七話 迷子の秘訣は周りを意識しないこと
@悟視点@
「あ、希求じゃないか」
「むにゅー、確かに私は希求だよ。お兄ちゃんと会うのは久しぶりだねぇ」
クリスマスなので町を散歩していたら、数ヶ月くらい行方不明の希求に出会った。
希求は俺の妹の中では一番背が小さく、顔も他の三人よりは幼い顔をしている。特殊能力は物理学を無視する能力で非質系だ。質系の能力に対してはほとんど無敵という優れもの。
ちなみに希求を恋人にする場合は、一部を除きランダムイベントなので注意が必要だが、今回は定期イベントだろう。
「今まで何処にいたんだ?結構心配したんだぞ」
「あれ、心配しててくれたの?」
「当然だ」
「当然なんだ?とにかく、ありがとう!」
おぉ、久しぶりに礼を言われた気がする。
「まぁ、俺が一緒の間は迷う事もないから安心しろ」
「既に迷ってる気がするけどねぇ」
「あー、確かに迷ってるな」
町を歩いてたはずなのに何故か森に居る俺達。希求と会ってから数十秒しか経ってないから、全力で走っても森に入ることは不可能だ。
「一体、どうやって迷ったんだ?時間的にも無理があるはずだが」
「迷子の秘訣は周りを意識しないことだよ。だから、周りを意識しながら歩いたら迷わないんだけど、会話に夢中で周りへの意識が薄れたみたい」
「なら、周りを常に気にしておけば良いのか?」
「うん」
確かに周りが見えてたら、迷子になるまでの間が瞬間移動みたいに見えるだろうからな。いや、急に周りが光って違う場所にいつの間にか居るとかもありえる。
「昔は地球内だけだったけど、特星に迷ってからは様々な場所に迷ってるんだよ」
なるほど。希求は昔に特星に迷ったのか。
「ん?待てよ。それはいつだ?」
「去年だけど」
なるほど、一度特星に行ったから他の妹よりも幼女体型なのか!
「ねぇ、先に進もうよー」
「そうだな。森は危険が多いだろうし、特星エリアの可能性があるからな」
「むにゅー」
念の為に思考内で再説明するが、特星エリアとは特星に元々ある自然だらけの場所で、モンスターが出て大変危険なのである。
あと、希求の言っている『むにゅー』は、無乳の意味を知らずに言っているだけである。原因を作ったのは紛れもなく俺だが。
〜神門王国〜
「どうやらファンタジックな世界に迷い込んだようだな」
「綺麗な国だねぇ」
希求の言ったようにこの国は見かけがとても良い。地面が芝生になっていて、家の壁が白い家がほとんどである。そして、此処を直線にいったところに城がある。
「あれ?」
希求が何かに気付いたような声を出す。
「どうした?」
「お城から人がこっちに吹き飛んでくるよ!」
人が吹き飛んでくる?そんなこと特星では当たり前だが、此処が特星じゃなければ大怪我だぞ!
「ふげふぅっ!」
いろいろ考えてるうちに目の前に落ちてきた。上半身が裸で全体的に焦げたような跡がある。
「痛たたたっ、でも少女の攻撃だから嬉しいですねぇ」
あれ、この男はもしかして雑魚ベーか!
「雑魚ベーかよ!」
「へ?って、悟さんじゃありませんか!何でこんな所に居るんですか?」
「迷子だ」
雑魚ベーは此処の事を知ってそうだな。
「雑魚ベー、此処は何処だ?」
「って、可愛い子発見ですよぉっ!」
希求が居たんだった!
[スラリ]
「って、のふあぁっ!」
雑魚ベーは希求に抱きつこうとしたが、すり抜けて地面に滑り込む形になった。
「すり抜けるのは予想外でしたねぇ」
「大丈夫?全身が傷だらけだよ」
傷だらけ?
「って、此処は特星じゃないのか?」
「そうですねぇ。此処は神門王国と言って、地球や特星のある世界とは別の世界にある国ですよぉっ!」
おー、俺達は異世界に迷子になったのか。
「って、何で雑魚ベーが居るんだ!」
「私は東武に暇つぶしで着いていったら、問題に巻き込まれただけですよぉっ!」
「東武も居るのか?」
「此処は東武さんの故郷ですからねぇ。私も何回かきた事がありますよぉっ!」
そういえば、異世界から来たとか言ってた気がするな。
「どんな問題に巻き込まれたの?」
希求が地味に重要な事を聞く。
「って、そうでした!少し手伝ってくださいねぇ」
「拒否権は?」
「断ったら、後々この世界の破壊に巻き込まれて死にますけどねぇ」
重要問題すぎるだろ!
「分かったから案内しろ」
「任せて下さいよぉっ!」
「むにゅー、私は話についていけないなぁ」
はぁ、問題に巻き込まれるんだろうな。これは主人公に多いイベントフラグのせいだ。
〜神門城〜
雑魚ベーの話によると、非常に強い力を持ったお姫様が暴れているので大変らしい。
「あのお姫様は可愛いんですが、この世界を崩壊させる力を持っていますからねぇ」
恐ろしい姫様だな。
「本当は心優しいけど、力を狙う人達に狙われ続けて世の中が嫌になったとか?」
希求、それは少しベタ過ぎると思うぞ。というか、そんなに真面目な理由である可能性は、俺の経験上でかなり低いぞ。
「結構合ってますけど、肝心な部分が抜けてますねぇ」
肝心な部分ねぇ。狙われたせいで好物のお菓子が粉々になったとか?
「狙われてるせいで恋愛ができないらしいですねぇ」
「はい?」
意外な答えに俺は唖然となる。
「良い相手が探せないし、良いと思った相手がいても力が目的だったりするらしいですねぇ」
「俺的には微妙な理由だな。その姫の年齢は?」
「雨双さんやアミュリーさんと同じくらいですねぇ」
十分に小学生じゃないか!
「明らかにまだ早いと思うぞ」
[ガスッ!]
「痛っ!何で蹴るんだ、希求!」
「いや、なんとなくだけどねぇ」
仕打ちが酷い!
「この階段を上がれば姫が居ますよぉっ!今は東武さんが止めてますけどねぇ」
「世界崩壊レベルの敵だろ?魅異が居れば一撃で終わるんだけどな」
「私は長期戦の方が楽しいから、ワザと長引かせるけどね〜」
って、いつの間にか現れたよ。
「あ、魅異ちゃんだ!」
「もしかして、手伝ってくれるんですか?」
「まぁ、死人が出そうな状況になったら、適度に手伝うよ〜」
実力がある奴に限って、こういう性格の奴が多いのは何でだろうか?
「恐らく、私とかが正義感が強かったりすると、すぐに敵が倒されるからだろうね〜」
「現実的な理由だな」
「それより、階段が長いよぉー」
希求が流石に疲れてきたようだ。
「屋上までまだまだですけどねぇ。良かったら私がお姫様抱っこで運びますよぉっ!」
雑魚ベーが無茶を言ってるが、お姫様抱っこで体力持つのか?
「良いの?」
希求が何故か俺に確認をとる。
「あぁ、流石の雑魚ベーもこの状況だと何もできないだろうし、疲れたなら運んでもらって損はないだろ」
「お兄ちゃんは運べないの?」
「絶対に無理。そして疲れるから嫌だ」
「むにゅー、そうなんだ」
希求は少し落ち込んだ様子で雑魚ベーにお姫様抱っこをしてもらう。
よし、なんとか恋愛フラグの回避に成功だ!
「なるほどね〜」
魅異がなんだか楽しそうな笑みを浮かべている。
言っておくが、魅異が俺の喜ぶことを一度もしたことない。というか、俺が避けたい事をわざわざ実現させる嫌がらせをしてくる。
「おっと、足が滑ったよ〜」
「のふぁっ!」
「うあぁっ!」
先頭の魅異が急に振り向き、雑魚ベーに見事なヘッドスライディングで突っ込む。魅異に突っ込まれた雑魚ベーはバランスを崩し、お姫様抱っこをしていた希求を後ろに飛ばしてしまう。
「って、危ない!」
俺はすぐに振り返り、飛んでる希求を落下の衝撃から守る為に飛び掛る。
言っておくが、此処は特星ではないので、この長い階段から転げ落ちたら大怪我をすることになる。
俺が気球の手を掴もうとした瞬間、希求が目の前から消えてしまった。そして俺は階段からヘッドスライディングのように落ちた。
「いやぁ、私は能力で階段に戻ったんだよねぇ」
今、俺が落ちた場所で魅異に治療をしてもらった。
俺は階段から落ちた後、魅異の能力で此処まで移動させてもらったらしい。希求は自分の能力で、階段から落ちる前に元の場所に戻ったようだ。
「魅異、さっきの技は?」
「魅異流技の休憩って名前の技だよ〜」
今はもう直してもらったが、落ちた後の俺の顔は傷だらけだったらしい。というか、脳にも明らかにダメージがあったな。
ちなみに魅異の魅異流技って変な名前の技が多い。
「魅異流技の種類ってどのくらいなんだ?」
「いくつかの例を挙げると、コンテニュー、物理学無視法、神離学無視法、魅異学完全法、勇者流技にも分類されるけど勇者連拳、後は魅異流技の通常攻撃技であるミネラルレーザーなどだね〜」
魅異学完全法?なんか変なのが増えてるんだが。
「魅異学完全法ってなんだ?」
「言うならば、完全無敵状態になれるだけだよ〜。気に入ってるけど、面白くないから使わないよ〜」
神離学無視法でも十分に無敵だが、それ以上もあるのかよ。
「でも、お兄ちゃんが飛びついてきたときは嬉しかったなぁ。ありがとう、お兄ちゃん!」
あー、感謝の言葉は嬉しい。
「さて、話はそこまでにして先に急ぎますよぉっ!あ、ちなみに希求さんのパンツの色は黄色でしたねぇ」
普段なら殴ってやるが、特星ではないので今はやめておく。
〜神門城の姫の部屋〜
「東武、来てやったぜ!」
勢い良く扉を開けて叫ぶ俺。
「ほぅ、遅いと思ったら貴様達も居たのか」
そこに居たのはお姫様らしき小学生くらいの少女とティーを飲んでる東武だった。
「って、凄く優雅に茶を飲んでる!」
あまりの予想外に思わず叫ぶ俺。
「ふん、疲れたから休戦中だ。少しそこで立っていろ」
そしてこの言い方。大急ぎで来て損した!
「あれー、貴方達は新しいお客さん?」
姫様らしき子供が興味深そうにこっちを向く。
「あぁ。俺は偉大な主人公の悟だ!こっちが異世界にも迷って行く俺の妹の希求で、こっちは反則的な強さを持つ魅異だ。雑魚ベーのことはもう知ってるよな?」
自分の紹介のついでに希求と魅異を紹介する。
「私は神門 小巻。神門一族の血を引いてるんだけど、婚約相手を勝手に決められたから反抗してたの。でも、全力じゃないんだよ」
「流石に全力を出されたら、私でも敵いませんからねぇ」
雑魚ベーが敵う相手って居るのか?
「そんなに暇なら全力で勝負してみる〜?」
「え、できるの?」
「この世界に影響が来ない場所で戦えば問題ないよ〜」
お、今回は魅異の戦闘が見れるのか?
「それは良いけど、相手はどうするの?」
「私と希求と悟の三人で良いよ〜」
「って、俺達もかよ!」
希求は能力でなんとかなるが、俺は魔法弾を作れるだけだぞ!
「場所はこっちだよ〜」
魅異の後に続いてついていく。
「私達はどうするんですかねぇ?」
「ふん、戦力外ということだろう」
〜空中世界〜
此処にどうやって来たんだ!
「わー、体が浮いてるよ!」
希求が驚きの声をあげる。
「此処では自分の動きたいと思った方向に自由に動けるよ〜」
東武と戦ったときのあれか!
「これは面白いわねぇ。思考が途切れたらどうなるの?」
「脳が脚に命令を送れなくなるような状態だから、浮けずに下に落ちるね〜」
それは怖いな。
あ、本当に希求のパンツは黄色だ。
「じゃあいくよ。魔術、溶解のマグマ」
小巻の周りから大量のマグマが現れ、いろいろな方向に高速で流れていく。
「この程度なら防ぐ必要もないんだけどね〜。神離流技、天罰レベル一」
「奥義、無効化」
魅異が強大な雷を相手に落としまくり、希求が相手のマグマをかき消す。
おいおい、この二人は強すぎるだろ。
「俺も負けてられないな。水圧圧縮砲!」
岩でも砕ける水の弾が命中するが、大して効果がないようだ。
「本当に強いのね。なら、これからが私のターンよ!秘術、姫隠しの真相」
小巻を中心に辺りに光の刃が飛ばされる。
「勇者流技、勇者拳」
魅異の勇者拳が相手の攻撃をかき消し、そのまま相手に直撃する。だが、相手はまだ光の刃を飛ばし続けている。
「痛っ!」
希求にどうやら当たったようだ。すると希求の体が一瞬で消えてしまった。
「私の技は当たれば相手を死の世界に誘う。でも、貴方達はこの程度なら大丈夫よね」
「いやぁ、さっき変な場所に迷っちゃったよ」
希求は死の世界から、此処に迷って戻ってきたようだ。
「お、恐ろしいな」
「むにゅー?何が恐ろしいの?」
お前の迷子の実力が恐ろしいんだ。
「秘術、岸に居る騎士」
見事なダジャレだ!
大量の鉄の剣が放たれる。
「何処にそんなに剣を持ってるんだ?」
「私の放ってる剣は魔法で作ってるのよ」
魔法で鉄の剣を作れるのかよ。
「むにゅー、武器屋さんを営業できそうだねぇ。特技、金属反射」
「真剣白刃取り〜」
希求は鉄の剣を反射して、魅異は白刃取りで遊んでいる。俺の方には運良く剣が飛んできてない。
「ところで、いつになったら本気を出してくれるの?特に魅異が凄く手加減してると思うんだけど」
いや、魅異の場合は最初から本気を出す気なんてないぞ。
「それは小巻も同じだと思うけどね〜。ちなみに私は常にゆとりを持っての行動を心がけてるから、本気を出さないんだよ〜。弱体化の術がいくつか掛かってるけど、その程度なら軽く解除できるからね〜」
そういえば、魅異に掛かってる弱体化の術は特別なものらしい。だが、弱体化の術は掛かってるだけで魅異には効果がないので意味がない。
「ちなみに小巻が本気を出さない理由は〜?小巻なら自分の技を相手の体内に瞬間移動させて、一撃で悟と希求を倒せるはずだよ〜」
魅異が詳しく、怖い説明を付け足す。説明を聞く限り、その方法で魅異は倒せないようだが。
「確かにその方法で二人を殺せるけど、殺し合いなんか面白くないもん」
もし、殺し合いが楽しいと思う人は、精神科に行く事をオススメする。
「殺しはしないけど、全力で戦うのが一番良いと思うわー。まぁ、そんな都合の良い状況になんかならないだろうけど」
いや、そんな都合の良い状況になる場所が有るぞ。
「なら、特星に来たらどうだ?」
「え?」
俺が誘いの言葉をかけると、小巻は少し驚いてこっちを見る。
「特星なら全力勝負しても人は死なないし、多少の出来事では壊れないぞ」
まぁ、魅異は例外だけどな。
「でも、良いの?貴方達の世界を滅ぼすかもしれないよ」
よし、主人公らしい言葉で決めるか。
「あぁ、それでも俺達は構わないさ。むしろ俺は来て欲しいくらいだからな」
というか、滅んでも次の話で復活するだろうし。
「そうなの?」
「あぁ、その方がすぐに会えるだろ?」
問題発生時に会ったら、戦闘とかを任せておけそうだしな。
「もし、私が危機に陥ったら助けてくれる?」
「あぁ、絶対に助けてやる」
小巻が敵わないほどの相手なら、魅異が見方をする可能性が非常に高い。魅異さえ居れば、絶対に助け出せるぜ!
「うん、それなら私も特星に行く。この国に私の必要性はないからね」
力を狙われてるだけなら、特星に来た方が安全だしな。
「むにゅー、計算高いねぇ」
「というか、思考が読めなかったら誤解を招く喋り方だったね〜。あ、もう小巻は影響を受けたみたいだけどね〜」
「うん、顔が微妙に赤いからねぇ。というか、貧乳が多いなー」
「貧乳よりも無乳が多いんだよ〜」
「むにゅー」
二人が何かを話してるけど気にしないでおく。
「あー、展開が早くて忘れてたが、姫様の胸は無乳で成長の見込みはほとんどないな」
最近はこの解析をすることが多く、その度に納や雑魚ベーに教えている。もちろん、雑魚ベーは少女のことしか聞いてこないが。
「ところで、前に魅異にこの解析技を使ったら、一応無乳って結果だったがどうしてだ?将来的な成長の見込みは気分によるって結果だし」
俺の判定で一応が出るのはこいつのみだ。
「あぁ、私の場合は胸の大きさは変えれるからだよ〜。ちなみに私は胸が無い方が好みだし、便利だから今の姿なんだよね〜」
「お、以外にまともな意見じゃないか」
ちなみに魅異は変身で男にも女にも人以外にもなれるので、男と女のどっちを好きになっても問題はないはずだ。
「さて、それじゃあ全員を特星に帰すね〜」
魅異がそういった瞬間にまぶしい光に包まれた。
〜秋方高校〜
おー、俺の通ってる秋方高校じゃないか。とは言っても、夏休みが未だに続いてるから最近は来た覚えはないわけだが。
「あれ、此処は?」
此処を知らない希求が俺にたずねる。
って、俺と希求しか居ないし!
「此処は秋方高等学校。俺が現在通い続けてる学校だ」
「結構新しいみたいだねー」
む、妙に良いところに気が付いたな。
「この高校では数ヶ月に数回は崩壊するんだ。その度に直るから校舎は常に新しいって訳だ」
「でも、校舎の修復は間に合うの?」
「数十分くらいで直してるって噂だぞ。校舎だけでなく、校舎内にあった物とかまで完全に修復されてるんだとさ」
ちなみに崩壊の原因は俺と親しい者がほとんどだ。
「休みの日とかは校舎が壊れる事もありませんよ」
「あ、校長じゃないか」
「あ、校長さんだー!」
軽く手を振りながら話に加わってきたのは校長だった。
「二人とも久しぶりですねー。最近の調子はどうですか?」
「元気だよー!」
希求はそう答えるが、毎日迷って何で元気で居られるかが分からん。
「俺は日が経つごとに疲れが溜まってます。校長は?」
「私ですか?私はいつも通りですよ」
まぁ、校長がいつも通りじゃない事の方が珍しいけどな。
「いつも通り、餓死寸前の状態です」
「って、やっぱり!」
大体の検討はついてたが、やっぱりそんな生活をしてるのか。
「ところで悟君、二兆セルの借金の返済はいつ頃ですか?」
「増えてるし!」
確か一兆八千億のはずだぞ!
「延滞料込みです。ちなみに延滞料は私が適当に決めてます」
「酷っ!」
放っておくと、俺が借金王になってしまうな。
「あれ、お兄ちゃんは借金があるの?」
ぎゃー、希求に気付かれかけた!
しかし、兄としての威厳を守らなければ!いや、既にボロボロだけどさぁ。
「これは借金じゃない。単なる配達の代金だ」
違いは無いかも知れないが、これでなんとか通してみせる!
「おー、配達って二兆セルも必要なんだねぇ」
よし、成功だ!
「そうそう、この高校の秘密とかは知りたいですか?」
「うん、知りたい!」
校長の急な質問に希求は即答する。
あー、良い予感はしないな。
「では、納君を召還します!」
「召還されたぜ!あ、校長に希求じゃないか」
俺も居るぞー。
「むにゅー、納のお兄ちゃんだ!」
そういえば、希求は納の事もお兄ちゃんと呼ぶのか。
「久しぶりだなー。あ、悟ンジャーブラックはいつの間に居たんだ?」
「さっきからずっとだ!ってか、悟ンジャーと言うな!」
絶対に嫌がらせで言ってるだろ!
「悟ンジャーって何人居るの?」
希求、悟ンジャーは存在しないから!
「今はブラックと、レインボーの二人だったと思います」
誰だよ、レインボーは!
「あー、俺も入りたい!」
「お前なんかスクラップで十分だ」
謎の団体に納も入りたがるので、少し酷い言葉を言っておく。
「悟ンジャースクラップか。なかなか良いじゃないか!」
ええぇっ!どう考えても全然駄目だろ!
「えー、本題に戻りますよ。納君、この高校全体に電気を流してください」
「別に構わないけど、俺の電流は弱いですよ?」
確かに納は、数ヶ月前に特星に来たばかりなので、特殊能力の力がまだまだのはずだ。
「気にせずにどうぞ」
「そうですか。分かりました!」
久々にやる事があるからか、納が妙に元気だ。
「むにゅー、ただいま」
って、いつの間にか希求が何処かへ迷ってたようだ。
「何処に行ってたんだ?」
「深海に迷っちゃったんだよ。お宝があったけど、潰れてたねぇ」
生きて帰れたのは、能力のおかげだな。
凄く圧縮された金貨を希求に渡される。
「って、くれるのか?」
「うん」
おー、ありがとう!心の中で盛大に感謝するぞ!
「じゃ、いくぜ!誘電、集中する電気!」
変ではないが、ネーミングセンスが低いな。
「痛っ!」
手に電気による痛みが伝わる。
「納、もう少し威力を弱めろ!」
「あれ、かなり弱いはずなんだけどな」
「かなり痛い!って、ぎゃああっ!」
バチバチと目に見える電気が、俺の周辺だけ発生してるぞ!
「恐らく、金貨に電気が伝わっているのだと思います」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
校長が解説して、希求が心配してくれる。
あー、要するに金貨を手放せば良いのか!
「って、手から離れないし!」
「呪われた道具の一つですね」
校長はそういう事に詳しいんだな。
ってか、電気がやけに強くて手が麻痺してきた。
「ちなみに外す方法はあります」
「早く言ってくれ!」
だが、呪いが簡単に解けるとは思えないな。
「確か、恋愛候補から一人を選び、その人とのイベントを進めて、面白いバッドエンドを迎えたら、呪いが解けるはずです」
「条件がおかしすぎるだろ!」
呪いのレベルの低さが分かった。
「ところで何が起こるんですか?」
納が疲れてきたらしく、校長に今の行動の必要性を尋ねる。
「あー、もう電気は良いですよ。では、こちらに来てください」
質問には答えてないが、見たら分かるのだろうか?
〜秋方高校の校長室〜
「到着です」
着いた場所は校長室だった。
途中で一度、希求が宇宙の何処かへ迷ったが、無事に戻ってこれたらしい。
「わー、面白い所だね」
校長の部屋の様子に希求が感心する。
逆に俺と納は唖然としていた。
「納、部屋中が歪んで見えるのは気のせいか?」
「気のせいじゃないと思うぜ」
「あー、部屋の歪みは飼い猫の仕業ですから、気にしないで下さい」
飼い猫という名の化け物じゃないのか?
「あれ、此処に変なリモコンが有るぞ」
納がリモコンらしき物を持ってくる。
「そのリモコンのボタンを押せば、私が見せたかったものが見れますよ」
まさか、自爆ボタン?
納は何の不審も抱かずにボタンを押す。
[バチチッ!バチチチチチッ!]
電気の音に加え、外の景色が変わっていく。
「うにゅー、この学校が浮いてるよ!」
「ま、まさか墜落してバッドエンドか?」
希求は非常に驚いている。
納は縁起でもない事を言ってるが、校長ならやりかねないな。
「そう、この高校は空中浮遊が可能だったのです。更に防御シールドや波動攻撃なども可能です。まぁ、手動で可能なだけですけどね」
あー、校長が波動で防御や攻撃をするのか。
「あと、高校がこの形態になった時、学校内に恐ろしい呪いが多発します」
「楽しくなりそうだねぇ」
校長の説明に希求は楽しそうに答える。
だが、俺と納はこの状況に溜息が出る。
「一つは、男子トイレと女子トイレのマークが入れ替わります」
相変わらず地味な呪いだが、状況によっては危険すぎる!
「あと、学校中の椅子に自爆スイッチ機能が備わります」
「余計な機能過ぎる!あー、今回は爆発オチの予感がする」
「同意だぜ」
「私も同意するよー」
「仕掛け人ですが、私も同意します」
俺の意見に納と希求と校長の全員が同意する。
「髪の毛が数本抜けます」
床を見てみると、既に何本かの髪の毛が落ちている。
「全員ではありませんが、サービスシーンを見れます」
「賛成だ!」
納が賛成しているので、納以外がサービスシーンを見れることを祈る。
それにしても良い呪いも有るんだな。あ、納や校長のサービスシーンは要らないけどな。罰ゲーム並みにおぞましい。
「あと、何らかのオチに巻き込まれるらしいですね。回避できる可能性はかなり低いようです」
うわー、嫌な呪い。
「うにゅー、どうする?」
「高校が落ちるような状態になったら、悟の家に落とそうぜ!」
「いやいや、何でそうなる!」
納は馬鹿だから人への迷惑を知らないのだろう。
「俺は馬鹿だから人への迷惑を知らないんだぜ!」
「あー、そうかい」
馬鹿が移るのでこれ以上近づかないでおこう。
「もしかしたら、行動が原因で爆発するんじゃないでしょうか?」
「どういう意味だ?」
校長の意味不明な発言に聞き返してしまう。
「例えば、爆発すると知ったら、それを回避しようとしますよね。しかし、回避しようとしたら、爆発が起こるイベントに繋がるとすれば、逆の行動を起こせば良いんじゃないでしょうか?」
「うにゅー、爆発させる気が無ければ爆発して、爆発させようとしたら爆発しないってこと?」
「その可能性も有ります」
なるほど、椅子に座れば爆発しないのか。
「なら、校長の椅子に座るまでだ!」
[ポチッ]
これで爆発はしない!
[ドガアアアアァァァン!]
「悟のアホー!確実にそうなるとは校長は言ってなかっただろ!」
「確かにそうだけどさ!でも、雰囲気的に押したくなるだろぉっ!」
「言い争ってる間で申し訳ないんですが、希求さんが別方向に飛んでいってますよ」
って、本当だ!
「じゃ、俺は追いかけてくるから!」
「って、逃げるな悟ー!」
とりあえず、納の文句からは逃げられた。
「おーい、希求!」
反応がないという事は、能力発動前に飛ばされて気絶してるのか。
「しっかりしろ!って…あ」
爆風のせいで気付かなかったが、よく見るとパンツ以外に穿いてなかった。恐らく、爆発によって燃え尽きたのだろう。
「起こさない方が良いよなぁ」
しかし、どうやって運ぶべきだ?現在は空中でかなり高い位置だ。落ちたら誰かに見つかる事間違いなし!
こうなったら、家に直接落ちるしかないな。
「空気圧圧縮砲を撃てば、その反動で家の方に移動できる」
海がまだ見えないって事は、今は雲の中だな。
「よし、こういう時の為の自主規制モザイク眼鏡!」
これを装備すると辺りが、モザイクが掛かってるように見えるんだ!
これぞ自主規制!
「って、自主規制出来ても、家の位置が確認できないし!」
雲を抜けるまでは外しておくか。
「って、外した途端に雲を突破した!」
えーっと、あそこが秋方高校の跡地だから、俺の家はアレだ!」
家を見つけたので、自主規制モザイク眼鏡をかけて、家と逆の向きに空気圧圧縮砲を撃つ。
飛ばされないように希求をしっかりと抱えておく。
羨ましいと思ったらロリコン決定だ。
〜悟の家〜
「悟さん、クリスマスの散歩にしては遅すぎます!雑魚ベーさんに影響されて、少女に手を出してるのでしょうか?いや、悟さんに限ってそれはないですよね」
[ガシャアアアァン!]
「って、なんですか!」
「ふぅ、なんとか家に突っ込めた」
本当に見事に家に突っ込めるとは予想外だ。
「って、希求さんまで!」
あれ、魑魅が家の中に忍び込んでたようだ。
「あー、魑魅。何があったか最初から話すから、誤解だけはせずに聞いてくれ。実は散歩してたら希求と有って、その後に道に迷ってたら、雑魚ベーにあったんだ」
「雑魚ベーさんに?なるほど、そういうことですか!」
へ?まだ全部話してないんだが。
「悟さんがロリコンに目覚めるのは、私の不利に繋がるようにも見えますが、悟さんの趣味を知る事で、私が有利に動く事も出来ます!」
「あー、魑魅?」
とんでもない勘違いをしているのでは?
「しかし、そうだとすれば、元から改善しないと駄目ですね。改善は校長か魅異さんに頼んで、完璧度は雑魚ベーさんで試せば上手くいけそうです!」
「おーい」
「計画完了!それでは行ってきます!」
俺の言葉を聞かずに行ってしまった。
「希求はどうすれば良いんだ?」
自主規制モザイク眼鏡はいつの間にか壊れてるし。
結局、希求は自分で起きるまではそのままだった。
そして、高校の修理代で俺の借金が二兆二千億まで増えたのだった。
あと、今年のクリスマスは残念ながら中止になった。