◇3
土の国のはずれにある林
羽音をたてて地上に降りたつ
「もう、降りて大丈夫だよ」
おずおずと…というか滑り落ちるように少年の背中から降りる
少年の背中から降りた少女は挙動不審げにキョロキョロと林を観察する
林には小さな花などが咲いている
それに気づいた少女はふらふらと花の方に近寄る
一方少年は、ここに危険な気配がないと判断して人型に戻ると
あの不思議な袋から材料と調理道具に食器、簡易テーブルを取り出す
ここで少年は思った
(あの魔王…様、どんだけ物を入れたんだ…
試しにと思って念じたら材料、包丁、まな板、食器に簡易テーブルまで出てきたし
ちょっと過保護すぎじゃないか?
別に困らないしむしろ助かるからいいけど
本当に変な魔王…様だ
あの子には消化が良くておいしい物を作ってあげなくちゃ!)
考えるのがめんどくさくなった少年は少女の為に調理を始めた
小さな花を見ていた少女は、少し先に光っている何かを見つけ歩みを進める
その光は宙を自由に飛び回っている
少女が近づくと光はキラキラと近くに寄ってきた
<あらー?あら、あら、あら、綺麗な色ねぇ>
光は、ふよふよと少女の周りをぐるりと回り顔の前で止まった
「………なに?」
<ふふ、ごめんなさいね 髪や目の色があまりにも綺麗で、つい
あ!私は、精霊のミーリアよー
ねぇー、貴女は何ていうのかしらぁー?>
「ぁ、…せいれい?
ぅ…と、なまえ…まだなくて"もりのくに"にいったらあのこにきめてもらう…の
ぇと、わたしもあのこのなまえをきめるの」
と言って少年のいる方に視線を向ける
精霊も少年の方に興味深そうに視線を向けた
<そうなのー
んー、私もあっちに行ってもいいかしらぁ?>
「…うん」
自分に害がないと判断した少女は先に行く光をよたよたと追いかける
初めて見る精霊(?)に驚きながらも少年の方に戻っていく
少年は光る何かを連れている少女を見て慌てて包丁を置いて少女の方に向かう
「精霊…?どうして君についてきてるの??」
「ここにきていいってきいた、わたしうんっていったの」
「そ、そうなんだ、でそのここに来たいって言った精霊はなぜここに来たいと?」
<いいじゃなーい、面白そうだったから来たのよん
そういえば貴方の髪と目も綺麗ねぇー
私、綺麗なものって好きなのよねぇー>
光が嬉々として発光している
精霊は顔や体がある訳でもなく、ただただ光る物体が発光して喋っているのだ
少女は興味津々といった感じで、少年は変な精霊だなーと半分呆れた様子で見つめている
そんな二人の視線を気にした風もなく
<うふふ、貴方たち森の国に行くんでしょぉ?
そうだ、貴方たちに私の本体を預けとこうかしら!>
と名案だと言わんばかりに今まで以上にキラキラと発光する
「は?本体って結晶の事でしょ…?
傷ついたりしたらどうするの?
第一、精霊のくせに…まぁこの子はともかく、俺の事そんなに簡単に信用して」
この子は…の所で少年は少女を見遣る
というか、精霊のくせに、ということは少年はどうやら精霊について、知っているようだ
困った、と表すようにうねうねと少年の周りを回る精霊
<んーまぁ、他の子はそうかもしれないんだけどねぇ~>
<私、目を見ただけで人の根底が見えるのよぉ~?
…そーねぇ、貴方たちを信用したんじゃなくって私の目を信用したってことにしましょ!
というわけでー
はーい、坊や手を出して頂戴な>
「(…どうしようか、この子が随分と気に入っているみたいだしなー ま、いいかな…うん)
んー、じゃあ…はい」
少年は少女を見てちょっとだけ考え、最後は面倒くさがり妖精の方に片手を差し出した
妖精は少年の掌に雫の形をした透明な結晶を落とした
<坊や、私の本体を握って魔力を流してくれるかしらぁ
貴方ー、そのくらいもうできるわよね?>
精霊は、そのくらいお見通しよんっと言ってチカチカと光を出す
少年は精霊に対しちょっとイラッとしつつも言われた通り、結晶に魔力を流す
魔力が結晶に流れ、精霊(光)が一層チカチカと光はじめ、終いには視界埋め尽くすほどの光で少年と少女は目を閉じた
「もう開けても大丈夫よー」
と精霊が声を出すが、少年と少女はその声に違和感を覚える
恐る恐る目を開けると知らない女の人が鎮座していた
見た目は人間でいう20代くらいで青いドレスから覗く首や手首から鱗が見える
「……だれ?」
「さあ?」
頭に響くような声ではなく自分たちの耳から声を拾っていたのでまぁ、当たり前である
女の人は面白そうに笑みを絶やさないまま口を開く
「やーねぇ、私よ私!
ミーリアよぉ、お嬢さん♪
坊やの魔力のおかげで実体化出来たのよぉ
うふふ
でもね、どの精霊でもできる訳ではないのよ!
ごく少数の力の強い精霊だけぇ、んー、人間の言葉でいうと聖霊の方かしら?
私たちはあまり区別しないのだけど、力の強さでそうなっちゃうみたいなのよねー
あー、体があるって面白いわねぇ~」
「うふふぅー?」
実体化出来たことが嬉しいのかその場でクルクルと回りだす
少女も釣られてミーリアのもとで楽しそうにクルクルと回る
少年は楽しそうな少女を見て顔の筋肉が緩みそうになったがまだ聞きたいことがあるので無理や引き締めて問う
「その黒い鱗は俺から送った魔力のせいか?」
「だーいせいかぁ~い!精霊は木々の生命力や契約者の魔力から成り立ってるからかしらねぇ…
生命力や魔力はとっても反映されやすいのよぉん」