若者の嘆き
テンプレートな話ですが…。
「あぁ…。」広い庭の一角。
東屋に、上着や手拭い、メイドに頼んだ軽食入りのバスケットを置き、四人は互いに木刀を振っていた。しかし、「おい、鬱陶しいぞ。セド。」ミグが、たまらず声を上げる。「さっきから、『あぁ』だの、『はぁ』だの。なんだ、喘ぎ声の練習か?」言葉の先は、東屋の段差に、四人の素振りに加わる事なく座っていたセドに向いている。「おい、止めろ。気色悪い。」ジルが、嫌な顔をしてミグの頭をはたく。「なんだ、腹が痛ぇのか?」ガインは、屈強な身体から湯気をたてながら話に加わる。「はぁ…はぁ…。ち、ちょうど良い…。きゅ、休憩にしよう…。」木刀を杖にして、マルはフラフラしながら東屋に戻る。「マル、もうちょい体、鍛えねえとな。」「う、うるさい…。はぁ、お、お前と比べるな…。」「産まれたての小鹿のようだ。」「小鹿より、細ぇんじゃないか?」マルは、ジルとミグの軽口も無視して東屋のベンチに倒れこんだ。
「やぁ、さすが、アリア。わかってるなぁ。」バスケットの中には、たっぷりのハムと野菜、卵の入ったクラブサンド。チーズとクラッカー。そして、「俺、アリアの木苺のジュース、大好き。」ガインは子供のように、はしゃいでいる。「ほら、セド。お前の話を聞かせてくれ。」ジルは、ジュースを入れたカップをジルに手渡しながら、話をうながす。ジルは、ゆっくりとベンチに移動してきた。「こりゃ、以前とは逆だな。」ミグは、小声でマルに話す。「…お前、友達いないだろ。」「なにおうっ?!」「おい、うるせぇよ。」ガインは、いきり立つミグを注意する。「…ガインに注意されるとは…。」「大丈夫か、セド。俺、薬貰ってこようか?」ガインは、ミグを無視してセドを気遣う。「…。」「俺に目で訴えるな。日頃の行いだろ。」マルは、疲れから、ぶっきらぼうにミグをあしらう。
「いや…。すまない。別に病気とかじゃないんだ。」セドは、カップを両手にくるんで、話し始めた。「以前、話したろ?幼なじみの。」「ああ、二つ下だったかな。」「お前んちの馬車で、送り迎えしてた子だろ?隣だったんだよな。」「…そう、その子。」セドは、肩を落としてうつむく。「…馬車が直って、それからは、自分ちの馬車で登園していたんだ。」そりゃ、そうだよな。と、周りは目で会話する。「けど、昨日…。俺、部活で遅くなったんだ。」
セドは、辺りが暗くなりだした頃帰宅した。使用人が早く片付けれるようにと屋敷の前ではなく、馬屋の近い裏口から入ろうとそちらに回らせた。馬車から降りて、さあ、入ろうとした時、彼は、隣との境界となる生け垣の間から見てしまったのだ。
「…あの、可愛い、まだあどけないリリアに。あの、汚ならしい男が…!」セドは、空のカップを握る。木をくりぬいたカップは、“ぴしっ”と音を立てた。「お、落ち着け、セド。」「まさか、暴力か?!」ミグとガインは、セドの肩に手をおく。「リリア嬢が怪我をさせられたのか?」「やり返すなら、協力するぞっ!?」二人は、鼻息荒くセドに協力を申し出たが、二人の反応とは逆に、セドはグニャリとベンチにもたれ、「いや…逆だ。」と、ちからなく話す。「まるで、絵本の挿し絵のように、頬を染めて、あの男に抱きしめられていたのさ…。」誰も言葉が発せなかった。「そりゃ、身分差がありすぎるからな。隣とはいえ、幼なじみとはいえ婚約者にはなれない。頭では、わかっていたんだ。」ほろり、と涙が1つ、零れた。「…セド…。」ガインは名前を呼んだが、次の言葉が出てこない。「ただ、なんだろな。本当に、妹みたいな、娘みたいな気持ちだったんだ…。けど、他の男の腕に抱かれた、あいつの顔がさ…。」ほろり、ほろりと涙が零れてくる。「…あの、可愛いかったリリアが、『お兄ちゃん』と、後をついてきたリリアが…“女の顔”をしてたんだ…。」セドは、そう言い終わると顔を覆って泣き出した。木のカップは、石畳に当たって割れた。「…セド。」ジルは、セドの肩を抱いた。ガインも、無言で背中をさすった。「…仕方ないさ…。婚約者は、彼だ。」マルは、厳しくも現実を話す。言外に、セドの心のケジメを促していた。
「…セド…お前はバカか?」その言葉に、四人は顔を上げ、一人を見つめる。「バカか、お前は。なにが、妹だ、娘だ。そんなもん、お前の勝手なエゴじゃねえか。」ミグは、立ち上がり、座り込み泣く男を指差すと、「立ち上がれ!そして
己で道を切り開けっ!なにが身分だ。何が幼なじみだっ!単純に、お前は、リリア嬢に、恋慕してただけだ!」
後は、言葉はいらなかった。飛びかかったセドにミグは対抗し、止めにはいったジルとガインも巻き添えに、まるで知恵の輪のようにこんがらがっていた。
しばらく後、息の上がった四人が床に転がった。「はぁ、はぁ…。気は…済んだか…。」ミグは、鼻血を拭きながら言った。「…くそっ…。お前に話すんじゃ、なかった…。」「なら、目立つ所で、喘ぎ声なんぞ、吐くな。」「…うえっ…、気色悪いっつたろ…。」「ははは、不器用な奴らだ!」ガインはまだ動き足らないようだ。
「…脳筋ばかりかよ…。」
マルだけは、ベンチで優雅なティータイムを過ごしていた。




