三話 急に妹が居ると言われたら、喜ぶより驚く
@悟視点@
次々と近代的な物が無くなる事件を昨日は解決できなかった。だが、今日こそは解決してみせる。魅異の情報で犯人は、俺の故郷の地球の巻津川市に居るらしい。
「地球へのワープ装置がある瞑宰京には、船で向かおうと思ったが…甘かったか」
「状況的に無理ですね」
まさか、船が木製になってるなんて思わなかった。
「この船で行けると思うか?」
「恐らく、数週間は掛かりますね」
それなら主人公の力で泳いで行くという方法も…って、船の方が早いだろ。
「おや、悟さんじゃありませんか」
「あ、羽双じゃないか!」
凄く良いタイミングで現れた和服のコイツは、神離 羽双。恐らく、特星で二番目の戦闘力を誇る奴だ。
魅異の一番弟子で雨双の兄でもある。特殊能力は時間を操る事で、異常なほど強い。神離流技の使い手でもある。和風マニアで服装が和服なのもそれが原因。俺と同年齢だが言葉使いと礼儀正しさと見掛けによって、よく大学生か社会人と間違えられる。
面倒な事はやらない主義なので、頼み事をするときは和食を用意しておくと良い。それでも断る時は断る奴だけどな。
「あ、コイツは魑魅と言って俺の知り合いだ」
「よろしくね」
「えぇ、よろしく」
この二人……微妙に喋り方が被るなぁ。
「そうだ。俺達は瞑宰京に行きたいんだけど、船と俺達の時間を早めてくれないか?」
「嫌です」
「即答かよ!?」
「えぇ、僕には関係ありませんから」
どうしよう……今のところは他に方法がないんだよなぁ。
「でも、送るくらいなら良いですよ」
「良いんですか?その方が大変だと思いますよ?」
「技を使うわけじゃないですから良いですよ」
「なら、送ってくれ」
技を使わずに送ってくれるのか?それなら方法を知りたいから、やってもらいたいな。
「まず、二人とも手を繋いで絶対に離さないで下さい」
「こんな感じか?」
「そんな感じです。いきますよ」
そう言って振りかぶる羽双。…って、まさか!
[バゴオォッ!]
「ほげはあぁぁぁぁっ!!」
「さて、朝食でも食べますか」
〜瞑宰京の不思議海岸〜
「ふふふ、遂に完成したわ……小人が一人住めるほどの巨大な砂のお城が!アタイの力を持ってすれば二十時間も掛からなかったよ!犬小屋みたいな感じもするけど、気のせいだよね」
[ヒュウウウウゥゥゥ…グシャァッ!]
「ぎゃあああぁっ!アタイのお城がぁっ!」
「あたたぁ…大丈夫ですか、悟さん?」
「悟?どっかで聞いたよーな気がする」
「いてて…まさか蹴りで送られるとは」
あれ…こっちを見てる小人……もしかして!
「ロミャか!」
「あぁっ、アンタは!……………悟ンジャーブラック!」
「確かにそうだったが、本名くらい覚えとけ!」
コイツは頭の悪い小人のロミャ。変態生物の一人だが、発狂レベルは低いから安全。世界の人気者らしいが、そこまで人気があるわけでもない。
特殊能力はトラップを操る事だが、自分が引っかかる事が多いので逆効果。
瞑宰京に居た頃に俺が、勉強を教えた事があるが、時間の無駄遣いだった。
「あの、何でガムテープを巻いてるんですか?」
「そういえばそうだな」
「見るな、変態!」
「それなら巻くな、変態が」
とりあえず、コイツを相手にしてる場合じゃない。
「とりあえず俺達は急ぐから」
「待った、アタイのお城を壊しといて、謝罪を一言で良いからしていきなさいよ!」
「悪い」
「一言で許されると思ってるの?アタイは怒ったよー!」
一言で良いって言ったじゃないか!
「此処は不思議海岸。不思議とは謎に包まれた存在、すなわち此処はアタイの為の場所よ!」
「悟さん……この子の言ってる事が分からないんですが」
「俺も何が言いたいのか、理解出来なかったところだ」
結局どうしろというんだ?
「ふふん、この海岸にはアタイ特製の地雷が一つだけ埋めてあるの。しかも超巨大サイズだから踏んだら宇宙の彼方まで吹き飛ぶよ!だから二人とも動けないし、アタイを攻撃する事だって出来ない!」
「これが有るんだが」
神離銃をロミャに向ける。とは言っても、見かけはただの水鉄砲だから脅しにもならないな。
「じゅ、銃!わああああぁぁっ!」
あ、効果あった。
[カチッ、ドゴオオオオォォン!!]
「ふぎゃああああぁぁっ!」
[キラァーン]
「……………何だったんでしょうか?」
「ロミャ流の爆発オチじゃないか?さて、急ぐか」
ちなみに地球へ行く為には、瞑宰京の高校の地下にある機械が必要だ。アレがあれば地球の何処にでも移動できる。
〜瞑宰京の高校グラウンド〜
「ふぅ、何とか到着だ」
「あれ、誰も居ませんね」
「此処は廃校になったからな」
それが原因で引っ越す事になったんだけどな。
「あ、でもダンボールがありますよ」
「ダンボール?」
「ほら、入り口の前」
確かに入り口の前にダンボールがある。あー、何となく分かった。
「アレの中身を知りたいか?」
「え?知りたいですけど…分かるんですか?」
「開けなくても分かる。絶対に中には人が入っている」
学校の前にダンボールと言ったら一人しか居ない。
「中に居る人は校長だ」
「えぇっ!?」
「しかも、俺達の学校の校長でもある」
「ええええぇっ!?」
特星中のほとんどの学校の校長をやってるからな。ちなみに校長の特殊能力は波動を操る事だ。
「惜しいですね、私はダンボールから外出中でした」
「うわぁっ!」
「あ、校長」
背後から話しかけるから、魑魅が驚いたじゃないか。
「久しぶりですね悟君。あと、初めまして魑魅君」
「あれ、何で私の名前を知ってるんですか?」
「それは校長だから顔と名前くらいは分かりますよ」
「何気に凄いな」
「ちなみに地球へ波動で送る事も出来ます」
「それは別にいい」
さっきの羽双の時みたいに吹き飛ばされるかもしれない。それに装置までもう少しだからな。
「それでは気をつけてくださいよ」
「大丈夫だ」
「ってか、目的まで分かるんですか?」
「えぇ。問題が起きた時は大抵、悟君が解決しますからね」
「他が解決しないからだ」
〜巻津川市の街中〜
そのあと、高校の地下にあった装置で地球まで来た俺達。
「ところで、どうやって帰るんですか?」
「右腕に時計が付いてるだろ?それについてるボタンを押すんだ」
「あ、これですね。でもいつの間に…」
「装置で送られてくる間じゃないか?」
それにしても懐かしいなぁ。この辺はあまり来なかったけどな。
「それで何処へ行きますか?」
「そうだなぁ……俺の家の鍵は知り合いに預けたから、まずはそいつの家に行くか」
「預けて大丈夫なんですか?」
「盗まれるようなものは無いから大丈夫だ。そいつが鍵をなくした可能性は高いけどな」
〜知り合いの家〜
「到着」
「どういう人なんですか?」
「言うならば馬鹿な奴だな。一回特星へ一緒に行ったんだが、何故だか地球に戻ったらしいんだ。居なくなった日から連絡が取れてないけどな」
「なら、どうして地球に戻ったと分かるんですか?」
「居なくなった日に校長に教えてもらったんだ」
旧友の名前は永崎 納。俺の一番古くからの友人で、特星へ行くまではずっと同じ学校や保育所に居た。
親とは中学生まで一緒に暮らしていたが、高校生になってから寮暮らしを始めて、特星へ行く数日前にこの家を建てた。俺は前から家があったけどな。運動はよく出来るが頭は馬鹿とアホで出来ている。
根は良い奴だが人によく頼る。だが、嫌な奴には分類されないと思う。少なくとも俺の知り合いの中ではまともだ。
[ピンポーン。……ガチャ]
「はーい、何か用ですかー?」
「よっ」
「あれ…悟じゃないか!こりゃあ、久しぶりだ!最後に会ったの数年前だろ!」
確かに数年ぶりだな。
「立ち話も疲れるから、とりあえず入っとけ。ほら、そっちの可愛い子も」
「あ、どうも」
とりあえずお邪魔する事にする。
「そっちの子は初めましてだな。俺は納って名前で悟との元クラスメートだ。」
「私は魑魅です」
お互いに自己紹介する二人。
「そうそう、悟に言っとかなきゃならない事があるんだ。是非、凄く驚いて聞いてくれ」
「何故に驚く必要がある」
まともだけどボケ体質だな。
「俺達が特星に行った後に俺は戻ってきただろ?理由はお前の家の鍵を忘れたからなんだが、俺は地球に戻ったあと特星に行けなくなったんだ。知ってるだろ?」
「それは知ってるが……何で戻れなかったんだ?」
「小学の頃に居た校長を覚えてるか?よくダンボールに住んでた校長なんだが」
「さっきも会いましたね」
「その校長の波動の力で地球まで来たけど、波動で送ってもらったから帰れなかったんだ」
校長らしいミスだな。
「で、問題はその後なんだけどよ、お前の家の鍵を預かってたから、漫画を借りにそれで家に入ったんだ」
「お前なぁ…」
「あれ、でもどうして悟さんは、納さんに鍵を渡したんですか?地球に戻ると分かってた訳でもないのに」
「それは納がよく俺の家まで来てたからだ。頻繁に来るから一つ鍵を貸してやったんだ。ちなみにもう一つの鍵は訳あって封印されている」
「なくしたのか」
「何で分かった!?」
「特星へ行く時にお前が落としたから、俺が勝手に預かった」
勝手に人の鍵を預かるなんて何て奴だ!
「話を戻すぜ。その時にちょうど宅配便が来たんだ。俺は宅配物を覗こうと、お前のフリをして巨大なダンボールを預かったんだ」
本気でなんて奴だ。
「で、ダンボールがやけに動いてたから開けたら人が居たんだ」
なんで人が宅配されて来るんだよ!?
「どんな人だったんですか?」
「校長だった」
「何故に校長!?」
「悪い、冗談だ」
冗談かよ!全力で信じたじゃないか!
「で、入ってたのは幼女四人だった」
「二度の冗談は面白くないな」
「悟さん……二度目に言われる事は真実と決まってるんですよ」
「ちなみに事実だ」
えー、何で俺の家に幼女四人が送られるんだよ?
「四人は俺が預かってるぜ。今では全員小学生だ」
一人で育てたのか?それはご苦労様。
「それと手紙もあったぞ。ほら」
「なんだ?結構古そうな手紙だな」
「数年前のだからな」
えー、なになに?
『おはよう!こんにちは!こんばんは!良い青春人生を送っているか悟?実はお前には親が居たらしく、それが私達という運命だ。で、お前に良い人生を送ってもらう為に、妹を四人ほど母さんが産んでくれたぞ、ワッハッハッハ!
まぁ、お前は私の子だからモテモテ確定だが、さらに恋人候補に妹四人を入れておいてくれ!小学生低学年の時に特星へ連れて行けば、年を取らなくなるから安心だ!これでロリコンとシスコンの両立ち状態になれるぞ。
ちなみに全員のキャラが被らないように保育園まで育てたから、全員が別々の性格になってるはずだ。しかも、悟の部屋の秘密の床下に隠してあった、未成年に相応しくないロリコンとシスコン向けのゲームが有ったから、妹全員に遊ばせて見たぞ。ちゃんと元の場所に戻しておいたから安心したまえ。
ではさらばっ!さよなら!お邪魔しました!』
って、うおおおぉいっ!俺でも良心が働き、オープニングまでしか見てないあのゲームをやらせたのぉっ!?最低な親すぎるだろぉっ!!
ってか、元々あれはボケ役が買ったゲームなんだけど!俺が買ったんじゃないんだけど!誤解されちゃってるよ!
「ねぇねぇ、何が書いてあったんですか?」
「のああああぁっ!」
魑魅が話しかけてきたので驚き、手紙を丸めて飲み込む俺。って、食っちゃったよ!
「そうそう、そのゲームなら少し前に借りたぜ」
「借りるなよぉっ!」
「大丈夫、そういうシーンは少なかったから。主にギャグメインってところだな」
「どんなゲームなんですか?」
「魑魅、お前には関係ない」
深い詮索をするんじゃない。俺が買ったと誤解するだろうからな。ってか、ボケ役出て来い!
〔おー、呼んだか?〕
前に説明したがコイツは俺のボケ役だ。まぁ、俺と別人と考えて良い。魅異に好意を抱いているが、無理だという事を知っている。だって、相手が魅異だから。
詳しくは知らないが、俺とは別の特殊能力が使えるんじゃないか?ちなみにボケ役と俺が入れ替わる事も出来る。今ボケ役の居るところは通称、待機場所と呼ばれる場所で小さな町があるが、場所が場所なので人が来る事は少ない。ボケ役は非現実的生物の一人だな。
〔詳しい説明だな〕
ってか、お前のせいで大変な事になってるぞ。
〔まー、過ぎた事はしょうがないだろう?〕
それはそうだ。
〔まぁ、面白い展開を作り出してるのは俺だ!感謝しろ!〕
するかっ!
〔いずれ多分戦うから、その時まで怒るなって〕
ほぅ、いつかは問題を起こすのか。
〔さぁ?じゃ、また会おう!〕
「悟さん?大丈夫ですかー?」
「ん、あぁ…少し考え事をしてた」
「それで四人だが、今は学校に行ってる。しばらく帰らないぞ」
そうか、地球では休みじゃないんだな。
「それなら悟さん、町見学に行きませんか?」
「あぁ、良いぞ。あ、その前に納」
「ん、どした?」
「最近で変わった事はなかったか?」
地球でも事件の影響があるのか聞いておかないとな。
「あったぞ。少し前からテレビで巻津川以外の場所の番組が映らないんだ。…何か知ってたりするのか?」
「何か知ってたりするぞ。そしてそれの解決を目指してるんだ」
「おおぉっ、いいなぁ!まるで主人公みたいな扱いじゃないか!」
「主人公みたいじゃなくて、主人公だ!」
ときどき、自分でも忘れそうになるけどな。
「そうか?でも、主人公に重要なものがないな」
「重要なものって何だよ?」
「特別な特徴及び、変わったところ」
ほぁっ!た、確かに。
「だ、大丈夫ですよ、悟さん。彼女候補が多いんですから!」
そういえばそうだな。まず、魑魅と有り得ないけど魅異の二人だろ。それに親の仕組んだ妹が四人ほど。それに瞑宰京に居た時に狙ってた子とかも候補だよな。
「ま、気にする事もないさ。それに今の状態で主人公出来てるからな。それじゃあ出かけるぞ」
〜伝統深き空き地〜
「到着だ」
俺が連れてきたのは広めの空き地だ。
「空き地ですか?」
「確かに空き地だが、特星に関わる伝説が有るんだ」
巻津川は特星の発祥の地でもあるからな。特星に関する場所がいくつか有るんだ。
「どんな伝説ですか?」
「校長を初めとする数人の変態特殊能力者が、何度も失敗して特星を作り上げたらしい」
作ってる途中で悪気の無い妨害を受けて、特星は何度も壊されたらしい。悪気が無いとはいえ、酷い奴だよな。
「ほぅ、多少の知識はあるようだな」
「主人公だからさ。…で、誰だ?魑魅の知り合いか?」
「いいえ、この町のこと自体よく知りませんから」
いつの間にか後ろに立ってた謎の奴。もしかして、主人公を追うストーカーか?
「ふん、貴様等に名乗る名前など無い」
「名前が無いのか?それは可哀想だな」
「なっ!貴様、この俺に対する侮辱は一切許さん!」
「侮辱じゃなくて、単なる感想だ」
怒りっぽいのは体に毒だぞ。
「まぁいいだろう」
「初対面の相手に向かっての言い方か?」
「貴様のような特徴のない主人公など、その辺の雑草に値するにも惜しいくらいだ」
言い方が特徴的で、何を言ってるのか分かりにくいが、雑草以下って事か?
「ふぅ、意味も理解する頭も無いのか。哀れな主人公だな」
「何様だよ、お前」
もはや怒る気を通り越して呆る。
「ふん、何様かだと?俺は元貴族にして宇宙最強を目指す、神離 東武だ!」
「………魑魅、雑魚ベーといい、こいつといい、何で貴族は変態しか居ないんだ?」
「人手不足じゃないですか?それか、資金さえあれば貴族だと思い込んでるとか」
貴族はナルシストの集まりだと思ってたが、このレベルまで来ると変質者だな。宇宙最強とか頭がおかしいと思う。
「雑魚ベー………ベータ・サイドショットの事か。奴とは顔見知りだが、あんな奴と一緒にするな、俺の名が汚れる。それに俺は元貴族で、名前だって偽名だからな」
だから、日本流の名前なのか。神離の苗字って事は、魅異の弟子かその関係者だな。
「ちなみに俺は特星製作の協力者だ。だが、貴様達程度に変態扱いされる事が気に喰わん」
なら、ナルシストだな。
「どんな特殊能力なんですか?」
「貴様達に能力を教える気はない」
特星製作の関係者なら、実力はそれなりのはず。
「自分の能力に自信が無いんですか?」
「ふ、勝負して能力を確かめようというわけか」
「違うぞ」
「何ぃっ!?」
東武は俺の発言に非常に驚く。
「まぁ、貴様等が俺に敵う道理はないがな」
「もう、悟さんが戦わないなら私が代わりでいきます!」
「そうか?じゃ、任せた」
戦闘力の面では魑魅の方が上だからな。
「貴様が相手か。言っておくが、女だろうと手加減はしないぞ」
「私だって手加減しませんよ。怪我しないように気をつけてくださいね」
さて…どっちが勝つか。地球では不死の効果が無効化されるからな。怪我をしなければ良いんだが。
「ふぅ、雑魚と俺の差を教えてやろう。白熱の炎!」
「善技、清らかな洪水!」
洪水が清らかなのか?二人の技がぶつかり合い水蒸気が起こる。
「変化する土!」
魑魅の周りの土が触手型になって魑魅に襲い掛かる。
「これは嫌です!善技、罪を裁く制裁!」
魑魅の周りの触手は光の刃で粉砕される。
「東武さんって非質系の人ですねー」
「仮にそうだとして、何故そう言える?」
「私の過去の経験と小説のパターン的にそんな気がして」
「俺の知った事ではないな。切り裂く風!」
突風が魑魅に放たれるが、風速よりも速い動きで東部の背後に回り、東武を殴りつけるが力が弱すぎるので効いていない。………どうでも良いけど、話に入り込めなくて落ち込みかけてる俺が居る。
「殴って駄目なら、善技、最後の最後で使う渾身の打撃!」
[バコォッ!]
魑魅の最後でない時に使った渾身の一撃で、東武は数メートル吹き飛び、空き地の壁に激突する。
「ぐうううぅっ!」
地球でアレは重傷じゃないか?
「く…くくくっ!ふははははははははは!!」
…元から重傷の頭が重体になったか?アニメや漫画でも切札があって急に笑い出す奴は、大抵負けるってのが鉄則だ。
「ははははは、貴様…魑魅と言ったな。本来はもう少し強い力を秘めているのだろう?」
「いいえ、別に秘めてませんよ?」
「何ぃっ!?」
アイツのリアクションが毎回面白いんだが。ちなみに東武は悪魑魅の事を言いたいのだろうが、秘めているのではなく、怒らないと悪魑魅にならないだけだ。
「まぁいい、俺は貴様を全力でカスにまで成り下がらせてやろう。俺の特殊能力は生と死を操る事だ。貴様も生命の一つである以上、俺に勝ち目などない!」
………え?
「あのー、もう一度チャンスをあげますけど?」
「………俺への勝ち目などない!」
確実に言い間違えたな。
「ふんっ、笑いを取る為にワザと間違えただけの事だ」
「言い訳は聞き苦しいですよ」
ってか、仮にそうだとしても笑えないし。
「俺の特殊能力は物質さえあれば、その物質に生命を宿らせる事が出来る!」
スルーして話を元に戻したな。
「じゃあ、さっきまでの技は?」
「アレは俺が居た世界で使えた魔法だ」
「あれ、別世界の人なんですか?」
「貴様には関係のない事だ」
何か話が大きくなってますよー。この調子だといつかは、異世界にも行かされるかもしれないな。
「そうなる前に逃走だ!」
「え?待って下さい、悟さぁーん!」
「ふっ、あまりの実力差に逃げ出したか!まぁ、戦うよりは正しい選択だな!」
何とでも言いやがれ、異世界人!
〜納の家〜
「ただいまぁー」
「お邪魔しますよ」
「悟、お前の家じゃなく俺の家だから、魑魅ちゃんの言ったようにお邪魔しますだろ」
奥から出てきたのは、納だった。
「家みたいなものだから良いだろ。で、例の四人は帰ってるのか?」
「あー、三人はついさっき帰ったぞ。残り一人は行方不明だ」
行方不明か。……って、一大事じゃないか!
「あぁ、でも大丈夫だ。いつもの事だからな」
「問題児か!?」
「いつもの事と言ってますし、恐らく大丈夫でしょう」
まぁ、あの親の子なら大丈夫だろう。…って、俺もあの親の子だった!顔も見たこと無いけど!
「三人は二階の部屋に居るはずだぜ。俺達は待ってるから、悟だけ行って来い」
「私も悟さん達の再会が終わったら行きますね。会って早々、手を出すなんてしないで下さいよ?」
「するかっ!」
俺がそんな奴に見えるかぁ?仮にも主人公の自覚は有るんだから、そんな事になるはずがない。
なんて思ってる内に部屋の前まで着いたな。階段を上がってすぐ横に部屋があるのか。
じゃ、入るか。
「こんにちはー……って!」
「あ!」
「きゃっ!」
「わぁっ!」
三人の妹が運良く…いや、運悪く着替え中かよ!だが、このシーンがアニメや漫画であれば、良いサービスカットだ!放映禁止になる所は、当然といえば当然だが見えなかったしな。小説でも流石に、これが限度のようだ。
それにしても、こんな展開にめぐり会えるなんて、主人公とは何て得な役割なんだろう!
「失礼した」
冷静を装って、扉を閉める。ってか、全員が美少女級の可愛さだったんですけど!
……はっ!
駄目だ!こんな思考だと、雑魚ベーと同類にされてしまう!
「もう入って良いですよ」
一人の女の子の声がする。入るときも冷静を装うか。
「お邪魔します…って、うぉはぁっ!」
三人の衣装が普通じゃないので驚く。
一人は定番中の定番のメイド服だが、普通のタイプとは形状が違い、胸元が見えるようになっている。
もう一人は裾が長い水着………要するに、ボディスーツのような物を着ている。生地が結構薄いタイプのようで、全力で引っ張れば破れそうである。
最後の子は短パンまでは普通だけど、何故か胸の部分に布を巻いただけで服を着ていない。布はもちろん一重で巻いてあり、後ろの方できっちり結んである。
「こ、この服装のレベルの高さはかなり高い」
[つるっ!]
「のぁっ!」
[ドガガガガガガガガ、ズガァン!]
足を滑らせて階段から落ちた。って、視界がぼやけてきた。
もうやだこの家族。
「何の音でしょう?って、大丈夫ですか、悟さん!?それに貴方達は何でそんな格好をしてるんです!?」
「その事は俺が後で説明するから、とりあえず、悟の救護を!」
「は、はい!」