第一話 あいつ、魔王じゃね?
勇者とはー
人類の中でもっとも勇ましき物、人類の英雄。
魔王とはー
魔なる物の王、魔物の首魁。
誰でも知っている事実だ。
勇者と魔王は反目し合い、絶対に相容れない。
勇者が魔王になる
先ほどの説明が、目の前に立つ王の口からされていなければ直ぐに否定していただろう。
「…ということで、【漆黒のレイ】お前には”第88代勇者遠征隊”の勇者の中から魔王を見つけ出し、殺して貰うワケだ。これは決定事項で拒否権は無い。」
神託はウソ!神は居ない!それだけでも信じられないと言った所にこの話ー
絶対無理だよぉ。って言いたい。
半ば脳細胞の死滅した様な頭の中で、ガウル王の言葉がさらに響く。
「とはいえ、勇者というのは人類の宝で有り戦力だ。皆殺しってワケにはいかねえ。
お前には魔王になりそうな勇者を挙げて貰い、各都の王に誰を殺すかを判断させる。」
ひとときの”魔”の沈黙
『…先ほどから私の身には理解しかねる話が多すぎます。』
ようやく絞り出せた一言。当然だ。
「当然だろうな。だが時間が無い。話を続けるぞ。」
強引だなぁ。もう。なんて考えてしまう。頭が急に悪くなっちゃたよ。
「お前に任せる理由は三つ。
一つは”黒”属性は絶対に魔王にならない。過去の魔王討伐に成功した勇者も”黒”が多かった。」
そっかー。そーなのかー。
「一つはこの地だ。西の果てだからな、東へ旅すれば必然とたくさんの勇者と出会える。」
絶賛勇者募集中!絶対勇者と出会えます!これで私も勇者になれました!ただいま勇コン開催中!
なんて看板が脳裏に浮かんでは消える。
「一つは能力と人格だ。”黒”を持つというのに傲らず、村長や教師、周辺の人民と調和している。」
まあ、いうほどでも無いよ。というか、”黒”は日常生活で役に立たんしな。人に頼るしかねーのさ。
「…とまぁ、こんなとこだ。ところでお前、顔に出やすい奴って言われ無いか?」
………ハッ!俺は今、どんな顔してたんだ??
『申し訳御座いません。話に頭がついて行かず…無学なもので…』
しどろもどろになりながら答える。しどろもどろって、なんか可愛い語感だよね。
あ、またへんなの考えてる。
「…仕方の無いことだ、それに正直は悪いことではない。
…だが、旅の目的や先ほどの話が広まるのは困るぞ。今後はなるべく気を使って欲しい。
これで俺からの話は終わりだが、何か質問や要望はあるか?」
ばつの悪そうな?顔のガウル王と目が合う。
『…恐れ多くも、話の整理がついておりませぬ。少々のお時間を頂ければと考えておりますが…』
よく分からないがとにかくここを離れたくなっていた俺は言葉を絞り出す。
もはや、一滴も、残って、いない
「当然だ。3日の後の”第88代勇者遠征隊”出立の儀が終わり次第、ここへ参れ。
本日はここまでとしよう。あぁ、返礼も退室の挨拶も無用。今後は俺を兄貴のように頼れ。命令だ。」
どんな命令だ!と思いつつも足を引きずるように、さりとて不敬ならざるように私室を後にしようとする俺。
扉の前に立ち、最後に王に向き直り一礼しようとすると…
椅子にふんぞりかえり、最大級に悪い笑顔を浮かべたガウル王が居た。
「おい【漆黒のレイ】。王とは言え、もはや俺とお前は対等な関係だ。断ることも厭わぬぞ。
おうそうだ、神は居ないと言ったな。神の不敬罪は個人の斬首権限も有る。神託を語るのも例に無い大罪だ。勇者が魔王になるなんて侮辱もしちまったな。そしてお前は…そんな俺と”対等な関係”だ。分かるな。」
そうだ。俺も16歳だ。全て分かってる。少し頷いて、部屋を出た。
そして息を一つ。
あれ?あいつ、魔王じゃね?
書き溜め分がハケるまでは毎日投稿します。
次回は勇者遠征隊の説明、次々回は魔法の説明かなぁ