兎の歌
「ウッサギがぁ出ったらぁ殺しぃまっしょお〜♪ ウッサギがぁ出たからぁ殺っちまぁお〜♪」
独特のリズムの歌、それに合わせて踊る十人の幼子。手にはそれぞれ頭や耳、手足。十に分けられた兎の部位を持っている。何とおぞましい光景だろうか。
「あっなたぁ〜もおっどるぅ?」
「いや、俺は……」
俺の背後にいつの間にかおかっぱ頭の幼女が立っていた。目を覆う程に伸びた前髪。俺に向け突き出した小さな手には、鮮血が滴る兎の頭部が握られている。全身が総毛立ち、恐怖に支配され口も巧く回らない。
「あっなたぁ〜はウぅサギぃ?」
にいぃと口角を吊り上げた幼児はくすくすと笑う。気付けば幼児達は俺の周りで円を描いていた。
「ウっサギぃはごっちそぉ〜♪」
「ウサギィはぁおいし〜♪」
「食べッたらほっぺぇが落ちちゃァうぞぉ〜♪」
幼児達がぐるぐると俺の周りを踊る内に赤い円が引かれて行く。その上を幼児達が踊り、飛び跳ねると兎の血や臓物がピチャピチャと嫌な音を発した。幼児達の真っ白な薄衣は所々、跳ね返りや滴る血で赤く滲んでいた。
「ウサァギは小さぁ〜い♪」
「こぉれじゃあ〜足りなぁい♪」
俺を囲む円が小さくなる。幼児達はくすくすと笑いながらにじり寄る。
「おっなかが空ぅいた〜♪」
「はぁやく食わ〜せろぉ」
幼児達はその小さな手に握る兎の引き千切られた部位を俺に押し付けて来た。
俺の体が、服が、心が――真紅に染まる。
「何なんだこれは!」
「夢だぁよぉ〜」
「夢?」
「そぉ〜夢〜」
これほど現実的な夢。いや、非現実な夢はかつて見た事がない、俄かには信じられない夢物語り。しかし、これが夢なら恐れる事など何もない。
幼児達が笑う。くすくす、くすくす。
「なるほど、確かにこれは夢だな」
俺の右手には鈍色の光を放つ日本刀、そして左手には黒光する拳銃。思い描いた物を得る事ができる。
「あなたぁも〜やるぅ?」
さぁ、始めようか――ウサギ狩り。
2007/08/13