡した可能性が考えられる。いずれにせよ、ノークはディフォルミスと相討ちになった。ノークの遺体は瓦礫の山から発見されたが、不思議なことにディフォルミスだけが発見できなかったそうだ。

 リフィナ女王は、気を引き締めて国の再建へと動く。ノークの死を無駄にはできないと、これまでとは見違えるほど、懸命に働き始めたそうだ。

 魔族に敗北した世界は、魔族との均衡を取り戻し、再び歩み出す。


To be continued…


【登場キャラ】


・ノーク・シャルク。カノムが転生。魔族との戦いにおいて、圧倒的な力を振るい、一国を守り切った。しかし、戦闘で命を落とした。死因は出血性ショックか圧死と考えられる。

・ディフォルミス。喰った人物の容姿や声、記憶を持ち、自由自在に操る。カノムやジン、アキラ、エナたちが敗北した相手。

・ジン・バルヴァバード。嘗て、カノム達と共に戦った仲間。戦闘により死亡し、ディフォルミスに喰われていた。

・リフィナ女王。ノークが命と引き換えに守った一国の再建を目指し、かつてのだらけた姿から見違えるように懸命に働き始めた。

・エギナ。再建を目指すリフィナ女王の側近として、サポートをしている。


 「第11章」に関して。

 1つ目の異世界で決着がつきました。連戦とは言えども、ノークがかなり苦戦していたようです。そんな中で、何とか元エースを斃し、ディフォルミスが姿を眩ますような状況になりました。

 この世界での最大値を与えられたものの、ディフォルミスはかなりの強者のようです。リフィナ女王の物語も今回で終了し、物語は次の異世界へと移りゆく。

 さて、前回の後書きで”ニンについて今回本編で触れる予定です”と書いてましたが、半分忘れていて半分回想はいらないと思って、本編で出てこず。ジンに弟がいて、2人とも戦死しているという認識があれば十分かなと。本編で重要なところではないですし……。ニンには申し訳ないけれど。

 さて、次回は現代パートと、早くも次の異世界が少し登場しそうです。(たぶん)

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