表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

1. 死を看取るロボット(前)

夢を追う少年の物語とあらすじに書いておきながら、寿命を迎えたお爺さんの話から始まります。あらすじ詐欺ですみません。

「お早うございます。今日は良いお天気ですよ。窓を開けますか?」

「…ああ、開けてくれ」


 今日は少し気分が良い。そうか、晴れたか。


「ほら、しょうさんの御自慢の山が良く見えます」

「ああ」


 山と呼ぶのも烏滸がましいほど小さい山。それでも先祖代々受け継がれてきた土地の一つだ。その後ろにはしっかりした山々が連なっているが、そっちは国有地だ。ここから見るとそれらが組み合わさって、ちょっとした景色になっている。借景という奴だ。


「少し、話をしないか」

「あら珍しい。だいぶ気分が良いようですね」

「そうだな… おめえのお陰だ」

「あらまあ。そんなお世辞は初めてです」


 そう言いながら布団の横に座った。こいつはいつもニコニコしてるな。


「お前が来てからどの位になるかな」

「十五年になります」

「そうか、もう十五年か… 婆さんが死んですぐだったか」

「はい、奥様が亡くなった翌週に伺いました。あの時は怒鳴られたんですよね」

「ふっふっふ、思い出したよ…『連れ合いが死んで悲しんでる時に女なんか寄越しやがって、役所は一体何を考えてやがる』だったかな」

「そうです。それで翌月にもう一度伺って、その時にも怒鳴られました。覚えてますか?」

「さぁ… 何と言ったかな」

「『どうせ女を寄越すならわけえ女にしやがれ』でした。うふふ」

「…そんな事言ったっけか…」

「ええ。それで外見を変えて翌日伺ったら、今度は『田舎の年寄りの独り暮らしにこんな若え女を寄越しやがって、可哀想だと思わねぇのか、責任者を出せ、俺が文句を言ってやる』ですよ」

「怒鳴ってばっかりだったな俺は」

「うふふふ。でもそれで、この人は本当は優しい人だってわかったんです」

「よしてくれ」

「照れ屋な所も変わりませんね。それで『私はロボットで、外見はお好きなように変えられます。御希望があれば仰って下さい』と言ったら、正さんは… うふふ、鳩が豆鉄砲を食ったようというのはああいう表情ですか」


 全くこいつはなぁ。家事は完璧だし、しもの世話も嫌な顔一つしやがらねぇ。文句の付け所はぇんだがな。記憶が完璧過ぎるのが玉に瑕だ。思い出したくねぇ事まで良く覚えてやがる。しかもそういう事に限って楽しそうに喋るんだよなぁ。何とかならねぇか。


 窓の外の山に目を向けて、俺は話題を変えた。


「あれから十五年か。あっという間だったな」

「そうですか。短く感じますか?」

「あぁ。あっという間に老いぼれちまった。今じゃ起き上がるのもつれえ」

「今日はどうですか?」

「ああ、気分は良いがな、相変わらずさ。お前に言われて若返りもしたんだがなぁ。血を採ってiPS細胞にして弱った組織に注入だったか?」

「ええ、大体そんな感じです。末梢神経の老化を回復させるのは難しいので、若返りの効果が薄いのはそのせいでしょう。申し訳ありません」

「お前が謝る事じゃねぇさ。これが俺の寿命って事だろう」

「でも、正さんのお歳ですと平均余命は10年くらいです。もっと長く生きていただけるはずだったんですが」

「なに、俺ももう95だ。俺が生まれた頃は平均寿命は80ちょっとだったんだ。頭がボケずにしっかりしてるのは、若返りの効果だろう。十分だよ」


 俺は目を閉じた。思えば色んな事があった…


「お疲れになりましたか?」

「ああ… 少し疲れた」

「それでは私はお洗濯をしてきます」


 こいつは本当に良く働いてくれるし、色々と気を配ってくれる。物覚えもいいしな。


 いや、今日は言わなきゃいけねえ事があったんだ。死が近付くと死期がわかるようになるってのは本当なんだな。今ここで言わなきゃ次の機会は多分、永遠に来ねえ。

最初は2話連続投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ