表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
16歳の章
41/73

通行税と英雄志願1


 村と町はどこで判別されるのか。

 住んでる人口だと言うのなら、昨日町になったばかりでも3件隣の爺さんが亡くなったら村に逆戻りするのだろうか。

 住人は少なめだが、交通の要地で一時的な滞在者が多い場所は村になるのか町になるのか。

 そんな益体も無い突き詰め方をしなければ、人口が決めるというのまあ間違ってはいない。


 しかしもっと判り易いのは、その場所を囲ってる物の違いだ。

 村は柵に覆われて、町は壁に覆われる。此れでおおよその間違いはない。

 人が集まり暮らす地が壁に覆われていたら、そこは町として中の安全を保障しているのだ。


 故に多くの町は入り口で入場税を取っている。

 街中での安全を保障する代金として、或いはその地を通る通行料として。

 この入場税に関しては一応はその地の領主である貴族に定める権限がある。


 ただし好き勝手に設定されると物流に多大な影響を及ぼすので、国としても口を出さない訳にもいかず一定のルールを設けている。

 例えば関所を置いて通行する際に税を徴する事もあるが、此れは基本的に入場税と同じ物だ。

 人や物の流れに関与する種類の税を王国では通行税と呼ぶが、先程の例だとこの通行税を2重に取っている事になる。


 しかし領主が入場税は安全の保障、関所は禁制品や犯罪者の流入を防ぐ為に置いていて徴収してるのはその手間賃だと駄々をこねられると面倒臭い。

 何が面倒臭いって、その言い分に一理無い訳じゃない事が面倒臭いのである。

 何故なら実際に領内に出た野盗や山賊を逃がさない為、或いは隣の領に出たそれらを入れない為に、関所を設けるのは領主の義務であり権利だから。

 そうやって臨時の関を設けて被害の拡散を防いでくれるのは、国側としても非常に助かるので何の文句はない。


 けれどそれが行き過ぎると、物を運ぶ商人が税の取られ過ぎで途絶えたり、王都に入って来る品の値段が跳ね上がる事になってしまう。

 そもそも人の流れが途絶えれば困るのはその地の領主も同じ筈なのだが、目先の金銭を取る事ばかりに知恵を絞る者が後を絶たない。

 関所では税を取らず、手前の町で通行書を発行し、その発行料として金銭の徴収を行う事で形を変えてルールの穴を突こうとする様な領主もいるのだ。


 本当にやめて欲しい。

 故にどこそこの領に関所が出来たと聞いた時、或いは定期的に、国内を巡って通行税に関して調べるのだ。

 このルートを通れば幾らの金額がかかるのか。通行税の取り方に不正は無いか。設けられた関所は何の目的で、どの程度の期間を人の出入りの管理するのか。



「入場税は一人大銅貨一枚だ。冒険者殿、ファナの町へようこそ」

 僕は自分の分の入場税のみを支払い、町の中へと入る。そう今回の僕の旅にドグラは居ないのだ。

 物凄く寂しい事だが、人で無い彼の姿は今回の依頼には目立ち過ぎる。


 そしてその代わりの旅の連れが、

「はー、旦那旦那、この町の門番は良さそうな奴だったね。オススメの宿屋も教えてくれたぜ」

 このデュッセルと言う名の冒険者だ。王都の冒険者ギルドのマスターに、実力は中位ランクになったばかりの若者だが人柄が信頼できるとして紹介された戦士である。

 デュッセルの言う通り、確かにこのファナの町の門番は人当りもよく、職務に忠実そうだった。

 前の町では僕等より後から来た商人が、袖の下に金銭を滑り込ませる事で先に入って行ったのだから、比べるのも失礼なほどに違う。


 とはいえ前の町の門番が特に酷かった訳じゃ無い。袖の下で順番を抜かすのは、商人からしたらちょっとしたテクニックであろう。

 問題としなきゃならないのは門番から露骨に袖の下を要求したり、或いは旅人に対して無体を働く様な場合である。

 それにこのファナ町の門番にしても、彼がたまたま職務意識の高かっただけで、他がどうかは判らない。

 僕以外にも商人に扮してチェックを付けてるグループが後日通る筈なので、そちらと合わせて実際の評価は出来上がる。

 でも取り敢えず先ずはファナの町、大銅貨一枚、門番二重丸と心に刻む。宿に付いたら早速メモに書いておかねば。


「で、旦那、この町じゃどうするんだい?」

 問うてくるデュッセルの瞳は、何かを期待するようでもある。

 僕の本当の目的はこの街道の間の通行税や様子を調べる事だが、表向きは冒険者2人が割りの良い仕事を求めて旅をしているとなっている。


 そろそろ何か依頼を片付けたって記録を残しておくのも良いかも知れない。

 ギルド長の爺様も、この目をかけてるデュッセルという戦士に色んな経験を積ませたくて僕に紹介したのだろうし。

「宿で一休みしたら冒険者ギルドも見に行きましょうか。割りが良い依頼があるかも知れないし、でもあんまり時間がかかるのはダメだよ」

 あまり長い探索や、街中での用心棒は論外だ。近場の討伐系か、或いは向かう先が同じ商人の護衛などがあればベストなのだけど。

 取り敢えずは宿だ。何でもデュッセルが教えて貰った宿は料理が旨さでオススメらしい。


 こっそり心の内で期待は高まってる。

「了解。でも旦那って意外と考えてる事すぐ顔に出るよね。あー、俺もお腹空いたなあ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ