表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首無し騎士とゾンビが籠球に興じる話。  作者: 魔王@ばすけっとこーと
8/8

ご一緒にポテトはいかが?

 ……先ほどから、動く度に彼の生足がチラチラしている。そしてその度に、観客の女性陣の黄色い悲鳴が上がる。対面の火の魔将ことサラマンダーはイラついていた。


 亜光速で迫り来るゾンビの目玉を、手にしたスプーンで打ち返す。叫ぶ。

「火のっ!! そのふぁんさーびすを今すぐやめろ!! 俺に迷惑だっ!?」


 バックスピンがかかって飛来した目玉を、しゃもじで打ち返す風魔将ことシルフィード。

「ふぁんさーびすだと!? 脱げというのかッ!?」


「ああ、そうだ。前々から言おうと思っていた。そのふんどしは何なのだ!! ひらひらひらひらと、鬱陶しいこと甚だしい!! いっそ脱げッ!?」


「脱いだらフルチンではないか!! 貴公は、フルチンで『たっきゅー』をしろというのか!? 魔王様の御前で!?」


「ああ、そうだ。さあ、今すぐ脱げ!!」

「よかろう!! 私のフルチンがそんなに見たいならば脱ごう!!」


 打ち返されたゾンビの目玉(これ以降、ピンポン玉と呼称する)が、テーブルのふち、ギリギリのところでバウンドする。

 風魔将は、それをしゃもじで迎えうつ。


「風よ吹け、我が必殺のショット、とくと見るがいい!!」

「ゾンビの目玉なぞおそるるに足りん!! 我が炎で、灰にしてくれるッ」


「ぬぅああああ!!!」

「てぃやぁああッッ」


   ◆


 卓球は、最速の球技である。中が宙空のボールを用い、それを卓の上で打ち合う。

 動体視力と、それに応対する瞬発力が必要とされる。ーー温泉旅館での暇つぶしにも最適。


 ーー風魔将は、脱いだ。そのふんどしに手をかけーー突風が吹き荒れる。

「きゃあああっ!?」

 観客の女性陣が、翻るスカートを必死で抑える。


「火の。この私にふんどしを外させるとはな……この姿を見たからには、明日の朝日は拝めないと思え」

「……ふん。ふんどしを外したくらいで、何をえらそうに。温泉宿でより上手く暇を潰せるのはどちらかーーそれを今日こそ思い知らせてやるッ」


「よかろうーー来いっ!!」

 火魔将が、ゾンビ目玉をサーブする。パコーン!!

 風魔将のしゃもじがそれをはじく。打ち返す火魔将。返す風魔将。さらに打ち返す火魔将。そして返す風魔将。


 パコーン! パコーン!! パコーン!!!


 ゾンビ目玉は甲高い音を立てて、交互に、しゃもじとスプーンに打たれる。どちらが先に隙を見せるか。どちらが先に注意力を途切れさせるか。どちらが先に、持久力を切らすか。これは、魔王に生み出された魔法生命体同士の、全存在を賭した勝負である。

 どっちを作る時に魔王様が手を抜いたのか。それとも、ふたりとも、お洗濯しながら片手間に生み出されたのか。ポテチを食べながら、やる気なさげに混沌の中からつまみ上げられたのか。脱いで丸めた靴下が、異世界転生した結果なのか。ーーそれらすべての答えが、この勝負の行方にかかっている。

 ーーオレは、脱いで丸めた靴下なんかじゃない。


 ふたりとも、必死であった。


 叩き潰したゴキブリの目玉から生まれたのがあなたよ、とか言われたらどうしよう。風呂の残り湯を濾過すること2000回。最後に1000マイクロメートル格子の濾紙の上に残った『かす』があなたよ、とか言われたらどうしよう。


 ーーだが、それも今、この相手に勝てば、そうではないことが証明される。そうだ、この勝負には全てがかかってーー


 火魔将の頬の横を、ゾンビ目玉が飛んで過ぎた。

 それを床に落とすまいと、彼は跳躍する。スプーンを握った手を伸ばす。 しかしーー


 カツーン


 非常な音を立てて、ゾンビ目玉は床に落ちた。がくりと膝をつく火の魔将。

「あ……、ああ……。俺は」


 いらない子なんだ。魔王様は俺なんか好きじゃないんだ。風魔将と『たっきゅー』をして負けるくらいだ。俺は、失敗した折り紙なんだ。崩れたトーフなんだ。踏まれたイモムシなんだ。

「うわあああああん!!!」


 火の魔将は走り去った。その場にスプーンだけを残して。


   ◆


「……うう、ぐすっ。俺なんか、俺なんかッ。……そうだ、ハローワークに行こう。魔将じゃなくても、いい仕事がきっとある……。そうだ、マックで接客するんだ。『いらっしゃいませー!! ご一緒にポテトもいかがですか?』なんて言っちゃったりして。そんでもって、ムネの大きな店長が俺に惚れちゃったりして。『……ああっ、萬田さん(サラマンダー => マンダ)、だめよ。わたしには夫が……!!』『……いいんだ。俺は君を愛している。二番目で構わない。だから君の側にいさせてくれーー』『萬田さん……』『ヨシ子さん……!!』」


 そこで一息つく、火の魔将サラマンダー。


「『……あぁっ、だめよ、ダメ……!! パテを焼かないと。ポテトももうすぐ揚がるの……。お客様にお出ししないと……』『いいんだ、そんなもの。俺が食べたいのは君さ、ハニー』『い、いやっ、やめて……こんなところで……!!』『ハニー……』」


「はにー?」

 聞こえた涼やかな声は、聞き間違えるはずもない。敬愛する魔王様その人である。


「……い、いや、その! 魔王様! いや、これは……その。」


 淡い金の髪をしたエルフ女性の姿ーー魔王ディーヌスレイトは、サラマンダーの傍らに歩いてきた。

 魔王に隣に立たれてどぎまぎする火魔将。


 やがて、ぽつりと魔王は言った。

「気にするな。風魔将に負けたくらい。ふたりとも、わたしには欠かせない大切な魔将だ」


「……しかし。俺は時々、思うんです。風のやつに劣っているんじゃないか……。ふんどしだけじゃない。俺には勝てないものをアイツは持っているんじゃないか……って」


 魔王は、にこりと微笑んだ。

「風のやつも同じことを言っていた。『ばかな所だけじゃない。私には勝てないものをアイツは持っているんじゃないか』ーーとな」

「……!」


 呆気に捕られて、ポカンと。

 火の魔将サラマンダーは魔王をまじまじと見つめた。そして、気づく。

 ーーやはり、魔王様は美しい。人間どもや魔族の価値観はわからない。だが、魔王様はまぎれもなく美しい。


「っ、い、いつまで見ている! 戻るぞ! 明日も忙しいのだ」

「御意」


 そして、影のように、魔王様の後ろを歩く。

 ーーそうだ。

 俺は彼女の武器ーー火の、魔将だ。


 ハローワークに行く必要なんかない。

 マックの店長と恋をする必要もない。

 俺は、火の。


 火の、魔将なんだ。



おしまい。

Thanks for Reading !

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※ 魔将募集 ※

異世界でチートハーレムな魔将生活しませんか。
高額基本給保障 各種保険制度完備
経験者歓迎 魔将未経験者の方も魔王直属四魔将が 親切丁寧に最前線にて指導
500歳以上の高年の方も最前線にて活躍中 子育て支援完備。最前線で死亡された方のお子さん に対する保証は特に厚くしております。
安心の魔王軍。全人類を敵に回して戦い抜ける組織 だからこそのバックアップ体制。
語学力を生かし、異世界の神族、精霊、悪魔妖怪の 助力を得ることも。
車、バイク、移動生物にての通勤歓迎。ガソリン、 電気、餌代に交通費全額支給。
社宅 専用私室 個人的部下の為の寮完備 昇給 賞与 特別手当あり(※別紙参照)

※福利厚生施設一覧……(別紙参照)

応募は こちら から
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ