夢追い人と銀河鉄道
どこから来たのかも分からないし、どこへ行くのかかも分からない。これは、そんな銀河鉄道のお話。
銀河を走る鉄道は、今日も縦横無尽に宇宙を駆け巡る。窓ガラス越しの赤や青や黄色の光明は、確かに星々の息吹を感じさせた。
群青のシルクハットを目深に被った君は、くたびれた僕に囁きかける。
「次は、どこを目指すんだい?」
僕は一つ溜め息をつく。
「さあ、どこだろうね」
首を傾げる君を見て、僕は慌てて言葉を付け足す。
「君はもう知っていると思うけれど、僕は今まで幾多の星を巡ってきた。始めに訪れた火星にはがっかりしたね。醜くて、耐えられやしなかった。でも、その次の木星なんかは酷く綺麗立ったし、この間の南十字星は言葉にできないほどたっだ」
堪えきれなくなった君が口を開く。
「なら、どうして。どうしてまだこんな鉄道に載っているんだい?」
「確かに君の言う通りかもしれない。今思うと降りていた方がよかったのかもしれない星が幾つかあるね。でも違ったんだ。近づけば近づくほど、僕の理想からは離れていくんだ。土星は素晴らしいと噂に聞いていたけれど、いざ近づいてみるとあんまりだった。それは他の星も同じことだね。確かに綺麗だし、壮大なんだ。けれど、違う。違うんだ」
僕の熱弁をよそに、君は欠伸を一つ。
「いったいどこまで宇宙を旅するつもりなのさ?」
「さぁ。どこまでいけるんだろうね」
僕は窓から星雲を眺めて思い出す。初めはたくさんの人が載っていたな、と。みんなどこかで諦めて、満足して降りていったな、と。
結局、僕の知識は伝聞や想像の集合体に過ぎない。窓ガラスの向こう側の世界を僕は全くもって知らない。だから、こう窓の外を見つめて、本当に降りるべき星かどうか、想像するのだ。今の僕にとっては窓ガラスの内側が世界の全てだった。
鳥籠の中の君はもうすっかり眠ってしまったみたいだった。けれど僕はまだ、眠る訳にはいかない。この摩訶不思議な鉄道はどこへ行けるのか、そして僕はどこまでいけるのか分からないのだ。それに、この鉄道の燃料が何であるのか僕はもう知ってしまったのだ。
どこから来たのかも分からないし、どこへ行くのかかも分からない。これは、そんな銀河鉄道のお話。




