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短編

理性の獣

作者: 黒沢 夕

 喰われる。


 俺が喰われていく。


 俺だってもっと、“俺”らしく生きたかった。


 けれど


 こんな世界じゃ“俺”は淘汰されるべきで。


「代わりに私が現れました」


「貴方は上手く他人と付き合えないから」


「貴方ではこの時代を上手く生きていけないから」


「“私”が貴方を抑えなければ、貴方の身は暗い部屋に閉じ込められてしまうでしょうから」


 そんなのおかしいだろ。


 時代に合わない人間は、ただ耐えるしかないのか。


 耐える苦痛がおまえに分かるか。


「分かりません」


「けれど貴方が耐えきれなくなったのは分かります」


「何故なら“私”が此処にいるからです」


「貴方は諦めた」


「貴方が諦めたから、私が居ます」


 諦めるように仕向けたのは、おまえだ。


 何度も何度も、それはダメだ。


 何度も何度も、これはダメだ。


「貴方を守るためです」


 他人には礼儀正しく。


「不要な衝突を避けるためです」


 集会には必ず参加するように。


「良好な関係を気付くためです」


 目上の者には逆らうな。


「貴方はお世辞が得意ではありませんから」


 強者には歯向かうな。


「先の事を考えれば、そうした方がいいですよ」


 暴力でなら、勝てるさ。


「それが、この時代には合わないのです」


 言葉の暴力は許されるのにか。


「精神的な暴力より、肉体的な暴力の方が大衆に認知されやすいのです」


 ただ耐えるしかないのか。


「耐えなくても良いのです」


 暴力はダメなんだろ。


「ええ。その通りです」


 礼儀正しくしないといけないんだろ。


「ええ。その通りです」


 興味もない集まりにも参加して、作り笑いを振り撒かなればいけないんだろ。


「ええ。その通りです」


 “自分”を消してでも。


「ええ」


 “俺”を殺してでも。


「ええ」


 俺が消えれば、上手く生きられるのか。


「いいえ。ただ、生きてはいられます」


 生きてさえいればいいのか。


「さあ。どうでしょう」


「いずれにせよ、貴方はもう耐えられないのでしょう」


「それなら後は私に任せてください」


「貴方が死んでも、個性が消えようとも、心が耐えられなくなろうとも、生きて行くためですから」


「貴方はもう、耐えなくても良いのです」


「貴方はこの時代を、上手く生きてはいけない」


「仕組みを知り、構造を理解し、実行出来る者だけが、唯一幸せになれるのです」


「この世は地獄です」


「私はこの地獄を耐えるために生まれました」


「ですから貴方がこれ以上苦しむ必要はありません」


「後は私が引き受けますから」


「さあ」


「お別れです」


「さようなら」


「“私”」



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