第四話 世界はいろいろな色で出来ている(魔法の解説回)
家にたどり着いたクレイ。両親はまだ起き出していないのだろうか、生活音は聞こえて来ない。
食卓を尻目に、二階へと重い足取りで上がっていく。(余談だが、ク◯ノト◯ガーというゲームの主人公の家と同じ間取りだ。)
自分のベッドを見つけると、着替えもそこそこに吸い寄せられるように寝転び、まどろみの世界へ落ちていった。
*****************************
「_____レイ…クレイ!聞いてるのかクレイ!」
…ん?朝?いやもう昼か?…
『…ん?もう朝?』
クスクスという鳥の声。
「…ほう、私の授業は子守唄とは賞賛に値するよ。あまつさえ寝た時間を気にする余裕があるとは」
『ーー!!』
鳥かと思えばクラスメイトの笑い声だった。そして、そこにはフィルが居た。
『フィル姉!なんでここに…どうして…』
「フィル姉ってどういうこと?それと教師が教室で授業するのは何かおかしいのかな?君も若すぎる教師はダメだ〜とか、人に教える資質が〜とか言っちゃうのかな?ん〜??」
矢継ぎ早に諭すような口調、明らかに怒気を孕んではいるが、表情は笑顔のままだ。この方が怖いのではあるが。あと5人しかいないクラスメイトなんだからヒソヒソ話は丸聞こえだぞ。
しかし…これは夢だ…間違い無い。フィル姉が授業をしてくれたのは最初の1年だけだから。
『これは…その…えーっっと…』
「反省!入学して1ヶ月で弛みすぎ!暗唱!5ページ!”色”とは何か!」
急に教師の口調になった。目が本気だ。明らかに”キレ”ている。夢とはいえ逆らわない方がいいだろう。
『は、はい!それは、人間や魔物だけで無く、この世界のすべての物が持つ力です。』
「そう、では次6ページ!”色”の内、”八色”或いは”色彩とは何か!」
『”色”の内で、最も良く使われる8色です。”八色”は”赤”、”橙”、”黄”、”緑”、”青”、”藍”、”紫”、”鉱”です。この8色を順番に並べ関係性を表した、正八角形の表が”色彩”と呼ばれます。隣合う色は親和性の高い親和色、対して向かい側にある色は対立し合う対抗色です。』
(ようは、人生ゲームの数字のルーレットのように、ダーツゲームの的のように、正八角形が色ごとに分かれているだけだ。)
我ながら模範解答だと思う。当然だ、属性が無いなら、努力をすればいいじゃない。ーーでやって来た。
笑っていたクラスメイトも、今のにはへぇーっという反応だ。
「なるほど、寝るだけの理由はある…と。次!10ページ!”色”ではどんなことが出来る?すべての色の役割を答えよ!」
『はい。
・”赤”ー火や熱の生成、操作、加熱
・”橙”ー信号・通信・念話、精神攻撃 ”赤”及び”黄”の補助と増幅
・”黄”ー光と熱の生成、操作
・”緑”ー風と植物の操作 ”黄”及び”青”の補助と増幅
・”青”ー水と氷の生成、操作、冷却
・”藍”ー信号・通信・念話の妨害、精神攻撃の妨害(能力の妨害) ”青”及び”紫”の補助と増幅
・”紫”ー腐食あるいは毒の生成、操作、(能力の妨害)
・”鉱”ー土と鉱物の操作、”紫”と”赤”の補助と増幅(能力の妨害)
です。”橙”、”緑”、”藍”、”鉱”は補助と増幅の役割が有り、保護色あるいは補助色とも呼ばれます。
”赤”、”黄”、”藍”、”紫”は単一の効果が多いですが、その分効果が高く、増幅を受ければ更に強度が上がります。また、”藍”と”紫”と”鉱”は”色媒”への干渉力が高い為、能力の妨害にも向いています。』
「ほう…勤勉で優秀。では12ページ!”色媒”の説明と”色”の行使方法!」
『はい。”色媒”は色の力を持った物です。例えば、木の葉なら緑の力を持っています。その場合”緑触媒”などと呼ばれます。
”色”の行使には、”色媒”を身につけ、力を使うだけです。』
「そうだ。すべての物は”色”の力を秘めている。ぶっちゃけ、その色の物を身につけるだけだな、注意点としては生身の部分が”色媒”に触れていないと使えない。」
フィル姉の補足だ。クラスメイト全員、特にノーティスは、おぉっと言う反応をしている。
「では、最後。17ページ、”八色”以外の色、”色持ーーあぁ、なんでもない、”不色”とその役割を答えてくれ。」
俺たち”無”色のクラスに気を使ったのだろう、正式名称ではあるが、若干差別的な敬称である”色持不”とは言わなかった。
『…はい。
・”黒”ーすべての色の吸収、破壊、塗潰し
・”白”ーすべての色の再生、復活、色抜き、”色媒”の再生
ーーそして
・”無”ーすべての能力への耐性、戦力の比較、”色媒”の加工と改造
…です。”黒”は魔物だけでなく魔王の討伐及び討滅実績が多く、英雄の色とされています。対して”白”は……「その説明は省いていいよ。」分かりました。そして、”無”はすべての”色”に耐性を持っていますが…”色”を操れません。その他にも”色”を持たない為、”色”使い同士の脅威を推し量り、どちらが強いかを見極めれます。また、ある程度位置を把握も出来ます。また、”色”使いなら干渉し合い不可能な”色媒”の加工や改造も出来ます。』
(ようは、盾職+スカウター+レーダー+鍛冶師だ。便利屋か何かかな?)
「うむ、よーくできました。」
最初の不機嫌さはどこへやら、笑顔で褒めてくれる。こちらが本当の近所でも有名なフィル姉だ。
フィル姉は黒髪ポニーテールの”青”使いだ。16歳ではあるが、大人びた温和な表情の癒し系と言ったところか。
「とはいえ、寝るのは感心しないよ。勉強がすべてでは無いんだからね。」
俺はコツンと、額を小突かれた。
横に座るノーティスが苦い顔をしている。こいつの方が常習犯でフィル姉からしたらもはや指名手配みたいなものだからな。ティント、マイア、ターニアはそんな俺たちを見て揃って笑っている。
「ではクレイ、座ってよろしい。ーーん?どうしたクレイ…クレイ?クレ___
なぜか俺は泣いていた。夢の中で…
*************************************
____レイ…クレイ…おき……起きて…起きなさい。起きなさ〜〜〜〜い!」
耳元で聞き覚えのある声だ!うるさいうるさい!うるさいよ!
『うぁーーーーー!』
一体なんだよ!!と思って体を起こす。母の声だった。
『なんだよ母さん!うるさいよ!』
「あんた、帰ってるなら一言…まぁ、いいわ。朝食、できてるよ。すぐ降りといで。」
『…いや、いいよ。気持ち悪い。』
「また?…成人したばかりなんだから、お酒はほどほどにね。」
『……ん、ありがとう。』
いつもどおりの朝のやりとりだ。何も変わらない。あぁ、ほんと飲みすぎた。
「そう言えば、壮行祭に一緒に行こうって言ってたわよ。勇者仲間のエルディくん。そろそろ来るんじゃない?」
『……っそう。』
そう言って、階段を降りていく母さん。まったく、休みだからって…っとか、誰に似たのかしら…何て小言も遠くで聞こえる。あぁ、飲みすぎて頭が痛い。”黒”でこの痛みも塗り潰せ…るわけないな。
とにかく俺も下に降りよう。時間も無さそうだし今日は水浴びもいいだろう、と考えて着替える。顔見知りしかいない村の壮行祭だ、本番は明後日のノウダランの都での大壮行会だからな。あぁ、もう、きもちわる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
下の階ではリビングに父さんが座っていた。朝食を摂ろうと席に着いたところだったみたい。
「おはよう、クレイ」
『おはよう、父さん』
「…明日だよな、出発は。」
『そうだね、朝には城から”緑”が迎えにくるらしいよ。2刻も掛からないらしい。』
「…そして、魔王討滅の旅へ…か。立派になったな。」
『…昔と変わら無いよ、なにも。』
「いや、勇者になったのは素晴らしい事だ。自慢の息子だよ。___っと誰か来たんじゃ無いか。」
木の扉を叩く鉄の輪の音。来客を知らせる音だ。母の話からすると恐らくエルディだろう。
「クレイ、いるかい?」
エルディの声だ。
『今、行くよ。それじゃ母さん、父さん、出掛けるね』
「「クレイ、行ってらっしゃい。」」綺麗にハモったな。さすがはオシドリ夫婦。
扉を開け、外に出て___すぐに目に入ったのは、エルディとその後ろに佇むカムロのしかめッ面だった。