十三話 会社も学校も特星では同じようなもの
@悟視点@
会社に入ってから数ヶ月が経ったが、仕事という仕事はなく、学校でやるような問題を解くだけが会社での日常となっている。
この会社は仕事中に遊んでたり、何処かへ行っても問題ないらしい。というか、会社とは言えないよなぁ。
ちなみに今日は給料日なのだが、昨日まではずっと魑魅の奢りで生活していたのだ。その分は問題のない範囲で、魑魅の出す要望にこたえるという約束だ。
「さて、悟さん!給料日である今日も私の要望にこたえて下さいね!」
「あー、問題のない範囲でな」
普通は立場が逆であるべきじゃないか?
ちなみに俺が魑魅に要望を出す側なら、必要のないときは近寄るなと言うだろう。
「なぁなぁ、悟。どうやったら女子に人気が出るんだ?」
納が急な質問をしてくる。
というか、質問してる暇があったら今までサボった分の書類を書け。書類というよりテストに近い部分もあるが、会社っぽく書類と言っておく。
「そんなの相手の好みによるんじゃないか?まぁ、人気ってのは多くの人からの信頼みたいなものだから、多くの人と馴染みやすい性格なら人気が出ると思うぞ」
納は頭が悪いが、人に恨まれる性格ではないだろ。人に注意されることは結構多いが。
「俺の性格はどうなんだ?」
いや、ついさっき人によると言ったばかりだろ。
「憎めないような性格だが、場の雰囲気に合わない時が多い。ついでに言うと、俺の中でお前の評価が高いのはその性格のお陰だけどな」
今の時代には納のような奴が増えるべきだ。
でも、最近の場の雰囲気に合わない行動をするやつは、問題児とかの割合が多い気がするんだよ。なんというか、世の中は天然さが欠けている気がするんだよなぁ。
「なぁ、悟が彼女にするなら誰を選ぶ?」
いきなりでどうでも良いような質問だな。
…だが、はっきりとした答えは見つからないな。
「もちろん私ですよね!」
うぉ、魑魅が話に加わってきた!納のやつ、面倒な話題を出しやがって!
ちなみに魑魅という答えはまずない。
「うおあっ、大変ですよぉっ!」
急に雑魚ベーが大声で叫ぶ。
よし、今の悪い状況から抜けることができそうだ!…とか思うと、更に状況が悪くなるんだよなぁ。
「どうしたんだ?」
とりあえず何が大変なのかを聞いておく。
「私の分の給料をもってこうかと思ってたのですが、全員の分の給料が無くなってるんですよ!」
「はぁ!?」
その場に居る全員がそれを聞き、雑魚ベーの場所に集まる。
給料が無くなっただと?
それは俺に犯人を捜せということか!
「とりあえず、校長さんに連絡します!」
魑魅が校長に電話で用件を伝える。
校長に連絡して数分後、校長がやってきた。
「遅れてすみません!年が増えると動きが悪くて駄目ですね」
「校長はまだまだ若いし、波動の渦みたいなので移動してるから楽でしょうが」
ツッコミの仕事を納に取られた!
「で、結論から言います。貴方達で犯人を見つけ出してください」
「証拠もなしで犯人を見つけろだと?俺には簡単すぎるが、こいつらには荷が重過ぎるだろう」
東武がそんな事を言ってるが、本音はヒントくれってことだろ。
「東武さんの言うとおりです。だから私は給料に関する情報を提供します」
「確かにそれなら私達でも何とかできそうだ」
神酒もやる気は結構あるようだ。
だが、此処で他のやつに解決を任せるわけには行かない!
「此処は超推理主人公の称号を持つ俺が解決してやる!」
この称号はさっき考えたんだが、なかなか雰囲気に合ってるだろ。
「おっと、この場で推理をしたいなら、悟が犯人じゃない事を証明してもらうぜ!」
おー、納が結構俺のノリに合わせてくれてる。
「いいだろ!まずは校長の情報を聞かせてくれ!」
「えぇ。まず、給料はそこにある給料用の引き出しに入ってたはずです」
雑魚ベーの立っている場所の引き出しを指差す校長。
「給料の確認は管理員が毎朝していて、昨日の朝には給料はまだあったみたいですね」
おぉ、なんだか本格的になってきた。
「待て!毎朝の確認ならば、なぜ今日の朝の給料の存在が分からない?」
そこは俺も気になったのに、東武に先に言われてしまった。
「あー、管理人は週に数回サボるんですよ」
「お、私と気が合いそうね」
キールが余計な事を言う。そして神酒に叩かれた。
「昨日の夜といえば、給料日前日を祝う会をしてましたよね」
羽双が昨日の出来事を話してくれる。
そう、此処に居る俺たち全員は給料日前日を祝う会を開き、店を貸してもらっていたのだ。
「校長があの企画を考えたんだよな」
俺は正直なところ面倒だったが、魑魅に奢ってもらう量を減らそうと参加したんだ。
「本当に感謝します。お店を一つ貸しきるなんて高かったのでは?」
「いえいえ、知り合いの店でしたから」
校長って特星中に知り合いが居るんじゃないのか?
おっと、話がそれてるな。
「さて、俺が犯人じゃない理由は犯行が無理だからだ。昨日は朝から、前日の会に校長と魑魅と雑魚ベーと向かったし、昨日貸し切りだった店を出た後は、魑魅と雑魚ベーと俺で朝までゲームをしてたんだ」
それが原因で、今日の俺は会社に着いたら寝てしまったんだ。
「あぁ、だから珍しく朝に寝ていたんですか。寝ている時に後ろに何かが憑いてましたよ」
羽双が俺に何か憑いていたと言う。
別に幽霊とかは慣れているんだけどな。
「羽双、俺がその程度の脅しで驚くとでも?」
これでも主人公としてのレベルは格段に上がっているのだ。その程度の脅しに驚く俺ではないっ!
「第一、俺に影響を与えられれる霊など、例がないからな!」
今のは霊と例の洒落を入れてみたぞ。
「なんというか、死んでほしいです」
羽双に死んでほしいとか言われた!
人に死ねとか言っちゃあ駄目だと習わなかったのか!
「ちなみに憑いてたのは霊ではなく、貧乏神の親玉でしたよ」
「えええぇっ!」
羽双が貧乏神を見えたのも驚きだが、俺には貧乏神の親分なんかが憑いてるのかよ!
「悟さん、話がまたずれてます!」
「はっ、そうだった!」
魑魅のお陰で本来の目的を思い出した。
「とりあえず、俺の無罪が証明されたから俺は推理側だな!」
「私と雑魚ベーさんも推理側です!」
「そういうことですよぉっ!」
さて、とにかく昨日の行動の様子を聞こう。
「なるほど、分かってきたぞ」
全然分かってないのだが、雰囲気作りの為に言ってみる。
昨日の給料日前日の会までは、誰もが盗む暇などなかったようだ。
だが、前日の会の後ならば可能性はある!
「とりあえず、船の問題で神酒に犯行は無理だ。東武も竜的なのに乗ってるところを、目撃されていたらしいから不可能」
この二人の免除は決定だ。
「って、神酒は大丈夫なのにどうして私は駄目なのよ!」
「お前は事件発生前から、前日会に行くまでの間はずっとそこで寝てただろ」
そう、事件の事件発生時間にキールは、事件の発生場所でずっと寝ていたらしいのだ。というか、永眠という状態でさっさと成仏しろ。ちなみに島に帰らなかった理由は、朝の船に乗る時間に起きれないかららしい。
「というわけで、羽双とキールと納と校長と第三者の誰かだな」
うーん、俺は仲間を信じているが、第三者だと探すのが面倒だから、俺たちの中の誰かの犯行であって欲しいなぁ。
「羽双はその時間は勇者社に居たんだろ」
「えぇ。社長室を借りてました」
勇者社に聞けば分かるかと思ったが、無断で使用していたらしい。几骨さんが途中で部屋に来たらしいが、几骨さんは何処に居るのか分からない状況だ。
「で、校長は会社に居たと」
「私は前日会の予約をして、ダンボールの地下秘密基地を作ってました」
言っちゃった時点で秘密基地になってないし、前日会の金があるなら生活に使えば良いだろ。
「納は?」
「妹たちの面倒を見てて、その後は食事の材料を買いに勇者社に行ったんだ。勇者社の人がちゃんと見ていてくれたしな!」
まぁ、この時間帯にはスーパーは閉店中だし、コンビニは試食品売り場がないからなぁ。
ちなみに本来は俺が妹達を引き取る予定なのだが、俺の親の陰謀を阻止する為に、妹達を納の家に強制的に送りつけたのだ。ってか、資金不足でしばらく食事抜きよりは良いだろ。
恐らく、納が此処に働きに来てる理由がそれである。
「キールはさっき聞いたとおりか」
俺の予想では、この会社に居た校長とキールが怪しいと思う。
だが、羽双なら時間を止めて盗めるのだ。
「うーん、納は除外か?」
「当然だ!」
資金難という点では動機になるが、家から勇者社まで行ってたからなぁ。更にちゃんと勇者社で目撃されているわけだし。
…いや、待てよ!
説明したかは覚えてないが、納は特星の俺の居る高校に入り、寮での生活をしている。そして、その寮から勇者社に行くまでの道に、この特星公式営業会社があるのだ!
「まいったな」
この際、全員が共犯ってことで良いんじゃないか?
俺の中の問題のあるキャラリストに全員載ってるし、全員が捕まってもいい気がする。
でも、真実を見つけるほうが評価が上がるし、やっぱり真犯人を探すか。
「そういえば、校長のヒントって途中じゃなかったか?」
納が重要なことを思い出す。
確かにヒントの途中で話が脱線してたなぁ。
「あー、そういえばそうですね。次の情報は入り口の警備員が言ってたことで、事件があった前後の時間は、誰も入り口を通らなかったそうです」
かなり重要な証拠じゃないか!
ということは、校長かサボりやのどちらかだな。
そして、犯人は資金不足の校長の方だっ!もしくは、サボりやのキールの方だっ!
「とりあえず、私の持ってる情報はこれだけです」
校長の情報も全て使い切ったか。
会社内の他の誰かの可能性も考えられるが、話の展開的にそれは流石になぁ。
くっ、何とか犯人が分かる方法を考えなければ。
「とりあえず、校長とキール以外で帰りたい奴は帰っていいぞ」
正直、人数が多いとやりにくいんだよなぁ。
で、ほとんどの人が帰ってしまい、残っているのは俺と校長とキールと魑魅だけになった。
「さあて、まずはどうやって犯人を見つけるかだが、これは自主的に残った魑魅が考えてくれ」
「思いつきました!」
「予想以上に早っ!」
もしかして、方法を考えているから残ってくれたのか?
「両方から犯人を捜すのじゃなく、片方が犯人かどうかを確かめればいいんです!」
「え、そんな方法があるのか!?」
「はい、少し待っててください!」
魑魅は凄い速さで会社から出て行く。
というか、善と悪を操る能力で犯人を見破れないのか?
「魑魅君の方法とは何ですかね?」
「さぁ?校長が女子にも君付けする理由の方が気になるけどな」
さっき俺が言ったように、校長は女子に君付けで呼ぶときがある。まぁ、逆に男子をさん付けすることもあるんだけどな。
ちなみにキールはこっそりゲームをしている。
「お待たせしましたぁ!」
お、魑魅が到着したな。
「眠い」
魑魅の後ろには見覚えのある声の子供が居た。
えーっと、かなり前に会った気がするんだけど、いったい誰だっけ?
「あれ、何処かで見たような」
意外にもキールの知り合いらしい。
「この子はレーレアさんと言う名前で、眠りを操る人なんですよ。悟さんは前に戦いましたよね」
……あー、衣宵が起こした事件に向かう途中、一番最初に戦った相手か。
「で、用って何?」
「そこのキールという人が、昨日の夜に寝ていたかどうかを調べてください!」
なるほど、その時間帯に本当に寝ていたのなら、犯人は自動的に校長になるというわけか。
「え!ちょ、ちょっと待った!そういう能力はやめた方が良いわよ!」
おや、キールが急に慌て始めたぞ。
こういう時に焦ってる奴は、大抵犯人じゃないんだよなぁ。
「うんうん、大体分かった。どうやら昨日の夜は眠っていないようだ。じゃ、私は眠いからそろそろ寝るよ」
レーレアが診断結果を言い、そのまま寝てしまう。
「いやぁー、実は私起きてたのよ」
「さっきレーレアから聞いたが」
「それでね、実は起きてるときに犯人を見たの!」
おぉ、それなら事件が簡単に解決するじゃないか!
「で、誰なんだ!?」
「あー、誰かは見えなかったけど、私じゃないことは確かよ!そのときに部屋は真っ暗だったんだけど、急に現れて給料を持って消えていったの!あの時は給料の管理人が幽霊だと思って気にしなかったけど、よく考えたら犯人に違いないわ!」
犯人が幽霊なら、壁から盗めそうだからなぁ。
「真っ暗なのに犯人に気づいたんですか?」
魑魅が鋭い質問でキールを攻める。
「私は幽霊だから、真っ暗でもある程度は辺りが見えるの。犯人が誰かまでは分からなかったけどねー」
あー、俺も幽霊とかになってみたいなぁ。
というか、飽きてきたからキールが犯人ってことで終わろう。そういうことを考えると、実際は犯人じゃなかったりするけど、別に問題ないか。
「管理人が幽霊に思えたのなら、それは本物の幽霊だろう。そして、幽霊というのはキールにも言えるだろ!」
「ななぁっ!な、何が言いたいの!?」
此処までくれば言いたい事は分かるだろう?
「すなわち、給料を盗んだ犯人は幽霊であるキールだ!」
「くっ、これは言いがかりよ!あ、やられた!」
ってか、ゲームは後にしろよ。
「言い分は連行者に聞いてもらう事だ。魑魅、キールから適当に話を聞いておいてくれ」
「お任せください!」
キールは魑魅に連行されていった。
今の特星に警察とかの制度はないので、俺の家で取調べをするんだろうなぁ。
「ふぅ、何とか終わった」
面白半分で推理とかやるんじゃなかった。
「あ、そうだ。悟君にこれを渡しておきますね」
校長から数百セルのお金を渡される。
「これは?」
「給料日前日を祝う会のお釣りですよ。ちゃんと皆で分けてくださいね」
「お釣り?誰かが代金を払ったんですか?」
…あ、オチが読めたかもしれない!
「もちろん、参加者の給料で払いましたよ。ちなみに私は所持金がないので払いませんでしたが」
あー、やっぱりそういうことだったのか。
給料は昨日が皆でやった前日会で使われた。キールが見たのは波動で移動する校長だろう。
「使っちゃったんだから、見つかるはずがないわけだ」
「はい?もしかして、今回の給料強奪と関係あるのですか?」
校長は気づいてないし、文句も言えないよなぁ。
「とりあえず、このお釣りだけでも皆に渡すか。…あれ?」
さっきまで持ってたはずのお釣りが無い!
「ふふふっ、この給料のお釣りは貰ったわ!」
いつの間にか窓の近くに給料を持った女性が立っていた。
あれ、あの人って何処かで見た気がするな。
「…あ、祭りの時の泥棒女か!」
「あれ、スーパーと祭りで見た顔ね」
相手のほうが詳しく覚えていたようだ。
「私は場違いのようなので、そろそろ帰りますね」
校長は発言の機会がないと考えたらしく、波動の扉で何処かへ行ってしまった。
「で、何か用?」
「給料返せ!」
「嫌よ!」
やっぱり断られてしまった。
「とりあえず、会うのは三回目だし、自己紹介をしておくわ」
まぁ、これからも遭遇しそうだからな。
「俺は主人公の悟だ」
「私はセーナ。…タイミングが悪いから、苗字はまだ教えられないけどね。ちなみに貴族なんだけど、私の弟はこの星で少し有名なの」
それは自慢か何かか?
というか、その弟の名前を教えてくれなきゃ有名かどうかも分からん。
「ってか、給料を返してくれないか?それがないと生活が危なくなるんだが」
魑魅に奢ってもらい続けるのは気がのらないからな。後でいろいろ要求される可能性があるし。
「大丈夫、私に渡せば安全よー」
「いや、危険な予感しかしないし」
ってか、渡すもなにも既に盗った後じゃないか。
「うぅ、実は私も金欠で数年近くなにも食べてないの」
スーパーで大量の食料を盗んでたけどな。
「なら、両腕につけてる高級そうな腕時計や、高級そうな上着を売ればいいだろ」
というか、俺と知り合う貴族は変なのしか居ないよなぁ。
「あ、あぁ、私が身に着けてるものは全て形見なの!両腕の腕時計が両親の形見で、高級な服は弟の形見!その他の物は息子や孫や子孫の形見よ!」
「ところで何歳?」
「え、二十六だけど。…って、なに言わせるのよ!」
二十七歳で孫の形見ってどんなのだよ。
あと、予想以上に年齢が高いな。二十歳くらいかと思った。
「…あ、俺が特星で会った印象深い女性の中で、人間年齢が一番年上じゃないか!」
ちなみに人間年齢というのは、寿命が違う者の年齢を人の年齢で表したものである。例えば、衣宵の年齢は数億歳くらいだが、人間年齢は十歳であることとか。
「確かに年は二十七歳だけど、身体測定では十代後半の体と頭って結果よ。流石は私ね」
頭が成長してないのはどうかと思う。
「さて、話を戻すね。私の姿を見たからには貴方を無事には帰らせないわ!」
「全然戻ってない!そしてお前こそ無事に帰らせないぞ!」
俺はエクサスターガンを取り出し即座に撃つ。
「エクサバースト!」
「必殺、安全無敵防御」
[キィン!]
…あれ、弾かれた?
俺の放ったエクサバーストは見えない壁に弾かれ、そのまま消滅してしまった。
この特星内でさえ、相手を消滅させる威力の技なのだが、こうも簡単に防がれるのは心外だ。
「いや、いくらなんでも無敵防御ってどうかと思う」
「あー、技名は無敵っぽいけど本当に無敵なわけじゃないよ。炎的な技名で氷を使うのと同じようなものよ」
それは全然違うと思う。
「暇があったらいつでも挑んで構わないわ。まぁ、これからは二度と会うことはないだろうけどねー」
そういうことを言うから次も会うんだよ。
とりあえず、給料を盗んでセーナは窓から飛んでいった。
落ちろ、そして泥にでも沈め。
「さて、俺も帰るかな」
あ、俺の特徴が思いついた!それは無駄話をして、相手が逃げるのと話の進行を遅らせる事だ!
セーナに給料を取られてから数週間が経った。
会社は自由出勤なので今日は勝手に休む事にした。ちなみに食事は雑魚ベーに奢ってもらっている。
「くっ、軽い屈辱だ」
第一、皆はどんな風に資金を調達しているのだろうか?
とりあえず、今日はアミュリー神社にでも行ってみるか。あの島への船の料金は無料らしいからな。
~船~
「見事に他の客は居ないようだな」
船は自動操縦らしいのだが、盗まれたりとかの心配はないのだろうか?
船自体は豪華客船くらいの大きさだが、どんな理由でこんなに豪華なんだ?
「誰か居ないのかー?」
「あれ、悟か?」
お、雨双が居た。
「あ、悟だってば」
アミュリーも居た。
二人ともあの島に向かう船に居るってことは、旅行かなんかの帰りか?
「ってか、神社に居なくて大丈夫なのか?賽銭とかが泥棒に盗まれるぞー」
ちなみに俺は数週間前に給料を盗まれたばかりだし。
「留守番が一人居るから大丈夫だってば」
「留守番?雑魚ベーでも帰ってるのか?」
「エエナが居るんだってばー」
誰だよ!
雨双、詳しい説明を頼む!
「魅異さんの紹介だったし、悟も一度は会ったんじゃないのか?苗字的にも悟の知り合いかと思ったが」
「いや、全然知らん」
ってか、俺との関係性のありそうな苗字はそうないだろ。
「あー、苗字を教えてもいいが、ショックを受けるかもしれないぞ?」
「ふふふ、主人公が苗字を聞くだけでショックを受けるわけがないだろ!」
主人公はとっても凄いからな!
「名前はエエナ ライノショック」
「…予想以上にショックだ」
いやさ、そこまで単純だと逆になぁ。
俺の雷之という苗字への嫌がらせか?
「雑魚ベーと昔住んでて、雑魚ベーに逃げられると言ってたな」
「私たちと同い年だってば!」
雑魚ベーが逃げるほどの女子小学生?俺には全然想像できないなぁ。
「一応普通の子なんだが、なぜかズボンの代わりにタオルを腰に巻いてたな」
「その時点で既に普通じゃないだろ!」
「あと、鏡で自分の顔を見ながら、可愛いって叫んでたんだってば」
なんか、神社に行きたくなくなってきたなぁ。
「ところで、お前達は買い物かなにかの帰りか?」
「買い物なら勇者社で十分だ。今日はアミュリーが神族会議をするんだが、今回は保護者同席らしく、私がついていくことになったんだ。で、忘れ物をしたから戻ってる」
まぁ、アミュリーは難しい話が分からないだろうからな。
「今から磁力で船の速さを上げるから、何処かを掴んでたほうが良いんだってば」
こういう時に便利な能力だな。
~アミュリー神社~
おぉ、かなり早く到着したな。
ちなみに二人は荷物を取りにいき、船で戻っていった。
「そういえば、エエナとかいう子が居るんだっけ。神社に来たついでに会っておくか」
というか、俺は何のために神社に来たんだ?
「あれ、貴方は悟さんじゃないですか」
ん?知らない小学生に声をかけられたぞ。
「えーっと、誰だ?」
「えっ?あぁ、私はエエナ ライノショックでしたねぇ。あ、悟さんの名前を知ってる理由は、貴方が主人公として有名だからですよぉっ!」
自分の名前を忘れてたみたいな言い方だな。
あと、やっぱり主人公の素晴らしさが分かる人はいたのか!
「まぁ、俺は主人公だから当然だな」
それにしても、やけに雑魚ベーと似たような喋り方だな。
「やけに特徴のある喋り方だが、雑魚ベーの真似なのか?」
「えっ!あー、これは雑魚ベーさんと前に住んでたときに覚えたんです」
へー、雑魚ベーと昔住んでたのか。
近いうちに雑魚ベーから詳しい話でも聞こうかな?
「雑魚ベーって昔はどんな様子だったんだ?」
「今と変わらずに優しそうなな心と愛を待っていましたねぇ。雑魚ベーさんはとっても純粋で健全で完全なんですよ!」
完全ってなにがだ。
というか、雑魚ベーのイメージと全然重ならないんだが。
「そんなにまともな人物じゃないと思うが」
「いえいえ、少女界の中心に等しい人物です!少女の思いと重なる雑魚ベー砲を、雑魚ベーさんと撃った私が保証しますよぉっ!」
技名が長くて言いにくいだろ。
俺なら、少女の思い出し雑魚ベーエクサバースト砲にするけどな。
「…はっ、長くなってるじゃないか」
エクサバーストをつけて短くするにはどうするべきだろうか?
「どうしたんですか?」
「その技名は短縮しようとすると長くなるぞ!」
「え?少女と重なる思い出の雑魚ベー砲とかなら短くなるのでは?あ、確かに長くなってますねぇ!」
合体技の名前なのが原因か?
俺のネーミングセンスには問題はないし、エクサバーストはつけた方が良いよなぁ。
「ところで、悟さんは何の用があったんですか?」
「…あー、特に用はない。気分的に来ただけだ」
暇つぶしにはなったし、そろそろ帰ろうかな。
「…ああぁっ!」
「うあっ、脅かさないでくださいよぉっ!」
た、大変な事を思い出してしまった。
「帰る船がない」
「ええぇっ!?」
そう、船は神様と保護者様が乗っていったのだった。
それで結局夕方近くになるまで二人は帰ってこなかった。




