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宮廷魔術師のお仕事日誌  作者: らる鳥
15歳の章
12/73

王都での仕事・区画整理と古い教会2


 兎にも角にもまずは教会を訪ねてみよう。

 遠くから眺めている事を止め、動き出そうとした僕の頬をカーロが突っつく。

 僕の注意を誘って彼が嘴で指し示すのは、先程眺めていた教会の、建物では無く正門の方だ。

 閉じた門の前で二人の男が敷地内のシスター相手に何かを言っていた。

「カーロ、行って」

 僕はカーロと精神を接続し、正門近くへと向かわせる。

 盗み聞きがあまり褒められた事で無いのは承知の上だが、今は少しでも情報が欲しい。



「いい加減納得して立ち退いてくれませんかね? もう此処を取り壊すっていうお国の許可は出ているんですよ」

 カーロの耳を通して、体格の良い職人風の男の言葉が聞こえる。

 はて、許可だしたっけ?

 確かあの書類はちゃんとバッテンした。じゃあ誰が許可を出したんだろう。

 バナームさんが僕に回せ、一般内務官は触るなと言ったらしいから、この案件は僕の手の中にしか無い筈だ。


「でもここはバルバロッサ伯爵家より譲り受けた土地で……」

 シスターさんが言い返す。

 そう、此処は120年ほど前にバルバロッサ伯爵が土地も建物も出資した教会だ。教会に対して出資って言葉が正しいのかはわからないけど……。

 でも一つだけ、シスターさんは間違っている。


「いいえ違いますよ。ここはバルバロッサ伯爵がアンタ等に貸してた土地だ。それを今度はワイアース商会に貸す事になったってだけの事でさ」

 正解を言ったのは職人風の男。確かに僕が調べた書類上ではそうなっていた。

 しかしえらく詳しいなぁ。あの人絶対に普通の職人、解体業者とかじゃないよね。

 喋ってる内容的にはワイアース商会、件の商店だの倉庫だのを建てるって言ってる商会に雇われてる様子だけど……。


 と言うかそもそも、国が区画整理の許可を出した場合に立ち退きを告げるのは役人の仕事である。

 解体業の職人に出番があるとするなら、立ち退きが実行されたのを役人が確認して土地回りの検査を終えてからだ。

 どうにも道理の通らない男の言葉に僕が考え込んでいると、彼等は遂には門を揺らしたりする威圧を始めた。

 あ、ダメだそろそろ止めよう。どうやら彼等は職人じゃなく、もっと程度の低い人間だったらしい。



「すいません、何をなさってるんでしょう?」

 カーロとの接続を切った僕は、彼等に近寄り声をかける。

 彼等の行為は止めたいけれど、行き成り魔術で薙ぎ払ったりすれば当然こちらが犯罪者だ。

 まずは丁寧にお願いして話を聞かせて貰おうと思う。


「なんだ坊主、大人の仕事の邪魔をするんじゃ……ひぃっ!?」

 こちらを振り返り、凄もうとした彼等は急に顔色を変えて後ずさる。僕じゃなく、ドグラの姿を見たからだ。

 無茶苦茶失礼である。どうやら彼等にはドグラの格好良さが伝わらないらしい。

 一瞬やっぱり魔術で薙ぎ払おうかとの考えが頭を過るが、しかし表情筋に努力させて笑顔を作った。

「教会は女神様が人の声を聞いて下さる場所です。あまり乱暴な真似はしない方が……」

 僕の言葉に、シスターさんが縋る様な視線を向けて来る。

 うん、怖かったんですね。大丈夫です。なんとかしますから。


 笑顔をシスターの方にも向けた僕に、しかし男達は、

「おっ、俺達は国からの命令で来てんだよ。それにここを壊す許可はもう下りてんだ。ここはもう教会じゃねえんだよ」

 思いっきり腰が引けながらも自らの正当性を主張する。

 つまり引く気は無いらしい。そして話にもどうやらならないようだ。

 まあ、もう仕方ない。本当はこういうのは嫌なのだけど。


「許可、下りてません。ここは教会です。国からの指示でしたら書類の提示をお願いします。実際に何方に言われて此方にいらしたんですか?」

 目に力を、背筋を伸ばし、威圧を発する。空気が、変わる。

 小柄な僕の外見は基本的に侮られる事が多い。彼等がドグラの外見に腰が引けながらも引こうとしないのは、その主である僕に恐怖を感じないからだろう。

 けれど僕は少し前まで荒くれ者揃いの冒険者の中を泳ぎ渡っていた。素人の気を呑む事など然程難しくはない。

「く、国の許可が……」

 可哀想な事に、彼等の顔は一瞬で真っ青だ。

 内心は痛む。けれど僕はさらに威圧を強めた。

「許可は下りていません。貴方達の行いは不法です。一緒に城に行きますか?」

 僕の言葉に沿うように、ドグラが一歩前に進み出て彼等にゆっくり腕を伸ばす。

 そこが彼等の限界だった。弾けるように逃げていく彼等に、僕は心の中で頭を下げる。


 行いはすごく悪かったけれど、彼等はこの件の黒幕でも何でもなくて、ただ雇われて指示に従っただけだろうから。その程度の事しかしてない大人に恥をかかせるのは、僕はそんなに好きじゃない。

「すいません、少しお話聞かせて貰えませんか?」

 呆気にとられた様子のシスターに、僕は頭を下げて切り出した。



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