亜徒蘭血国(アトランティカ)~復興計画~
~ここまでのあらすじ~
洞窟内で迷い、遭遇したミイラに血を吸われた天地一国は逆にミイラのような姿になってしまったが吸血鬼として復活。
一国を襲った吸血鬼はカルレオーノ・ホテチトップス・ウセシオジオとして復活し一国を中食奴隷人と呼び下僕として動けと命じた。
一国ミイラは血が足りなさ過ぎて喋れない、能力なし、体力なし。
カルレオーノの逆鱗に触れる度にバラバラにされ再生する。それくらいの取柄しか無い最弱吸血鬼。
だがミイラになった事で研ぎ澄まされた五感により風の流れを読む事で洞窟迷路を脱する事に成功した。
一国の記憶を読んだカルレオーノは以前に襲った町の様子と現代(日本)がかけ離れた生活環境である事に驚きを隠せない。
そしてその記憶の映像でカルレオーノを火あぶりの拷問にかけた下食奴隷のリーダーと一国が町で会っていた事を知るのだった。
~特殊名~
亜徒類・・・純粋な吸血鬼一族
姉徒麗・・・姉
弟徒君・・・弟
下食奴隷・・・人間全般、エサ、奴隷
中食奴隷人・・・吸血鬼となった人間、下僕
極万年・・・凄い長い年月
牙毒感染・・・牙によるウィルス感染
髪々通信・・・髪と髪を合わせる事で会話が可能になる喋れない一国の為の通話方法
亜徒蘭血国・・・吸血鬼の国
血国王・・・吸血鬼の王
「貴様!下食奴隷のリーダーに会っているな!」
カルレオーノは激しく激昂し、一国の襟を掴んで持ち上げた。
下食奴隷の・・・リーダー?
「分かりません・・・誰の、事だか・・・。」
「見せてやる!こいつだ!」
カルレオーノが強く念じると髪を通じて一国の脳裏に鮮明に映像が映し出された。
これは主様の目線?
自分の体を確認する。胸には杭が突き刺さっている。両手両足が無い。
体は地面から浮いている。
体を捻る度にガチガチと鉄が音が鳴る。体を固定されている。
目の前には松明を握る男。炎で顔が良く分からない。男がしゃべる。
「行き方を教えるんだ。お前らの国への行き方を。」
男は火の点いた松明を主様の体に押し付ける。グリグリと執拗なまでにねちっこく。火は瞬く間に全身を流れ、目の前が真っ赤な炎で覆われる。
全身が火に包まれ高熱で肌は焼けただれる。ブチブチグツグツと肌が焼ける。表面の肌が焼けると焼けた個所から体液が出て薄い膜が出来る。
修復を行を行っているのだ。だが修復した箇所がまた焼けただれる。修復と焼ける事が繰り返される。
体を激しく捻る!金属音が鳴り響く。焼ける焼ける焼ける。
「熱いか?熱いのか?どうなんだ?火は大したダメージにはなり得ないか?」
体に刺さっていた木の杭が徐々に黒く炭化してゆく。その度に一度水で火を消し再び心臓に新たな杭を打ち付けた。
そいつは嬉しそうに笑う。顔を嫌らしく歪め笑う。
「私はお前の殺し方を知っているんだ。仲間が一人いないだろ?生きていたらお前らを助けに来るかもしれないなぁ、でも絶対に来ない!なぜなら・・・死んだから。私が殺したんだ。」
「喋れ!隣の仲間も殺すぞ!」
それでも一向に喋ろうとしない。男はオイルをぶっ掛け再び火をつけた。
「喋るまで何度も繰り返す!」
主様の無念怒り様々な感情が唸りとなって一国の脳裏に響いた。
何だこれは!酷い!拷問じゃないか!吸血鬼だからとはいえ生きている者に対してこんな残酷な事が出来るのか!?
信じられない!この人がこんな事をするなんて!
そこに映し出された男は
一国がお金を騙し取られ意気消沈していた時にミルクを出してくれ、「異界の裂け目」までの行き先をメモに書いて渡してくれた、一国に唯一この国で優しくしてくれたバーのマスターだった。
バーのマスターが・・・そんな!
一国がバーで親切にしてくれたバーマスターと顔が全く同じ、あの時と寸分変わらぬイメージ。
同一人物。一国はそう感じた。
分かったか!カルレオーノが一国の襟をパッと離した。
「そ・・・その男をどうするつもりなんでしょうか・・・?」
「知れた事!姉徒麗と弟徒君の場所を吐かせて殺す!それだけだ。」
「で、でも、まだ同一人物と決まったわけでは。主様が眠る前と現代で永い年月が流れていたら本人の訳がありません。」
「そんなものは会って確かめればよい事!」
これ以上議論の余地は無い。そんな有無を言わせぬオーラがあった。
そのまま腕を組み横になり一国に背を向け眠ってしまった。
本当に本人?時代背景はどうだ?主様が火あぶりを受けてから現在まで数年しか経っていないなら容姿が変わっていなくても納得できる。主様の記憶からはハッキリとした時代背景は分からなかった。かなり昔のようにも感じる。数十年の開きがある?でも確証は無い。
主様の拷問がかなり昔の事ならバーのマスターは息子や孫だという事も考えられる。
あのバーのマスターが主様の言う下食奴隷のリーダーとはどう考えても重ならない。
そんな迷いはありながらも、今は旅に出てからようやく訪れた平穏な時間。身体が回復を求めて急激な睡眠状態に陥り深い眠りに誘われた。
「風だよカル。風を読むんだ。」姉徒麗がそう言いながら歩いている後ろをカルレオーノは欠伸をし半分寝ながら歩いていた。
「外から吹き抜ける風の流れを読みながら進むんだ。そうすれば幻覚に惑わされず洞窟出口まで辿り着く。聞いてるのかカル!」
「全然寝たりねぇよ姉徒麗。あぁ眠い。もうちょっと寝てからにしないか?」
「ったく!国を背負う覚悟があるのか!お前は!」
「全く無いんだがね・・・。姉徒麗がやればいいさ!一番やる気のある奴がやるべきだ。弟徒君もそう思うだろ?」
「血国王の決定は絶対です。兄徒君に決まったのだから覚悟を決めて下さい。」
カルレオーノの横を歩く弟徒君と呼ばれる少年が無表情のままそう言った。
「あたしはあくまであんたのサポート!亜徒蘭血国はピンチなんだ!ここであんたが国を救い英雄として祭りあげられれば亜徒類はあんたを王として認めて着いてくる。」
「あぁ面倒くせぇ。俺の事は放っておいて欲しいぜ!自由気ままに生きさせて貰いたいもんだねぇ・・・。」
「自由気ままに生きたいなら、あんたの手で現状を何とかしな!」
「フンッ!で?どうピンチなんだ?」カルレオーノはやる気なさげに聞いた。
「ハァ~。もうちょっと現状を把握して欲しいねぇ。弟徒君!」
「はい。亜徒蘭血国は食糧難に陥っています。下食奴隷の人数が圧倒的に足りません。この洞窟に迷い込んだ下食奴隷を亜徒蘭血国で飼っているわけですが、彼らの寿命が尽きていっています。亜徒蘭血国に来る下食奴隷も年々減っており亜徒類に行きわたる血の量が毎年減っているのです。」
「下食奴隷の血を抜いてあたしらが頂くわけだけど、毎日血を大量に抜くと奴らは著しく弱る。奴ら自身、自給自足で回復しなくちゃならないのに働く事もままならなくなる。奴らは弱い。そして老いて死ぬ。」
「中食奴隷人にできれば老いの心配は無くなるけど、大半の下食奴隷は牙毒感染に耐えれない。むやみに噛むわけには行かないんだ。」と険しい顔の姉徒麗
「毒に耐えられる薬の研究は進んでないのか?」
「進めていますけど、まだまだ時間が必要なようです。」
「あたしらが今やらなくちゃいけない使命は、こちらの世界で出来るだけ多くの下食奴隷を中食奴隷人にして亜徒蘭血国に送り込む事。それと大量に下食奴隷を亜徒蘭血国に送り込む事が出来るルートの確保!」
「下食奴隷の国を我々が支配するという選択は消えたのか?」
「太陽を克服しなくちゃ無理だね。逆に全滅させられるのがオチさ!奴らは個々は弱いが徒党を組むと厄介だ。息まいて出て行った先人達も結局共存を選んでいると聞く。下食奴隷共の食事を我々も摂取できるからね。能力は著しく低下するが・・・。」
「ケェ!共存だと!餌と共存!?下食奴隷如きに情けねぇ!!」
「いいだろう!俺が支配してやるよ!カルレオーノの名の元に全ての下食奴隷を屈服させてやろう!」
洞窟の出口付近にたどり着いた3人は水たまりのある少し開けた空間で人間が完全に寝静まる時間を待つ。
「いいかい?撤収は朝日が昇る1時間前だ!それまでは少数で住んでいる家から下食奴隷を襲う。中食奴隷人になった者はこの洞窟へ向かうように指示するんだ!」
「町の下食奴隷全てを襲うまで何日でも続けるよ!この町を拠点に襲う範囲を広げるんだ!」
静かに頷く2人。弟徒君が腰の袋から懐中時計を取り出す。
「もう寝静まっている時間ですね。行動に移しましょう。」
3人が手を真横に広げると、途端にコウモリ達が激しく飛び回り3人の体に吸い寄せられベタベタと張り付いてゆく。
張り付いた部分からズブズブと体内に沈み込み、その部分を中心に黒い塗料で全身を染め上げて行くかのように広がって行く。
3人は影さながら、黒いシルエットのような出で立ちで眼だけが光っていた。
背中から黒く巨大なコウモリの翼が生え洞窟内から飛び立った。
町に着くと3人は家の屋根に静かに降り立つ。
「まずあたしが風を読む!1人で住まう家から襲うよ!下食奴隷に姿を見られた時点で撤退!一度洞窟へ戻るんだ!」
吸血鬼といえど壁をすり抜けて家に入る事は出来ない。どこかしらかの隙間からコウモリを侵入させ窓の鍵を開けさせるのだ。
あくまで静かに、住人に悟られる事無く行う。
最初の2日間は順調で十数名の中食奴隷人を亜徒蘭血国に送る事ができた。
だが3日目に事件が起きる。
ガァ~ン!!ガァ~ン!!
寝静まった静寂の町に銃声が鳴り響いた。