ep:3. 覚醒
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こんな駄文なのに…ありがとうございました‼︎(涙
『熱い…なんだこれ?』
大輝は次に目を開いた時に見たものは地面と真っ赤な血の池だった。その中心に自分が倒れているということはこの血は自分のものだと理解した。しかし感覚は既に麻痺したらしく深く切り裂かれたにも関わらず痛みはほとんど感じなかった。
『俺…死ぬのかな…こんなわけわからないまま…化け物に襲われて…』
大輝は再び薄れゆく意識におぼろげにそう思った。
ザリッザリッとアスファルトを硬い何かで削るような足音が聞こえてくる。あの犬の化け物だ。
削るような足音から今度は水が跳ねる音に変わった。気配なんて普段感じないが今は嫌という程感じる。
すぐ隣にあの化け物がいる。大輝は動こうとはしなかった。というよりも呼吸まで浅くなり、体はピクリとも動かなかった。
犬の化け物はゆっくりと大輝の首を掴むと締めない握力を保ちながらその体を軽々と持ち上げた。
うっすらと開かれた目に映る犬の化け物はただじっと大輝を見つめているだけでなにもしてこなかった。
しかし先ほどまで狂気に満ちた目はすでになく、確かに理性の光を宿していた。
『……死んだか?』
そしてついにはその口から言葉を発した。薄れかけた大輝の意識はそれによって一気に覚めた。
次第に体の硬直も解け、小さな抵抗を始めた。しかしまだ体は重く、握り返す手の握力も、蹴りつける力も残っておらずただ当てているだけだった。
『ほぉ…まだ抵抗するか、対した胆力だ…それとも、感覚すら麻痺して来たか?』
犬の化け物はやはり流暢に言葉を話してる。しかし大輝にはそれどころではなかった。
先ほどから大輝の首を緩く締めていた手が徐々に締める力を強めてきている。万力のようにジワジワとだがそれでも確実に大輝の気道は塞がれていった。
『カッ…ハッ…』
最終的にはギリギリと音がなるまでに力を強めた。体は必死に酸素を欲するが喉を締められ、呼吸することがままならなくなってきた。抵抗を続ける手足は動かなくなり、ついにはダランと垂れるように崩れ落ちた。
大輝は今度こそ底なし沼に引き込まれるように意識が沈下していった。そして完全に途切れる瞬間に体の中で何かがプツンと切れる音がした。そして暗闇から見えたのは何かの獣
の姿だった。
犬の化け物は大輝の体の異変を感じ取っていた。首を締めつけたにも関わらず心音がまだ聞こえる。それどころかものすごいスピードで心音が大きくなっている。
しかしその異変に不思議がるどころか不敵な笑みを浮かべている。
『こいつはあたりか?』
犬の化け物がそう呟くと同時に大輝の両腕が再び化け物の腕を掴んだ。先ほどの小さな抵抗ではなく異常な握力で握って来る。そして顔には生気が漲り、化け物を睨み返している。その目は獣のように瞳孔が鋭く、真っ赤に変わっていた。
『……ガァァァァァ‼︎‼︎』
開かれた口からは犬歯が鋭く伸び、喉からせり出た獣声は完全に目の前にいる化け物そのものだった。
ありったけの声で叫び終えると今度は大輝の体に異変が起き始めた。握り返す手の爪が鉤爪のように鋭利に伸び、化け物の腕に深々と食い込んだ。そして手の甲から紫のフサフサとした毛並みが生え、一気に両腕の肩まで伸びた。握る握力も先ほどとは更に段違いに強くなり、化け物も痛みに耐え兼ねて大輝の首から手を離して後ろに飛びのいた。
『っはぁ…はぁ…はぁ…』
ようやく解放され、口で大きく呼吸を繰り返して息を整えた。意識はあるが少し気だるい、それと同時にいやな思考が頭の中を渦巻いていた。
何重にも響くどす黒い感情が篭った声が幾度も『殺せ、血を求めよ』と囁いて来る。
『なんなんだよこれは…それにこれも…』
大輝は渦巻く不気味な声と自分の腕の変貌に戸惑い、震えた声でマジマジと自分の両腕を見つめながらつぶやいた。
動物のような毛並みでありながら動物界ではまずない紫色の毛並み、触れば犬に触っているような感じで自分の腕とは到底思えなかった。いや、それよりも今1番気になるのは…
『あんた!言葉がわかるのかよ!ならどうして人を襲う!あんたは一体なんなんだ!これは一体どういうことなんだよ!』
大輝は少し離れたところにいる犬の化け物に問い詰めた。
『あぁ分かるともさ…なぜなら俺も『人間』だったからな。そしてお前も『俺と同じ』なんだよ!』