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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
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王都での仕事・区画整理と古い教会3


 教会での話を終え、この一件の全体像が漸く見えた僕が城に戻ったのはカーロが呑気に鳴く夕方。

 最も無難な解決策も既に見えていたけれど、その為の手札を1枚どうするかで悩んでいた僕に、疲れを労うお茶と一緒にそれを手渡してくれたのはやはりバナームさんだった。

「結論が出ましたら、恐らく必要になるかと思いまして」

 ときたものだ。やはりこの方は僕の先生である。


 僕にこの件を回すように指示をしたのがバナームさんなのだから、彼にも既に一件の全体像は見えていたのだろう。

 要するにこれは僕に対する授業でもあったのだ。

 バナームさんが手渡してくれたのは、バルバロッサ家のお金の流れを示す調査書。

 けれどそれはバルバロッサ家の当主である伯爵では無く、その業務の一部を任されている嫡男の子爵の物だった。



 バルバロッサ伯爵家は古くから王国に続く名家である。勿論この国の貴族達が好き勝手に振る舞っていたヴィクトレッド様の改革前から。

 120年前にあの教会がバルバロッサ伯爵家の出資で出来た裏には、声を大きくしては言えない事情があった。

 具体的にはシスターとの名目で集められた特殊な事情を持つ女性を、他の貴族に宛がう接待の場としてあの教会は建てられたのだ。

 勿論以前の話であって、今のあそこは非常に真っ当な教会だ。シスターさんが話の時に入れてくれたお茶はとても美味しい物だった。

 ヴィクトレッド様の改革があった時、バルバロッサ伯爵家は当主の交代と資産の一部没収と言う沙汰に落ち着く。


 けれどその没収の際に調べられた伯爵家の資産は、想定された物より大きく少なかったと言う。

 調べようにも交代させられた元当主は、ヴィクトレッド様への呪いの言葉を吐いて既に首を吊ってしまった。

 故にバルバロッサ伯爵家には隠された財産の存在が、古い資料の上では疑われていたのである。



 今の代のバルバロッサ伯爵は立派な方だ。

 国王陛下への忠義が篤く、国王陛下からの信頼もまた同じくだ。

 資産の運用は堅実で無駄がない。芸術関係にも造詣が深く話も上手い。

 夜会が開くならまず声をかけねばならぬとされる人気者の一人だ。


 しかしである。名高い貴族である父への対抗心があったのかどうかは判らないが、将来の為にと事業の一部を任されていた嫡男の子爵は冒険に出て失敗し、大きな損害を出してしまった。

 対抗心か、プライドか、はたまたバツの悪さからか、子爵は父に頼らず損害を埋める事に躍起となった。

 その為の金を貸したのが、付き合いのあったワイアース商会である。


 バルバロッサ伯爵家の隠し資産があの教会に本当にあるのかどうかは僕は知らない。けれどワイアース商会とバルバロッサ家の子爵はそう考えているのだろう。

 区画整理を申請したのはワイアース商会だが、それを許可せよと手を回していたのは子爵だ。

 少しでも早く立ち退かせたがって居たのも、国の役人に詳しく建物内を調べられる前に色々強行して仕舞いたかったからだと思われる。



 これは全てをオープンにして解決すべき話ではないだろう。

 行動その物は色々と杜撰であるが、杜撰であるだけに表に出れば貴族としての恥、傷も大きい。

 王家に忠義を尽くす士であり、影響力の大きいバルバロッサ伯爵に多大な傷を負わせるのは国にとっての損失だ。

 そもそも事の経緯が全てオープンになれば、今は真っ当にやっている教会の醜聞も表に出かねない。人の色眼鏡は時に凄く恐ろしい物だから。


 ワイアース商会や子爵に関しても、国が犯罪者として裁く程の罪には至っていない。

 彼等を裁くとすれば、それはバルバロッサ伯爵の役目だろう。

 まあつまりバナームさんの持って来てくれた調査書を、バルバロッサ伯爵へと渡すのが僕の役割と言う訳だ。事を大きくし過ぎないように上手い言葉を考えて。

 確かに此れは一般内務官が関わる話では無かった。

 あの教会のシスターさん達が、此れからは平和に怯えず暮せれば良いと思う。

 あとバナームさんはやっぱり凄い先生だった。掌で転がされた感がぬぐえないけど。




 本日のお仕事自己評価90点。よくできました。すこしはせんせいにちかづけたかな。



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