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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
24/73

ダンジョンの湧いた男爵領、前編2


 受付でギルドマスターへの面会を申し込んで暫く、僕は受付嬢に案内されながら彼の部屋を目指す。

 本当は案内なんか要らない程度には幾度も行った場所だ。

 けれど今の僕は一介の冒険者では無く国の宮廷魔術師としてここにやって来ている。案内無しに歩き回らせる訳には、向こうも到底いかないだろう。


 ギルドマスターの部屋が近づくにつれ、身を緊張感が包む。

 王都のギルドマスターと言えば、この国の冒険者全ての総元締めだ。当然一筋縄では行かない。

 あの爺様の厄介さ加減は僕もよく知っていた。僕が冒険者になる際の魔術実技の試験官が、他ならぬギルドマスターその人だったから。

 それ以来目をかけて貰って随分と世話になったけど、今日は敵として相対せねばならない。

 勝てる算段は付いている。状況は間違いなく、相手の失点を理解して突ける僕側が有利だ。

 それでも勝ち切れると確信仕切れないのが、あのギルドマスターの怖さだった。


 でもやらねばならない。此処でどれだけの物を引き出せるかで、男爵領での仕事の難易度が大幅に変化するのだから。

 そして戦いに臨む覚悟を決めて扉を開いた僕を待っていたのは、

「この度は本当に申し訳なかった。貴族に対して公的な謝罪をのこす訳には行かんが、出来る限りの支援を約束するのでどうか水に流してはもらえんじゃろうか」

 部屋の床に土下座するギルドマスターの姿だった。

 やめてよ爺様。受付嬢のお姉さんが絶句してるでしょ!



「…………爺様、少しは面子とか気にしてやり合おうって気は無いの? 僕割と戦う覚悟決めて来たんですけど」

 思わずため息が漏れる。空気が壊れた。

 毒気を抜かれて戦えなくなってしまった以上、目指していた勝ちが取れない。

 僕は負けてない。でもやっぱり、勝てなかった。


「嫌じゃ。負ける戦いをする冒険者は2流や3流でもない只の阿呆じゃ」

 顔を上げた爺様が二カッと笑う。

 まあ確かに負ける戦いをするのは冒険者じゃなくて死体予備軍でしかない。

「それに小僧は敵は確実に始末する算段つけて準備してくるからの。その癖味方には甘いから、味方にしてもらった方が得じゃな」

 もはや言葉も出なかった。


 実際の所、王都と西方辺境伯領の双方からの支援があれば、最悪冒険者ギルドは完全に締め出しても独自体勢でやっていけるのも事実だ。

 ノウハウの構築や支援の返済に多くの時間はかかるだろうけど、決して不可能じゃない。

 他のダンジョンの管理体制を僕は理解できてるし、他の冒険者への伝手もそれなりに持っているから。


 そして肝心な時に役に立てずに締め出された冒険者ギルドは面子と信頼を損なう。

 その辺りを小出しに突く事で、負けの無い状態でどれだけ引き出せるかの勝負をする心算だったのだけど……。

 面会を宮廷魔術師として申し込んだだけで国と西方辺境伯、更に僕の考えもこの爺様はおおよその所を読み切ったのだろう。


「では味方の爺様に要請します。男爵家に全面的に協力できるベテラン職員数名の派遣。冒険者用施設の建築支援。僕とダンジョンに潜る信頼できるメンバーの選別と指名依頼を」

 プライドの高い無能は要らないから信頼できるベテラン職員が欲しいのだ。喉から手が出るほどに。

 宿、酒場、武器防具を補修できる鍛冶屋、最終的に娼館が必要になるかは発展規模次第だが、冒険者向けの施設の箱は早急に作らねばならない。


 そして最後の僕とダンジョンに潜る冒険者と言うのは、ダンジョンの難易度判定の為に必要だ。

 出てくる魔物や魔獣の傾向、罠の多寡、そして最初の階層ボス位は調べねば、安心して冒険者達を送り込めない。

 冒険者の生死は自己責任とは言え、最初の一歩目からデストラップの山、みたいな狂ったダンジョンなら後でどうなろうと取り敢えず埋めた方がマシだ。



「小僧が信頼できる冒険者のぅ……。ふむ、アイツ等でも呼ぶか?」

 僕の要求に、ぽつりとギルドマスターが呟いた。

 アイツ等と言うのは、間違いなく以前に僕とパーティを組んでいた幼馴染で親友のアイツと、女盗賊と女神官の事だろう。

 ああ、そうだろう。それは勿論、僕にとってアイツ達以上に信頼できる冒険者なんて存在しない。

 でも、だからこそ、

「…………別の冒険者でお願いします」

 頷いてしまいたい欲求にあらがって、僕は首を横に振る。


 アイツ達ならきっとダンジョン探索も楽しいだろうし、大抵の事は笑って乗り越えられる。

 それにアイツ達はきっと、依頼の範疇を超えて協力してくれるだろう。僕の事を依頼主でなく仲間として扱って。

 けどそれではダメなのだ。

 僕とアイツ達はそれで良くても、あまりに過度な協力は男爵家と冒険者ギルドの力関係を変える。

 アイツ達と言う存在が齎すだろう恩は、多分あまりに大き過ぎるから。


「乗ってこんかぁ、惜しいのぅ。やはり小僧は国になんかやるんじゃなかったの。戻ってこんのか?」

 等と爺様がのたまう。ちょっと本気で腹が立つ。


 相変わらずギルドマスターには勝てなかったけど、必要な物は引き出せた。味方として協力すると言われた以上、信頼を裏切られる事は無い。

 人、物、金、あればあるだけ使い道はあるが、今の段階では充分と言える。

 王都で出来る事はもう残っていない。あとは現地でやるのみだ。

「いくぞー、おー!」

 気合を入れて拳を突き上げ、僕は王都を旅立った。

 辺境北西、ゴートレック男爵を目指して。



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