十四話 問題があるから楽しい世の中
@悟視点@
「大変ですよ、悟さーんっ!」
「ん、魑魅?」
少々寒さが残る三月の朝。魑魅が叫びながら家に入ってくる。
朝から大騒ぎというのは、事件的な何かの発生だろう。
「朝からなんだ?あと、家の鍵を持ってくな」
「あ、これは私の自作ですから大丈夫です!それより大変なんです!」
大変なのは俺の睡眠時間が短縮されたことだ。
「外の空を見てください!」
少々寒いが、外に出て空を見上げてみる。
凄く近くに星が見える。
「星だな」
「星です」
「で?」
「で?じゃなくて、星があんな近くにあるんですよ!」
いまさらそんなことを言われてもなぁ。
「誰かが作ったんだろ?俺の知ってる限りでは校長か魅異なら星を作った事があるぞ」
「二人に聞いてみたんですが、星を作ったのは特星の人物ではないそうです!」
へー、特星以外にも星を作れる奴が居たのかぁー。
「別に良いんじゃないか?洗濯物を乾かすのは大変そうだけど」
「悟さんはこの状況を主人公として受け入れないんですか?」
主人公として?
ふふふ、それならば話は別だ!
「よし、準備も出来たし、勇者社にでも出向いてみるか!」
「最初から準備はできてたんですね」
~勇者社~
「おかしいな」
「どうかしましたか?」
「いつもなら、勇者社に来るまでに数回は勝負があるのに今日はなにもない」
今回はいつもの事件と何かが違う気がするな。
「あっという間に社長室だな」
罠がないかと気をつけながら、社長室に入る。
「おっと、貴方たちでしたか」
中には几骨さんがいたが、他には誰も居ないようだった。
「あれ、魅異さんは居ないんですか?」
「社長は状況を面白くするために消えています」
魅異らしいけどなぁ。
「で、あの星はなんなんだ?」
「私が聞いた話では、特星の人以外が作ったとかでしたけど!」
「恐らくそうでしょう。今の状況について私から簡単に説明します」
うわー、真剣な話みたいだな。
「まず、特星はあの新星から戦いを挑まれています」
「えええぇっ!?」
魑魅が驚くが、俺は朝なのでそこまで驚かない。
「朝は関係ないのでは?…とにかく、あの星を作った人物を倒す事が重要です」
星の製作者が黒幕のようだな。
「でも、出来たばかりの星なら戦力は弱いだろ?」
「いえ、特星の特別な人達は既に敵側にいます。それだけなら良いんですが、特星での特殊能力使用率が非常に低いため、普通の人では相手にならないようです」
ってことは、敵側には特殊能力をよく使うやつがいるのか。
俺たちは結構特殊能力を使うけどな。
「だからこそ、貴方たちがあの星に行くべきじゃないですか?ちなみにあの星は瞑宰星という名前らしいですよ」
瞑宰京から名前をとってつけたのだろうか?
「それで私たちは何をすればいいんですか?」
「今回は瞑宰星を五つの場所から攻め落とすのですが、そのうちの二つの場所を貴方たちにやっていただきます」
一人で一つの場所を攻めないといけないのか。
「あぁ、相手は一つの場所に一人しかいませんよ」
「そうなんですか?敵の人数は少ないですね」
「大将を含めて五人か六人じゃないか」
本当に特星に勝負を挑んできたのか?
「えぇ、戦いを挑まれたのは本当のようです。ですが、相手は勇者社に報告しているんですよ」
普通は特星本部とかそんな場所に言うんじゃないのか?
「本来ならそうでしょう。しかし、勇者社に報告しているという事は、特星全体を攻撃するのは場合によるということだと思います」
「相手の目的は何なんですかね?私には本気でやってるように思えないんですが」
俺も魑魅と同じく、相手が本気で特星に戦いを挑んでるとは思えないな。
でも、遊びや悪戯で星を作るやつなんているか?魅異を除いたら誰も思いつかないな。
「詳しい事は明日説明しますので、明日の昼頃に勇者社に来てください」
「断ったらどうなるんだ?」
「出番がありません」
よし、明日は頑張らないとなぁ!
~特星公式営業会社~
朝からいろいろあったが、今日も会社に到着した。
まぁ、仕事的なものはないわけだが。
今日は納と寝ているキールしかいない。ちなみに魑魅は明日に向けて休暇をとったらしい。
「なぁ、空のあれはなんだと思う?」
納が暇そうに話しかけてきた。
「星だろ」
「やっぱりか!俺もあれは星かと思ってたんだよ!」
それは当たり前だと思う。
「そうだ、納は誰の仕業だと思う?」
「そうだなー、一番可能性が高いのはやっぱり魅異だろ」
確かに普通はそう思うが、実際は違うんだよなぁ。
「でも、同じくらいにエーケスティってやつも怪しいぞ」
「え、魅異や校長以外に候補者がいるのか!?」
「ん?あぁ、この特星の重要な人物図鑑に載ってるぞ。何ヶ月か前に校長から貰ったんだが、俺的には特星の伝説の生物図鑑ってのが欲しかったなぁ」
どうやら、校長が作った非売品の本のようだ。
「その本は何処にあるんだ!」
「此処にあるけど、かなり珍しい本らしいから見せないぞ!」
く、見ないと詳しい事が分からないだろ!
「あ、説明文なら読んでやろうか?」
「あぁ、頼む」
しかし、どうして納はこの本をもらえたんだ?
「エーケスティ アールティ デラックスプラスという名前で、デラックスプラスは称号みたいなものらしい。異世界から来た人物で、自称チートだと書いてあるぞ」
そういえば、魅異は他称がチートだったよな。
「自称ってことは弱いのか?」
「いや、実力も反則的で星も簡単に作るらしい」
うわぁ、魅異くらいの実力じゃないか?
「これだけしか書いてないし、写真とかも載ってないぞ」
「そうか、ありがとう」
うーん、いったい何の目的があるんだ?
「悟は魅異とエーケスティならどっちが強いと思う?」
「いや、エーケスティには会ったことがないから分からん」
名前の雰囲気的にはエーケスティだと思うんだけどなぁ。
「悟、女性と付き合うなら年上と年下のどっちにする?」
「んー、同い年くらいで少し年下だな」
まぁ、見かけや性格にもよるけどな。
「なら、魑魅ちゃんはどうなんだ?」
「あー、性格が少しなぁ」
永遠の親友にならなれるのだが、恋人には向かないと思う。
「あ、ところでその本に俺の名はあるか?」
「悟も載ってるぞ。主人公だがそこまで凄くないって書いてある」
「俺が凄くない?実際とは違うことが書いてあるのか」
「かなり真実に近いだろ」
うーん、妙に納得できないなぁ。
「相手が相手だから大変かもしれないが、必ず帰ってこいよ!」
「…あぁ!」
言われるまでもなくそのつもりだ。
「というか、俺がそいつを倒しに行くってよく分かったな」
「それが主人公であるお前の役目だろ。親友である俺はそんなことは分かりきってるんだぜ」
おぉ、こいつは本当に良い親友だ!
ついにこの時が来た。
そう、今日こそが瞑宰星を吹っ飛ばす日だ!
「さて、準備をしないとな」
普通は前日とかに準備をするものだが、主人公らしく勝負の日である今日から準備を始める。
そうだ、記念に自作の巨大コップでも持っていこう。これは自由工作の時に作ったコップで、人が数人寝転べるくらいの大きさはあるんだ。錆びない金属で出来ていて、人が乗っても水に浮くぞ。名前は春来と名づけよう。
「地面に茣蓙を敷いて、春来を逆さにして中に入れば、雨を凌ぐのに使うことも可能だな」
よし、茣蓙も持っていくことに決定。
武器は神離銃とエクサスターガンだな。
「来春と茣蓙と武器か。完璧な準備だな」
さて、そろそろ行くか。
~勇者社~
「おや、来ましたね」
勇者社の入り口で校長が出迎えてくれた。
…勇者社の三階くらいの壁に張り付きながら。
「とぅ!」
そこから見事に一回転して飛び降りる。
「ぐげふっ!」
あ、顔面から落ちた。
「本当に何をやってるんだ?」
「いえいえ、次回のバイトの練習をやっていたんです」
前から思うのだが、よく校長をクビにならないな。特星の製作者とはいえ、辞職するべきだと思う。
「ちなみに他の皆さんは先に行きました」
皆は早起きなんだな。
「では、作戦の説明をします。これで説明は五回目なので適当にまとめてですけどね」
説明役ってのは非常に面白くないんだろうなぁ。
「私が敵のいる場所の前まで飛ばしまので、飛ばされた場所にいる敵を倒してください。ちなみに特星の効果はないので、攻撃を受ければ重傷ですし、銃で撃ったら死にます」
「いきなり戦えないし!」
ま、まぁ、魔法弾で何とかなるだろう。
「悟君、みんなの希望は貴方にあり、皆は貴方の無事を祈ってます。まぁ、嘘ですが」
嘘かよ!
「とりあえず、頑張って相手を道連れにしてくださいね!」
「それだと俺まで死ぬだろ!」
普通に勝利を願ってくれよ!
「では、送ります!最後にこんな事を言うのはなんですけど、現在の借金は七兆九千億です」
「旅立つ前に言う事じゃないだろ!」
~瞑宰星~
「ふぅ、到着したか」
校長のあの態度は和ませるためにやってるんだよな。うん、そういうことにしておこう。
「よく来たわね、悟!」
ん、この懐かしいような元気な声は!
「印納さん!」
「会うのは久々ねー」
この人は岩捌 印納さん。俺が前に通っていた高校の先輩で、凄く元気で超自由な女性だ。ちなみに高三なのに酒を飲むが、特星での生活を含めたら、二十歳を超えてるから問題ないと言っている。
槍魔術という槍がある時に使える能力と、高等槍術部という部活で鍛えた槍捌きはかなり有名。高等槍術部のリーダーをやっていた。
有休で兵が少ない時に帝国に攻め込み、仮に一度奪い取った経験がある。その後、正式に帝国を実力で乗っ取り、自由気ままに生活していると聞いている。
ちなみに魅異も高等槍術部に入っていたが、ほとんど行ってなかったらしい。
「あの、帝国の仕事は?」
「あぁ、あれなら友人に任せてあるわ。さて、全力で勝負よ!」
えぇー、印納さんに勝負で勝てる自信はないなぁ。
「というか、どうしてこんな仕事を?」
「面白そうだから。成り行きは面倒だから省略ね」
本当に何処までも自由な人だなぁ。
というか、校長も印納さんも春来を完全スルーしてるな。
「此処は特星じゃないから怪我しますよ?」
「私は丈夫だから大丈夫。貴方は主人公だから大丈夫なはず!」
確かに俺は主人公だから大丈夫だな!
「ちなみに瞑宰星の味方をしてるのは面白そうだからなの」
本当に何を考えているんだろう?
「さぁさぁ、覚悟はいい?槍魔術、古の竜巻精神!」
「空気圧竜巻砲!」
竜巻を放ってきたので竜巻で相殺する。
「まだまだよー」
更に連続で竜巻を発生させてくる。
なので、それよりも多い竜巻の魔法弾を撃つ。
「きゃ、数で負けちゃった」
印納さんは竜巻の魔法弾を全て受けるが、全然余裕なようす。
此処は特星じゃないのに丈夫な人だ。
「というか、竜巻を受けて動かないとは。印納さんって体重増えましたか?」
「数日前の身体測定で三十くらいだったわよ」
いや、高校生で三十は軽すぎるだろ!
「って、女性に体重を聞くなぁ!槍魔術、半分くらいの異次元授業!」
異次元につながってそうな空間が現れ、そこから大量の文房具が飛んでくる。
「今こそこれの出番だ!」
盾に使っていた春来を投げつける。飛ばされた春来は文房具を弾き、印納さんの方に飛んでいく。
「まだまだ甘い。槍魔術、二段印納蹴り!」
印納さんは春来を蹴り上げ、そのままこっちに蹴り返してきた!
「ふがふぅ!」
俺の顔面に春来が直撃。
「あたたた、鼻血が出てるし」
数秒で鼻血は止まったが、顔面が結構痛い。
というか、槍魔術と最初につければ何でもありみたいになってるな。
そうだ、此処は知能戦でいこう!
特殊能力が槍魔術なら槍を槍を封じれば俺が勝てる!印納さんに魔法弾が効けばの話だけど。
「印納さんの持ってる槍って良い品ですよね」
「お、良い目をしてるね。これって私の自作なの」
お、見事に話題に食いついてきたな。
というか、槍なんか普通は自作で作らないだろ。
「他に槍は持ってるんですか?」
「それがねー、今日はこれだけなのよ」
よし、槍があれだけだと分かれば、あの槍を封じるのみだ!
「印納さん、その素晴らしい槍を見せて欲しいんですけど」
「えぇ、眼が焼けるまで見て良いわよ!」
冗談抜きで遠慮する。
とにかく、槍を投げてもらって受け取る。
「印納さん、槍魔術って槍がないと使えないんですよね?」
「槍魔術なんだから当然!…あ、まさか貴方の狙いは!」
今更気づいたようだがもう遅い。
「空気圧圧縮砲!」
「きゃあっ!」
いつものお得意技で攻撃が印納さんに直撃する。
普通なら骨折はするだろうが、印納さんだし余裕で大丈夫だろう。
「あー、驚いて悲鳴をあげちゃった」
うわ、本当に余裕で大丈夫じゃないか!
「あのー、印納さん?今のは岩くらいなら砕けるほどの威力なんですけど」
「あ、そうなの?まぁ、私に悲鳴を出させただけでも上出来なもんよ」
これからが勝負みたいな顔をしてるが、槍は俺が持ってるから大丈夫なはず!
「さて、私を誤魔化したからには、面白い勝負を期待してるわよ」
印納さんは格闘も強そうだなぁ。
「適度に覚悟してね。槍魔術、降り注ぐ金属の雨」
槍が無いはずなのに槍魔術!?
とにかく、名前的に危なそうな技なので、春来を傘のようにして隠れる。
どうやら、針くらいの金属が降り注いでいるようだ。
「印納さん!どうして槍がないのに槍魔術が使えるんですか!?」
「あら、槍なら私の心の中にいつでもあるわよ」
「は?」
この人が言ってることが分からない。
「だから、心の中にある槍でも槍魔術は使えるの」
うわぁー、本人同様になんて自由な特殊能力なんだ。
「さぁ、面白くなってきたわ!槍魔術、敗者封陣!」
俺の足元が光りだすのでその場を飛びのく。
すると、さっきまで立っていた場所が明るい光に包まれている。
「その光の檻は何かで負けたことのある人を封印できるのよ。人生が負けの人とかも封印可能ね」
ほとんどの人は封印できるじゃないか。
「さぁて、封印されなさい」
「嫌だー!」
走って回避をしながら空気圧圧縮砲で撃っていく。
「これならどう?槍魔術、巨大な巨大なお菓子のお城」
俺と印納さんの間に巨大なお菓子の城が出現する。
「ってか、必要以上に大きいな」
「まだまだこれからよ。連携槍魔術、夢の如く崩れるお城」
印納さんが技名を言い終わるのと同時に、お菓子の城が俺のほうに崩れてくる。
「この大きさだと避けるのは無理っ!」
〔ふふふ、流石に苦戦しているようだね~〕
はっ、この声は魅異か!
〔あー、うん。で、城は川のように崩れてきているよね~〕
ん?まぁ、見れば分かる。
というか、時間が止まってないか?
〔いや、〇秒会話をしているだけだよ~。それでこれを避けるには前後左右は不可能だよね~〕
まぁ、間に合わないだろうな。
〔なら、上下のどちらか。でも、下は穴を掘る暇はないし、春来でもながされるから防げないよね~〕
それなら残る道は上だけだが、俺の跳躍力は普通だぞ。
〔そこで神離銃を持って、普段浮く時と同じようにすればいいよ~〕
お、辺りが動き始めたぞ。
現在は右手にエクサスターガンを装備しているので、左手に神離銃を装備して空中戦を思い出してみる。
あの時のような感覚だな!
「よし、浮けた!」
「あ、悟も浮けるんだ」
よく見ると印納さんも浮いていた。
おい、これも魅異が教えたのか?
〔いや、印納さんは槍魔術の能力で浮いてるんだよ~〕
というか、印納さんの強さはどのくらいなんだ?
〔うーん、確か前に羽双と戦って引き分けだったね~。槍魔術は希求の能力と同じようなものと考えて問題ないね~〕
あぁ、聞くんじゃなかったぁー!
「面白そうになってきたわね。槍魔術、心底ちょっと飽きた時の攻撃」
「うおぉっ!」
大量の光る球で集中攻撃をしてくるが、なんとか春来で防御する。
というか、発言と技名が矛盾している!
「次々行くわよ。槍魔術、完全から不完全への移り変わり」
次は燃えた本を飛ばしてくる。
「なんの、水圧分裂砲!」
広範囲の水攻撃で本を撃ち落としていく。
「水圧圧縮砲!」
更に水圧圧縮砲で攻撃する。
両方の銃で交互に撃つので、呼吸をする隙がなくなるはず。それにより気絶してくれればいいんだが。
「んー!んんんー!」
確かに攻撃は命中しているのだが、苦しがる様子はない。
というか、凄い勢いで顔に飛んでくる水を、普通に飲んでるし!
うーん、かなり長い時間撃ち続けてるが余裕そうだ。
「これも駄目か」
もう、辺りは非常に暗くなっていた。
「あぁ、もうこんな時間?私はそろそろ寝たいんだけど」
寝たいって、まだ日が沈んで少ししか経ってないぞ。
「勝負はどうするんですか?」
「引き分けが不満なら続けるわよ」
「いえ、引き分けで十分です!」
これ以上やったら本当に終わらなくなる気がする。
「あー、そうそう。エーケスティのいる場所なら、明日にならないと開かないわよ」
「え、そうなんですか?」
なら、今日は春来と茣蓙を使って野宿だな。
「あ、私も一緒に寝るー」
「え?いや、帰ったらどうですか?」
「いやいや、面白そうな展開は逃さない主義なの。もしかしたら、魅異が本気を出すかもしれないのよ」
いや、確かに面白そうだけどさぁ。
「なら、俺は外で寝るんですか?」
「ん?あー、別に私は寝相とかは悪くないから大丈夫よ」
印納さん、問題点はそこじゃないです。
「男女が一緒の部屋で寝る時点で問題あるでしょうが」
「まぁまぁ、小学生の修学旅行のつもりで良いじゃない」
世間的に高校生だと問題あるし、そもそも小学生でも男女共有はない気がする。第一、最近は小学生でさえ危ないっていうのに。
「あ、小雨が降ってきたわね」
「えぇ、最悪の状況で降るなよ」
これは地面が泥になるほどではないが、外で寝たら風邪をひく気がする。
「分かりました、同室で良いです」
「よし、決定ね!私の各地を旅した話を聞かせてあげるわよ!」
要するに自慢話がしたいだけなんだろ。
濡れそうなので茣蓙を敷いて、それを囲む大きさの春来を逆にして置く。
「それじゃあ中に行くわよー」
中は結構広く、立っても頭はぶつからなかった。
「というか、これだと空気の入れ替えが出来ないんですけど」
「二酸化炭素で我慢すれば問題ないわ」
この人なら宇宙空間でも生きていけそうだもんなぁ。
「まずは私が正式に帝国を乗っ取った後のことを話すわ」
確か様子見で一度攻め込んだんだっけ。
「私は友人二人と共に帝国に居たんだけど、面白いことが何もないから私一人で探しに出かけたの」
面白いことを求める部分は魅異に似てるな。
「それで懐かしの瞑宰京に行ったら高校がつぶれててね」
あぁ、それが原因で俺も引っ越したんだっけ。
「で、高等槍術部も無くなってたから殴りこみに行ったのよ」
「何処に?」
「特星本部」
って、特星の偉い人が集まる場所じゃないか!
「け、結果は?」
「本部内で勝負した相手には全勝。校長もついでに倒しておいたわ」
校長でさえ勝てないのか。
「帰り際に魅異の一番弟子を見つけて、勝負をしたんだけど引き分けだったわ」
そもそもその時点で星を壊せるレベルだろ。
「その時に印納さんは怒ってたんですか?」
「いやいや、本部に勝負を挑む理由ができて上機嫌だったわ。私は常識的だから理由なしで勝負はしないの」
どこがどう常識的なのか詳しい説明を聞きたい。
「あ、ちょっとトイレ行ってくるわね」
「あぁ、分かりました」
そういえば、後半はにずっと水を飲んでたもんなぁ。
ってか、その時に浴びた水で服が濡れていたせいか、印納さんの寝転んでいた場所が凄く濡れている。
まぁ、あの人は風邪に逃げられるから大丈夫だろう。
ところでこの辺にトイレってあったか?
「ただいまー」
あ、戻ってきた。
「先に言っとくけどおしっこの方よ」
「わざわざ言わなくて結構です。ところでトイレなんてありましたか?」
少なくともこの辺りにはなかったと思う。
「あー、外だけど酔っ払いっぽくしてたから大丈夫よ」
そういう問題じゃないんだが。
「星や世界が違えば文化も違うものよ」
「此処も特星とあまり変わらない気がする」
印納さんなら何処に行っても順応しそうな気がする。
「酔っ払いオヤジだと思わせる為に立った状態でだったのよ」
「あの、報告は本当に結構です」
恐らく、性格も含めたら羽双より強いのだろう。
「んー、質問ある?」
「あ、それなら印納さんが魅異と戦って勝てる自身は?」
恐らく結果は魅異が勝つだろうが、この人の意見も聞いておきたい。
「魅異が手加減して私が勝つ!」
「それって実質的には勝てないんじゃないですか?」
「勝ちは勝ちよ」
そのいい加減な性格を一割でも良いから分けて欲しい。
「さて、そろそろ寝ようかしら」
「あ、寝てる最中に俺に近づいたら魔法弾を撃ちますから」
「えぇー、これ以上濡れると風邪をひいちゃうわ」
明日はエーケスティとかいうやつに勝てるのか?
まぁ、最低でも生きて帰ることは必須だな。