テニスとかやってみたい。
「本日は『てにす』なる軍事訓練を行う」
練兵場に集まった、魔王軍は第一軍団の兵士たちに、どよめきが広がる。彼らの前に立った黒騎士ことデュラハンが、ホワイトボードを用いて説明する。
「いいか。まず最初に言っておく。これは非常に高度、かつ危険な訓練だ。妻子(夫子)ある者は参加しないように」
一部の兵士からブーイング。きっぱり無視してデュラハンは説明を続ける。
「まず、用いるのはコレだ」
ゾンビマスター配下のスケルトンが、がらがらと引いてきたモノーー。
大型攻城兵器。通称・カタパルト。
スプーン様の皿の部分にでっかい岩などをのせ、スプーン柄の部分を引いて固定し、それが元に戻ろうとする力を用いて射出する道具である。
「カタパルトにて、二十歩ほど離れた位置の相手をまず狙撃する」
カタパルトで狙撃とかありえない。
そんな意見を粉砕する勢いで、カタパルトから大岩が発射された。
「コレをッ! 打ち返す!!」
手にした大剣を、岩に向けて振るうデュラハン。
見学者たちの間にはどよめきが走る。
「そしてッッ」
豪快なスイングも終わりきらぬ内に、デュラハンは、ーー騎士の命たる剣を。あろうことかーー。投げ捨てた。
「デュラハン殿!! 剣を投げるなど騎士の恥ぞ!!」
同僚の忠告も耳に入らない。剣ーーつまりは、鋼鉄の塊であるそれを投げ捨て身軽になったデュラハンは、東の方角に向けて走り出した。向かう先には、なぜか、花瓶(?)が置かれてある。
デュラハンは皆に判るように大声で説明する。
「ポイントに設置された『べえす』を入手し、割らぬよう最新の注意を持って上に立つ」
走る衝撃。
「なんと……!!」
「花瓶の上に立つとは、生易しいことではない!!」
「デュラハン殿!」
ちなみに、デュラハンが殴打した大岩は、バッターボックスの傍らに転がっている。
「投石器係は、岩を回収し、次なる戦闘にそなえる。ーー以上が、『てにす』のルールである!!」
どよめきは止まらず、ますます大きくなっていく。得点はどうするのか。花瓶を割らぬようその上に立つにはどうすればよいのか。そもそも、飛んできた岩を打ち返す意味は何か。
質問責めに合うデュラハンは、親友に向けて言った。
「ゾンビマスター。まずは我らで実演してみよう。ーーいいか、諸君。」
ゾンビマスターの配下が、カタパルトを発射する。飛び出す首ーー待て、なぜ、首なのだ。
デュラハンは、迫る首をひょいとかわした。
「ぼおる!」
審判役のデュラハン部下が、宣言する。
「よいか、諸君。投げた岩はできる限り正確に的を狙うのだ。もし仮に『ばったー』を粉砕した場合、その人物は『いちるい』に搬送し、花瓶の上に横たえる」
「花瓶にッッ!!?」
部下たちの深刻な動揺を、デュラハンは無視した。
「『いちるい』の花瓶の上に立った『そーしゃ』は、次には『にるい』の花瓶を目指して走らねばならん」
ひとつでも大変なのに、二つも花瓶があるのか。絶望感が、第一軍団を支配する。
「『にるい』の『べえす(花瓶)』にたどり着いた『そーしゃ』は、次に『さんるい』を目指す」
何て長い。旅路だ。ーー顔色のないアンデッドだが、今回ばかりは顔色が見える。
「『さんるい』の花瓶にたどり着いた『そーしゃ』は、次に『ほんるい』を目指す。いわば、コレが敵の城、本陣に当たる!」
おお……!! どよめくアンデッド軍団。
「こうなれば、もう容赦は要らん! 敵の『べんち』に攻め込み、『かんとく』の首級をあげろ。そうなれば我らが勝利だ」
ーーようやく、ルールが飲み込めた。
敵の城塞を破壊し、突破。迫り来る人間どもを蹴散らして司令官を血祭りに上げる。考えるまでもない、分かりやすい。
「では、者共!! 訓練、開始だ!!」
「おおッ!!」
拳を振り上げるデュラハン、およびゾンビ。
◆
結論から述べよう。訓練は凄惨を極めた。
カタパルト攻撃で粉砕されたゾンビ、76名。
花瓶の上に立てずに脱落した者、536名。
とうとう、敵の『べんち』にまでたどり着けた者はいなかったと云うーー。
おしまい。
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