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吸血鬼にはゐと住みづらき世界  作者: へーべー
3/16

亜徒類(アトル)と下食奴隷(ゲドレ)

「そうか!ここのコウモリ、俺をこのミイラの所まで導く為にあんな行動を!俺に目的を達成させる為に?

それともミイラが自分を発見してもらいたくてコウモリに命じたとか?そう考えたらコウモリが良い奴らに思えてきたな。ハハッ!メルヘンかよ!なぁ?」



実際にその言葉に間違いは無かった。無意識に正解を出してしまった。

バラエティ番組のクイズで、ここは一発ボケなくてはいけないにも関わらず、いやボケたのだけれどそのボケが実はクイズの正解で場を白けさせてしまった感覚に近い。



コウモリの行動は俺をミイラの所まで導く為のものだった。そしてそれはこのミイラがコウモリに命じたものだったのだ。俺はそれを悟った。



このミイラの動きを擬音で表現するなら「ゆらり」だろう。

まるで人形師の糸で操られたパペットのような動き、重力に逆らい上から吊られているかのように「ゆらり」とミイラは顔をこちらに向けたまま立ち上がった。

その際、脇に張り付いている両腕と、張り付いて一体化している両足がベリベリと音を立てながら皮を破りながら剥がれていく。破れた皮の内側からは骨が露出していた。

俺はそれを微動だにすることなく凝視していた。



生気のない死体に、いや、ミイラに殺気というものが宿るのだろうか?殺気というからには「気」なのであって死んでいる人間に「気」すなわちエネルギーが発せられているとは考えにくい。

しかしどう考えてもこの状態から頭をナデナデされるとは到底思えない。

俺はこれから殺されるのだ。



プツンと人形師とパペットを繋げる糸が切れたようにミイラは一国の上に覆いかぶさった。ミイラの左手は一国の顔面を鷲掴みにし、そのまま下にスライドさせた。

一瞬の出来事に一国は叫ぶことも防ぐ事もままならず、突き刺さったミイラの爪によって一国の顔面は引き裂かれた。

人差し指と薬指の爪がちょうど一国の両目を通過し、引き裂かれた両目から激しく血が噴き出した。

噴き出した血がミイラに降り注ぎ、付着した血は瞬く間にカラカラに乾いているミイラの体に吸収されていった。

再びミイラの左手が一国の頭を鷲掴みにし体制を立て直すが如く地面を踏みしめたかと思うと、一気に一国の首から上をねじ切った!



一国の首からシェイクした炭酸飲料のように血が噴き出した。

胴体から切り離された一国の首から上をミイラは要らぬ物として地面へ転がした。

ミイラは両腕でガッシリと一国の両肩を掴むと、閉じて固まっていた自分の口をメリメリと限界まで広げた。その口には鋭い牙が生えていた。

ミイラは激しく噴き出す血の出所を塞ぐように、一国の首の切断面を口で覆うように噛み付いた。

ゴクッゴクッと音がするたびにミイラのノドぼとけが上下した。

体内から血が抜かれて行く度に一国の体は細くなって行き、逆にミイラの体が太さを増していった。

肌の色も茶色からどんどん薄くなり、肌色を通り越して白に近づいていく。

湧き上がる水のように頭から銀色の毛が急速なスピードで生えて行く。

一国の体は血だけではなく水分そのもの、果てはエネルギーでさえも吸い取られているかのようにやせ細って行った。

一国の体とミイラの体の状態が完全に逆転し、ようやくミイラは血を飲むのを止め首の切断面から口を離した。



背は高く、鍛え抜かれた彫刻のような肉体、透き通るような白い肌、腰まで伸びた銀色の長髪、鼻は高く切れ長の鋭い眼。

そこには気品に満ち非の打ち所のない整えられた美しさがあった。

元ミイラの男は全ての血を抜かれカラカラに乾いたミイラになり果てた一国の体を見下しボソッと呟いた。

「良くやった。」



一糸纏わぬその男は自分の体の運動機能を確かめるように手を開いては閉じ、首を回し、手足を色々な方向に動かし柔軟運動を始めた。

ある程度柔軟運動を行い満足いくと直立したまま両手を組んで目を閉じる。

停止していた脳の機能を目覚めさせるように、記憶の断片を掘り起こすように、眠る前の出来事を思い出していた。



男の記憶がフラッシュバックする。



「あと一匹だ!回り込んで追い詰めろ!絶対逃がすな!」誰かが叫んでいる。

ガアンッ!ガアンッ!銃声が鳴り響く

「むやみに撃つな!確実に当たると確信した時だけだ!」「しかし!町から出られたら逃げられます!」

自分は・・・逃げている、身体が鈍い!追い詰められている。あと一匹?姉徒麗(ネトリ)弟徒君(オトク)も殺されたのか!

そんなハズはない我ら亜徒類(アトル)は不死身だ!しかしあれは普通の銃では無い!普通の銃では我らに傷すら負わせられない。

奴らは亜徒類(アトル)の弱点を知っているのか!

町中に張り巡らされた罠、不覚にもその一つに捕らえられてしまった。

このような網から抜け出せぬほどに弱らされていたとは!

途端に町の住人に取り囲まれ、一斉に銃弾を浴びせられた。この銃弾だ!この銃弾に撃たれると身体の自由が利かなくなる。身体の力が抜けて行く!

住人に手足を抑えられ身動きが取れない。「やれ!」住人の一人の合図で木槌と鋭利に尖らせた木の杭を持った男が現れた。

男は慎重に木の杭を捕らえた男の心臓に当たる箇所に木の尖った部分あてがった。

「仇だ!娘の仇だ!人間を食い物にしやがって!この化け物め!」

そして力の限り木槌で木の杭を打ち付けた!何度も何度も!

杭が体に突き刺さり血が噴き出す!杭が体を貫通し地面に突き刺さると、捕らえられた男は体をのけ反らせ悶絶し身体の機能は完全に停止した。

しかし目は鋭く見開かれ杭を刺した男を凝視している。その目は死んでいなかった。

「ヒィ!」杭を刺した男は恐怖しその場から離れた。



頭の先から声がする「たいした化け物だ。これでも死なんとは。」こいつがリーダー。皆に命令している。こいつがリーダーだ。

「やれ!」リーダーと思われる男が再び命令を下す。

我は、化け物と呼ばれ捕らえられた我は斧で手足を切断され、最後に首を切断された!そこで意識が途絶えた。



次に目覚めた時、我の体は鎖で十字の柱に固定されていた。四肢は切断され心臓部には杭が刺さったままだった。首から上は胴体に戻っている。

身体の自由が利かない。辛うじて目と首はわずかに動く。隣りを見ると自分と同じように鎖で柱に固定されている身体が1体あった。四肢が切断されている上に首から上も無かった。

だが体つきや着ている物で姉徒麗(ネトリ)だと分かった。弟徒君(オトク)はどこだ?

一人の男が我に問うた。先ほどのリーダーだ。手には火のついた松明を持っている。他には、目の届く範囲には誰も見当たらない。

「行き方を教えるんだ。お前らの国への行き方を。」

我は一言も言葉を発しない。男は躊躇なく我に火をつけた。火は一瞬で全身を覆い尽くした!我は叫んだ!声を出さずに!

全身が火に包まれ高熱で肌は焼けただれるが、すぐ新しい皮膚が再生した。肌が焼けて行くのと肌の再生が繰り返され体は燃え続ける。

「熱いか?熱いのか?どうなんだ?火は大したダメージにはなり得ないか?」

体に刺さっていた木の杭が炭になるまで焼かれると水で火を消し、再び心臓に杭を打ち付けた。

痛みで顔をゆがめるとそいつは嬉しそうだった。

「お前らの国への行き方を教えるんだ。あの洞窟から行けるんだろ?」

我はそれでも言葉を発しなかった。

「私はお前の殺し方を知っているんだ。仲間が一人いないだろ?生きていたらお前らを助けに来るかもしれないなぁ、でも絶対に来ない!なぜなら・・・死んだから。私が殺したんだ。」男は淡々としゃべり顔は嫌らしい笑みでゆがんだ。

「喋れ!隣の仲間も殺すぞ!」

それでも一向に喋ろうとしない我にそいつはオイルをぶっ掛け再び火をつけた。

「喋るまで何度も繰り返す!」

我は睨む!男を睨む!下食奴隷(ゲドレ)の分際で!下食奴隷(ゲドレ)の分際で!




その後どうやってそこから抜け出し、この洞窟に戻ったのかは思い出せない。

回復する事もできず、国にも帰れず、我はこの洞窟で眠ってしまったというわけか。

コウモリ共が忠実に命令を遂行してくれたおかげで回復できた。最初に浴びた血の量があと僅かでも少なければ動けず下食奴隷(ゲドレ)に逃げられてしまっていただろう。ギリギリではあった。




我を捕らえ火を付けた男は弟徒君(オトク)を殺したと言っていたが、それは我を喋らせる為の虚言に過ぎない。亜徒類(アトル)は不死身なのだ。ならば姉徒麗(ネトリ)弟徒君(オトク)も生きている。

そしてあの下食奴隷(ゲドレ)のリーダーも生きている。

我の行動は決まった!

姉徒麗(ネトリ)弟徒君(オトク)を救い出し、下食奴隷(ゲドレ)のリーダーを殺す!

その後は再び3人で我が国繁栄の為に動く!




閉じていた目を見開き、男は出口を目指し歩き始めた。




男は洞窟内を闇雲に歩いていたが1時間ほどして足を止めた。

「コウモリ共!出口まで案内せよ!」

男の声は洞窟内に響いでいたがコウモリの反応は全く無かった。

「コウモリ共!出口まで案内せよ!」

男は更にボリュームを上げた声で叫んだ。コウモリの反応は無い。

「コウモリ共!我の声が聞こえんのか!我はカルレオーノ・ホテチトップス・ウセシオジオぞ!」

男は更にボリュームを上げた声で叫んだがコウモリの羽音や鳴き声などの気配は全く感じなかった。

「コウモリ共め、眠っているのか・・・褒めたすぐ後に叱るというのは我が流儀に反する、仕方がない・・・今回ばかりは見逃してやろう」



カルレオーノと名乗るその男はコウモリに頼るのを諦め、己の勘を頼りに再び歩き始めた。

更に1時間ほど歩いたが、一向に出口にたどり着く様子は無かった。

「何なのだこの洞窟は!」

そう言えば以前にこの洞窟を出た時は姉徒麗(ネトリ)に着いて行ったのだったな。ここまで複雑だったとは・・・。



カルレオーノが次の行き止まりに足を止めた時、違和感を感じ取った。「ぬっ?」

広範囲に渡って赤黒く変色している地面、血が染み込んだ地面。カルレオーノはこの地面に見覚えがあった。

我が眠っていた場所。我が下食奴隷(ゲドレ)を吸い尽くした場所だ。

いつの間にか戻ってしまっていたのだ。



しかしその場には、血が染み込んだ地面があるだけで首の無いミイラと化した一国の死体は無かった。



背の方向の暗闇から視線を感じ取ったカルレオーノは素早く振り返り気配の出所を見た。



そこには、緑色に変色した皮と骨だけの一国が立っていた。

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