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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
16歳の章
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王都を離れて1



 ガラガラと音を立てて馬車は行く。どこまでも、どこまでも、王国の辺境を目指して。

 王都を遠く離れた北西の地、以前領地経営の手助けに訪れた男爵領、王国で最も新しくダンジョンの湧いた彼の地に僕は再び向かっていた。

 とは言っても仕事で、では無い。

 つい先日僕は王都で暗殺者に襲われた。


 無論今こうやって生存してる以上、その暗殺者は何とか返り討ちにしたのだけれど、少しばかり危なかったのは間違いが無い。

 故にその事を知った宮廷魔術師第一席、宮廷魔術師長はすぐさま僕に暫く王都を離れる様にと命じられた。

 ほとぼりが冷めるまでの間は冒険者に混じって地方を回れ。その間に安全に戻ってこれるように手配をしておくからと。

 正直王都を離れる事はまるで夜逃げの様で気分の良い物では無かったのだけれど、この場合は仕方が無い。

 事情を知っても付いて来てくれそうな冒険者を雇い、夜闇に紛れる様にして僕は王都を後にする。

 どれだけの期間王都に戻ってこれないのかは判らない。残すカーロが少しごねたが、使い魔を通さねば帰還の指示も受け取れないので仕方が無かった。



「今から行くダンジョンって、私と会う前に師匠が仕事してたところよね。何でそんな所に行くの?」

 ちなみに雇ったのは駆け出し冒険者……、とはもうとても言えないセラティスと、そして彼女と仲の良い冒険者三名だ。

 盾の扱いが巧みな神官戦士のマルトスに彼等のチームでは実力が頭一つ分程高い弓手のメリエ。

 そして最近僕ともう一人の宮廷魔術師であるエレクシアさんで、魔術の手解きをしているパトリーシャである。


「先生と一緒なら私達でも高難易度で有名なあのダンジョンに挑めますか?」

 パトリーシャは教師役である僕とエレクシアさんの事を先生と呼ぶ。

 臨時講師を時折している学園の生徒達からもそうだけど、何度呼ばれても先生と言われるのは何か気恥ずかしい気分になってしまう。

 セラティスからの師匠呼びとは違い、一応教師の真似事をしているだけに余計だろうか。

 しかしセラティスもパトリーシャも誤解をしているが、別に僕の用事はダンジョンじゃない。

 僕があのダンジョンのある男爵領へ向かう理由はただ一つ。あそこが僕にとって安全な場所だからである。



 まず第一にあそこには良く知っている、僕の味方であろう人間が大勢いるのだ。

 全く知らない街を転々として誰も彼もを敵だろうかと疑いながら過ごすよりは、警戒を低めに出来る人間が多くいる場所の方が余程精神に優しい。

 縁がある地だけに僕が向かうとの予想もされ易いだろうが、正直それはどうしようもない事だ。

 何故ならドグラを連れ歩く以上、どうしても僕は目立つ。しかしだからってドグラを置いて行く選択肢は初めから存在しない。

 次に第二の理由として、今あの男爵領は王国内で一番多く高位の冒険者が集まっている場所である故に。


 もとより然程多くない、王都でも数チームしかいない高位の冒険者が、高難易度ダンジョンが流行ったおかげであの男爵領には多く集まっているのだ。

 なので仮に王都の時の様な襲撃が仕掛けられようものなら、駆け付けた複数の実力者達の手であっという間に鎮圧される事間違い無しである。

 この二つの理由から、これほど今の僕が身を寄せるに適した場所は他には数える程にしかない。

 その一つは、例えばアイツのチームに身を寄せる等もあるが、ちょっと危険になったからと言って助けを求めに行くのも癪なのだ。

 どうせアイツ達と会うのなら、僕から頼るよりは寧ろ頼って来いと思うし、最低でも対等が良い。

 だから僕はまず一つ目の目的地として男爵領へと向かっている。



 でもセラティス達を連れてダンジョンに挑むのも、そんなには悪くないかも知れない。

 あのダンジョンも、一階層に限って言えば僕は知り尽くしている。モンスターの実力だけで言うなら、僕とドグラだけでも突破は難しい事じゃない。

 無論盗賊無しでダンジョンに潜るなんて愚行は決して冒さないが、弓手のメリエは一応盗賊としてのスキルも持っているのだ。

 目の前の四人は未だ下位の冒険者だが、チームとして見るなら中位に片足を踏み入れかけてると僕は見る。


 ならば一階層の序盤で僕が指導しながら中位モンスターとの戦いを経験させてやれば、今被っている殻を破れる可能性は大いにあるだろう。

 リスクは充分に僕が管理可能な範疇であるし、彼等にとってこれ程恵まれた経験を得るチャンスは然う然う無い。

「挑んでみるのも、良いかも知れませんね。皆さんを指導してくれそうな知り合いも、確か彼方に居ましたし」

 僕の言葉に馬車の中に歓声が上がった。

 彼女達も冒険者だと言う事だろう。ダンジョンと言う存在には心惹かれるようである。

 喜ぶ様子を見て居ると、僕も少し楽しみになって来た。どの程度までなら追い詰めても楽しんでくれるだろうか。


「そう言えばチャリクルさんとキールさんもあっちだって言ってたっけ。あー、会いたいなぁ」

 セラティスは僕の言う指導してくれそうなお人好しの冒険者に思い当たったらしい。

 あの二人のベテラン冒険者はまだあのダンジョンに挑んでいる可能性が高い筈。

 もしも再会出来たなら、それはとても嬉しい事だ。

 不本意な出来事の結果とはいえ、降って湧いた休暇なのだ。折角ならば楽しみを沢山見つけて、良い思い出を作るとしよう。



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