セイレーンだって恋がしたい!?
真白い雲。澄み渡った青空。蒼穹にかかるは『輪』。
きゃらきゃらと笑いさざめくは、乙女たちの声。
セイレーン族の乙女たちが、水面で跳ね、また、潜る。一見、遊びのようだが、その表情は真剣そのものだ。
「ファイッ、トーー!!」
「ナイス、レシーブ!!」
「行ったぞ! トスを上げろ! わたしが、敵陣に叩き込んでやるッ」
「きゃあ、おねえさま、すてき!!」
といった按配である。
スケルトンの頭蓋骨(身体も付属)が宙に舞い、華麗なレシーブでーーワカメでできた『ネット』を越え。
ひとりの麗しき乙女がトスを上げたかと思った次の瞬間!!
「もうやめるでござる~。拙者のハートはズタボロでござるぅ」
宙を舞うスケルトン青年が涙目(? )で訴えた。そのまま、強烈なアタックで、相手コートの水面に激しく顔面を打ちつけられてむせた。ーースケルトンに気管支はないが、生きていた頃の記憶ゆえにそうなる。
「やったわ! 同点よ!」
きゃあああ、とセイレーンの乙女たちが、手をとりあってぴょんぴょん、もとい、ピチピチと跳ねる。
「取り返すわ! ゾンビマスター様のブリーフはあたしたちのモノよ!!」
「いいえ、デュラハン様の汗の匂いが染み付いた篭手は、あんたたちなんかに渡せないッ」
睨み合う、両陣営。そしてーー
再びのレシーブ。
「うぎょええええっ!?」
生前は、さる王族の末裔だったが、嵐に遭い、船が沈没。ゾンビマスターの魔力によってスケルトンとなって蘇った青年の頭蓋は、美女たちに、夕暮れまで解放してもらえなかった。
ある意味で幸せかもしれないが、セイレーンの鋭いヒレで何度も叩かれ、彼の頭蓋骨表面は、擦り傷だらけである。合掌。
◆
「ゾンビマスター様。セイレーンたちの間でも『キューギ』は確実に成果を上げています。持久力、注意力、攻撃力そして何より、本来魔族には無いーー団結力とでも呼ぶべきものが、彼女たちの間には芽生えつつあるようです」
砦の廊下を歩きながら、夫であり、上司でもあるゾンビマスターに報告するセイレーン嬢ーー水奈子。
「ときに、水奈子。部下が今日、このような文を寄越したのだがーー」
羊皮紙の一片を見せるゾンビマスター。そこには、女子高生じみた丸文字で、かわいらしく書かれてあった。
『ぞんびますたーさまとでゅらはんさまは、つきあっているって、ほんとうですか??』
「とりあえず、長い付き合いだ、と返事をしておいたが、ーーえらく喜ばれてな。デュラハンのやつと一緒に試合を見にこいとまで誘われてーー」
「……こ、小娘どもぉッ!? ほうっておけばつけあがりおって!! ひとのウチの亭主を何だと思っているのッ!?」
「み、水奈子……さん?」
つい『さん』付けなどしてみる、ゾンビマスター。
「……コホン。あたしから、良く言っておくわ。何か、カンチガイがあるみたいだから……」
額に青筋が浮くーーというのは、エラ呼吸ゆえにないが。
彼女たちにはよぉーく、言って聞かせよう。頼むから夏のコミケには行ってくれるな、と。もちろん、冬もだ。そんな不埒者は第一軍団から除名する。そう通達しよう。ゾンビマスターの補佐官である水奈子嬢は、燃える決意を胸に家路についた。
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