3.汗降って血固まる
これにて、おわり~
「疲れた…」
空がとーてーもー青いのね♪
あれから更に数日、俺は自由を求めて脱走を繰り返していた。
無論。手入れが隅々まで行き届いた庭で、ひっくり返っている事から察するだろうが。
失敗の連続だ。
ああっ、くそ。
これもすべて、元・部下(数日だけの間)のせいだがなっ。
メリッサの見方をして、脱走する俺を毎度毎度捕まえやがってぇ。
はああああ。
たそがれている俺に、麗しのオジョーサマが追い討ちをかけにやってきた。
無意味なことだの。独創的な脱走方法は無いのか。
ネチネチと脱走について、一言言ってくる。
俺の脱走を、一番心待ちにしているのは、絶対コイツだ。
「ここにいましたのね。他にたそがれる場所は無いのかと、いいたいところですが、早く見つかって幸いですわ」
嫌味を一つ言うなり、俺の腹の上に何かを放り投げやがった。
物置じゃないんだぞ。
んん!?…………弓矢?
「なんだよ。これは、お前を射れと?」
「残念ながら、恋愛のシモベが持つ愛の弓矢ではありませんわ。魔よけのです」
「……やっぱり、お前限定じゃないか」
「冗談ではなく。白茄子が来るのですよ。さあ!構えて!」
はああん?
胡乱なまなざしで、お嬢さんを見るが、はじめてみる真剣な顔で睨みつけてくるだけ。
家庭内害虫でも発生したんかね。
そんな俺の耳に野太い男の掛け声が、聞こえてきた。
だんだんと近づいてくるな…と?ん?
こ、輿?
野太い男の掛け声が止んだ時。
俺の目の間に、摩訶不思議な物体が出現していた。
屈強な男が担いで運んでいるのは、金やら宝石やらが象嵌された輿だった。
ちっ。
悪趣味の権化が、私の庭の景観を破壊しています。
なんという、嫌がらせでしょう。
白茄子め。婚約破棄の知らせに、慌ててきたのに来たのでしょう。
しっしっ。
さっさとお帰りくださいな。
と言っても、聞く人間ではありませんわね。
とりあえず、デウリーに護身用に弓矢を渡しておきましたけれど…。
先程の言葉。
…彼が、本気にして、白茄子を射てくれれば、万事オッケーな感じ↑?
あら、本気になさっていますのね。
冗談に決まっているでは有りませんの。
おほほほほほほほほほほほほほほ
失礼。
わが旦那様を見ると、口を大きく開けて固まっています。
思わぬことに遭遇すると、思考が停止するようですわね。
バカでしょうかと思い悩むところですが、相手がラルースでは仕方ないでしょう。
男達の掛け声が止み、輿が停止するとともに音楽が流れ出しました。
輿の背後に、音楽隊がいましたわ。オエッ。
「君が、僕の恋敵か」
盗賊の俺としては、宝の山。
なけなしの美意識からすれば、破壊主義的な輿が数歩手前で停止していた。
そして、ゆっくりと輿を下ろした。
よ、良かったぜ。
これ以上近づいたら、流石に回れ右をしていただろう。
しかし、更に恐ろしいことが続く。
ゆうがぁvな音楽が流れだした。
いつの間に、ブトウカイに紛れ込んだんだ?俺?
「君が、僕の恋敵か」
「おい。行っておくが、俺は結婚したつもりもないし、恋敵でもない」
俺の横では、オジョーサマがいつに無く引きつった表情でうめいていた。
澄んだ美声が発せられ、俺の前にオジョーサマ並の男が姿を現した。
茶色の巻き毛も、深海の色を映した藍色の瞳。オジョーサマとは、別の意味で美しい男だ。
何故が、伏せ目。
「メリッサ、君が醜い者と結婚したと聞いてね。慌てて飛んできたのだよ。母にかろうじて似ているのがとりえの君が、僕以外の者と結婚するなんて、信じられなくてね。
周囲の者達が、とうとう正気をなくしたのかと絶望しかけたのだが。こうして、きてみると。どうやら、君のほうが正気をなくしてしまったようだね。悲しいことだ」
すっっげえ、自己陶酔者だ。おまけに、嫌味だ。
「(さすがといったら、瞬殺される度数200%)オジョーサマの従兄弟で、婚約者か」
「オジョーサマの前に、どのような形容詞をつけたかは後で、みっちり聞き出していただきますが、悪魔に誓って事実ですわ」
なけなしの同情が吹き飛んだぜ。
「おい。行っておくが、俺は結婚したつもりもないし、恋敵でもない」
しかし、男は伏せ目のまま、熱心にメリッサに話しかける。
無視かっ。
「分っているはずだ。私よりも美しい者など、この世に存在しないのが悩みでね。困ったものだよ。」
オジョーサマは、微笑むこに見事に失敗し、珍妙極まりない表情のまま固まっていた。
「君は、母と同じ髪の色をしているし、髪の質も同じだ。瞳の色も、今まで見た取るに足らない女達と違い、世界一美しい僕と唯一つりあう母と同じ瞳の色だ。だから、君と結婚してあげるというのに…!」
ソレって…すごく、ヤバクない?
その告白っ!
「そこにいるだけで気が狂いそうになる彼だって、そうだ。僕と比較するのも、許しがたいっ。史上まれに見る、醜い者ではないかっ」
おい。切れるぞっ。
血管がぶちきれそうな俺の耳元で「殺せ、殺せ」と妖精が囁く声がっ。
「何をしているんだ」
「あら、何のことですの?」
無邪気そうに微笑むオジョーサマ。
ええい。シラを切りやがって!耳元で、煽りやがって!
この超絶自己陶酔者の従兄弟がいるだけあるわっ。
デウリーの怒る顔を見ていたら、胸がすーとしましたわ。
清涼剤のような存在ですわね。ふふ。
それにしても、相変わらずなラルース。
一方的に喋るだけで、人の話も意見も聞こうとしないですから。
鏡に頬ずりする人間など、興味ありませんし。存在して欲しくも有りません。
ああ、疎ましい。
母に似ているから、結婚するといわれ、ほいほい結婚する人間ではありませんわ。
それでもいいから結婚しましょうという方に、求婚してほしいです。
でも、そういう方々はラルースの視界には入っていない様子。
これまでも、手紙に人づてに直接と断っているのに対し、全く聞き入れません。
こうなれば、最・終・手・段でしょうか。
「人の話をきけや」
「そんな君に、これをあげるよ」
何故が、伏せ目。
そういって、ラルースが近くの男に合図をする。
屈強な男が渡したのは、男性用の美容パック………正気か?(俺の時代では、男の美容といったら、髭の手入れぐらいだぞ)
確かに、お嬢様の言い分は正しい。
白く男にしては異様にすべすべした茄子を連想させる。
おまけに白い。
きれいな白さではなく。気持ち悪い気がするぞ。
「これを使えば、僕が正視できる顔に、少しでも近づけるだろう」
むかっ。
流石に、腹が立つぞ。
「見てのとおり、僕は神の罪だからね。こんなに美しい僕をつくり上げるとは、神は犯してはならない罪をー」
プス。
………あ。殺っちゃった…
眉間から矢を生やすという、曲芸師も真っ青の――ゴメンナサイ。俺が、殺りました。
だって、思わずさー。
耳の毒っつーか。とりあえず、抹消しましょうという天の声が聞こえてね……。
嫌だね。白茄子の影響かなぁ。
「よくやりました!さあ、一刻も早く埋めるのです!!!」
そういって、オジョーサマが掲げたのは、庭師も持っていない特大のスコップ。
…………………どこから、出したんだよ。ソレ。
なぜか騒ぎもしない男達だが、それよりも白茄子だ。
伏せてピクリとも動かない。
冥福を祈りつつ、ひっくり返そうとした…………………………その時!
「あああああ。天の至宝すら嫉妬する 僕の顔が!!!!!」
予備動作も無く、白茄子が身を起こす。
「ひぃぃいぃいいぃいいぃぃいぃいいいいぃぃぃぃ」
こええよっ。
それにしても、どんな顔だよ。勘弁してくれよぉ(滝涙)。
ホラーか!ホラーなのか!
俺は、幽霊は嫌いなんだよぉ~!
おきあがる白茄子の額からは、血を滴りおちています。
どれだけ頑丈な額なのかしら!
もしかして、額に鉄板でも埋め込んでいますの!?
キミが悪いですわ!!
こんな奴と結婚なんて…なんとしてでも、葬り去らなければ!
青い顔をしてガタガタ震えている旦那様(情けないわね!)の肩を掴み、揺さぶります。
「旦那様、ラルースを葬りましょう!私、どのようなことでも協力いたしますわ!」
決死の表情でメリッサが、俺を揺さぶり脅迫してくるっ。
ああ。分っている。分っているから、ゆするな。吐くっ。吐くがな。
ふうー。協力するぜ。
メリッサに捕まってから、こんな連中ばっかりだっ。
というか、マジで解放してくれぇぇぇっ。
トホホ…
次が思い浮かびませんでした。
なので、終わりです。
読者の方に少しでも、笑っていただいたら嬉しいです。
失笑でも可です。
感想お願いします(≧∇≦)