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ワールド・スペース  作者: 生茶漬け
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そうして世界は

『世界再構築進行度91%......今しばらくお待ちください』


それは感情もなく、ただただ機械的に告げる。


声のトーンからするとどうやら女のようだ。一切の汚れを知らないような澄みきった清流を連想させる綺麗な声のように思う。



そこは果ても見えない、広大な空間としか表現ができなかった。


白い。どこまでも白い空間だった。


目の前にはどのような技術でそうなっているのかは推察すらできないが、いわゆるパソコン等で見られるような大小様々なウィンドウが近未来的という体で宙に浮かんでる。


(まるでMMORPGのキャラメイキングだな...)


もう考えることはやめていた。


理解しようにも学力レベルが低いからか、それとも別の要因からかはわからないが、まあ仮に自分が聡明であったとしてもこの状況を理解しえるとは思わなかった。


ーーー世界が新しく生まれ変わります。


そう数時間前に告げていた。

よくあるファンタジー系のアニメにある異世界に飛ばされるようなものとは違う、世界そのものが今まさに全く別の世界に構築されている最中らしい。


『構築率100%......大変長らくお待たせ致しました』


西暦2019年、4月3日。


『......それでは新しい世界をお楽しみください』


世界は新しく生まれ変わった。








カイトは走っていた。

無我夢中に。一心不乱に。

カイトは走っていた。


山地に足を取られながら懸命にひた走る。木々や野花、この地に生息しているだろう野生にも眼をくれず駆ける。

それはおおよそ人間が走りえることのできぬだろう速度。


(ポイントまでギリギリ......か、くそったれ!)


心の中で悪態を吐く。

どこで間違えたのか、自分はどこで失敗したのか。何度考えても自分に非があるとは思えなかった。今の状況も情報として得ていたし、その打ち合わせもした。一連の流れもお互いに確認した。

しかしながらカイトの立てた対策パターンは努力虚しく、ある程度予想されたアクシデントによって瓦解していた。


最初は開いていた距離ももう背後にしっかりと気配......どころか鼻息すら感じられる。


「あ、あの馬鹿......マジでしば、おおうっ⁈」


背中に殺気を感じ、身体を捻り辛うじて躱す。

さっきまでカイトの身体があった位置を凄まじい勢いで駆け抜けていく巨体。


体躯は全長8mほどに見える。


躱されるも直ぐに四肢で制動をかけ、こちらに頭を向ける。

外見的特徴から類似する種を挙げるとすればイノシシ、だろうか。まだら模様に成長過多もいいところの巨大な牙。まさしくイノシシ。


なのだがそこから胴体にかけてはアンバランスなほどに身体が細い。と言ってもそれはまるで鍛え抜かれたドーベルマンを思わせる締まりのいいものである。そして極めつけはライオンのようなタテガミを繁らせ、体毛は真緑。


通称、ケルミーと呼ばれる獣人目のモンスターである。


カイトは意を決して正対した。


視界に意識を集中させる。瞳全体が熱を帯たように感じる。ここ2年でもう呼吸をするように無意識に行うようになった魔力集中による観察。

するとケルミーの頭上にゲームさながらのHPの棒状表示が映される。総量の5分の3程が削られた状態であることが確認できた。


(まるっきりRPGだよな...)


そうカイトは思う。思ってしまう。

2年前にカイト達の世界がーーー言葉を借りるのであればーーー生まれ変わってからずっと。

変わるにはあまりにも、全くと言っていいほどに前触れもなく変わってしまった世界。


そこで考えるのをやめる。考えても仕方ないことなのだ。そうカイトは思い受け入れる。この2年間ずっとそういう風に考えてきたし、恐らくは他の皆だってそうなのだろう。


だから常に前向きに思考し、生きるように生きてきた。元いた地球人類のどれだけがこの2年で絶望や不安といった仄暗いものを抱えながら命を落としていったか知る術はカイトにはない。

ただ他の皆がどうであれ、この世界の有り様はカイトがずっと望んでいたものだった。


指先に意識を集中させるとこれも先ほどと同じように、程よい熱を持った湯が身体を巡り一箇所に溜まるような感覚。

この状態の詰めに持っていくべく、適当な術式を組み立てていく。


HP表示と違い、よく親しまれたMMORPGというジャンルのようなゲーム仕様と言っても差し支えないものと比べるとやはりここはゲームではなく現実なのだと実感する。

この世界がゲームなのであれば一貫してシステムその物が統合的かつ合理的にして簡略化されてしかるべきである。


痺れを切らしたケルミーが強襲する。カイトはそれを右に躱し、手のひらをケルミーの左腹部にかざしーーー唱える。


「『ボルカ・ゼルグ』」


雷系初級スペル。

太い電流が走り、対象の動きを一時的であるが中断ーーー怯ませる。

その隙に回避と同時に仕掛けておいた術式を一気に解放させる。


「......と『チェーン・バインド』」


ケルミーの足元に直径2mほどの円形に描かれた幾何学模様が突如浮かび上がり黄色に発光する。


魔法陣。


そこから勢いよく輝く鎖が幾本もケルミーの巨大に絡まり地面に縛り付ける。

共通系捕縛中級スペル。その魔道の鎖はどのような抵抗も受け付けない。


しかしそこでトドメは刺さない。カイトはケルミーのHP表示を数回確認してから指示を出した。


虚空を煌めく一線がケルミーをに突き刺さった。


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