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6 最速の女神に協力の話②




「こ、答えろ! 何者だ! どこから来た!」


 魔王が繰り返し問いかけてくる。

 なんかビビっている様子だ。


 まぁ、いきなり目の前に現れちゃびびりもするか。

 礼儀としてもダメだったかも。


「えっと、いきなり目の前に現れちゃってすみません」

「ごめんね~」

「す、すみません」


「ゆ、勇者のたぐいか!? な、名を名乗れっ!」

「あ、これは失礼を。オレの名前は『アークマシュベルト・リンリン・アークバイティーンマッハポインティッド』です」

「えっ?」

「『アークマシュベルト・リンリン・アークバイティーンマッハポインティッド』です」


 ……沈黙する魔王。


「ほ、ほらっ。そんな長い名前名乗るから困っちゃってますよ!」


 女神ピュア子がオレに文句を言う。


「いや、でもやっぱ正式名を名乗るのが礼儀かと思って……」

「アークさんの名前は長すぎるんですっ! 礼儀以前に誰も覚えられませんよっ!」


 そうだろうか……。


「アークマシュベルト・リンリン・アークバイティーンマッハポインティッド……か。良い名だな」


 魔王がおごそかに言った。


「うそっ! 覚えられたの!」

「ほらっ。覚えられたぞ。しかも良い名だって誉めてくれた」

「信じられない……」


 ピュア子が愕然とする。


「あれだな。女神よりも魔王の方が、相手に対する敬意を持っているな。敬意があれば覚えられるんだよ。名前ってのはさ」

「う~……」

「ていうか、ピュア子。お前覚えたんだよな? オレの本名」

「え、お、おおおお覚えましたよ。ちゃんと言い切ったじゃないですかっ」

「いや、今もう一度言ってみ? 言えるか?」


 オレは一応、確認のために聞いてみる。

 するとピュア子が「えっとー……」とか言って、額に手を当てて考える。

 なんかすでにムカツク。


「あ、アークマシュベルト・リンリン・アークバイティーン…………えっと…………マッシュポテト」

「はぁ!? なんだマッシュポテトって!」

「い、いやそんな感じの名前じゃないですかっ!」

「ぜんぜん違うわ!」


 だめだこいつ。全然おぼえてねー。

 なんだこれ。オレのこと軽く見てんの? バカにしてんの?


「大体、人の名前言う前に『えっとー……』って、なんだ! 二ヶ月も一緒にいてなんで覚えてねーんだよっ」

「だ、だってアークさんの名前、長いんですよっ! 覚えにくいんですよっ!」

「それはお前が、相手に敬意を持っていないからだ!」

「そ、そんなことは……っ!」


「まあまあ、落ち着つくのだ二人とも」


 魔王さんが仲裁に入ってきた。


「あ、すみません」

「ごめんねー」


 オレとメルカは非礼を詫びる。


「それは構わないが、それよりもお主らがここへ来られた用件を聞きたい。なに用か?」


 魔王がそう問うてくる。


「えっと用っていうか……。この女神ピュア子が魔王を倒すから協力してくれって言ってきまして、まぁ行ってみるかって感じで来たんです」


 オレは大ざっぱに流れを説明する。


「やはりそうか……」


 魔王はため息をついた。そして──


「余は魔王ではあるが、女神に消されるような悪事に手を染めたことはない。そこのところ、良く確認して貰いたいのだが……」


 そんなことを言ってきた。


「そうなのか? 悪事してないって言ってるけど、どーするピュア子?」

「そ、そんなわけありませんっ。我々、女神の情報網には、この惑星で非道な行いをしている魔王がいると報告がありますっ! 討伐すべき対象です!」

「それは誤解だ。何かの間違いではないだろうか」


 宣言する女神に、弁論する魔王。


「余はこれまでも魔王故に、幾度か誤解を受けたことがあった。人間が攻めてくるゆえ、自己防衛や仲間を守るために戦ったことはあるが、こちらから非道いことをしたことは一度もない」

「そ、そんなわけありません! 魔王は悪人です! 悪いことしてるに決まってます!」

「いや、本当に何も……」


 双方の言い分が食い違う。


「うーん、どっちが真実かわからんな……」


 ていうか、どっちかというとピュア子の方が信用ならねー。


「んー。じゃあ、アカシック・レコードに接続してみるよー」

「アカシック・レコード?」

「うん。過去がそのまま見れる宇宙のデータバンクだよー、ほらー」


 そう言ってアカシック・レコードとやらを見せてくれるメルカ。


「おおっ」


 脳内に一瞬でこの星の過去の出来事の情報が入ってきた。

 それによると……


「確かに魔王さんの言うとおり、この星の人間が悪いことしまくってるな。魔物はふつーに生きてるだけなのに狩りまくり。魔族もひっそりと暮らしてたところを、差別されて侵略されて奴隷化されて……うわ。人間、非道いな……」


 オレはこの星の人間の、あまりの所業に反吐が出る。


「そんな非道い人間を、当時、いち魔族でしかなかった魔王さんが、魔物を守りーの、奴隷として捕らえられてた同胞を救いーので、今に至る…………か。魔王さん、英雄じゃないか」

「すごいねー魔王」

「しかも、人間どもに対しても、攻めてこない以上は、攻撃しないし、攻めてきても極力命は奪わない平和的対応をしてるし……すばらしい人だ……感動した」

「ど、どうも……」


 照れる魔王さん。


「よしっ。オレは決めたぞ! 魔王さんの仲間になる!」

「ええっ!!!」


 オレの宣言にピュア子が驚く。


「いや……だってお前。こんな立派な魔王さんを倒せって方がオカシイよ。なんなの? お前等女神って自称? 実は死神かなんかじゃねーの?」

「し、死神!? そ、そんなことありませんよっ!」

「どーだか。オレが人間で、トラックにひかれ何故か異世界の上空から落下して死にかけてた時、結局お前、オレの命助けてくれなかったしな……」

「あ、あれは……本人の希望がないと手をさしのべることが出来ない決まりでして……っ」


 あたふたとする女神ピュア子。

 まぁ、こいつが死神じゃねーのは知ってる。


 二ヶ月ともに暮らしたんだ。基本良い奴だろう。アホだけど。 


「はー……。まーいいや。とにかくオレは魔王さんにつく。女神たちが魔王さん倒すってんなら、そう宣言しとくから」

「ええー……」


 信じられないとばかりのピュア子。そして──


「メルカさんも……ですか?」


 と、女悪魔メルカにも伺う。


「うんー? あたしはアークの友達だから、常にアークの味方だよー?」

「そんな……」


 絶望の表情に染まる女神ピュア子。


 彼女はオレ達と暮らしたことで、メルカの凄さを知っていた。

 女悪魔メルカは、野心こそないから女神たちからさほどマークされていなかったが、実はその強さは、宇宙に4体いると言われる最強最悪の悪魔たちよりも強い。

 

 ちなみになんでそんなに強いのかと聞いたことがあるが、「生まれながらに強かったよー」だそうだ。


 まぁ、そんなもんである。

 ライオンは生まれながらにミジンコよりも強い。

 そんなもんである。


「どうやら敵ではないようだな。なれば客人としてもてなそう。お主らは好きな食べ物や苦手なものはあるか?」


 魔王さんが、そう尋ねてきた。


「ほらっ。もてなしてくれるって! いきなり目の前に来た礼儀知らずのオレ達に対してなんて寛大な人だ。あっ、オレは生臭い魚とかだめ。あとはわりといけます! 魔王さんの好きなものとか食べてみたいです」


「よかろう。余の好物を提供しよう。そちらのお連れはどうする?」


「あ、あたしはねー。なんでも好きだよー。でもせっかくだから、あたしも魔王さんの好きなものたべてみたいー」


「ふふふ。喜んで提供しよう。余の好物は『ニンニク解放らーめん』である」


「ニンニク解放らーめん!? 楽しみです!」

「おいしそーたのしみー」


 オレとメルカは魔王に案内されて食堂へ向かった。



   ◇

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