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survival life  作者: 桜雨
2/6

ep:2 恐怖

週一で出す予定がいきなり狂ってしまいました…

すみません…

『ここは…』

少年はヒンヤリとする感触に目が覚めた。閉ざされた瞼を開けるとまだ視界はハッキリとせず霞んでいた。霞む視界がクリアになると、今自分のいるとこは裏道であることが分かった。

なぜこんなところで寝ていたのか?ここに来るまでの経緯を思い出そうとすると目の前に乱雑に散らかったカバンがあった。教科書に昼食に買ったコンビニのパン、筆箱に1枚のカードが落ちていた。少年はそのカードを拾うと表には自分の顔写真と学校名が記されていた。いわゆる学生証というものであり、所有者は『和泉大輝』と書かれていた。

その名を見た瞬間先ほどまでの惨状が一気にフラッシュバックしてきた。普段通りに登校する自分の姿、動かない電車、携帯の電波の消えた街中、閉ざされた出口、そしてあの不気味な霧、全てが稲妻のごとく記憶に蘇ってきた。

『そうだ、あの時!』

少年もとい和泉大輝は飛び起きて辺りを見渡した。しかしあれだけ街を覆っていた霧はすでに消失し、いつもの街並みに戻っていた。


ただ、一つ違うことは人気が全くなくなったことを除けばのはなしだが。

『一体なにが、どうなってんだ…わけがわかんねぇ…』

大輝は混乱寸前の頭をどうにか冷やそうと髪をクシャクシャと搔いた。しばらくそうしてると少しだが頭は冷静になった。

『とりあえず、学校に行けば誰かに会えるかも…』

学校なら流石に誰かいるだろうとふんだ大輝は荷物をまとめ、担ぎ直して自分の通う高校へと急いだ。

表道に出てみるとそこは人一人、車1台も動いていなかった。アスファルトに乾いた風がなで、カサカサと虚しくチラシの紙が飛ばされる音だけだった。

『なんで…誰もいない…』

大輝はそれに唖然としながらも不気味に静かな街を走り続けた。


そして走り続けて数分、少し離れたところから突然悲鳴が聞こえてきた。そしてそれに連なって猛獣のような狂った声と同時に…大輝は走る足を止めて辺りを見渡すと、声の発生源は今大輝のいる表参道の一つ隣にある道からだということが分かった。

『今度はなんだよ…』

大輝は体を震わせて声の発生源の方向を向いた。正直に言えば今すぐここから離れたい。今聞こえた獣の声は普通にあり得ないはずだ。

けどそのあり得ないことが次々に起こっている。それに悲鳴が上がったことは誰か生存した人がいて、でもその人も今襲われている。いろいろと逡巡した結果、大輝の足は無意識に悲鳴の元へと向かっていた。


表参道を抜け、小さな路地に出ると唐突にその足を止めた。理由は至極簡単。そうせざる得ない光景が目の前に広がっていたからだ。

大輝の目の前に広がる光景は道路の真ん中に赤い、とにかく赤い鮮血に染まった死体があったからだ。生きてるなんて到底思えない。それほどの出血量だ。辺りに血の池ができている。

『…ウッ…ウグッ…』

大輝は喉元までせり上がって来た嗚咽感をどうにか抑え、口元に手を当てて堪えた。

死体から目を逸らそうとしたがどうしても逸らすことができなかった。


カタカタカタカタ…


気づけば足が震えていた疲労やそういったものではない。純粋な恐怖、今の大輝の心はそれだけに染まっていた。今頭の中に浮かぶ言葉は二つ、『ここは危ない』『今すぐ逃げろ』

震える口が微かに動いてつぶやく。

『…逃げねぇと…ここから早く…』

震える足に叱咤してぎこちなく足を動かして走りだした。

再び表参道に出ようとしたところ、後ろからガタンと物音がして反射的に振り返った。後ろには少し離れたところに人影らしきものが立っていた。


しかし『人』としては少し違和感を感じる。


大輝の後ろにいた『それ』は人に似ていた。二足歩行で人と同じように服を着ているが素肌が見える手のひらと首から上はあまりにも人からかけ離れていた。手のひらは朱色の動物のような毛並みに鋭く伸びた赤褐色の鉤爪、同じ毛並みに覆われた顔は口元がマズルのように長く、頭の上には三角耳が生えていた。黄色く光る目はもはや猛獣そのものでそのマズルから覗かせる牙は鈍く光り、口元を赤く染めていた。


さっきのあの無残な死体はこいつがやったんだ。


大輝は直感でそのことに気がついた。そしてその次の獲物が自分であることを大輝自身が一番理解していた。1人と1匹は固まったまま動かなかった。まるでその場の時が止まったかのように…

『くっ…』

先に動いたのは大輝だった。目の前にある角を素早く曲がり全力疾走で逃げた。

もちろんそれを見逃す敵でもなく、犬の化け物は即座に吠えて追いかけてきた。

大輝は少し前に心身もろとも擦り減らされてギリギリだったはずだが、そんな疲れを感じさせない軽快な走りだった。

しかし犬の化け物と決定的にスピードの差があった。そして20数mの距離はものの数秒の追いかけによりすぐにゼロになってしまった。

『ガァッ‼︎』

犬の化け物は大輝との距離がゼロになる瞬間その強靭な足を使って吠えながら飛びかかってきた。

『うわっ⁉︎』

大輝は唸り声に反応して反射的に前へと前転した。襲いかかる鉤爪は寸前のところで大輝の肩を掠るだけに防がれた。

しかし大気にとっては掠っただけでも恐怖を植え付けるには充分だった。

『うわ…わわ…』

大輝は必死に頭を振り絞ってここから脱する手を考えた。それでもこの緊迫した状況とかすり傷の鈍い痛みが大輝の思考を妨げていた。

なにも思い浮かばない、いい手が出てこない。大輝はその場から逃げるだけで精一杯だった。


『グルルルル…』


犬の化け物が唸る声は喜びに満ちてるように聞こえた。顔も分かりづらいが少し不敵に笑ったように見える。

ジリジリと近づいてくる恐怖になにもできない大輝は必死に逃げた。

すると足元に空き缶が転がっていたことに大輝は気づかなかった。そしてそれを踏みつけバランスを崩してしまった。

『しまっ…』

大輝の最後に見た景色は反転する世界に今まさに襲いかかる姿が映った犬の化け物だった。


そして大輝の意識は途切れた。


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