1 最速のハッピーエンドと、最速のアンハッピーエンド(2部構成)
【最速のハッピーエンド】
例のごとくトラックに跳ねられて死んだ。
女神さまが言った。
「ごめんなさい。私の手違いで、まだ死期ではないあなたを死なせることになってしまいました。お詫びに何か一つスキルを差し上げて、異世界に転生させて頂きます」
「はぁ……」
ぼくは頭をフル回転させて考えた。
でも、すぐ考えるのをやめた。
女神さまが可愛かった。
「スキルとかいらないので、女神さまとたのしく幸せに暮らしたいです」
「わかりました」
ぼくと女神さまは、神界でたのしく幸せに暮らしました。
(おしまい)
【最速のアンアッピーエンド】
例のごとくトラックに跳ねられて死んだ。
そして気づいたら、かなり上空の空から落下していた。
全身が怪我だらけで血も流れている。
トラックにひかれたのだから当然だ。
めちゃくちゃ痛い。
吐血しながらも周りを見ると、大きな満月が3つ。
なろうを嗜んでいたオレはここが『異世界』なのだと察する。
落下先を見ると、大きなドラゴンらしきものが空を飛んでいる。
このままじゃぶち当たるっ。
──ドンッ!
ぶち当たったオレに激痛が走る。
おそらくだが肋骨とかと足の骨とか折れた。
元々トラックの時点で折れてはいただろうが、さらに折れた。
痛い……。
ドラゴンらしきものにぶち当たったオレは、その衝撃で跳ね上がりドラゴンの背中で一命を──ということはなく、また落下を開始した。
痛みでそれどころじゃないが、もう一度下を見る。
すると今度は落下先に──
ていうか、オレに何かが直撃した。
──ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
爆発物だ。
大砲か何かはわからんが、ドラゴンでも狙って打ったのか、それがオレに命中した。
「くっ……」
フツーなら即死に思うが、文明レベルが低いのかなんなのか、全身ボロボロなのにオレはまだかろうじて生きていた。
「クソッタレ……!」
オレは難敵にどうしても勝てないベジータの心境で呟いた。
はっきり言って、もうオレは助からない。
じきに死ぬだろうが、まだ空から落下中のオレは下が気になって見る。
すると今度は落下先に──
いや、落下中のオレの横に女神が現れた。
女神さまが言った。
「ごめんなさい。私の手違いでまだ死期でないあなたを死なせてしまうようです。お詫びに何か一つスキルを差し上げて、異世界に転生させて頂きますがどうでしょうか?」
「……っ」
オレは「何でもいいから助けてくれ」と言おうとしたが、声にならなかった。
すでに顔面もボロボロなのだ。しかも声帯も完全にイカレたらしい。
ついさっき「クソッタレ……!」と呟いたのが、限界だったのだ。
「あの……どうしますか?」
「…………っ」
答えられない。
こんなことなら「クソッタレ……!」などと呟くんじゃなかった。
格好良いと思ってつい言ってしまったのだ。
首もかなり痛めてしまって動かないし、そもそも落下中でまともに身動きも出来ない。
「えっと…………転生に興味がないということでしょうか?」
「…………っ」
いや、だから答えようにも答えられないんだ……!。
何とか察してくれ……っ!。
「お答えいただけないと、あっ」
オレは地面に激突して死んだ。
(おしまい)