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首無し騎士とゾンビが籠球に興じる話。  作者: 魔王@ばすけっとこーと
2/8

ウチの子が好き嫌いをする話。

 妻、ガイアは美しい。波打つ金の髪はまるで実った小麦畑。瞳は宝石そのものだ。戦場に出れば、60秒間に100人の騎兵を投げ飛ばし、120秒間に200人の歩兵をちぎっては投げる(比喩ではない)。


 その戦闘力もさることながら、料理の腕は超一品。人間の肌に幾重にも飴を塗り、ぱりっと焼き上げて秘伝のソースで食す丸焼きヒューマンとか。新鮮な生の人間を華麗に切り身にして、美しく盛り付けた人間の活き作りとか。


 ーーああ、たまらない。想像しただけでヨダレが出てきた。


 みっともなく口の端に垂れた涎ーー部下にはこの姿は見せられないーーを手の甲で拭き、改めてうなだれる妻の後ろ姿に近づく土魔将ーー ノーム。


「ガイア……」

「ああ。あなた……!」


 ノームの胸に、もとい、頭にすがりつく、もとい、抱き締める、もとい、魔将ノームをホールド・アップして胸元で締め上げる可憐な妻、ガイア。


 台所に、ノームの絶叫が響いた。


「ノームさんッッ!?」


 何事ですかと、ふたりの可愛い娘、由紀子が尋ねる。


「……ああ、いや。その、少々、だな、愛の語らいというやつだ。由紀子にはまだ早いな、うむ」


 いつかは嫁に行くのだろう。でも、今の絶叫を聞いては、由紀子のその決心も揺らぐ。オトナって怖い。


   ◆


 由紀子が台所を去り、魔将ノームは、改めて妻に尋ねた。


「どうしたというのだ、ガイアよ」

「……あなた。由紀子ったら、あの子ったら、また好き嫌いをしてッ! 人間の肉を残すんです。好き嫌いをしていたら立派な魔族にはなれないって、いつも言っているのに……」


「……そうか。好き嫌いは良くないな。人間の肉は栄養もたっぷりだし、賢くなれる。ーーうむ。小さく刻んで、由紀子の好きな『フロフキマンジュウ』というのに混ぜてはどうかな?」

「もう試しましたよ。始めは上機嫌で食べていたのに、急に顔をしかめたと思ったら、吐き出してしまって……」


「そうか。あの子も難しい年頃なんだろう。仕方ないかもしれんな」

「また、あなたはそんなことを言って甘やかす! ダメですよ、由紀子は私たちの娘。立派な魔族になって、魔王様のお役に立つんです」


「……。」

 その会話を、壁の陰で聞いている、小さな影がひとつ。話題の主、由紀子である。

「(……おとぅちゃん、おかぁちゃん……)」

 しかし、こればかりは譲れないのである。人間としての沽券に関わる。



「由紀子ちゃーん、ゴハンよ!」

「はぁい、今行きますッ」


 食べる前に、由紀子は必ず尋ねる。

「ガイアさん、これは何ですか?」

「お肉よ」

「何のお肉ですか?」

「栄養たっぷりで、精がついて、健康にも良いの。魔族のお年寄りだって、コレを食べれば100年は若返るわ。さあ、召し上がれ!」


 無言で席を立つ由紀子さん。無言で食堂から出ていく由紀子さん。ギギギ、と首だけで振りかえる由紀子さん。


「きょうのごはんはいりません」


 そのまま、部屋にこもって朝まで出てこなかった。やはり、難しい年頃なのだろう。ガイアはため息をついた。


 明日は、挽き肉にして、魚肉、猪肉、鹿肉と混ぜて、さらに小麦粉とタマゴ(セイレーンの)も加えて、強火で一気に焼いてみよう。


 由紀子さんの戦いは1日三回。今日も明日も、明後日もつづく。ーー無事、元の世界に帰れる、その日まで。



おしまい。

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