吸血鬼には想定外の世界
~ここまでのあらすじ~
洞窟内で迷い、遭遇したミイラに全ての血を吸われた天地一国は逆にミイラのような姿になってしまったが吸血鬼として復活。
元ミイラは吸血鬼カルレオーノ・ホテチトップス・ウセシオジオとして復活し一国を中食奴隷人と呼び下僕として動けと命じた。
一国ミイラは血が足りなさ過ぎて喋れない、能力なし、体力なし、バラバラにされても再生する。くらいの取柄しか無い最弱吸血鬼。
しかし一国は主人であるカルレオーノですら脱出できない洞窟迷路を風を読む事で脱出できると断言した。
~特殊名~
亜徒類・・・純粋な吸血鬼一族
姉徒麗・・・姉
弟徒君・・・弟
下食奴隷・・・人間全般、エサ、奴隷
中食奴隷人・・・吸血鬼となった人間、下僕
極万年・・・凄い長い年月
牙毒感染・・・牙によるウィルス感染
髪々通信・・・髪と髪を合わせる事で会話が可能になる喋れない一国の為の通話方法
主様ですらこの洞窟には迷っておられる。それは主様が通った風の道しるべを感じれば分かる事だった。出口へのルートからはかけ離れた道を進んでいたからだ。
つまり主様は僕を頼っておられる。
出口へと導くのが僕の使命!!
しかし近い!めちゃくちゃ近い!主様と自分の距離が近すぎる!
一国が歩くすぐ後ろをピッタリとカルレオーノはさほど間を開けずに着いてきてた。
一国の歩くスピードが遅すぎるのが原因なのだが、2人との距離が近すぎて気が気では無かった。
なんせカルレオーノは全裸なのだ。一糸まとわぬ姿で直ぐ後ろを着いてきているのだ。
振り向けばすぐ目の前にむき出しの股間があるというのは背後から針の壁が迫っているかの如く緊迫感があった。
僕が急に止まったらあれが僕に付くんじゃないか!という距離だ。
なるべく急いで歩き、間をとらねば!
全く隠す素振りも無く堂々としている佇まいは器の大きさなのか、それとも単に立派な物を見せて自慢したいだけなのか、どちらにせよ主様くらいになると恥ずかしいという感覚を持つ人間の方が恥ずかしいのだろうな。と勝手に解釈した。
あ!一国は足を止めた。止まりたくは無かったのだが止まらざるを得なかった。
目の前は壁!行き止まりに捕まってしまったのだ!
もし風の流れに身を任せていたのなら決して行き止まりには捕まらないはずなのだ。
あ・・・あ。
一国は青ざめた。確かに一国は風を感じ風の流れを辿って来たはずだったのだ。
こんなはずでは・・・。
「どうした?」カルレオーノの方から自分の髪を一国の頭に接触させ説明の要求を迫ってきた。
カルレオーノの圧力に一国は後ろを振り向けない。
一国は恐怖を感じた。こんなゾンビのような姿になっても、バラバラにされても再生するような存在になっても人間の時に感じた同じような場面での恐怖は拭えていなかった。
怒鳴られるのが恐怖なのではない。叩かれるのが恐怖なのではない。叩かれてバラバラにされる事なんて大した事ではない。
本当の恐怖は・・・期待させておいて裏切り、幻滅される事!
一国が人間だった頃に感じた最も強い恐怖、それは幻滅される事だった。
幻滅されるくらいなら初めから期待などさせない方がマシ!人間の時にそう思ったはずだったのに!
しかも相手は主様!傍若無人で傲慢でおよそ人の話など聞きもしない信用もしないといったオーラ全開の主様がこんな僕に期待してくれたのだ!
主様からしてみれば過去に類を見ない行為だったかもしれないのに!
「フンッ!やはり貴様に期待したのが間違い、下僕の中でも最底辺の下僕であったわ。」
そう思われたに違いない!!
幻滅させてしまった!!
「分かると思います。風の流れを辿れば。」
なぜあの時自信満々に言ってしまったのか!
もっと曖昧に、勘が半分くらいありますのであまり期待しないで下さいよ。くらいに言っておけば良かったんだ!それなら笑って済ませれたかもしれないのに。
一国はカルレオーノの「どうした?」という説明の要求に答える事ができず目をつむってしまった。
「この壁は幻覚だ。」
先に言葉を発したのはカルレオーノであった。
「フンッ!幻覚の壁か、そういえば以前に姉徒麗が説明していたな、半分眠っておったのでまともに聞いていなかったわ。確かにこの壁の先から微かに風を感じるようだな。」
「問題ない!進め。」
「は!はい!」
一国は胸が震えるのを感じた。
普通は信じない。目の前に壁があれば普通は失敗したと思う。幻滅する。
主様は人に期待しない!でも一度期待したら期待し通す!この件に関しては僕を信じてくれたんだ。
そういう人なんだ!
今度こそ期待に応える!
そんな気持ちが一国に芽生えていた。
目の前の壁を両手で押すように進むとスッと壁を通り抜け、先には通路が続いていた。
「なるほどな、壁に傷を作っても、幻覚の壁で覆い傷を消しているわけか。幻覚も我ら亜徒類の能力の1つ・・・まったく、眠り過ぎて鈍っておるな。」
壁を触りながらカルレオーノがイラつきながら言った。
普通の人間だったら幻覚の壁なんて見抜けずこの迷路からは絶対抜け出せないだろう。
主様の言葉から察するにこの洞窟の幻覚を作り出しているのは主様の一族のようだった。
そこからは順調に歩みを止める事無く進み続ける事ができた。
徐々に風の流れが強くなって行くのを感じる、出口は近い。
幻覚の壁を何度か超え、ようやく見覚えのある風景にたどり着いた。
壁と壁の間にロープが渡されており、一国の服などがそのロープに干されている。
「主様!あのロープを超えた左の先が出口です。」
「言わずとも風で分かるわ!」
カルレオーノが一国の頭を鷲掴みにし一国を追い抜いた。
カルレオーノがロープに差し掛かった瞬間ロープが切れ下に垂れた。
あ!一国の目にはロープがひとりでに切れたように思った。主様が何かしたのか?
カルレオーノはそれを乗り越え左へ曲がる。
カルレオーノが左に曲がった時、出口から丁度洞窟に太陽の光が差し込んでいた。
直射日光ではないがカルレオーノは太陽の光を浴びてしまった!
身体がプクプクと小さな水ぶくれを起こしそこから蒸気が立ち上った。
「うぬっ!!」
カルレオーノは素早く地面を蹴りバックステップで一国の近くへ戻って来た。
そして一国を睨んだ。
「貴様!」
一国を睨む目は、貴様!我を謀ったな!と言っていた。
一国は違います違います!何で僕を睨むんですか!と首を振った!
世界にまつわる吸血鬼の物語では吸血鬼は太陽の光を浴びると消滅してしまう。
主様の一族が伝説にある吸血鬼である事はここに証明されたと言える。
吸血鬼となった一国も太陽の光で消滅してしまうということだ。
もう太陽の元を自由に歩けないのだ。
「寝床を用意せよ!」
一国がポカンとしている。
「2度言わすな。下食奴隷共が寝静まるまで寝ると言うておる!」
は!はい!一国は心の中で返事をしてシャキッとした。
でも、寝床?ベット?布団?吸血鬼だから棺か???ヤバい!どうすれば正解なのかさっぱり分からない!一国はオロオロし辺りを見回した。
取りあえず一国は砂利を手で払いのけ、地面に砂利の無い縦2m強、横1.5mほどの長方形の場所を作った。そしてカルレオーノの方をちらりと見た。
一国を睨むその目には、強い殺気が籠っていた。
ここで寝ろというのか!貴様!燃やすぞ!という目だった。
ヒィ!ヤバイ!一国は焦った。
まだ待って下さい!まだ続きがあります!というジェスチャーをしてまたオロオロして辺りを見回した。
そうだ!一国は何かを思い付きロープを超え曲がり角から洞窟の出口がある方へ顔をのぞかせた。洞窟から太陽の光が差し込んでいる。熱っ!
のぞかせた顔が一瞬で熱くなった。真夏の熱せられたアスファルトに触れるような感覚だった。
直射日光でなくても、薄明かりだとしても壁に反射した太陽の光は吸血鬼の肌を焼くのだ。
直射日光でなければ大丈夫だ。
一国はロープの方を見ると干してあった服やタオルなどで頭や体を覆い、意を決して出口の方へ飛び出した!
熱い!服で身体を覆っていたとしても火傷のように肌にダメージを与えているのが分かった。体の所々から蒸気が立ち上る。
一国はレジャーシートを素早く取り暗がりへ戻ってきた。
ダメージも大した事は無く何とか無事に生還できた。
一国はレジャーシートや服、タオルなどを抱え、先ほどの長方形のスペースに服やタオルを敷き、その上にレジャーシートを被せた。
そしてまたカルレオーノの方をちらりと見た。
カルレオーノは「フハハ」と笑い「中々見せるではないか」と言った。
「今回はこれで勘弁してやろう」そう言いながらレジャーシートの上に寝転がった。
どうやら合格したようでホッとした。
「下食奴隷共が完全に寝静まるのは大体8時9時くらいであろう。その頃に起こせ!」
時間の概念はあるのか・・・でも寝静まるのが20時21時というのはちょっと早すぎるんじゃないか?と一国は思った。
もしかしたら主様がミイラになる前と現在とでは時代背景が違うのかも。
伝えるべきか・・・どうしよう・・・。
こちらから話しかけるのは気が気では無かったが、後でややこしい事になるかもしれないから伝えておこう。
一国は意を決して眠ろうとしているカルレオーノとの髪々通信を行った。
「主様。お話が・・・。」恐る恐る話しかける一国。目を見開き睨み付けるカルレオーノ。
ヒィィと、泣きそうになりながらも今の時代は8時9時には寝ないのだと教えた。
「この国は知りませんが、日本だと若者は朝方まで起きている人も多いです。僕はそうでした・・・。東京などは眠らない街として有名で基本的には誰かしら起きているかもしれません。」
カルレオーノは流石に驚いたようでその話に食い付いた。
「何だと!寝ない奴もいるのか!」
「寝ないわけではないのですが、かなり不規則になっていて、朝方から寝たり・・・皆が一斉に寝るという時代ではないですね。」
「うぬ!我がこちらに来ていた時代とはいくらか変わっているようだな。もう少し今の事情とやらを知る必要があるかもしれん・・・。」
カルレオーノは少し考えた後「貴様が生きていた時の事を強く思い出せ。」と言った。
え?僕の記憶から髪を通して映像も伝える事ができるのかな?言葉だけじゃなかったのか。そんな事もできるなんて便利だな、と思うと。
「余計な事を思うな!」と怒られ「すいません!」と誤った後、生きていた時の事や一般的な日本の生活などを強く思い浮かべた。
カルレオーノの脳裏に現代の生活の映像が次々と映し出された。
「何だこれは!全く理解できん!何もかもが違うではないか!これは何をしているのだ!」
カルレオーノの顔は徐々に険しい顔になっていった「意味が分からん!」
カルレオーノは一旦髪々通信を制止し頭を掻いた。
何の意味が分からなかったのだろうか?朝までパソコンでネトゲをしていた事だろうか?そう思うと一国は少し恥ずかしかった。
一国は少し険しい顔になりながらカルレオーノに話しかけた
「ちなみに主様の一族・・・現代では吸血鬼、ヴァンパイアと呼ばれててその物語が全世界で広がっていまして、弱点なども全てさらけ出されています・・・。主様からすれば恐ろしく不利だと申しましょうか・・・。」
「何ぃ!どういうことだ!なぜ広まった!」
「すごく昔からある物語なので・・・書物とか・・・。もしかしたら遠い昔に主様のお仲間が捕まるかして研究されたのかもしれません。」
一国は吸血鬼に関しては漫画や小説、ゲーム、映画などから知識を得ていた。
吸血鬼は人間の血を吸う。吸われた人間は吸血鬼になる。鏡に映らない。狼やコウモリになる事ができる。不死身だがニンニク、十字架。聖水が苦手、木の杭を胸に打たれると死ぬ。太陽の光で死ぬ。後は、何かあったかな・・・?
一国がカルレオーノに伝えた知っている吸血鬼に関してはそんな所だった。
「まさか下食奴隷共にそこまで知られていようとは・・・。我らが追い詰められた時にはすでに弱点を知られていたという事か・・・。」
「フンッ!だがかなりの脚色も含まれているようだな、まだ浅い。今度こそ我ら亜徒類が下食奴隷共を支配する!所詮は我らの餌!食物連鎖の頂点は我々なのだという事を下食奴隷共に知らしめてやるわ!」
「現代の仕組みなどもう良い!追々知る事。貴様がここに来る前の一番近い町の事を思い浮かべろ!」
「は、はい!」一国は言われるがまま、情報収集を行いお金を根こそぎ失った町での事を思い浮かべた。
カルレオーの脳裏に町の情報が流れた。
その瞬間カルレオーノの目の色が変わった。ゆっくり顔を手で覆い呟いた。
「貴様会っていたのか・・・下食奴隷のリーダーに。」
※書き忘れや、新たな思い付き、誤字脱字の書き直し等あるかと思いますので見つけ次第修正いたします。