2 最速の成り上がりリベンジ①
オレはトラックに跳ねられ、時空の歪みに落ち、空から転落した。
そしてドラゴンにぶち当たり、大砲の直撃もくらい、そこでようやく現れた女神に「私の落ち度でこうなった。何か一つ能力あげますから転生するか」みたいなことを聞かれた。
だけど、身体がボロボロで返事もできずに落下して死んだ。
そして今──暗闇にいる。
なにもない闇。
「誰かいませんか」と声をだしても、反響もせずに遠ざかっていき、消える。
そんな場所にいる。
死とはこういうものなのか?
ご先祖さまとか迎えにきてくれたり、空の上にいけたりしないのか。
それともオレ自身、そんな価値のない人間ということなのだろうか……。
ただまぁ、身体に痛みはない。
怪我が治ってるのかどうかよく分からないがそれだけは救いだった。
◇
真っ暗でわからないが、たぶん3日くらい経った。
死んだからか不思議と腹は減らないが、独りぼっちで寂しくなった。
「……誰か来て。誰でもいいから」
孤独に耐えられず、つい呟く。
したら目の前にいきなり誰か現れた。
「はい。来ましたよー」
まっくらで見えないが、女の人だ。
「だ、誰ですか?」
「悪魔です。呼ばれたから来ました」
「…………ありがとうございます」
突然のことで驚いたがとりあえずお礼を言う。
オレの呼びかけに答えてくれたのだ。感謝である。
「いえいえ暇でしたからねー。それより何かご用ですか?」
「えっと……オレ死んでしまって…………もうずっと真っ暗で困ってて」
「そうですかー。大変ですね。明るくします?」
「えっ? ……出来るんですか?」
「できますよー。えい」
周囲がゆっくりと明るくなった。
辺りは何もない真っ白な空間。
そして目の前には、悪魔と名乗った女の人。
目が合う。
「どうも」
「どうもー」
にこりと微笑まれた。
可愛い。
見ると頭に悪魔っぽい角がついている。
どうやら間違いなく悪魔のようだ。
そしてちょっとグラマーな身体。
肌の露出が多めでちょっとエロい。
「他に何かご用はありますー?」
女悪魔が聞いてくる。
「えっと、その……いろいろ困ってて……。助けてくれるんですか?」
「いいですよ」
「え、でも……その、悪魔さんって、対価として魂とか必要なんですか?」
「いえ別に何もいらないですよ」
「ホントですか?」
「ええホントです。暇ですし、なにか願いごとがあれば出来る範囲で力になりますよ」
「…………」
本当なのだろうか。
正直解らないが信じるしかない。
少なくとも来てくれたのは彼女だけだし、明るくもしてくれた。
感謝なのである。
「何か願いますか?」
「いいんですか?」
「いいですよー。何を願いますか?」
「と、友達になってください」
オレは寂しくて、つい心のままに言ってしまった。
「えー。そんな願いでいいですか? 魔法も必要ないですけどー」
「えっ」
「そんなの、わざわざ『願い』でなんて言わなくてもいいですよー」
「じゃ、じゃあいいんですか?」
「はい。では今から友達になりましょー」
女悪魔は手を差し出してきた。
握手するオレと女悪魔。
「あ、私、メルカっていうですよー」
「あ、オレは……オレは…………」
あれ? 名前が出てこない。思い出せない。
「あー、死んじゃうと名前は忘れちゃいますよねー」
「え、そうなんですか?」
「そうですよー。ていうか何百回も生きればそのうち一つの名前なんて、死んだ瞬間に忘れますよー」
「そうなんですか……」
「まー前の名前は前の人生の名前ですし、新しくつけたらいいと思いますよー」
「そうなんだ……新しく……」
どうしよう……自分の名前……。
しっかり考えてつけたい気もするが、女悪魔さん──メルカさんにだけ名乗らせて名乗らないのも失礼だ。
しかし……名前…………。
………………。
「よかったら私がおつけしましょうか?」
「えっ」
「いえー、嫌じゃなければですけどー」
…………。
「そうですね。折角この……死後の世界で一番最初に出会った方ですし。では宜しければお願いできますか?」
「はいー。では『アークマシュベルト・リンリン・シュバイバイティーンマッハポインティッド』で」
「えっ」
「『アークマシュベルト・リンリン・シュバイバイティーンマッハポインティッド』で」
「…………アークマシュベルト・リンリン・シュバイバイティーンマッハポインティッド」
奇跡的に言えた。
「そうですそうです。似合ってますよー」
女悪魔、いやメルカさんが嬉しそうにコクコクと頷く。
オレの名前が『アークマシュベルト・リンリン・シュバイバイティーンマッハポインティッド』になった。
◇