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少年が料理をしている場所からそう遠くない場所でミーリアは色々なモノの名前を教えていた
「あの丘にある大樹は、『カルジュムツリー』
人々が心休める場所になりますようにって神様がつけたといわれる大地の源なの」
今いる場所からあまり遠くない所にある広々とした丘に天まで届くと謳われている大樹を指差す
「かるじゅむつりー…」
唐突にしゃがみこみ少女に向かって手招きをする
少女も手招きにつられてしゃがむ
「このキラキラしているお花は『レイチェルティア』
これは神話に出てくる女神『レイチェル』様の流した涙の跡から生えてきたと言われているわ
こうやって名前は願いやお話の中からつけられるのよ
お嬢さんは坊やへ何か願いを込めてつけてみたらいいんじゃないかしら?
お話からつけたかったら私がしてほしいお話をなんでもするわよぉ~」
「うー…ねがい、こめる
あのことってもだいじ、とってもしあわせになってほしいの」
「そうねぇー……あ、そうだわぁ
この世界の名前を教えてあげる~
豊穣と実りの大地、創造主イリウス神様からとった『イリウスティア』っていうの」
少女の周りをくるくると回り
「さあ、見て…感じて、この世界を」
そういってミーリアは指を上にさす
少女は一度深呼吸をしてミーリアの指につられて上を見上げる
どこまでも続く青い空と白い雲
木々の隙間から聞こえる鳥の羽ばたく音
遠くから聞こえる人の声
風に煽られて擦れる木々の音
すべてが新鮮で少女の心を満たしていった
最後に感じたのは少年の暖かなぬくもり
「ミーリア、すごい…」
そして少女は生まれて初めて涙を一粒だけ零した
タイミングが良いのか悪いのか、少年が少女たちの方にきた
「ご飯出来た…え?え、ええ?何で泣いてるの!?……ミーリア!!!」
「!!
ちがうの、みーりあちがうの
きれいなの、わからないけどめからみずがこぼれて
とってもかなしくないの、ここがぽかぽかしてうれしいの
あえてうれしいの、きみやみーりあにあえてとってもとっても」
ミーリアへの疑いを否定して少女は自分の胸をおさえとても嬉しそうに顔を綻ばせる
それを聞いて二人は少女を抱きしめる
「あぁー、本当にいい子ね
自分の感情にとっても素直な子だわ
ん~可愛い!!」
「感動して俺も泣きそうなんだけど」
「あぅ、ぁぅ」
照れながらも人の温かみを知り、二人に抱き着いて貰えた事が嬉しくて綻ばせた顔をさらに緩める
傍から見れば異様な光景が少しの間続いたが
少年は重大なことに気付いた
「…っは!
君にもっと抱き着いていたいのは山々なんだけど
君の為に作ったご飯冷めちゃうから、そろそろ行こうか
一応ミーリアの分も簡単に作ったからよければどうぞ
食べないなら俺が食べるからどっちでもいいよ」
「あら、作ってくれたのぉ~?さすがやっさしぃわねぇ~
ふふ、勿論頂くわよー」
「ご飯を食べる前は命を刈り取ってしまった動植物に対して感謝の意味を込めて[いただきます]というんだ」
「ご飯を食べ終わったら、今度は作ってくれた人に対してありがとうの意味を込めて[ごちそうさまでした]っていうのよぉ」
少女は二人の教えてくれることにうんうんと頷く
少年のせーのと言う掛け声とともに
「「「いただきます」」」
少年が少女の為に作った料理は卵粥
ミーリアの為にと作ったのが新鮮な野菜を挟んだサンドウィッチだ
「……ぉいしいっ」
「あら、これは…おいしいわねぇ~」
二つとも二人に好評の様で少年は満足げに笑いながら自分もミーリアと同じものを口にする