帰還と夢の中の追憶2
突然話しかけて来た少女だったが、僕等はそれでも彼女をテーブルに招き入れた。
今日はトラブルがあったとは言え、馬車の旅で随分退屈して来ていた所だったから変化を欲していたのだと思う。
それに少女の笑顔は善性を感じさせる物だったから、食事を一緒に取る事くらいは別に構わないと考えたのだ。
光の加減でくるくると変化する猫を思わせる瞳に、真っ赤な髪をさっぱりとしたショートに揃えた彼女の名前はセラティス。
軽めのレザー系の鎧に身を包んでいるにも拘らず、重たそうな長剣を抱えて戦士を名乗ったセラティスに、チャリクルとキールの視線がちょっと生ぬるくなっていた。
何でも彼女は駆け出しの冒険者だが、町で目ぼしい冒険者にパーティ参加を申し込んでも全て断られ、逆に声をかけて来るのは下心が透けて見える連中ばかりだった為に別の街を目指して旅してる最中なのだと言う。
うん、それはそうだろうと僕も思う。
例え僕が駆け出し冒険者だったとしても、チャリクルやキール……は元々固定メンバーを求めてないが、そうでなくても彼女を仲間にしようとはしないだろう。
先ずあの長剣が彼女の体格に合って居ない。数度の素振りには問題ないだろう。でも実戦で振り回したら、多分すぐに腕が上がらなくなるかすっぽ抜ける筈。
それにあの剣を振り回す為なのか、防具を出来る限り軽くしてるのも大間違いだ。あれだと近距離で戦うには心許なさ過ぎるだろう。
身軽さが身上の剣術の達人などであるなら100歩譲って判らなくもないが、動き方は素人臭いし、それにやっぱりあの剣が浮いてる。
この手の憧れか勘違いの先行したタイプは、王都の冒険者ギルドだと徹底的に叩き直されるのだが……、付近の町の支部はちゃんとテストしたのだろうか。
眼前のセラティスは恐れ知らずにもチャリクルとキールにパーティを組んでくれと申し出、断られて凹んでいる。
見世物としては少し面白い気がするが、このままだと彼女はそのうち死ぬだろう。
鶏肉はとても美味しいし、先に見えてるセラティスの不幸を見過ごすのはあまり寝覚めの良い物ではないのだが……、問題は彼女がこちらの話を聞いてくれるタイプに見えない事だ。
というか、多分セラティスがパーティを申し込んだ冒険者の中には、多分その手のアドバイスをした者だって居たはずなのだ。だって彼女はあまりにあんまりだから。
でもこうして変わらず目の前の有様って事は、恐らくそういう事なのだろう。
説得出来るとしたら神官戦士として武の心得があるキール位なのだが、寡黙な彼にそれを期待するのは無理がある。
「ねぇ、君はどう? よわっちそうだし、私と組めば守ってあげるわよ」
あ、僕も勧誘対象なんですか。ならなんとかなるのかな?
チャリクルが飲んでた酒を噴き出している。とても汚い。
僕は宿の主人に布巾を貰いに立ち上がる。うーん。
「げっほ、お嬢ちゃんよ。やめてくれよ。俺等相手なら身の程知らずでも可愛いなーって許すけどさぁ。こちらはこう見えても宮廷魔術師様だぜ?」
手渡した布巾で机を拭きながらセラティスを咎めるチャリクル。
こう見えてもってのは余計だと思います。地味に結構気にしてるのに。あと僕が相手でも別に怒りませんし。
寧ろ出張先ではずっと皆に上扱いで様付けで呼ばれていたので、見た目と年齢で軽く見られるのも久しぶりで何だか新鮮だ。
きょとんとするセラティスにチャリクルが何やら一生懸命説明してる。
そもそも僕の隣に座るドグラを見て何か思わないんだろうか。
本当にセラティスは冒険者として色々足りていない。知識も経験も想像力も注意力も観察力も無い為に、故に彼女は死ぬだろう。
でも僕は、あまり其れを見過ごしたくない。
色々とアレな所はあるけれど、セラティスの笑顔は人の良さを感じさせたし、彼女の赤い髪は僕の親友を思い起こさせた。
明るい人柄も大きな加点要因だ。折れない強さを持つ事が出来れば、パーティのムードメーカーになれる素質があるようにも思う。
それになにより、冒険したいって気持ちはとても良く判るものだし。
どうせ馬車が何とかなるまではこの村に足止めなのだ。チャリクルとキールが馬車の算段を付けるのに、多分5日はかかるだろう。
「えっと貴女と組まないか、ですね。良いですよ。ただし先ずはお試しに貴女の実力を見せてください。5日間、この村を拠点に魔物を狩りましょう。それでお互い気に入れば正式に」
人里から1日分も離れれば何かしらの魔物はいる筈だ。護衛でもあるチャリクルとキールの2人は良い顔をしてないが、まあ後でお酒でもプレゼントして許して貰おう。
さてこの辺りはどんな魔物が出るだろう。少し楽しくなってきた。




