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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
16歳の章
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奇術を使う暗殺者1


 有能であると言う事は良い事だと思う。否、思っていた。

 味方が有能であるなら、此れは言うまでも無く頼もしい。

 例え敵であっても、相手が有能であれば互いの妥協点を探り易い。

 全く無関係な第三者であれ、有能であるなら周囲に影響を及ぼし、それは知らず知らず僕に届いて居るかも知れない。

 なんて風に甘く緩く考えていたのだが、どうやら其れにはある条件が付いていたようだ。


 僕が御せる範囲の有能さなら、という条件が。

 味方であっても、御せない程、或いは理解すら出来ない程に有能であれば恐怖だろう。

 敵が御せない程に有能ならば、それはもう蹂躙されて貪られるだけだ。


 第三者であるなら、理解の及ばぬ有能さであっても関わらなければ問題は無い気もするけれど……。

 都合の良い有能さのみが良い有能さで、それを超えると途端に持て余すと言う事を以前の僕は知らなかったのだ。

 つまり結局は何が言いたいのかと言えば、有能で敵対している暗殺者って始末に負えないねって事なのだけれど。

 相対したターゲットがまだ生きてるのだから、もしかしたら有能な暗殺者って定義は当てはまらないかも知れないけど、僕の危機に変化は無い。



 それは夕食を取りに外出していた、その帰りの出来事だった。

 時は既に夕暮れ時、最近見つけたお気に入りの店での食事を終えて機嫌良く歩いていた僕の前で、前を歩いていた誰かがふらりと地に倒れ伏したのだ。

 後ろからでは男性か女性かも判らない、マントを羽織った旅人風の誰か。

 転んだ風、迫る地面に身を縮めたり手を突いたりする風で無く、本当に糸が切れたかの様な倒れ方に、僕は即座に駆け寄った。


 無論何らかの不審さを感じなかった訳では無いけれど、仮に本当に何らかの理由で意識を失って倒れて居た場合には初期の処置が命の明暗を分ける事を僕は知っている。

 その場から動かす事が危険でも、意識を確認したり、衣服を緩めたり、或いは吐しゃ物が喉に詰まって窒息していた場合は取り除いたりと出来る事は多くあるのだ。

 それにポーションや毒消しの類も、冒険者時代からの癖で常にそれなりには所持している。


 しかし、近寄り、大丈夫ですかの声をかけようとしたその時だった。ゾワリとした悪寒と、喉に絡み付く様な圧迫感を覚えたのは。

 突然だが、勘と言う物はとても大事だ。

 僕は勘を、咄嗟の際に視覚や聴覚、嗅覚や皮膚感覚等が得た情報を無意識に処理して導き出した結論だと思ってる。

 勘に従った後で、何故自分がそうしたのかを冷静に振り返れば、意外と理由が導き出せる事も多い。何故だかさっぱりわからないのも勿論あるが。


 例えば迫る攻撃を右か左に避けねばならず、どちらかのみが正解としよう。

 当てずっぽうで避ければ選択肢は二つなので五割だが、勘に導かれて従えばそこに三、四割が足されるので十中八九は無事である。

 少し大袈裟かも知れないが、それ位に勘は重要だと考えているのだ。根拠は勘に従った結果、僕が未だに生きてる事くらいしかないけれど。

 僕は考えて動くタイプだが、咄嗟の時に勘が囁けばそれに従うようにはしているのだ。

 故に咄嗟の勘に従い、僕は喉に絡み付く圧迫感から逃れる様に地面に転げて逃げる。



 次の瞬間、僕がさっきまで立っていた辺りを何かが通り過ぎ、そして後ろの街路樹に細い、しかし大きな切れ目が刻まれた。

 けれど嫌な感覚はまだ消えていない。更に横へと転がると、次は地面の石畳に傷跡が刻まれ割れる。

「ドグラッ!」

 僕の声を待たずとも前に出ようと動いていたドグラの構えた盾が何かを弾く。


 魔術ではなかった。

 風の魔術であれば似たような事は可能だが、ならばその発動の気配を僕は感じ取る事が出来る筈である。

 魔術の攻撃に晒されたなら、その現象の不確かさに対しての抵抗が必ず生じる。所謂生体の魔法抵抗と言う物だ。

 それが無かった以上はあれは攻撃魔術ではない。では何なのかと言えばそれはさっぱりわからないのだけれど。


 目の前でカクンと倒れていた人物が身体を起こす。だがその動きはどう見ても人間の其れでなく、まるで糸で吊られた人形の様だった。

 此方を向くその顔には仮面が付けられており、男女の区別も、表情も意識の有無も判別が付かない。

 一応眼前の其れは敵対者だと認識すべきだろうけども、単に操られているだけの犠牲者、囮である可能性も捨て切れなかった。

「防いで!」

 周囲の空気が何かが迫り来る事を感じた僕は、短く指示を一つ飛ばしてドグラの影に潜り込む。


 不格好だが仕方が無い。何が何処から来るのかもわからないのだから、対策はドグラに覆って貰って庇われる事のみだ。

 幸いかな相手の攻撃力は、木を圧し折れるほどでも石畳を叩き壊せる程でも無く、大きく細い傷を刻む程度だった。

 如何に鋭い攻撃であろうとも、その程度ならば付与魔術のかかったドワーフの名工の鎧兜に身を包むドグラを破壊する事は難しい。

 何しろ並の兵士が付ける鎧とは防御力の桁が違うのだ。


 いきなりの襲撃に追い込まれるばかりであったが、ドグラの性能は恐らく相手の計算外の筈。

 暗殺者、そう、恐らく間違いなく暗殺者だろう相手だが、手法の読めない攻撃法や襲撃の手際から見てもそれなりの腕を持ったプロだろう。

 そんなプロが計算外の障害が存在しても撤退しないのは、ドグラの存在を考慮しても尚も高確率で僕を殺せるだけの手段を持つか、或いは自分の安全はキチンと確保してるかだ。

 この際前者は考えない。もしそこまでの手練れだったなら、まだ僕が生きている方が不自然だ。


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