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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
16歳の章
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国外出張・ドワーフの国へ、後編2



 けれどお土産選びに其処を訪ねたのは、結果は兎も角、過程で言えば完全に失敗だった。

 物は確かに良い物が手に入ったのだが、過程がちょっとおかしかった。

 でも僕は悪くないと自信を持って言い切れる。悪いのは紹介状を書いた時に詳しく言わなかったグロンだと思うから。



 紹介状を持って訪ねた先は、他よりもひと際大きな工房だった。

 入り口で対応してくれたドワーフに紹介状を渡して待つ事しばし、僕等は工房内へと招かれる。

 一歩足を踏み入れた瞬間、熱気が頬を撫でて行く。それがグロンの鍛冶屋を思い起こさせて、僕の頬は自然と緩む。


「ほう、我が工房に足を踏み入れて笑むか。流石はグロンが紹介するだけの事はあるな。先日とは違い随分と豪胆ではないか」

 聞こえてきた声と、目に飛び込んできたドワーフの姿に、思わず目を擦る。

 作業着の為みすぼらしいし、鍛冶作業で薄汚れてもいるが、見間違えよう筈もない。

 その声だって先日聞いたばかりである。いやもう本当に忘れたかったのだけれど。


「えっと、違ってたら申し訳ないんですけど、もしかして、ドワーフ王陛下であらせられますか?」

 僕の言葉にアーロットさんが目を剥き、そして眼前のドワーフ、この国の王は呵々と大笑した。

 酷いよグロン。こうなるって判ってて言わなかったんだね……。



 何でも聞くところによると、ドワーフの王になる条件は血筋では無く、皆からの尊敬を最も多く集めた者が王となるそうだ。

 そしてドワーフにとって尊敬出来る者とは、優れた鍛冶屋と強き戦士だ。

 故に大体は国で一番の鍛冶屋と国で一番の戦士が交互にドワーフの王としての任期を勤め上げる事になる。


 グロンは国を出たが、それ以前はこの国でも有数の鍛冶の腕を持って居たらしい。

 だからそんなグロンが自信を持って紹介する自分より腕の良い鍛冶屋と言えば、ドワーフ王以外に居なかったと言う訳だ。

 言われてしまえばドワーフらしい話と言うか、納得できない事も無い。

 それに王座に座ってる姿は威厳に満ちていたが、こうして見ると単なる鍛冶屋のドワーフだ。なら炉の前での作法さえ守ればそれで良い。


 アーロットさんは未だ動悸が収まらない様子だが、僕はもう開き直れた。

 けれどドワーフ王の攻撃はまだ終わって居なかったのだ。

 笑いながらグロンからの紹介状をこちらに向ける王。思えば、紹介状先に確認しておけばこんな事にならなかったんじゃないだろうか。

「それで良い。紹介状の通りだな。さて小僧よ。紹介状の中で奴とお前が創り上げた付与に関しての自慢があってな。ワシもその術に興味がある」


 とても話が怪しくなって来た。

 このドワーフの王にとって、僕は既に王国からの使者でなく、知り合いの鍛冶師が紹介してきた面白い奴でしかないのだろう。

 そのドワーフらしさは僕にとっても付き合いやすく有り難いのだが、でもこのパターンはちょっと困る。何故なら間違いなく長引くからだ。


「そこでな、ワシとお前さんで合作を作ろうと思うのだが、どうだ? 光栄だろう。でな、さっきお前さんの顔を見ながら何を作るか考えたのだが……」

 そしてもう止まらない。これを止めたら間違いなく怒るだろう。

 だってドワーフの鍛冶師だから。

 自分の創りたいと思った物は、あらゆる事をさて置いても創り上げるのが彼等なのだ。


「アーロットさん、王に気に入られたから帰るの遅れますって報告、手紙で良いんですかね……」

 この報告はカーロ越しでは通らない気がする。手紙ならいけるかな。



 結局僕の帰還の予定は3週間ずれ込む事になる。

 僕は鍛冶場に入り浸るのも楽しかったので別に構わないのだけれど、護衛である五隊の騎士達には大変申し訳なかった。

 彼等は騎士らしい騎士と言うか、品性が上品な人が多いので、ドワーフの国でのんびり過ごしても楽しくなかったんじゃなかろうかと思うのだ。


 騎士達は僕に気遣ってか、休みが降って湧いたような物ですって言ってくれたけど。

 なのでドワーフ王に皆の分の剣をくれ、じゃなきゃ付与は手伝わないでもう帰ると駄々をこねて人数分をせしめた。

 とても喜んでくれたので僕も嬉しい。何といっても彼等は、僕に付き合わされてるだけなのだから。


 アーロットさんには別に、ドワーフ王と一緒に創った指輪も贈る。

 手をかざせば持ち主の魔力を使ってシールドを発生させる盾の魔術が付与してあるので、騎士としても使うも便利だし、或いは贈り物にするも良しだろう。

 僕とグロンが研究した装備への付与術は数年分の蓄積がある。

 流石に王となれるだけの実力を持つドワーフの名工でも、その全てを試すには余りに時間が足りなさ過ぎた。


 例えば砕いた魔石を粉にして金属に混ぜ込む事で含有魔力の量を増やす方法も、グロンがやるほどには上手く行かずに金属が脆くなったのだ。

 ドワーフ王は非常に悔しそうだったけど、物凄く楽しそうだった。

 頂点に近づいていたと思っていた自分が、実は物を知らぬだけでまだまだ修めるべき技は数多いのだと嬉しそうに語っていたから、僕もちょっと嬉しい。


 でも帰る時はやって来る。

 多分僕が宮廷魔術師じゃなかったらなんだかんだで返して貰えなかった気がするが、重臣達に気持ちは判るがいい加減にしなさいと窘められたのだ。

 使者として来た他国の要人を引き留めすぎるのもあらぬ誤解を招くから一旦は帰らせなさいと。

 いや、一旦帰ったらもう僕暫く来ないよ。なんですぐにまた来る事になってるみたいな言い方するの?


 ドワーフ王には凄く渋られたし、いっそ此処に住む様にと熱心に勧められたが、帰国の許可は下りたのだ。

 天井の圧迫感が厳しいので僕はこの国に住める気はしないけど、それでも此処で過ごした時間は濃密でとても楽しかった。

 次に来る事があったなら、多分王宮でも緊張しないで済むだろう。

 だって皆どうせ頑固だけど優しい鍛冶馬鹿のドワーフばかりなんだもの。




 本日のお仕事自己評価90点。ぼくはどわーふとなかよしです。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] アーロットさんは未だ動機が収まらない様子だが、僕はもう開き直れた。 動機→動悸
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