1-2. 進路
前話のまとめ:一作はロリ巨乳を語ろうとして涼子に止められました。
出鼻を挫かれた一作は口を尖らせる。
「なんだよぉ、話を振っといて酷いじゃないか」
「だってあんたのブログ、最近はロリ巨乳を語ってばっかりじゃない」
あんなディープなオタク談義一色のブログなんか、普通のパンピーは読まない。しかも記事の独自性が高過ぎて、最近はオタクからも見放されている始末。そんなブログを何だかんだ言いながらも積極的に読んでいる辺り、涼子が一作の事を気に掛けている証拠だろう。
百年前に児童ポルノ禁止の世界的な流れが起きた。その中で非実在青少年の扱いについて問題提起され、日本の様々な団体が規制反対の運動を大々的に繰り広げた。日本の為政者は面倒になって放り投げ、規制対象外とする判断を出した。後にそれが国連で問題になって日本に圧力が掛かる。これに対し日本からとんでもない反発が発生。余りの熱意に国連はドン引きし、有耶無耶になって現在に至る。
心理学的にはロリコンは矯正不可能とされていて、禁止されたら我慢するしかない。その為この関連の犯罪が後を絶たず、暴力組織と結び付いて世界的な問題となっている。しかし日本だけは違う。萌えとの関連で児童ポルノすれすれの表現が溢れていて、それにも拘わらず児童ポルノ犯罪の被害者が存在しないという不可思議な状況である。
そんな日本において、ロボットを幼い容姿にする事例は昔から少なからず存在した。だから自分のロボットをロリにする事に躊躇う必要は無い…と言う様な自己弁護から始まり、ロリと巨乳の礼讃記事を延々と書き連ねているのが最近の一作のブログの傾向だ。と涼子が解説し、一作が要所でボケたり突っ込まれたりを繰り返す。
この2人を放っておくと夫婦漫才のような会話がいつまでも止まらない。烏龍茶を飲んで、克樹は聞いた。
「お涼はどうするんだ?海外勤務を目指してるんだろ?何か制約とかあるんじゃないか?」
「ん~、マグネシウム工場なんかで中東に行くと色々あるみたいだけどね。そうじゃなければそれ程は無いのよね。ちょっと迷ってるの」
涼子の両親は海外勤務の国家公務員だ。その影響で海外生活に憧れている。そして公務員になる為には学士号が必要で、涼子はクラスで唯一の大学進学組だ。
「やっぱセバスチャンって名前で執事に」
「アイザックは黙ってて。カッキーはどうするの?」
「そうだなぁ、農村に馴染むような外見にしたいんだよな」
「ふ~ん、まぁ、カッキーの趣味も特殊だもんね~」
百目木克樹には夢がある。田舎に住んで、そこに自分の思い描く庭を作りたい。蝶の舞う庭。小さい頃からの夢だ。
さっきから黙って焼いている肉の回収を始めた熊耳恵美に克樹が声を掛ける。
「メグはどうするんだ?」
「えっ、あっ、私?えっと、私は、その」
克樹に急に声を掛けられて慌てた恵美は肉を取り落とす。
「メグ、肉は上手に焼けた?あたしにもちょうだい」
恵美の取り落とした肉を涼子が横取りする。
「あ~、私のお肉…」
「うん、美味しい。それで、メグの乳母ロボットはどうするの?」
「えっと、私は、新しく支給される秘書ロボットと両方、女性型にしようと思って」
「…だそうよ、カッキー」
克樹に振った涼子を恵美は泣きそうな顔で見る。
高校を卒業したら、成人として2体のロボットを所有できる。外見も性別も自由に選べるが、男性型と女性型を1体ずつにしておくのが普通だ。そうすれば何かと融通が利いて便利なのである。
但し、好きな男子がいる女子の場合、女性型で揃える事がある。自分には男っ気が無くて寂しいので構って欲しいというアピールとされている。が、そういうメッセージはハイティーン向け雑誌が煽っているだけで、チョコかクッキーかマシュマロかというバレンタインデーのプレゼントと同じだ。気にしない人も多い。
克樹も気にしない派である。と言うよりも、ロボットの性別にそこまでの意味を考えた事は無い。自分の夢を追い掛けるだけで精一杯なのだ。男女関係に気を配る余裕は無かった。
「ふ~ん、メグは男と一緒だと緊張するようだし、いいんじゃないか」
克樹のそんな言葉を聞いて、涼子は小さく溜息を吐く。高校で克樹と出会って以来、恵美はもう一歩踏み込む勇気が出ないままずっと過ごしてきた。涼子はそんな恵美が焦れったいのだった。
☆ ☆ ☆
仲良し4人組の進路は以下のように決まっていた。
克樹は田舎に引っ越す。
恵美は会社に就職。
一作は引き篭もりを宣言。
涼子は大学に進学し、卒業後は公務員になって海外勤務を志望。
それぞれの進路を確認し、1年後の再開を約束した所で、高校最後のクラス会はお開きとなった。