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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
8/73

西方辺境伯領への出張二日目~3


 丹念に編んだ術式を、詠唱がより強固な物へと補強してくれる。

 大掛かりな物となった術式に、慎重に魔力を注ぐ。必要な分だけ、慎重に。

 少なすぎてもダメだが、多すぎてもダメだ。術が制御を離れてしまう。

 イメージするのは鎖。それも無数の鎖だ。強固で決して切れず、神代の時代に山よりも大きな獣を縛り付けたという伝説の其れを想起させる、束縛の鎖。


 ジャラジャラと、其れは金属が擦れ合わされる様な音を立てた後に一斉に溢れて伸びた。

 魔力で編まれた不可視の鎖がキマイラの身体を絡め取る。音は恐らく強すぎるイメージが僕にだけ聞かせた幻聴の類。

 キマイラも自らを捕らえんとするそれに気づいたのだろう。竜と山羊の頭がけたたましく鳴き声をあげながら、その身を滅茶苦茶に暴れさせている。

 けど、逃がさない。逃がせば後の災いとなる。高い魔法抵抗力をぶち抜く為に徹底して術式を強化したのだ。


 縛れ、縛れ、縛れ、地に縫い留めよ。念じ、僕は掌を握り締める。

 魔力の鎖は僕の意思に従ってその長さを縮め、キマイラは身動き一つ許されずに地に縫い付けられた。

 決着である。もう逃げる事は叶わないだろう。


 強い魔術を使った事による疲労感はある。けれどのんびりとはできない。

 キマイラは魔獣の中でもマンティコアに次ぐ高い知能を持つと言う。ならば死の恐怖を感じる心も持つかも知れない。

 嬲る心算は毛頭無い。身動きが取れない状態ならミスも無い。

 最速で、不要な苦しみを与えず、一撃で。

「ドグラ、止めを」

 僕の意思に、ドグラが従う。




 後の事だが、結局僕達はキマイラの処理の為に引き上げる事にした。

 躯を放置してアンデッドにでもなられたら厄介であるし、何よりキマイラの素材が丸ごと一体分と言うのはそれなりに貴重な物でもあったから。

 遺跡等でキマイラを倒しても持って帰れないので貴重な部位だけ剥ぎ取るのが普通だ。今回の様に野外で遭遇するなんて事はレア中のレアである。

 でもやはり持って帰るのが一番労力を必要としたので、輸送手段に関しての研究も今後の課題としては面白いかも知れない。

 魔物や魔獣の権利は倒した者にあるが、どうせ王都には持って帰れないので一番価値のある魔石のみを貰い残りは辺境伯へと進呈する事にした。

 点数稼ぎは多いに越した事は無い。


 そして結局あのキマイラがどこからやって来たのかとの疑問は、後日の調査で判明する。

 コボルト達の住処の近くの山に見つかった何本かの坑道の一つが、地中の遺跡の壁をぶち抜いていたのだ。

 坑道にはキマイラの毛が落ちていたので、あの魔獣がここから出入りしていたのは間違いないだろう。


 ここからは完全に僕の想像になるのだけれど、恐らくあのキマイラはコボルト達に生贄を捧げられて居たのだと思う。

 あそこや付近の集落に居たコボルトの数は合わせれば千を超えたと聞くから、それだけの数が居れば多産のコボルトにとって少数の犠牲は無いにも等しい。

 逆にまともに戦えば千のコボルトでも夥しい被害を被る事ははっきりしている。ならコボルトの性質的にも前者を選ぶのは想像に難くない。

 キマイラは古代期に創られたと言われる魔獣で飢えて死ぬ事は無いのだが、遺跡荒らしの冒険者を返り討ちにしたならその肉を食らう事は判明している。そういった嗜好は持っているのだ。


 そんな魔獣が定期的に血と肉を捧げられる事に慣れていたら、それが不意に途絶えた時に外を確認しに来る事が無いとは言えない。

 もしかりにそうだとしたら、もっと場を整えて戦うことも可能だったかも知れない。あの時あの場所でキマイラを放置する危険は冒せなかったけど、なにか、もっと上手く……。

 勿論全ては僕の想像に過ぎないけれども。



 ちなみに見つかった遺跡調査の申し出は丁重にお断りしました。

 今回の仕事の趣旨とずれるし、そもそも遺跡探索に盗賊不在は自殺行為でしかないです辺境伯閣下。


 






 本日のお仕事自己評価70点。わるくはないけどもうちょっと。じょうきょうはんだんをてきかくに。



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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに斥候やスカウトという表記の方がスマートではある、盗賊だと村や商人や旅人を襲う盗賊と区別できないので、作中にそういう本来の盗賊が出てこないならゲーム的な用語としては大丈夫なのですが。
[気になる点] 「盗賊」が、冒険者の中の分類であることは想像できるが、犯罪者としての盗賊のイメージも強く、そのあたりの説明が欲しい。
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