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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
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ダンジョンの湧いた男爵領、後編1


 王国内でも北西の端っこの方であるゴートレック男爵領は、ありていに言ってど田舎だ。

 人口が少ないから建物も少ない。栽培される作物も種類が貧弱だ。食事の多くを占めるのは狩って来た肉類である。

 他の地域よりも魔物の出現率が高くて危険が多い。

 でもそんな厳しい地域でも、人は素朴で優しい人が多かった。


 うーん、ここダンジョンなんか出ない方が幸せだった気が凄くする。

 ダンジョンは富を生み出す。故に富と言う光に惹かれる影も当然寄って来るのだ。

 そもそもダンジョンのメイン顧客である冒険者は荒くれ者ばかりである。

 割と住民も魔物慣れと言うか、危険慣れしてる感じではあるので、上手くいけば冒険者とは気が合うかも知れないけれど……。

 次々に領内に入ってくる異物を受け入れられる様に、住民の心に配慮した工夫をする必要があるだろう。


 ちなみに僕は男爵領の人達に大歓迎を受けた。

 王都で買って来た土産である塩や香辛料が喜ばれたのもあるだろうけど、矢張りいきなり出現したダンジョンに関しては皆不安に思っていたのだろう。

 ゴートレック男爵なんかは僕を抱きしめさえしてきた。

 本当に心細かったのだろうとは思うが、辺境武人の男爵にハグされると背骨がミシミシ言うのでやめて欲しい。

 既に冒険者ギルドの協力を取り付けて来た事を報告すると、今度は感涙しながら抱き締められた。

 僕が王都に帰れなかったら、多分死因は背骨が圧し折れたからになるのだろうと思う。



 まあしかし、この男爵領には見事に何もない。

 人無い、物無い、金も無い。

 支援に来る人を受け入れる箱さえ無いのだけは本当に拙いので、今急ピッチで宿舎を建設して貰ってる。


 その間の僕の仕事は、男爵家の家人に帳簿のつけ方を教える事だった。今のままではあまりにザル過ぎたのだ。

 小規模でこじんまりやって来た彼等にその必要性が理解しがたいのは仕方がないが、けれど出来て貰わねば非常に困る。

 それ以外の手伝いも無論せねばならない。兎に角この領土には足りない物が多すぎたから。


 例えば僕のある一日はこうだった。

 午前中は男爵家の家人を相手に授業。お昼手前に終わらせて、お昼を食べながら少しでも数字を扱う事に慣れて貰う為の問題集を作成する。

 午後からは外に出て、まず森へ狩りに行く。建築に人手を取られて狩りに回る人が減っているから。

 充分な獲物が入手出来たら、次は木材を確保が待っていた。魔法で木を切り倒し、ドグラに加工場まで運ばせる。

 他にもある日は魔物を退治したり、熱を出した子供の為に熱冷ましの薬草を取りに行ったり、etcetc。


 忙しい日々を過ごしながら一か月が経つ頃には、僕は領民達に領主様と呼ばれるようになっていた。

 ちょっとまって、やめて。ゴートレック男爵も笑ってないで訂正して?

 養子とかならないから。貴方実子いるじゃないですか。息子さんも笑ってないでお父さんを注意して!

 冗談に振り回される事もあったけど、そしてとても忙しかったけど、笑顔の絶えない楽しい日々を過ごさせて貰った。


 

 そうしている間に足りなかった全てが支援として届き始める。

 物や人を満載に積んだ馬車がやって来て、荷を下ろすだけでも大わらわだ。

 宿舎の完成が間に合っていて本当に助かった。折角来てくれた人達に屋根の下で休んで貰える。


 そこから事態は急速に動き出す。

 領民と入ってくる人の軋轢は今は最小限に留まっていた。今は問題無い。

 領民の人達は僕の話には耳を傾けてくれる信頼関係が出来ていたし、冒険者ギルドから派遣されてきたベテラン職員も上手く間を取り持ってくれた。

 人が増えた為に食料が一時不足したが、それも持ち直しつつある。


 援助物資として食料が入って来るし、建築専門の職人達がやって来たので、領民達が狩りに回れるようになったのだ。

 金勘定や物資管理も、男爵家の家人とギルド職員が一丸となって取り組んでくれている。

 つたない所もあるけれど、それは慣れの問題でしかない。

 では何が問題かと言うと、僕が忙し過ぎるのが問題だった。僕の身体は一つしかないし、耳は二つしかないのである。

 色々やらなきゃならないのは確かだが、僕の能力では一度に一個の物事しかこなせない。ついでに一度に話しかけられても二つまでしか聞き分けられないのだ。



 なので大切なのは優先順位だろう。例え割り振られる仕事量の増えたギルド職員が恨みがましい目で見て来ても、僕以外の人が出来る事はそちらにお願いしなければならない。

 だってね、僕本当にそろそろダンジョン調査に行かないと、派遣冒険者の人達待たせる事になるのだから。

 派遣の冒険者って拘束日数でも賃金発生するから早く処理したいの。切実に。

 此処には酒場も無ければ美食も無い。劇場や海なんかの娯楽の類が一切ないので、待たせるのも申し訳が無い。

 特に来て早々に狩りや警邏、魔物退治にと協力的に動いてくれる様な良い人達が来てくれたので、猶更早く解放してあげたいのだ。


「いや、別にのんびり狩りしてるだけで賃金発生するから、そんなに気を使わなくていいぜ?」

 との言葉を言ってくれるのは盗賊のチャリクルだ。

 今回来てくれた冒険者は彼とその相棒の神官戦士のキール。二人の事は以前から知っていて、冒険者時代に複数パーティで挑む大規模依頼で一緒に組んだ事がある。

 その腕の良さも、人柄も知っているのでこの人選はとてもありがたいのだが、それだけに賃金は決して安い物じゃない。 

 使える資金も届いて無い訳じゃないが、その大半はいずれ返さなきゃならないのだ。

 だから、ね。早めにダンジョンに行きましょう。


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