吸血鬼殺しの告白
~ここまでのあらすじ~
洞窟内で迷い、遭遇したミイラに血を吸われた天地一国は逆にミイラのような姿になってしまったが吸血鬼として復活。
一国を襲った吸血鬼はカルレオーノ・ホテチトップス・ウセシオジオとして復活し一国を中食奴隷人と呼び下僕として動けと命じた。
一国ミイラは血が足りなさ過ぎて喋れない、能力なし、体力なし。
カルレオーノの逆鱗に触れる度にバラバラにされ再生する。それくらいの取柄しか無い最弱吸血鬼。
だがミイラになった事で研ぎ澄まされた五感により風の流れを読む事で洞窟迷路を脱する事に成功した。
一国の記憶を読んだカルレオーノは以前に襲った町の様子と現代(日本)がかけ離れた生活環境である事に驚きを隠せない。
そしてその記憶の映像でカルレオーノを火あぶりの拷問にかけた下食奴隷のリーダーと一国が町で会っていた事を知るのだった。
~特殊名~
亜徒類・・・純粋な吸血鬼一族
姉徒麗・・・姉
弟徒君・・・弟
下食奴隷・・・人間全般、エサ、奴隷
中食奴隷人・・・吸血鬼となった人間、下僕
極万年・・・凄い長い年月
牙毒感染・・・牙によるウィルス感染
髪々通信・・・髪と髪を合わせる事で会話が可能になる喋れない一国の為の通話方法
亜徒蘭血国・・・吸血鬼の国
血国王・・・吸血鬼の王
静寂の洞窟内。
眠りから目覚めたカルレオーノは立ち上がり、傍らで気絶しているかのように眠りに落ちている一国を見つめていた。
カルレオーノは夢の中で過去の出来事の幾らかを思い出す事ができた。
しかし解せぬ!謎が残る。
下食奴隷のリーダー・・・。
町中に張り巡らされた罠の数々・・・。
3日目の銃声が聞こえてから我と姉徒麗は洞窟に戻った。そこで2日間、弟徒君を待ったが帰って来なかった。
その2日間に下食奴隷共は亜徒類に対抗する為の準備を行った事になる。
戦争になる!それを想定しての準備を。
我らの動きを止める弾丸、捕らえる為の罠、木の杭や張り付けにする為の柱などの用意。
奴は亜徒類の襲撃に事前に備えていたとしか思えない。
あの言葉もそうだ!
「行き方を教えるんだ。お前らの国への行き方を。洞窟から行けるんだろ?」
知っていた!この世界と亜徒蘭血国を結ぶ洞窟の存在を!
捕まった姉徒麗や弟徒君がしゃべるハズは無い!その存在も前から知っていたという事だ!
まだある!
奴が亜徒蘭血国の行き方を知ってどうする!?
行ってどうする!?
下食奴隷1匹如きに何ができる!?1匹のアリがアリクイの巣に行ってどうするというのだ!
イヤ違う!そこじゃない!奴は行き方を知りたがっていた、にもかかわらず洞窟が亜徒蘭血国に通じる事を知りながらも洞窟に入っていない。
傷ついた我を追って洞窟内に入る事もしていない。入っていたら抜け出せないはずなのだ。
確かめる必要がある!奴が単なるアホウか、我らの脅威になり得る思惑があるのかを!
カルレオーノは眠ったままの一国を横目に洞窟の出口に向かった。
日はすっかり落ちている。
カルレオーノの足元には一国の私物と思われるカバンやお菓子、携帯電話の充電器など諸々が乱雑に散らばっていた。
カルレオーノはその中の腕時計を手に取り時間を確認した。1時を指していた。
カルレオーノは両手を水平に上げコウモリを呼んだ。
コウモリ達がカルレオーノの体中を覆い体内に吸収されるように潜り込むとそこから全身を黒で染め上げた。
巨大なコウモリの羽が背中に生え、カルレオーノは洞窟から飛び立った。
姉徒麗!弟徒君!お前ら本当に殺されてしまったのか!?
漆黒の暗闇の中、黒い影が猛スピードで町へ向かう。
上空からポツポツと町の明かりが灯っているのが目に見えた。
なるほど、町がまだ寝ておらんわ。
家の屋根に降り立つと、屋根から屋根に飛び移り一国の記憶の映像にあったバーを探す。
バーの建物の外観は脳に焼き付けている。小さな田舎町だ、さほど時間は掛かるまい。時間が掛かろうと必ず探し出す!
バーは閉まっているかもしれないし、バーを住まいにしているとも限らない。一国が言うように別人の可能性もある。
その時はその時、後先考えるより行動が先行していた。
カルレオーノを見た時、男がどう反応するかが見たかった。
さほど時間も掛かる事なくバーは見つかった。一国の記憶にあった通りの建物だ。
バーの正面の建物の屋根からは中の様子は分からなかったが明かりが灯っている。まだ中に誰かいるようだ。
姉徒麗ほどの精度は無いがカルレオーノも風を読むことが出来る。目を閉じて集中する。
風の流れを感じ中の様子を把握するのだ。
カウンターの中に1人。客らしき2人組がテーブルに居る。
この2人の客が出た時に襲撃する!今すぐに飛び込んで行きたい衝動をカルレオーノは何とか抑え込んだ。
じっと待つ!獲物が単独になるのを。
2、3質問し返答次第で首に風穴を開け毒を流し込んでやる!
中食奴隷人になれば我に完全服従する。毒に耐えれなかったとしても死ぬまでに猶予がある。その間に聞きたい事を吐かせてやる。
どちらにせよ奴は終わりだ。何者かしらんが我を敵に回した事を後悔するがいい。
バーのドアが開き2人の客がバーから出て来る。フラフラの足取りでお互い違う方向に歩いて行った。
姿が見えなくなるのを確認するとカルレオーノはバーのドアの前に降り立ち躊躇もなくドアを開ける。
「いらっしゃ・・・。」
バーのマスターは全身黒く眼だけが鋭く見開いている異様な男の存在に一瞬言葉を失ったが直ぐ冷静さを取り戻した。
「おやおや、珍しいお客さんだねぇ。」バーのマスターはカウンターの中で洗い終わった水滴の付いたグラスを拭く手を止めた。
カルレオーノはバーのマスターの顔を確認し、その顔が過去に自分を火あぶりにした下食奴隷のリーダーの顔だと認識した。
その瞬間理性を失う。事前に考えていたプランなど脳内から消し飛んだ。
髪が逆立ち、瞳孔が開くのを感じた。
カルレオーノは次の行動を考える前に飛び出していた。
凄まじい突進にカウンターが吹き飛びその破片が空中に舞う。
右手でマスターの頭、左手でマスターの右肩を掴み中央からこじ開けるように力を入れ首筋をあらわにすると、その部分を噛みにかかった。
首筋に牙が突き刺さらんとしたほぼ同時にカルレオーノの腹にショットガンが押し付けられカルレオーノの動きが一瞬止まる。
ショットガンの引き金と共にカルレオーノ体はドア横の窓を突き破り吹き飛んだ。上半身と下半身が千切れ少し離れた場所に転がった。
その状態で一時の間静止した後、千切れた上半身と下半身が共に引かれ合うようにズリズリとゆっくりと距離を縮め始める。
「吸血鬼というのは招からざる家には入れないんじゃなかったのかい?ルールを無視するんじゃないよ。・・・と、以前にも同じ事を言った気がするなぁ、お前さんの仲間に。」
マスターはショットガンの充填を終え構え直しながら言った。
「浴びせた銃弾は銀の弾丸じゃない!大したダメージにはなってないだろう?」
「貴様!やはりあの時の下食奴隷か!」上半身のカルレオーノは肘で起き上がりマスターを睨み付ける。
「下食奴隷・・・か。お前達吸血鬼が餌として蔑む人間の呼び名だったなぁ。相変わらず自分たちが頂点のような言い草だ。呆れるねぇ。あれだけ痛めつけてやったというのに。だから足元をすくわれる。」
「お前とは60年振りといったところかぁ。安心しなぁ警察も来ないし、面倒なやじ共も来ない。この町は俺の支配下だからさぁ。」マスターは片手でショットガンを構えつつ、左掌を天に向けジェスチャーした。
カルレオーノの上半身に下半身が密着し接合面の修復が始まっていた。
「腑に落ちないかい?60年振りという割には同じ顔だからなぁ。ハハハ!俺も人間では無いからさぁ。」
「何者だ!貴様!」
「その質問に答えるにはぁお前らがこの町に来る更に前の話をしなければならないが・・・。いい機会だ。お前らが決して頂点では無いというお話をしてやろう。ちと長いが聞いてくれるかい?」
バーのマスターはゆっくりと話始めた。
「俺がこの町に呼び出された時には既に吸血鬼に襲われ荒廃していた。お前らが襲撃する10年前といった所かなぁ。詳しくは忘れたがね。驚いたかい?俺が出会った吸血鬼はお前らが初めてじゃないんだぜぇ?」
マスターはカルレオーノの発する言葉を期待したが、特に反応を示さなかったので再び話始めた。
「まあいいや。吸血鬼に襲われ死亡した人間が家の中で腐乱し、奴隷にされ廃人になった吸血鬼のなれの果てが町を徘徊する始末だ。その吸血鬼は1匹だったが住民が寝静まった夜中にひっそりと行動を起こしていた為に化け物の存在に気付いた頃にはパニックで町の住人に判断力など失われていた。
町の権力者や警察などは既に殺されるか奴隷にされていて抵抗できる人間は残っていなかった。やりたい放題の怪物に手出しできず生き残っていた人間達は町の古びた教会に集まり怯えて夜を過ごすしか無かったんだ。
実はその教会も町の住人にとっては忌み嫌う場所でな、普段は誰も寄り付かなかったんだが神にもすがる想いで教会に集まった。今から70年前の田舎町に吸血鬼なんて存在は知られていなかったのだが幸いな事に巨大な十字架が吸血鬼の侵入を防いでくれたのさ。
吸血鬼共が夜だけしか行動しない事に気付いた住人たちは昼間にできるだけ食料を教会に集め対策を練った。町の外へ助けを呼びに行く者、吸血鬼に有効な武器は無いか画策する者も現れた。
だが所詮は田舎者の集団、有効な手段など思い付くはずもなく、助けを呼びに行った者も一向に戻ってこない。
教会のガラスは投げられた石で全て割れ、夜には扉にゾンビのように何人もの吸血鬼のなれの果てが張り付き、教会の長椅子でバリケードを作り侵入を防いでいたものの、何がキッカケに教会内になだれ込んでくるか分かったものではない不安は常にあった。
夜は寝れず住人は精神的に壊れていった。
そんな中、追い詰められた見た目十代の若者がポツリと言ったのさ。
『悪魔に助けてもらおう』」
「そう・・・。
かつてこの町には悪魔崇拝が蔓延っていて住民が一丸となって排除した過去があるのさぁ。教会にはその名残があった。
食料の備えなども無くなり水だけで過ごすにはあと数日が限界、そんな不安が誰の頭にもあっただろう。
『悪魔に助けてもらおう』その言葉に反対する奴も賛成する奴もいない。もうまともな精神の奴なんざ残っていなかっただろうねぇ。
『子供が訳の分からない事を言い出した。ほっとけ。』くらいに思っていただろう。
住民たちは2階の仮眠室のような部屋で十数人が固まるように過ごしていたが、その若者はふらっと立ち上がり1階に降りて行った。
そして祭壇から地下への入り口を開き降りて行ったんだ。
なぜその若者が秘密の入り口を知っていたかって?それは彼が隠れ悪魔崇拝者だったからさぁ。
大人しく口数も少ない何を考えているか分からない若者だったが、そういう一面があった事に対して納得って感じの雰囲気はあったろうさ。
小一時間ほどして若者は2階へ上がってきた。大人達は何気なく彼を見たんだがギョッとして言葉を失った。手には包丁が握られていたからね。
若者は住人たちを一瞥して狙いを定め包丁を振り上げ突進した。狙われた女はヒッと悲鳴を上げ抱えていた赤子を庇うかのように背中を向けて丸まった。
若者は包丁で脅かし赤子を連れ去るつもりだったが女が強く赤子を覆っていたので引っ張りだすことが出来なかった。
他の住人を見回し、自分と同じか少し年下の少女の手を掴み連れ去ろうとした。
少女はイヤッ!イヤッ!と抵抗したが包丁を突き付けられ強引に引っ張られていった。大人達もやめろ!と言い若者を説得しようとするが包丁を振り回され近づくことができず、若者を止める事が出来なかった。
若者は少女を連れ祭壇の地下に入ってしまった。内側から鍵を掛けられ大人たちは入る事が出来ない。
大人達の中心になっていたガストという人間が何とか入り口をこじ開けようとしたが無理だった。
少女の連れ去った目的が生贄である事は明白だったので無駄だと分かっていながらも扉をガンガン叩いて叫んだ。
どうする事も出来ない。頭を抱えて若者が出て来るのをジッと待つしかなかったんだ。
そして扉が開いた。」