第5話 ……ありがとう。さよなら
え?前回のあとがき? あ……遠い目。
思った以上に俺の体は空高く跳んだ。
人喰い鬼は二匹、まずは最初に村を襲ってきた奴に狙いを定める。
「見つけた…」
上空から人喰い鬼を見つけ出し、そいつの頭上めがけて魔力を放つ。
最初に魔力を出したあの感覚だ。初めてのはずなのにわかる。
俺の放った魔力は炎となって人喰い鬼に襲いかかった。
宙でバランスをとり、人喰い鬼の傍に着地する。
自分でもあんなに高い所まで飛んで無傷なのには驚いた。
「ナニシヤガル!!コノ餓鬼ガァアア!!」
思った以上にさっきの攻撃は効いたらしく人喰い鬼は頭から血を流している。
村人たちは、俺が現れたのを見てさらに恐怖のどん底に突き落とされていた。
「ひ、人喰い鬼が…また増えたぞ!?」
「き、きゃぁぁぁぁあああ!!」
そんなに怖がられるなんて心外。
「オイ、餓鬼ィィイ!!俺ノ邪魔ヲシヤガッテ、タダジャオカネエ!ッハ!!」
人喰い鬼は自分の魔力を高め、俺に氷の塊を撃ってきた。
弾丸のように目に見えない速度で俺を襲ったが、俺にはその動きがはっきりと見えた。
体が小さい事もあってすべて避ける。
そして、手に魔力を集中させ、人喰い鬼の顔面に掴みかかった。
「お前みたいな奴、消し飛んじまえぇぇえ!!」
俺の手から灼熱の炎が巻き起こり、人喰い鬼の顔を、体を炎に包む。
「ギャァァァァァアアアアア!!!!」
人喰い鬼は炎で焼かれ、灰になって崩れ落ちた。
「まずは一匹。次だ」
俺は奴が死んだのを確認するともう一匹がいるほうへ跳んだ。
「お、おい。どういうことだ?人喰い鬼の子供が殺していったぞ?」
「仲間割れなのか……?」
「それより、人間の言葉を話さなかったか?」
村人たちが何が起こったのか分からず慌てふためいていた。
:*:*:*:*:*:*
「ラスティーの…奴……勝手に……何してんだよ……」
森の中から村に向かってライムがゆっくりと歩いていた。
弾き飛ばされた時にできた傷を引きずりながらも前に進む。
「お前が…お前は……あんな凶悪な奴らと違うだろ…」
歯をくいしばって走り出す。
「あの野郎、俺より小さいくせに調子乗んな!」
ナナとママさんは逃げ回る人々の中にいた。
何人もいたはずなのにいつの間にかもう数人しか残っていない。
他の人はどうなったのか、それは地に倒れる人を見れば明らかだ。
「ど、どうかこの子は、この子だけはお助け下さい!!」
「ママっママっああああっ!!」
人喰い鬼はナナを次のターゲットに選んでしまった。
「μзαлхζω」
人喰い鬼がナナに掴みかかる。
バッとママさんはナナの前に立ちはだかった。
「娘をナナを死なせるわけにはいかないの!」
人喰い鬼は命をかけてナナを守るママさんに躊躇することなくママさんを蹴り飛ばした。
「か、ガハッ……」
「ママっ」
ママさんの口から鮮血が弾け飛ぶ。
人喰い鬼は口を三日月の形にしてニマリと口角を上げる。
ナナからママさんに興味が移ったのかナナを放ってママさんに近づいていく。
「ママに近づいちゃ嫌ーー!!」
ナナが人喰い鬼の動きを止めようと掴みかかるが腕を掴まれゴミのように捨てられた。
ナナの左腕が曲がるはずのない方向にねじ曲がる。
「きゃぁあっ、痛いっ腕がぁっ……」
そして人喰い鬼はナナの目の前でママさんの心臓に腕を突き刺した。
ブシャアアと真っ赤な血が辺りに噴水のように降り注ぐ。
人喰い鬼が腕を抜くと、ママさんの体はぐらりと傾いて力なく倒れた。
「あ……そんな……マ、ママ…?嘘でしょ?ねえ!」
青白くなってしまったママさんの顔はすでに息をしていなかった。
「マ、ママぁぁあああああああっ!!!」
ナナの目から涙があふれ出した。
大粒の涙が頬を伝う。
人喰い鬼はそんなナナに再び掴みかかった。
左腕は機能せず、顔は涙でめちゃくちゃ。
実の母親の死があまりにも残酷で、突然すぎて頭が整理できてない。
ナナにはもう生きるための選択肢が残されていなかった。
「マ……ママっ…う……うゔっ・・・」
「ナナに手を出してんじゃねぇええええええ!!!」
突然、そんな声と共に目の前にいた人喰い鬼が蹴り飛ばされた。
「ラ、ラスティー……?」
ナナの目の前に真紅の瞳、角を生やした少年が現れた。
その姿はどう見ても人喰い鬼だ。
だが、ナナには見覚えのある顔だった。
「……ごめん。ママさん、助けられなかった。俺が来るのが遅かった」
「ラスティー。人喰い鬼だったの…?」
「……だまっててごめん」
俺はナナの方に振り向かなかった。
いきなり蹴り飛ばされた人喰い鬼が再び起きあがったのを見ると俺は迷うことなく正面から人喰い鬼にむかって走った。
「ドッカラ来タノカ知ラネエガ、イキナリナニシヤガル!!」
「そんな事、教えてやる義理はない!!」
魔力を両手に集中させ、横殴りで殴り付ける。
人喰い鬼が近くの家屋に激突し、家屋が衝撃で粉砕する。
だが、そんな攻撃をもらっても人喰い鬼は多少傷が付いただけだった。
「子共ノクセニヤルナ。ケドナ、コレデオ前ノ負ケダ」
人喰い鬼の手の中には刀が握られていた。
家屋の中にあったものだろう。
刀身を魔力で覆い、刀は黒く染まる。
「コレニハ猛毒ガ付加シテアル。フレルダケデ死ヌゾ」
人喰い鬼がその刀を軽く構える。
構えようとした俺が、相手を狙う間すら与えず、人喰い鬼がその刀を振り下ろした。
危険に気づいて咄嗟に跳び上がった俺の目下にはさっきいた地面がもはや地の意味をなくしているのだった。
地面が十メートルから裂け、さらに黒い靄が地を汚す。
草花が一瞬にして枯れていった。
「即死ハ避ケタカ、ダガ、逃ゲテイレバ良イトハ思ウナヨ?」
俺に再び斬撃を送り、避ける間髪入れず、また斬撃が送られる。
相手に近づく隙がないため、避け続けるが、こうも攻撃され続ければ村の被害が大きくなってしまう。
俺は心を決めた。
あいつが刀を振る直前、その一瞬に……。
「っ今だ!!」
俺が掌に魔力を集中させて人喰い鬼を狙う。
火の粉を巻く炎が人喰い鬼に吸い込まれるように放たれた。
炎が着弾し、膨れ上がる。
そして爆発した。
炎が勢いをなくし、鎮まると、その炎の中心にあの人喰い鬼が辛うじて生き永らえていた。
だが、体のほとんどが炭化しているようで横たわっている。
俺は、人喰い鬼の目の前に立つと、そいつを見下ろした。
「タ…スケ……テ……」
「は?散々人を殺しまくったお前が何言ってんだよ」
体を踏みつぶすと、ほとんど炭化していたJからか案外簡単に潰れた。
「ギャァァアアアッ!!」
断末魔を残して人喰い鬼は動かなくなった。
「ラスティー!」
ライムの声が後ろから聞こえてきた。
はっと思わず振り返ってしまった。
ライムは足や腕に怪我を負っていたが、こっちに向かって走ってきている。
「ラスティー!!」
ナナはもう泣きながら俺を呼んでいた。
俺は人間じゃないのに……。
正体がばれたのだからもうここにはいれない。
「来るな」
その言葉でその一帯の空気が止まった。
ライムが走るのをやめてこっちを見ている。
周りで生き残っている僅かな村人も動きを止めた。
「俺は……」
訳も分からず森の奥で目を覚ました俺が初めて会った人間の仲良しな兄妹、ライムとナナ。
ムクラ長老には正体がばれないかドキドキした。
ママさんはとっても親切にしてくてた。
そんな人たちに俺はもう迷惑はかけられない。
「……ありがとう。さよなら」
俺は走った。
今度は本当に振り返ってはいけないと、全速力で。
しばらく森を走っていると、カンっと何かが俺の脚に当たった。
俺が当たったものを拾う。
それはナナから貰った手鏡だった。
鞄も近くに落ちている。
手鏡は一部がひび割れていたが俺はそれを鞄に入れて背負った。
『大事にしてなかったら取り上げるから!』
ナナが言った言葉が脳裏に浮かぶ。
気付けば涙が零れていた。
「何を泣いてんだろ。ははっ」
悲しみの涙が流れているというのに俺は笑っていた。
「ははっははははっ……」
それは、ただの強がりだと、俺が一番分かっている。
「俺は人間を絶対に喰わない。あんな卑劣な奴はぶっ殺す!!」
俺は空に向かって叫んでいた。
「人喰い鬼だけど……出来るのなら、人間として生きたいな」
そう呟かずにはいられなかった。
A:なあB!
B:どうした?
A:あとがきでもシリアスな話って書けるかな?
B:どうした?急に。
A:だってこのあとがき、俺達が騒ぐだけの場所だぜ?
B:まあそうだが。
A:シリアスな展開に読者をぽろりと泣かせて読んでくれる人を増やす!
B:あ……なるほど。でも無理だな。
A:なんでだよ!やってみなきゃ分かんないだろ!
B:第一に、この二人でどうするんだ?
A:んあ……何とかする!
B:それに、お前、絶対シリアスな話は合わないし。
A:そ、そんな!ひどい、あなたはそんな人だったの?
B:お~い、何をやってる?
A:私はシリアスな展開にしたかったのに……しゃらくせぇぇえ!
どかっ(Aの回し蹴り~)
B:ぐはっ、それのどこがシリアスだよ!
A:え~だってむずむずすんだもん!
B:うん。お前は根本的にシリアスが似合わない!
A:ガーン!だったら何が似合うんだよ!教えろ!!
B:ギャグとかコメディとかロリっ娘とか!
A:最後のは……?
B:俺の一押し☆
A:嫌だからな!!
B:何を言っているんだ?お前は元からロリっ娘のくせに。
A:い・や・だ・か・ら・な!