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那朗高校特殊放送部!

那朗高校特殊放送部~バレンタイン・ディ編~

作者: 那朗高校特殊放送部

筆者:紅葉黑音


「本日は、バレンタインデー!」




「…の、前日です。」


今日の活動場所は家庭科室。

特別に貸し切り…というわけにはいかなかったので、料理部の活動後に使わせてもらっています。

おかげで外は真っ暗ですが、放送部の部室にはキッチンが無いから仕方ありませんね。


「バレンタインの前日って言ってもさ、」


その横で、案外可愛いエプロンを付けた霜月さんが声を上げます。


「別にチョコ渡す相手とか居ないからなぁ…」


それはごもっとも。


「だったとしても、居ないからって何もしないのじゃ、つまらないじゃないですか」

「いつの間にか随分とエンタメ精神が育ってきてるな…」

「去年からこんな感じだと思いますよ?鍛冶したり、クリスマスにコスプレしたりしてますからね」

「あー、そうだったな」


霜月さんも分かってくれたようです。

元々私はどちらかというとイベント好きな方なのですよ!

…ただまぁ、今まではあまり機会に恵まれなかったというか、一人でやっても空しいというか、そういう事情であんまり参加そのものはしてないですけれど。


なので、好きな人とか、そういうのが居なくても、バレンタインに向けてチョコを作るという"企画"はちょっとやってみたかったりするわけです。



「誰がどうこうとか、そういう野暮な話はしません。とりあえず、補導時間になる前に、作りましょう」

「あぁ」「はいっ」



というわけで各々エプロンを締め直しキッチン台に立つ3人。


「そういえば今日は倉井と夏輝は居ないんだな」

「倉井さんはチョコ作るタイプじゃありませんからね…」


毎年幼馴染である私には市販のチョコをくれますが、所謂友チョコというやつでしょうし、他の人にあげているのは見たことありません。


「確かに…いやちょっとまて、あたしは作るタイプだと思われてんのか!?」


口には出しませんでしたが、霜月さんは好きな人が出来たら手作りしちゃうタイプな気がします。

何故か裾に小さいフリルとか付いている、ちょっと可愛い感じのエプロンですし。

ただ、新品な所を見るに、料理はあまりしないのでしょうね。

もしかしたら、この為に用意した…?


「な、夏輝先輩は…?」

「夏輝さんはなんか、今日は特別な撮影をするって言ってました」

「またコスプレか。あいつらしいな」


詳しくはわかりませんが、多分バレンタインらしいことをしているのは確かでしょう。

バレンタインっぽいコスプレを思い浮かべて真っ先に出てきたのは裸エプロンでしたが、まぁ、そんなものをネットに上げたら一発アウトなので、多分違うでしょう。

他男子勢は今日はお呼びではないので、私と霜月さん、与那嶺さんの3人での活動になります。


因みに私と霜月さんは、専用の衣装を持っていますが、今日は制服です。

2人とも、チョコで衣装を汚すわけにはいかないですし、逆にチョコに異物を入れるわけにもいきませんから。


「というわけで料理部の与那嶺さん、レクチャーお願いします!」

「え、ちょっと、わ、私ですか?」

「あぁ、だってあたしやり方分からねーしな」

「私はなんとなくわかりますけど、そこまで詳しい訳じゃないので…」

「そ、そうなんですね…」


突然の指名に面食らった感じの与那嶺さんですが、なんとか引き受けてもらえました。

正直な所最初からそうするつもりだったので、ここで断られていたら普通に詰みですね。


「あの…湯煎で溶かして固めなおすパターンでいいんですよね…?」

「個人的にはそれが妥当かなーって思いますよ」

「カカオからとか、多分高校生には無理だろうしな」

「わかりました…えっと、じゃあ、まずは市販のチョコを持ってきましょうか」


そうして私たちは、家庭科室の冷蔵庫に入れさせてもらっていた板チョコを取り出します。

ミルクチョコレート6枚、ビターチョコレート3枚、ホワイトチョコレート3枚。


「多くないか…?」

「碌に相談しなかった結果、皆買って来てましたからね」


皆がみんな、ビターとホワイトを1枚ずつ、ミルクは多めに2枚、なんて買い方をしたおかげで、

そしてそれを確認もせず冷蔵庫に突っ込んだおかげで、今こんな感じです。


「と、とりあえず、無いよりはあった方が良いですから…」


与那嶺さんがテキパキと、机の下の収納スペースから、片手鍋やボウル、まな板などを取り出します。

この辺りは流石料理部といったところですね。

…私たちは家庭科室の調理器具なんて、年に2回あるか無いかの調理実習でしか使いませんから。


「どうします…?型も作りますか…?」

「型ってなんだ?」

「えっと、溶かしたチョコを流し込む型です。一応、家庭科室にはそれ用の型もありますけど…」

「うーん、どうせならそれも作っちゃいましょうか!」

「え、マジで!?」

「わかりました。じゃあ、アルミホイル持ってきますね」


パタパタとアルミホイルを取りに行く与那嶺さんを見送りながら、霜月さんと、テーブルに使いやすいようにまとめながらとりとめのない話をします。


「しかしなぁ…手作りのチョコ作って、どうしたらいいかなぁ」

「道場の皆に配ったりしたらどうですか?」

「嫌だよ…絶対勘違いするぞあいつら」

「なるほど…じゃあ、『私に勝ったらチョコをやるぞ!』っていうのは?」

「あたしを殺す気か…」

「冗談ですよ」


霜月さんの苦笑いを見る限り、本当にそうなんだろうなぁという思いがひしひしと感じます。

私が言えたことでは無いですが、きっと霜月さんを含め、道場には色恋なアレコレはあまりないのでしょう。

本当に私が言えたことでは無いですが!!


そうこうしている内に与那嶺さんが戻ってきて、本格的にチョコ作りに入りました。


「あの…型を作って、湯煎したチョコレートを流し込むだけなので、説明とか本当に何もないんですけど…」

「でもほら、何かコツとかはあるんじゃのか?こう…タイミングとか」

「あ、確かにそういうのなら…」

「そういうのをお願いしますね!普段与那嶺さんがやってることをそのまま見せてくれるだけでいいので、ね?」

「ふ、普段そんなにチョコなんて作らないんですけど…一応、やってみます」


与那嶺さんはテキパキと手際よく、片手鍋に水を入れ、ボウルを洗って水分をふき取って行きます。


「基本的に、チョコがよく溶けたタイミングで型に入れたいので、先に型を作ったり、トッピングの準備をしておくのが良いかもしれませんね」

「なるほどな、じゃあ、先に型から作っておくか…で、型って、どう作るんだ…?」

「え、多分、アルミホイルで形を作って…ですよね?」

「ま、まぁ、そうなんですけど、普通の紙とかで先に外枠を作って、それにアルミをかぶせるようにすると、チョコを流し込んでも形が変わらなくていい感じですよ…?」

「なるほど…!勉強になりますね!」

「あ、あぁ、そうだな」


お菓子作りの経験が少ない事が露見して、必然的に女子力の低さを露呈させている3年生です。

良いんです!最低限の化粧とかケアとか家事が出来れば生きていけますから!

…とはいかないので今こうして教わっている面はあるのですが。




「…こんな感じですかね」


与那嶺さんの言っていた通り、まずは紙で円を描くように輪を作り、そこにアルミホイルをなるべくシワが出来ないように覆いかぶせました。

確かに軽く触った感じ、ちょっとくらいの圧力には耐えられそうです。

ふと横の霜月さんの方の様子を見てみると、


「…思ったより難しいな…」


霜月さんはただの輪っかではなく、紙を折ったりしながら、何か複雑な形にしようとしているようです。

これは…星形?


「霜月さん、凝ってますね」

「こんくらい結構簡単に出来るだろ、って思ってたけど、甘かったな…」

「ただの輪っかでも、アルミを皺なく被せるのは中々難しかったですからね」

「もっとシンプルな形にするべきだったな」

「ハート形とかですか?」

「そ、それは流石に恥ずかしいだろ…」


ともあれ、何とか二人とも型を完成させることは出来ました。

私は円形、霜月さんは星形のチョコが作れそうです。


「あ、チョコの量が多いので、何個か型は作っておいた方が良いですよ…?」


…まだ、型作りは続くようです。


「…今度は四角とかにしとくか…」


そんな霜月さんの独り言を聞きながら、私も作業に戻りました。




「次は湯煎ですね…コツとしては…焦らずのんびりやる事…?」


私達が型作りを終えている間に、与那嶺さんの手にはミトンがはめられていて、板チョコが何枚か入れられた金属ボウルを持っています。


「一応、温めてるボールは熱くなるので、素手じゃ触らないように…って、そんなことは分かってますよね…」


そういいながら、与那嶺さんはそっとボウルを片手鍋に浮かべ、コンロに火を付けました。

浮かべると言っても、そんなに不安定な感じではありません。

勿論私達も、それを真似してボウルにチョコを入れ、水を張った鍋に浮かべます。


「チョコに熱が伝わるまでには結構時間がかかるので、様子を見ながら、火加減を調整していきます」


と与那嶺さんは言いますが、お湯が煮立ち始めてきている段階で既に板チョコはボウルに触れている角の部分が溶けかかっているのか、やんわりと潰れ始めているように見えます。


「あとはそうですね…人によっては、ここでチョコをブレンドしたり、ちょっと味付けしたりする人もいます…前に作った時は、砕いたアーモンドとか入れましたね…」

「私達もやっちゃいます?バニラエッセンスとか」

「それくらいならいいんじゃないか?何かほかにテクニックとか無いか?」

「うーん…例えばですけど、完全に解けきってない状態の二種類のチョコを混ぜ合わせて、マーブル状にするとか…ありますけど…」

「なんか…素人がやると怪我しそうなテクニックですね…」


慣れない人がやっても、多分何とも言えないぐちゃぐちゃな感じになってしまいそうです。


話している内に、チョコは完全に解けきり、板チョコだった頃の面影は完全になくなりました。

ボウルには光沢のある茶色のとろみのある液体が広がっています。

さっき入れたバニラエッセンスの香りもほんのりと漂ってきました。


「で、出来ましたね…あとはこれを型に流し込んで冷やすだけです…」

「これは…冷めないように急いでやる必要があったりするのか?」

「どっちかっていうと…空気が入らないように、慎重にゆっくりやった方が良いかもしれませんね…」

「そ、そうか…」


与那嶺さんが、溶けたチョコを型に注いでいくのを見ながら、なんとか真似しようとチャレンジします。


「待って、これ難しくないですか!?」

「めっちゃこぼれるんだけど。どうすればいいんだこれ!?」


ですが、2人ともボウルの縁で綺麗に垂れてくれず、カーブに沿ってダラダラと…

まだ被害は少ないですが、このままやってもううむ、どうしたものか、

と思って与那嶺さんの方の見ると、混ぜるのに使っていたヘラを器用に使って、垂れる方向をコントロールしていました。


「「なるほど…そんなやり方が…!」」


2人して、天啓を得たり!と意気揚々与那嶺さんの方法を真似して、また型の外にこぼす二人でした。


とはいえなんとかチョコを型に注ぎ終えた3人。

…ん?


「あれ、与那嶺さん、その型まだ半分しか注がれてないような…?」

「あ、これはですね…固まった後別のチョコを足して二段チョコにしようかな…って」

「なっ…」


またも、与那嶺さんの小テクに、発想の敗北を覚える私。

そうか、そう言うのもあるんですね!?


「ま、まぁ…ここから色々トッピングするのも面白いですから…ね?」


その通り、私のチョコはまだ終わっていません!

ここにさらに、トッピングがあるのです!


今の所私が事前に用意したのは、イチゴ、マシュマロ、ピーナッツ、チロルチョコ、グラニュー糖。

…よく考えると一部謎なバリエーションですが、まぁ、良いでしょう。


「マシュマロはトッピングっていうか、ふつうにフォンデュして食う気だな?」


仰る通りです。


まずは開幕一発、丸い型にまんべんなくグラニュー糖をパラパラと振りまきます。

ザラザラとした食感が、チョコに新たな世界を与えるのです。

これ以上なく甘くなりますが、今の奴は元がビターチョコなので、中和されていい感じでしょう。


次の型には、チロルチョコ。

チョコにチョコをぶち込むという凶行ですが、案外アリなんじゃないでしょうか?

普通に食べてたら中にチロルチョコが!

なんてサプライズ。


…まぁ、このチョコをどうするのかまだ決めて無いんですけどね!


霜月さんはどんなトッピングしてるんだろう?と思い少し見て見ると、

鮮やかな赤色の粉末をを振りかけています。

チョコのブラウンと、粉末の赤の組み合わせに少し高級感が見えます。


「それ、何ですか?」

「え?唐辛子パウダーだけど…」

「唐辛子!?」


何故っ!?


「ほら、甘いチョコと辛い唐辛子混ぜればなんかいい感じになると思ってさ」

「な、なりますかね…?」


よく中華料理とかで聞く甘辛とはちょっと違う気がしますけど…


「いやな、あたし甘いのあんまり得意じゃなくてさ」

「え、そうだったんですか…」

「まぁ、ビターチョコくらいなら全然平気だから」


そういう霜月さんの型に入っているチョコレートは、確かに唐辛子をかけていた一つを除いて、ビターチョコが入っています。

それだったらそもそもこの企画にはあまり乗り気じゃ無かったのかもしれません。

というか、普通に乗り気じゃ無かったような気がします。


何か悪い事したかなぁ…?と思いつつも、ビターチョコの一つに、ガッツリトッピングがなされているのを見て、チョコ自体は苦手でも、この企画はまんざらでもないのかも…?

とも思います。


とりあえず、残したチョコレートが固まらないうちに、そこに苺をねじ込んで完成とします

思い切り苺がはみ出していますが、それもまた風情。


「後はこれを冷蔵庫で冷やして完成ですね」


そう言いながら与那嶺さんと共に、各々が作ったチョコを冷蔵庫に運びます。

そのまま冷蔵庫のドアを開け、さっきまで持ちこんだチョコやトッピングのあったスペースにチョコを収めていきます。

それ以外のスペースは、他の料理部員のチョコで埋め尽くされています。


「・・・この時期は皆チョコ作ってんだなぁ」

「バレンタインですからね」


「後は…数時間くらい置いておけば完成だと思いますよ?」

「数時間ですか…実際に出来をチェックするのは明日ですね」


外は真っ暗。

最終下校時刻ギリギリです。


というわけで私たちは、とりあえずその場を後にして、今日は帰る事にしました。





翌日


朝一番。

校舎が解放されたとほぼ同時のタイミングで登校し、速攻で家庭科室にやって来た3人。

普通は特別教室は朝は入れませんが、今回は料理部としての鍵管理を与那嶺さんが行っているので、特別に侵入する事ができました。


侵入と言うように、普通はやっちゃいけませんよ?


…与那嶺さん曰く、この後料理部の面々も家庭科室に侵入してくるらしいですが…


「お前ら眠そうだな…」

「普段しない早起きですからね」

「ほんの20分くらいだろ…」


そんな事を駄弁りながら冷蔵庫の扉を開けると、そこには昨日チョコを入れたままの景色が広がっています。

ですが、実際に型を手に取ってみると、握力で凹む、なんてことは無く、しっかりと固まっています。


…調子に乗って逆さまにしたらグラニュー糖の粒がいくつか落ちてしまいましたけど…


「うん、いい感じだな。あたしの唐辛子チョコ」

「絵面は美味しそうなんですけどね…」

「実際に美味しいかもしれないだろ?」


また少し例のチョコで揉めながらお互い自分のチョコの様子を見ています。


「先輩…チョコ、誰かに渡すなら包装ありますからね…?」


与那嶺さんは早速、作り立てのチョコを袋に入れています。

その横には、オシャレな紙の箱と、いかにもな包装紙とリボン。


あえて口には出しませんが、あれはつまり、与那嶺さんには渡したい人が居るというわけですね。

その見た目からいつもは思いませんが、与那嶺さんも高校2年生、それなりに思うものはあるのだろうなぁ、と考えさせられます。


「…先輩、プレゼント用の箱とか、使います?」


「「…いえ、大丈夫です(いや、大丈夫だ)」」


一方の高3コンビは、現状渡したい意中の相手も居ないため、普通に自分で食べるように作ったのでした。

あ、でも一個は倉井さん用に取っておきましょうか。多分、今年も市販の奴はくれるでしょうしそのお返しに。

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