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人をくった話  作者: 微睡
1/1

01

「せんせー、ひまぁー」


「先生は暇ではありません」


授業が終わり、片付けていると声がかかる。


「えー、せんせーひまでしょー、ご飯ここで食べてきなよー」


「いやです。」


何が楽しいのか、けらけらと笑い声をあげる。


昼休憩前の授業が終わると声を掛けられるいつもの光景。


先生に迷惑でしょう、と此花を嗜める山内の姿もいつもの光景。


「クラスの連中と仲良くご飯を食べなさい。」


そういってさっさと教室を出る。


後ろから「せんせーつめたーい」という声が聞こえるが無視する。









「あぁー、終わったー」


「何ですか、その声」


横から笑い声が聞こえてくる。


「いやぁ、今日の授業も無事終わったなぁって」


「あれ、そうなんですか」


そうなんです、そういってお昼ご飯のサンドイッチを口にくわえる。

ふと、左側の先生の机の上にある新聞の見出しに目がいく。


『―――市で起きた連続変死事件、未だ止まらず!犯人は北上している!?』


「あー、これってまだつかまらないんですかね」


「どれです?」


「この連続変死事件ってやつですよ」


「あぁ、それですか、これ怖いですよねぇ」


新聞の見出し通り北上しているとすれば、近々この市周辺に犯人が来るということになる。


「変死ってなんなんでしょうね」


「どうも、内蔵とかが食われたみたいにぽっかりなくなっているらしいですよ」


いや、なんでこの先生はそういうこと知ってる。


「あ、有名な噂ですよ、女子の噂は幅広いのです。」


そういって、ピンクの箸を向けてくる。

……箸を人に向けるのはやめなさい。


ドヤ顔を向けられたので


「佐竹先生はもう女子という年でもないでしょうに」


といったら、ティッシュの箱で叩かれた。


暴力女め。







そわそわと、時間を見る。


後三十分。


午後の授業は無く、授業日誌も書き終わり、担任を持ってる訳でもなく、副担の自分の仕事はもはやない。


定時の五時まで後三十分。


明日の授業の準備も済んだ、余りに暇だったんで小テストも作った。万全。


この残り三十分がもどかしい。


「もう、先生そわそわし過ぎですよ。」


うるせぇ、暴力女、とか言わない。


「今の私は帰ることが第一です。」


キリッとした顔を向けたら何故か笑われた。


いやもう、まだですか。


ガララッとドアが開く。


此花が教員室を見回すのが見えた。目が合った気がした。気のせいだ。私は何も見ていない。

ふわふわと歩きながら「田守せんせー」とか言ってる気がする。きっと聞き間違いだ。


体育教師の田村ティーチャーのことだろう。田村ティーチャーが自分のことを田村ティーチャーとかいうから田村ティーチャーなのだ。


此花が横に来た、脚を止めた気配がする、田守せんせーとか言ってる気がしないでもない。


「田守先生、お客さんですよ」そういってくる姑がいる。暴力だけではなかったのか。


一つ溜め息を、大きく、吐きながら答える。


「なに」


うわぁ、態度わっるーとかいうのが横から聞こえるが無視。


此花はその態度を見て時計を見る。

あー、という声が聞こえる。


「じゃあ三十分だけしゃべりましょー」


「よしきた、任せろ。なんでもしゃべるぞ」


横で顔を覆うのが見えたが気にしない。


「ホントせんせーって現金ですよねー」


「なんとでも言うがいいさ、進路関係なら相談室使うけど」


「んー、ここでいー」


「はいはい、んで何があったの」


「特に要は無いよー」


「無いのかよ」おっと口に出た。

ふと、横の新聞に目がいく。


「そういえばこの連続変死事件って知ってる?」


「知ってるよー、野犬か何かが動いてるって話でしょー。怖いよねー」


横の佐竹先生がほら、みたいな顔をしてるが無視。


「この事件って女子高生が襲われてるって話でしょー、しかも北上してるって話だし、皆気を付けようって話してるよー」


これ、女子高生が襲われてるのか。


「気を付けろよ、そういえば山内はどうした?いつも一緒じゃなかったのか」


「やまちー?やまちーはねー……」


「ここです」


後ろから声が聞こえてびくっとする。


「忍び寄るんじゃない。」


横で腹抱えてうずくまるんじゃない。


「ちゃんとヤコと一緒に入ってきましたよ。」


「そうだよー、やまちーと一緒に入ってきたんだよー」


此花を抑えるように見えて山内は何だかんだ人を食ったようなことをするのが好きで


ついこの間も


「先生、実は私……」


夕方の教室に呼び出され、急にこんなことを言い出し、


「私、先生のことが大好きなんです。」


と、凄い真剣な顔をして言い


「いや、俺は教師であるわけで、そういうのには……」


と、答えていたら、此花がロッカーからバァンと凄い音を立てて驚かしに来て


その音にビックリした俺を見て


「そういう素直に驚いてくれるのが大好きなんです。」


とか言ってくるし、他にも……


「ちょっとせんせー聞いてるー」


「あぁ聞いてなかった、なに」


せんせーひっどーい、とか言ってるが無視。


「私達この後カラオケ行くんですけど、先生も一緒に如何です?」


「お断りします」


「えー、一緒にいきましょうよー」


「私はこの後佐竹先生とご飯に行くのです。」


「えぇっ、先生達ってそういう関係なの」


横で鳩が豆鉄砲食らったような、初めて聞いたという顔をしてる人がいるが無視で。


「違います、ただの懇親活動です。大事でしょう」


「生徒との仲を深めるっていうのも大事でしょー」


「私は佐竹先生と懇親を深める方が大事です。」


横でお茶を飲んでる途中で言ったからか蒸せてる人がいるのも知らない。


やっぱりそういう仲じゃない、という声が聞こえてくる。








「ちょっと田守さん、どういうつもりですか」


日本酒を傾けながらそう言われる。


「どういうつもりも何も誘おうかなって思っただけですよ」


「違いますよ」


何が、と返しておく。つまみの麸田楽がうまい。


「教員室で言ったことですよ。あれ、回りの先生達聞いてたじゃないですか」


別にいいんじゃないです、と返す


あれ、絶対後でからかわれるとか言ってる。


「特に何もなかったって言えばいいんですよー」


かつおのタタキにネギ、ニンニクをしっかりのっけて、食べる。うまし。


そうもいってられないのが、女社会……となんか言ってる。ミョウガの浅漬け、うまし。


「にしても、よくこんなお店知ってましたね。」


「そりゃもう、金曜の夜っていったらうまいとこ探しですよ。」といって、揚げ出し豆腐の出汁を啜る。私にも一口下さいよと、器を奪われる。


そういえば、と思い出したことを伝える。


「あの事件ってあるじゃないですか」


「あの事件?」


連続変死事件と伝えるとあぁあの、それがなにか?という表情で見られる。


「ちょっと調べると、女子高生ではなく、若い女性が狙われるらしいのでお気をつけを」


ちょっとひきつった顔でなんで今言った、と言われる。ただの忠告ですし、このお寿司うまし。







と、バカを言っていたはずだった。


土曜の朝。


佐竹先生から電話があった。




此花ヤコが、被害者になったと。








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