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異世界ハイスクール  作者: 江流
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第一話 入学式 【前編】

 国公立異世界交流科専門高等学校。


就職率百パーセントを誇る有名な国公立大学である。

 しかし、少し就職先が意味不明なのが有名だ。確か、勇者、魔王、王女、姫様、殿様、吸血鬼、妖怪、超能力者……と、歴代でもへんてこな職業に就くものが多い。


 名前の通り、異世界交流科専門学校、通称異世界ハイスクールでは「地球以外の世界」に住む連中と共に学園生活を送ることとなる。それこそ前述した勇者や魔王なんかも居るわけだ。


そしてそんなとこに俺、川崎龍司は入学してしまった。

 親に公立高校に行くことを勧められ、必死に俺は志望校を目指したが、結果は惨敗だった。バックアップというか滑り止めで受けていたこの高校は、筆記テストと書類選考だけ。

何とか浪人を免れたい俺は必死にテストを受けて、無事合格。


よかったよかった、となるはずだった。

この時、俺はまだ気づいていなかったのだ。


この学校に行くなら、浪人した方がまだマシだということに。







◆◆◆







「お兄ちゃん、朝だよ。起きてよ、入学式でしょ?」


「う、うぐ…?」


どしんどしんと俺のベッドが振動する。

 理由は簡単。妹である川崎結華のせいだ。現在中学三年生である結華は、俺と違って容姿端麗、成績優秀、運動万能と才色兼備な人間だ。お陰様で両親は俺と結華をよく比べやがる。

 対して俺はさして特筆して凄いことなどない。アニメに関してなら常人よりは詳しいが、ハードコアな方々とは比べるのも恥ずかしいほどにわかである。


「……あ、起きた。死んでるのかと思ったよ」


「待て…。俺が起きなきゃ死んでることになってたのか…?」


「棺桶は準備できてるって、お父さんが」


「オヤジィィイイイイイイイイ!!」


鈍い恫喝が部屋に浸透する。

相変わらず行動が突発的で尚且つ洒落にならないほど忠実に俺を狙いに来てやがる。

 俺は学校指定の制服を引っ張り出す。黒を基調に白いラインが入った上着と黒いスラックス、学ランの少しお洒落バージョンと見ていいだろう。


「あ、朝御飯はもう出来てるからね? お母さんもう行っちゃったから、私作っておいたよ」


「サンキュ」


「うん。早く降りてきてね」


トタトタと階段を軽快に降りる音が聞こえる中、俺は静かに制服に着替え終わる。

 今から向かう場所は「変人の集まり」と称されているようだが、俺はあまり気にしない。こんな洒落た制服を使ってるんだから、まともじゃない方がありえないだろうと考えたのだ。

因みにネトオクでは結構な高値で取引されているとか。コス用に。


俺は階下のリビングに向かった。

リビングではすでに準備を終えたらしき結華が準備万端とポニーテールを揺らす。


「早くっ!」


「わーったわーった! だからコーヒー飲んでる時に揺らすな、こぼす!」


朝食摂取にひと悶着あったが、無事完了。

 歯磨きをして顔を洗う。高校デビュー、当然第一印象が後の生活に関わってくる。びしっと一発決めて、最高な状態でスタートするのがベターだろう。


「行こ?」


「はいはい」


結華は嬉しそうに笑う。

 中学三年生ともなると反抗期というか、兄貴なんかとは仲良くしたがらないものだが、結華は色々な意味で純粋なのだろう。どちらかと言うと俺と居るときの方が多い。出かけるときも大抵俺と出かけている。友人が居ないわけではないだろうに。


「しゅっぱーつ!」


「大声で叫ぶなー」


覇気のないツッコミは届かず、終始嬉しそうな結華。

本当は俺だって楽しいが、にへらっとした締まらない顔では高校デビューが危ぶまれる。


「(さ、第一歩だ。楽しみだなぁ~)」


そんな淡い願望を抱きつつ、俺と結華が並んで歩く。


そうこの時までは、俺は期待していた。

この時までは。







◆◆◆







その時、学校の教室では。


「貴様…ルシファーか!? よくもまぁ抜け抜けと私の前に出てこれたな!」


「チィッ! なんでジャンヌが居るし! まじメンド!」


勇者と魔王が啀み合っていた。

 魔王ルシファー、サタンの後継者であり、サタンの実の娘である。年齢はこちらで17歳、つまりは高校一年生である。垢抜けた容姿と妖艶なゴスロリドレスが彼女の悪魔っぽさを華麗に演出している。

 対する聖騎士ジャンヌ。勇者と呼ばれる聖剣使いで、几帳面で律儀な性格。プラチナブロンドのショートカットは活発で聡明なイメージを彷彿とさせる。これまた清楚可憐な感じを体現していた。


「ここであったが百年目だ…!」


「はぁ!? ここで殺るとか、頭湧いてんじゃねぇのかっての! そもそもウチらは交流の為に来てんだしな、少し考えろバカジャンヌが!」


「何を…!? 貴様こそ身の程を知れ腐れ魔王が!! そもそもなぜ貴様が来る必要がある!? 黙って魔王城に引き籠ってればいいものを!」


「てめぇジャンヌ! 人様をヒッキー扱いすんじゃねぇよ!」


「悪いか引き籠もり魔王が!!」


「うっせぇ、ペチャパイ聖騎士!!」


「何ぃ!?」


「なんだよ!?」


罵詈雑言の嵐が教室を包む。

まるで残る生徒を無視するかのような啀み合いに、パチパチと手が打たれた。


「はいはい、そこまでにしましょう」


「て、てめぇは!」「あ、貴方は…!」


一人の青年はにこやかに微笑んだ。

 珍しい真っ青な髪の毛に見る者を蕩けさせるような美しい笑顔。美少年と形容するほかなさそうな青年は、ゆっくりと歩み寄る。


「ここはお話の場ですよ? 因縁も復讐も敵対も関係ないんです。分かりましたね?」


「わかってらァ!」「承知しております…」


「ならばよろしい。では、残る一人を待つとしましょうかね?」


青年は先程よりも満悦した様子で、一人静かに笑った。







◆◆◆







「ふぅ、着いた」


俺はとうとう異世界ハイスクールこと、国公立異世界交流科専門高等学校に到着した。

 まるで城を彷彿とさせるどでかい建物だ。隣接地に宿舎が建てられており、そこに寝泊まりする生徒も多いんだとか。というかそもそも地球人でここに来たがる珍妙な奴が少ないせいか、利用頻度はかなり稀なようだ。


異世界。それは現代になって認められはじめた異空間である。

 教育指導要領に強引にねじ込まれた「異世界学習」という科目は、当時中学二年生だった俺にとって衝撃を与えた。なにせ厨二病真っ盛りである、異世界といえばお姫様と勇者と魔王とモンスターが居て、日夜悪党と戦い、友情と恋愛を育みつつ世界を救うなんていう壮大なスペクタクルがある夢の世界なのだから。

 だが、ある意味でそれは「幻想の終わり」でもあった。異世界というものが不明瞭で曖昧だからこそ、夢を見ることができたのであって、あると断言されてしまえばそこで御終いなわけだ。


当時の俺はそんな事には気づかず、一心不乱に学習に取り組んだ。

 お陰で新科目での評価は毎回5だった。つまりは書類選考のときにそれが影響したのだろう、俺がここに入学したのには、陰ながら俺が無駄骨になるとも知らず頑張った努力が偶然反映されたわけだ。


「(……とはいえだ、ヘンテコなとこであろうとも、高校生活に変わりはない。そうだ、そのはずだ!)」


俺は踏みしめるように、玄関へと侵入した。

早速靴を靴袋に入れる。スリッパに履き替えて入学式場である体育館へ向かった。

 

 この異世界ハイスクールは五階建ての建造物だ。主に一階が教職員が使用する階層、二階が一年生、三階が二年生、四階が三年生、五階は特別教室や文化部の部室群となっている。

 体育館は一階にあり、広さは中々のものだ。バスケットコートで言えば横に三面程、バドミントンコードで言えば十二面程、変な話体育館でサッカーができるまである。

そんな広大な空間に飛び込んだ俺は、びっくりした。


まさか思いもしないだろう。

一二三年合計の人数よりも、保護者側の人数が多いだなんて。


「(ちょ、え? マジっすか? 鎧とか着ちゃってるけど、OKなの? もろ剣携帯してますがな……銃刀法違反どこいったし)」


あまりのカルチャーショックに俺は右フックを食らったようにのけぞった。

 だが、何とか状態を立て直す。入学式が始まる数分前にして、結構な人数がお喋りしたりしている。もしかして知り合い同士で話しているだけではなく、既に数名友達を作っているのかもしれない。

 俺は空き椅子を探していくと、座席番号に合致した椅子を発見した。即座に座り込んでほっと一息。色々と先行き不安だが、取り敢えず第一段階として悪目立ちはしてない。


ふと視線を横にスライドする。

 それは本当に興味本位だった。別に何かを意識して横を向いたのではなく、何かいい香りがしたわけでもない。ただ単に何となくそちらを向いたのだ。


すると。


「(超絶美人……だな…)」


思わずため息が出そうな程の美人がそこにいた。美少女とも形容できるだろう。

 身長は多分165くらい、女子用の指定制服(男子用とは逆で、白が基調になっていて黒いラインが数箇所入っているタイプ、下はミニスカート)がありえない程似合っていた。高校生らしくない少し大人びた表情がミスマッチしていて、本当にそこだけ空間が切り取られたかのような錯覚を感じた。


「……? どうかしましたか?」


「えッ!? あ、い、いえ…いやーちょっと……」


完全に挙動不審である。

 第一印象というのはとても大事だ。キャラ作りと言うわけではないが、学校での自分というものは衆目の視点から確立される。自分の思い描いたポジションに居るためには、そこに立っている自分を想像し、作り上げねばならない。

つまり、初対面で言動が挙動不審で怪しい人間となれば、第一印象は最悪。


のはずだったのだが。


「うふふっ。面白い人ね。もしかして見蕩れてたの?」


大人びたクールな雰囲気とは真逆の明るい喋り方はズルいと思いました。

 先ほどの続きを語ろう。第一印象が最悪、という事は逆に捉えれば「最もユニーク」であるということだ。奇抜で独創的で群を抜いて悪い、それはある意味での自分だけが持つイニシアチブであり、自分だけが持てるポジションである。


ま、最初は完全にオワタと思ったがな。


「あーっと……ま、そういうことになりますね…」


「ちょっと嬉しいな。あ、ごめんね、自己紹介してないよね。私はアリス・デル・フォン・ルーゼンマイア。ミズガルズ大陸に存在するルーゼン帝国の王女です。けど、ここでは普通にアリスって呼んでくださいね」


「よろしく、アリス。俺は川崎龍司って言います、龍司とかリュウとか、好きに呼んでください」


「龍司……そうですね、リュウと呼ばせてもらいます。こちらこそよろしくお願いします」


「(うっわ……髪綺麗…)」


頭を下げたアリスの美しい金髪がさらりとまるで流水の如く流れ落ちる。

 よく見ればスタイルもかなりいい。ミニスカートから覗く健康的で目を奪うような太ももや、白く細い首元、それと華奢な体に対しての胸のサイズが凄い。これはモテるタイプの人間だろう。


「ふふっ。本当に運がいいわ、初日にお友達が出来るなんて。ルーゼンの国では、私は王女だから、友達なんて居なかった……本当に幸せね」


「それはこっちもですよ。まさか初日にこんな綺麗な人と友達になれるなんて」


「あら、褒め上手ですね、リュウは」


コロコロと朗らかに笑うアリスはとても可愛い。

 俺はこの時人生すべての運が注ぎ込まれた瞬間だと感じた。別に付き合いたいとかは思わないが、こんな美人な女子友達が居れば、リア充ライフも夢ではない。

てか誰だよ、ここ変人の集まりとか言った奴。出てこい、しばき倒してやる。

 因みにだが、異世界人と日本人は文字の扱いに違いがあるだけで、言語は同じらしい。つまりは日本語をお互いに喋れるのだが、話した内容を日本人と異世界人が書くと、日本人は日本語文を、異世界人は異世界語の読解不明な文字列を書いてしまうわけだ。なので、日本人である人間は出来るだけ多くの文字と触れ合うことを目的とし、その他異世界人は日本語をマスターする、『言語学習』が取り入れられている。


そんな感情が湧きいでる。ここに入学して良かったと初めて実感した。

なのだが。

次の瞬間には、やはりこの学校が異常であることを知らしめさせられた。


『おいてめぇらぁ!』


キィィン!

スピーカーからハウリングした音が体育館に響き渡る。

粗雑で乱暴な言い振る舞いに驚いて視線をステージに向けると、一人のゴスロリ少女がいた。


『ウチはルシファー! これからここの学校のボスになって全員統括してやっから、首長くして待っとけや!』


『ルシファー! やめぬか! くそ、やはりあの時殺しておけば良かったな…』


『あァん!? 殺しておけばじゃなくて、「殺せなかった」だろうがボンクラジャンヌ!』


『ふざけるな! 私が常々手を抜いていたことに気づいてないつもりか?』


『んなぁこったー知ってんだよボケ! 実質ウチも手抜いてたし!』


そんなこんなでヒートアップする舌戦。

それをアリスは困惑したような表情で苦笑しつつ見つめる。

保護者達からも野次や怒号が響き渡る。


「(おいおい勘弁してくれ…)」


とびっきり最高の高校生活スタートのはずだったのに。

これじゃあ前途多難もいいとこじゃないか…。


「(……やっぱ、ここは変人の集まりなんだな)」


俺はその日、その時。

ここが「変人の集まり」と呼ばれる所以を、その身をもって体感したのだった。



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