十一話 えっと、何だっけ?
@悟視点@
飛んでいる竜の場所を目指していたら、全速迷走の森に迷い込んでしまった。
ってか、全速迷走の森って名前が長くて覚えにくい気がする。
「さて、この上を竜が飛んでいるんだな」
「ふぅ、ようやく来たか」
「うおぉう!」
気づかなかったが、誰かが俺の後ろに立っていた。
「誰だ!」
「ふむ、やはり記憶を失っているようだな。まぁ、俺の知ったことではないが」
自分のこと意外関係ないなんて酷いなー。
「ゲニウス、もう戻れ」
「わかりましたっ!また用があったら呼んでくださいねー」
うおぅっ!空中の竜が喋っただと!?
「竜って喋るのか!?」
「知りたければ自分で調べることだな」
そんなこと言っても、俺は竜の存在すら知らなかったんだぞー。
うーん、この事が解明できれば俺は有名人になれるかもしれない。
「とりあえず、俺は東武だ。俺に二度も名乗らせたその度胸と、俺の前に現れる出現率の高さは褒めてやろう」
度胸や出現率以外にも褒めてほしいなぁ。例えば主人公らしさとか、記憶力の良さとか、超人的な能力とかさぁ。
「だが、貴様程度が俺の前で立っていられることは二度とないと思え!」
「はーい」
二度とこいつの前に立ちたくないので、素直な返事をしておく。
「では、魅異からの伝言を判りやすく教えてやろう。小巻が秘密基地にいるから、協力して空中の敵を二人倒せ」
小巻って誰なんだ?
「さて、俺は用事があるので帰らせてもらう」
「って、待った!」
「断る」
いや、戸惑いもなく断ることはないだろ。
「美異の秘密基地のことだよなぁ」
しょうがないから行ってみるかな。
~神秘と重なる秘密基地~
さぁさぁ、ついに到着してしまったぞー。
「あ、やっと来た」
「ん?君が小巻ちゃんか?」
予想では高校生くらいかと思ってたが、小学生か中学生くらいの子だった。
「え、あ、そうだけど。………あー、記憶が無くなってたんだっけ?」
「その通りだ」
気分でちゃん付けしたけど、普段はどんな感じで呼んでたのだろうか?
というか、服が微妙に高そうな服だ。
「東武から名前は聞いたと思うけど、私の名前は小巻。とある一族のお姫様なんだけど、訳有りで特星に住んでいるの」
おいおい、竜使いの次はお姫様かよ。
俺はとてつもない出来事に全力で巻き込まれているようだ。
「特星の人ってことは能力的なのを使えるのか?」
「うん、特星に入って新しい能力を習得したからね。その能力は意味を操る能力なんだけど、結構面白いの」
あまり強くなさそうな能力だと思うけどな。
「相手は空中に居るけど空は飛べるよね?」
「あぁ」
試してないが、飛べるって魅異ってやつが言ってた。
「じゃあ、空の上に向かいましょう」
~遥か上空の空中~
おー、本当に飛ぶことが出来たぞ!
「おっと、此処まで来れる人が居たとは驚いた」
お、ついに相手が登場したぞ。
だが、相手もやっぱり小学生か中学生くらいの女の子だった。
「私の名前は古居家 西華。貴方達を記憶喪失にしたのは私よ」
小巻は記憶喪失ではないけどな。
「私に何か用?」
「用事のついでに倒しにきたの」
用事のついでだったのかよ!
「そう?なら、ついでで倒してみればいい!記憶、風を切る風」
「悟はもう一人の敵をお願い!魔術、球型防御魔法」
あ、俺の本当の名前が悟だと判明した。
「おぉ、西華が久々にやる気だ」
「誰だ?」
いつの間にかもう一人の少女が近くに居た。
この世界には小学生くらいの少女しか居ないんじゃないか?
「私は晴天道 春夏。絶対の強さを誇る力を操る能力の使い手だよ!」
能力がすごく強そうなんだけど。
「私の能力を使えば、普通の力の他にも財力や権力や知力や迫力などを操れるのよ」
おー、財力とかも操れるのか。
「一つだけ言わせてもらう。主人公を相手に力勝負で勝つのは不可能だ!」
記憶はないが俺は主人公であることは間違いない!
「なら、主人公に私がなるまで!火力、丸焼き用の特大強火!」
「何か展開が早くて俺の脳内が追いつかないが、主人公は俺だった気がするんだ!戦隊技、悟ンジャー連続撃ち!」
相手の巨大な炎の玉を水鉄砲でかき消していく。
割合的に普通はかき消せないだろうが、俺が戦隊だったから消せるのだろう。
「そんな銃じゃあすぐに壊れるよ!魔力、十八番の魔法式衝撃波」
「空中で衝撃波なんて出すなぁ!」
理不尽で常識的ではない攻撃をかわしつつ、玩具の銃の追尾弾で攻撃する。
ちなみに俺は技とかは覚えてないから、新たに考えてるところだ。
「戦隊技、単体で撃つ悟ンジャー砲!」
技名を叫べば何故か予想通りの技が使えることに気づいた!
あ、俺も特殊能力とかが使えるかもしれない!
「ちょっと待った!」
「えぇ!?」
勝負中に試して失敗したら恥ずかしいから、少し練習しておくか。
「戦隊技、飛び散る悟ンジャー水圧弾!」
待ったと言っておいた春夏に当ててはいけないので、別の方向に向かって技名を叫ぶ。
銃から威力が高そうな水の玉が放たれ、離れた場所で戦っている西華に当たる。あー、正直なことを言うと、小巻と西華の存在に全然気づかなかった。
まぁ、ちゃんと撃てているようだ。
「うん、問題はないな」
「そうね」
え、味方に弾を当てたのに何も言わないのか?
うわぁ、外道過ぎるよまったく。
「うーん、自分の中の何かが黒くなっていく気がする」
なんか、名前の部分とかが黒くなってるような気分だ。
「隙あり!武力、とにかく集中砲火!」
隙ありって俺に教えている時点で、俺の隙はすでに無くなっている!
相手は何処からか爆弾や砲弾などを撃ってくる。
「数は多いな。だが、戦隊に覚醒した俺の回避力は半端じゃない!」
「変態に覚醒?」
戦隊に覚醒だっての!
俺は相手の攻撃を全て避けるのは無理なので、逃げ回りながら攻撃する。
「戦隊技、飛び散る悟ンジャー水圧弾!」
さっき練習した技を使うが水圧弾は春夏に回避されて、離れたところで戦っている西華にだけ当たってしまう。…まぁ、敵だから問題ないな。
「火力、緩やかな三重の炎集率!」
俺と春夏を囲むように炎が集まってくる。
お、凄く熱いけど火傷などの怪我はまったくないな。神離の社長が言ってた事は本当だったなぁ。
「ってか、熱っ!戦隊技、力を合わせた悟ンジャー砲!」
この技は単体の悟ンジャー砲の二倍の威力がある。まぁ、二つの銃で悟ンジャー砲を撃ってるから当然なのだが。
「おー、凄い」
さっきから春夏に攻撃を当てているのに痛くもなさそうだ。まぁ、小学生くらいの子が元気なのはいいことだが、俺の攻撃が無効化されてる気がするなぁ。
「さっきから攻撃を受けてるが、攻撃を防いでいるのか?」
「あ、気づかれたね。そう、私の力を操る能力は相手の攻撃を無力化できるの」
相手の攻撃を無力化なんてありかよ!
というか、力が関係すれば何でも出来そうだな。
「これで私に勝てる方法などないー!魔力、自動式の真っ黒砲」
「って、本当に黒い!」
見かけにツッコミをしていたら、避けれなかった。
あー、俺の全身が真っ黒になってしまったじゃないか。
「………はっ!」
今、とてつもなく重要なことに気づいてしまった!
「春夏、確かにお前には、さっきまでの状態では敵わないな」
「さっきの状態では?」
ふふふ、やはり気になるようだな。
「そうだ。だが、お前は俺を全身黒にしてしまった。すなわち、悟ンジャーブラックの本当の実力を出せるということだ!」
まぁ、実力は無力化できるだろうけどさー。
「しゅ、主人公なのに第二形態!?」
お、見事に全然気づいてないみたいだ。
このままなら、必殺技を使えるかもしれないぞ!
「主人公には最終手段は必要だからな!常に爆破オチの準備も万全だぜ!」
「で、でも、私の能力に敵うわけないもん!」
ふぅ、主人公の行動に間違いがあるとでも?
「黒悟の真の力を喰らえ!黒悟奥義、黒悟らしさへの第一歩!」
「私に力技は通用しないからね!」
俺は春夏に向かってまっすぐ飛んで行き、正面で止まって自分の手を春夏に擦りつける。
「って、何するのさ!ちょっ……やめ!」
先に説明しておくと、この技は相手を黒くした後、俺のように黒いから俺と同じような人間だと言う技である。こうする事により、相手は主人公に一歩近づいたことを喜んで、感謝の印に降参するという作戦だ。
「よし、こんなものだろ」
春夏の顔は今の俺並に真っ黒になっていた。
「春夏、お前の顔は俺のように真っ黒だ。よって、お前は主人公の俺と同じような人間だ!」
「えぇ!そ、そ、それだけは嫌ぁー!」
春夏は何かを叫びながら飛んで逃げようとするが、戦ってる途中の西華と激しく衝突して、二人とも下に落ちていった。だが、急に二人とも消えてしまった。
「何だ?…って、あああぁっ!」
ついさっき、記憶を思い出したぞ!
「なんか、すっきりしない勝ち方だったね」
「そうか?俺は勝ててよかったと思うが」
「実は私もそう思ってた」
おいおい、どっちなんだよ?
というか、これからどうやって特星に戻るんだ?
俺は此処が別世界だと考えているのだが。
「そんなに暇なら、面白いゲームをやっていかない~?」
「げっ、魅異!」
「面白いゲーム?私はやりたい!」
小巻、魅異の提示するゲームに、体験者にとって楽しい要素などない。
「じゃ、送ってあげるね~」
小巻が急に消える。
恐らく、ゲームの場所に移動させられたのであろう。
「俺は特星の問題を解決するから、特星に送ってくれ!」
「いやいや、特星の問題はすでに解決寸前だよ~」
いや、解決寸前だとしても向かった方が良いだろう!
「どうしても事件中に特星に復帰したいなら、今から私の出すゲームを攻略出来たらね~」
あー、やっぱりそういう展開なのかよ。
「受けてやろうじゃないか」
「ルールはこれを読んでね~」
魅異に渡されたのは説明書だった。
「じゃ、送るね~」
~変な場所のゲーム用ステージ~
ほぅほぅ、なるほどなぁー。
今回は五面構成のステージで、罠や敵に触れると最初のステージに戻されるらしい。一つの面の最後には必ずボスが居る。
制限時間は無限だが、早く抜けないと罠が作動する場所もあるんだとさ。
装備などは一切なしだが、身体能力は自動で補正されてるらしく、一定以上のジャンプが出来ない。まぁ、普段よりは高く飛べるようだが。
敵や罠に当たっても実際に痛かったりしない。
「降参がしたくなったら私に言ってね~」
魅異は様々な場所で俺がやられたとき、原因やヒントを与えてくれるらしい。というか、やられる前に教えてくれよ!
「ちなみにセーブは出来ないから、どの面でやられても此処からだよ~」
内容が厳しすぎる気がするのだが。
「よし、いくぞ!って、うおっ!」
一歩踏み出したと途端に落とし穴に落ちる。
「ちくしょー、出オチだったとは!……あれ、スタート地点に戻ってるな」
「序盤には落とし穴が多いから気をつけてね~」
よく見ると、地面の色が微妙に違う部分がある。
「なるほど、色がおかしい部分が落とし穴か。なら、そこを踏まないようにすればよし!っぎゃああぁっ!」
再び同じ場所の落とし穴に落ちてしまう。
「ちょっと待て。その色の部分が落とし穴なら、ほとんどが落とし穴だろ!」
「序盤には落とし穴が多いっていったはずだよ~」
多いってレベルじゃないだろ。
五つくらいの落とし穴がつながってるぞ。
「というか、通路でこの落とし穴は反則だろ」
走って飛べばなんとかいけるか?
「とりゃあああ!」
穴ではない色の床に向かって全力で飛ぶ!
「って、剣が!」
前から剣が飛んできて当たってしまう。
そしてスタート地点へ戻された。
「…こんなの行ける訳ないだろー!」
「剣は高い位置に飛んでくるから、低く飛んでいくことが重要だね~」
仮に足場に着地しても、足場が崩れたりする気がする。
「一つのステージの広さはどのくらいなんだ?」
ちなみに俺は数メートルも進んでいないのだが。
「体育館くらいの大きさで、五階まであるね~」
「広すぎだろ!それをセーブなしでクリアーしろというのか!」
「当然だよ~」
普通に一年間続けても無理な気がする。
というか、これの攻略中に事件が終わるだろ!
「まぁ、本来の主人公なら、このゲームを攻略するくらいの苦労はすると思うけどね~」
能力の制限がなければエクサバーストでいけるんだけどなー。
とにかく、頑張っていくぜ!
「……おい、今気づいたんだが、ボス戦以外で止まっていられる場所がないぞ」
「お、今頃だね~」
このゲームでボス戦以外では、動きっぱなしでないと罠に当たると気づいた。つまり、立ち止まれる場所がボス戦以外で存在しないのだ。
「まぁ、ボス戦でも攻撃を避けるから立ち止まれないが」
それにしても理不尽なほどに難しいゲームだ。
「というか、一面クリアーすらしてないのに、戻された回数の桁が凄い事になってるよ~」
「物語とかで、そして長い年月が流れたとかよくいうが、まさに今の俺のことだと言っておきたい」
あー、もう嫌になってきた。
「あー、この際だから降参する。もう同じ場面を何度も見る人生は嫌だ!」
「ゲームで人生を語る主人公って面白いね~」
いや、本気で凄く精神的に疲れた。
「じゃ、戻すね~」
~悟の家~
「おぉ、戻ってこれた」
「他の住人も家に戻したよ~」
という事は、事件が解決した後ってことか。
「ところで、東武や小巻は別世界で記憶が普通だったよな?あれはどうしてだったんだ?」
「あぁ、私が貴族と女子小学生の記憶は継続するようにしておいたんだよ~」
お前が西華の特殊能力の影響の対象を制限してたのか。
「まぁ、能力を使ってる方は気づいてなかったけどね~」
どんな事件が起こっても魅異が関係してくるのは何故だろう。
ところで、美矢や美異はどうしているのだろうか?上空で大バトルをしたから、町に被害が出ている可能性がある。
あと、美異に関することで凄いことを魅異から聞いた気がする。
………あああああああぁっ!
「お、思い出したっ!魅異が美異と家族って言ってただろ!」
「確かに言ったね~」
これは魅異の秘密に近づける重要な手掛かりだ!
「ごほっ、あー、どういう関係だ?」
「知りたければさっきのゲームのクリアーを要求するよ~」
「それは無理!」
すでにトラウマ気味なのに、これ以上やられたら恐怖症になるだろ!
「なら、無料で教えてあげるよ~。美異の存在を簡単に言うと私の母だよ~」
「親としての母と婚約者としての母のどっちだ?」
「前者の方だね~」
なんとなく分かっていたけど、魅異の場合はどちらもありえるからなぁ。
「いくら私が本物の男子になれるからって、結婚とかの話はまだ早いからね~」
「いや、そういう問題でもないのだが」
というか、本題から外れていってるって!
「美異が母親ねぇ。というか、お前の方が年上じゃないか?」
「頼まれたから小学生にしてあげたんだんだよ~。記憶も忘れさせるように言われたから、子供になった美異は私のことを最初は知らなかったんだよね~」
母親の状態の美異も見てみたい気がする。
「他にも家族とかのことを聞きたいんだが」
「そういう秘密は少しずつ教えていくから面白いんだよ~。じゃ、またね~」
そういって普通に家から出ていく魅異。
「んー、お茶でも飲むか」
今は魑魅も居ないみたいだから静かな日を過ごせそうだ。
「あっはっは!退屈そうですねぇ!」
「ぶはっ、雑魚ベー!」
くっ、俺の平和な時間を壊す気か!
「というか、何のようだ?」
「ふふふ、仕事の後の暇つぶしですよぉっ!」
あー、今日はやけに機嫌が良さそうだなぁ。
「久々に私の素晴らしい動きを見せましょう!ほら、回転ダンスですよぉっ!」
「おー、それは凄いなぁ。って、回ってるだけかよ!」
回るだけでダンスをしてるつもりなんだろうな。
「ノリが悪いですねぇ」
「いや、今のノリツッコミはかなり良かっただろ!」
というか、叫んでつっこむのは久しぶりな気がする。
「ってか、お前が単体で現れるのは珍しいな」
いつもは八割近く少女と居るのに珍しい光景だ。
「ほら、いつも傍に居る人が居なくなると寂しくなるでしょう?私がもしも急に居なくなっても悲しくならないように、今のうちに練習しておこうと思うんですよぉっ!いやぁ、小学生にも少しは自立心は必要ですからねぇ」
「ふーん、俺は魑魅や魅異が居なくなっても寂しくはならないけどなぁ」
というか、自立心が必要なのは雑魚ベーだろ。
「それに帰った時に、雨双さんやアミュリーさんが抱きついてくれるでしょうからねぇ」
それが目的だろうが、それはまずないと思う。
「というわけで、今日は悟さんの家に泊めさせてもらいますよぉっ!」
「なっ!」
特に騒がしさ以外の問題はないが、雑魚ベーを泊めるのはなんか嫌だなぁ。
「寝室にお邪魔しますよぉっ!」
うーん、やっぱり諦めてもらうかな。
「布団はこの辺でいいですかねぇ?」
「って、何で勝手に寝室に布団敷こうとしてるの!?」
仮に泊まる気で敷くとしても、まだ寝るには明るすぎるだろ。
ちなみに別世界に居たときは夜だったが、ゲームが終わって特星に戻ったら明るかったな。
「今は何時だ?」
「あー、昼過ぎですねぇ」
昼飯でも食べておきたいところだな。
「あ、冷蔵庫の中に食材がありませんよぉっ!」
人の家の冷蔵庫を勝手に空けるんじゃない。
「ちなみに財布の中は空だ」
「私もです」
…まぁ、昼飯抜きなんてのは事件中はよくあることだから大丈夫か。
「夜はどうするんですかねぇ?」
「あ!」
…考えてなかった。
流石の主人公でも、昼飯と夜飯の両方がないのは大問題だ!
お、良い事を思いついた!
「雑魚ベー、家に泊まりたければ宿泊料金を払うんだ!ついでに飯が欲しければ別料金な!」
「今は十数セルしか持ってませんよ。神社に行けば結構保管してあるんですけどねぇ」
そんな調子でよく此処まで来れたなぁ。
というか、雑魚ベーって持ち金も多くなかったっけ?
「なぁ、お前って結構な金持ちじゃなかったか?」
「そうですねぇ、最近は決まった職に就いてませんが、神社のお賽銭を除いても一日に何十万の収入がありますねぇ」
それは多すぎるだろ!
「何でお前なんかが!」
「私は大きく儲けるのは得意なんですよぉっ!」
そういえば、雑魚ベーが元貴族とか聞いたことがあるぞ。
「ところで、どうして貴族を辞めたんだ?少女を追いかけてクビになったか?」
まぁ、雑魚ベーならこれが原因だろう。
「惜しいですねぇ。少女と会える機会が少ないから辞めたが正解ですよぉっ!ちなみに私には姉が居るのですが、姉は貴族と泥棒を両立してましたねぇ」
貴族と泥棒を両立できる人ってどんな人だよ!
「そうだ、姉の結婚式があったら悟さんも来て下さい。美味しい料理が沢山出るので、どっちが多く食べれるか勝負ですよぉっ!」
「お、望むところだ!」
雑魚ベーと決闘以外の方法で勝負した覚えがないから、こういう勝負もいいだろう。
さて、学生でも出来る仕事を探すか。
~特星公式営業会社~
「入社希望というのは貴方達ですね?」
「はい、そうです。ってか、校長がなぜ会社の面接をしている」
俺と雑魚ベーは資金集めの為にバイトに来たのだが、バイト先の面接の人が校長だった。
「校長さんとは久しぶりに会いましたねぇ」
雑魚ベーも校長とは知り合いの様子。そういえば、雑魚ベーは小学生の職員をしたことがあったんだっけ。
「というか、校長が会社に居て良いのか?」
「あー、社長と知り合いですから。特星では校長が仕事をしても大丈夫ですから」
え、特星って日本を基本に作ったとか、聞いた気がするんだが。
ついでに今頃だけど、校長への借金のことを思い出してしまった。
「この会社に勤める大抵の人は、貴方達の知り合いの筈です。という事は、面接に受からないと、その辺のキャラより駄目人間ってことですから、合格を目指して頑張ってください」
ところで、どうしてバイト先に普通の会社的な場所を選んだのだろうか?
「ま、頑張るか」
「面接でも容赦はいりませんよぉっ!」
今日の食事を食べる為に!
「さて、この当たりしかないくじ引きを引いてください」
………いきなりやる気がなくなった。
くじ引きで俺と雑魚ベーは同じ場所を引き当てた。
ただし、雑魚ベーは大当たりを当てたらしく、俺より一つ上の階級らしい。
………どういう会社だよ!
「どうもー」
適当な挨拶で中に入る俺。
「皆さん、私と少女にひれ伏しなさいよぉっ!」
階級が一つ高いから、調子に乗って入る雑魚ベー。
「善技、聖なる裁き!」
と、聞き覚えのある声が聞こえると同時に、雑魚ベーが廊下まで吹き飛ばされる。
「私の悟さん以上に威張ることは、私が断じて許しません!」
ちなみに俺自身は俺のものであり、お前のものではないと言っておこう。
「くっ、私は階級が高いんですよぉっ!ほら、階級の証明の証です!」
「残念ながら、私は雑魚ベーさんより二つも階級が上です!ほら、階級の証明の証を三つ持ってます!」
「なんですってぇ!」
どうやら雑魚ベーは、この仕事場の中で自分が一番高い階級だと、思い込んでいたらしい。
「というわけで、悟さんより大きな態度な場合、雑魚ベーさんであってもクビに出来るんです!」
「じゃ、仕事でもしますねぇ」
雑魚ベーはどうでもよさそうに仕事に取り掛かる。
取り掛かるといっても、少し豪華な席で寝始めただけだが。
「ちょっ!リアクション薄いです!」
薄いどころか完全にスルーされている魑魅。
この仕事場所での社員は全員が知り合いで、羽双と納と東武と神酒とキールと俺が無印階級。雑魚ベーが無印より一つ上で、魑魅が無印より三つ上の階級だ。
全員のことを覚えてた俺は偉い!
誰か褒めてくれー。
「ん、あ、悟に雑魚ベーじゃないか!」
さっきまで寝ていた様子の納が話しかけてくる。
「って、俺の隣は納かよ」
俺の席は端なので、もう片方には人は居ない。
「嫌そうな顔するなって。働きに来たってことは、持ち金が果てしなく無に等しいんだな」
なぜ分かった!
「ところでどんな仕事をすればいいんだ?どんな内容だろうと、飽きる人は飽きるぞ」
第一、会社に来てたら、学生の設定の意味がないだろうが。
「仕事は適当に寝てるか、適当に行動するかのどっちかだ。此処まで飽きずに見れた人なら飽きないし、休暇中のバイトだから、設定はだいたいあってるはずだ」
思考の中の質問にまで答えるな。
「よく見たら、みんな仕事してないな」
納とキールは寝てたし、神酒はキールを叱ってるし、羽双は団子を食べてるし、東武は高笑いをしてるし、雑魚ベーと魑魅は内容は違うだろうが妄想中だし。
はぁ、やれやれ。
「…誰か仕事しろよ」
一人でそう呟いていた。
だって、俺だけ仲間外れになりそうだったし。
というか、食費分の給料がもらえるかが非常に気になる。
それ以前に、此処はいったい何の会社だろうか?
「会社の終了の時間ですね」
羽双がそう言うと、皆が一斉に帰っていく。
「まぁ、仕事が楽だから良いか」
「ところで、此処はバイトも月給みたいですけど、今日の夜飯はどうするんですかねぇ?」
あ、忘れてた!
ということで、給料日までは魑魅に奢ってもらうことにした。ただし、特別な条件付きで奢ってもらうことになった。
もうやだこの生活!