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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
16/73

王都での休日、あの日の思い出


「ねえ、どうしてアタシを助けてくれるの?」

 少女はボロボロで、でも目だけは強く輝かせて僕達に問うた。

 その時の僕達は、採算も何もかも度外視での危険な人助けだったから、疑問に思われても仕方なかった。

 だから僕は答えようとした『人を助けるのに理由はいらないんだよ』って。

 だって僕達はそう言い合って、リスクに報酬が見合わないこの依頼に飛び込んだのだから。


 でもアイツはそんな僕の口を塞いだ。

「君が可愛いからだよ。可愛いってことは将来美人で、将来になって美人に感謝されてたらほら、嬉しいだろ?」

 意味が分からなかった。その言葉に何の意味が含まれているのか、僕にはさっぱり理解できない。

 でもその少女には違ったんだ。

「わかった。アタシは絶対美人になるよ。こんな所で死んでやんない」

 って、笑顔で僕等にそう言った。

 あの笑顔があったから、僕等は最後まで踏ん張れたんだと思う。


 でも判らなかった。どうしてアイツは少女からあの笑顔を引き出せたのかが。

「人を助けるのに理由は要らなくても、人は助けられる理由が要るんだよ」

 全てが終わってから言われたその言葉。

 そして、…………そして、そして、そして、



 そして僕は目を覚ました。




 あんにゅいである。今日の仕事は休みだ。

 1日を好きに使って良い。とても素晴らしい事である。

 けれど僕の気分は優れなかった。アイツなんぞが夢に出て来てしまったせいである。

 100歩譲って、僕が冒険者時代を懐かしく思ってることは認めなくもないが、どうせ夢に見るなら他の2人の仲間の夢で良い筈だ。

 それにあの時のあの言葉、その続きが思い出せないのが妙に引っ掛かって気持ちが悪かった。

 やめよう。折角の休日なのだ。思い出せない事で悩んで潰す必要はない。特に大した事でも無かった筈だ。

 朝食を取ったら誰かの顔を見に行こう。今日は無性に誰かに会いたい。




「おはようございます、フレッド様。どうされましたか? 本日は確か休日の筈では」

 おはようございます、バナームさん。いえ、少し顔が見たくなって。

 邪魔してしまってごめんなさい。また明日からお願いします。

「いえ邪魔だなんてとんでもない。お会いできて嬉しく思いますよ。ではフレッド様、良い休日を」



「あらフレッドじゃない。アンタから来るなんて珍しいわね。まあいいわ。お茶でも飲んでいきなさい」

 戴きます。そう言えば何時もエレクシアさんから誘って貰ってましたね。

 お礼に今度出かけたらお土産買ってきますよ。あ、お茶請けは前のクッキーが良いです。

「……本当に珍しいわね。まあ、いいわ。クッキー位なら幾らでも出してあげるから、少しゆっくりしていきなさい。お茶はハーブティーにするわよ」



「こんにちは、セレンディル様。今日は……、何かお悩みですか? 懺悔をしていかれるなら受け賜りますよ」

 こんにちは、シスター・カトレア。悩んでる風に見えるんでしょうか?

 少し夢見が悪かったのと……、あ、最近僕は宮廷魔術師じゃなくて便利に使われてる気がして仕方ないんです。

「あらまぁ、そんな事は無いと思いますよ。セレンディル様は頼りになる人だから、頼っちゃうのかも知れないですね。私達もそうでしたし」




 日が暮れても結局僕の気分はすっきりとしなかった。

 本当に何なのだろうか。明日からはまた仕事があるのに、こんな気分のままでは困ってしまう。

 使い魔のカーロへと目をやれば、カーロは舟をこいでいる。灯りは早めに消してやろう。

 次いで視線を向けたのは竜牙戦士のドグラに。ドグラには、そう、ドグラにはアイツの技を写させてもらった。


「ちょっとドグラ、構えて」

 何の気無しに頼んでみる。ドグラは剣を引き抜き、盾を構えた。

 知っている。これは対人用剣術の構えだ。見つめる。

 不意にドグラが重心を移動させた。より攻撃的に、荒々しさを感じさせるそれに。

 此れもまた知っている。対魔獣用剣術の構え。やっぱり、見つめてみる。

 何か胸の奥でモゾモゾとするものがあるのに、それが引っ掛かって出てこない。


「ごめんドグラ、ありがとう。もう良いよ。戻って」

 やがて諦めた僕はそう告げる。判らないのも無理はない。だってアイツに比べたらドグラは格好良すぎるもの。

 何時までもこうしていても仕方ない。明日に備えて寝て仕舞おう。

 そう決めた時、ドグラが剣を納刀する仕草が、アイツの其れとダブって見えた。

 そんな仕草まで写し取れていた事に、僕は軽い衝撃を受ける。


 そして不意に、僕はそれを思い出した。あの時の言葉の続きを。

 燃えるような赤髪のアイツは、あの時確かこう言ったのだ。

「お前が優しい奴なのは俺が凄い知ってるから、そんなにふくれっ面するんじゃねえよ」

 って。


 うがああああああああああああっ。

 膨れてないよ。地顔だよ。アイツの癖に何でそんなに偉そうなんだよ。

 そうだよあの時は僕の考えが足りなかったんだ。変なフォローするじゃないよ。

 本当に腹が立つ。何に腹が立つって、こんな事を思い出す為に1日もやもや過ごした僕自身に腹が立つ。

 良し、呪おう。怪我したりすると他の2人が心配するから、怪我とかはしないで、あ、アイツがお腹とか痛くなりますように。







 本日のお仕事自己評価0点。だめだめです。きゅうじつはもっとだいじにつかいましょう。

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