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第5話『もう寂しい思いはさせないぞ』

ヒナちゃんねるの撮影は順調に進んでいった。


僕が飛行機で見た物の続きらしく、今日もアニメのロボットのプラモデルを作る様だった。


「ふむ? これは……? どういう事だ?」


「もー。不器用だなぁ。ここは、こうやってこうだよ!」


「なるほど! 陽菜は天才だな!」


「ま。それほどでもあるけどね!!」


【まぁ同じ様な場所を昨日は陽菜ちゃんがミスってたんですけどね】


【昨日より進化してるって事だろ! 天才では】


【陽菜ちゃんに甘すぎるヒナちゃん民】


「ま! この程度は余裕って訳。だーかーら! 今日はもっと難しい奴買ってきたよ! 箱も三倍くらい大きい!」


「おぉ、陽菜はチャレンジャーだな。光佑と二人で作るのかい?」


「うん! 愛の制作だね! お兄ちゃん」


「そうだね」


【まーたガチ恋勢挑発してる】


【陽菜ちゃんの日課だからね。仕方ないね】


【定期的に毒抜きして、酷い事にならない様にしてるんじゃね?】


【抜いても抜いても毒しか出てこないんですけど】


「む? 陽菜。君の事を悪く言う人々がこんなにいるが、何故だ」


「何故って、色々気に入らないんじゃない? 大した理由は無いと思うよ」


「大した理由は無いって、陽菜はこんなに愛らしいのに、不思議だ」


「アハハ。ジョージさんってば面白い人だね! アハハハ。お腹痛い」


真面目に悩む僕に陽菜はおかしそうにお腹を抱えて笑った。


何か面白い事を言っただろうか。あまり自覚は無いのだけれど。


しかし僕の可愛いお姫様が嫌われているというのは何とも面白くない。どうにかする方法は無いだろうか。


「光佑!」


「どうかしましたか?」


「陽菜を嫌う人々が陽菜が天使だと分かる為には何が必要だと思う?」


「俺の経験上から言わせてもらうなら、何をしても無理ですね」


「なんて、ことだ」


【ジョージ・ウィルソン。中々愉快な奴だな】


【そもそも問題、陽菜ちゃんアンチが生まれた原因の五割くらいは陽菜ちゃんが原因だしなぁ】


【本人に改善する意思は無いしな】


【そして四割くらいは立花ガチ恋勢と。詰んでますね】


【しかも今回の放送はどこから嗅ぎつけたのかジョージ・ウィルソンのファンも出て来て熱心にアンチしてるぞ】


【まぁ、ジョージ・ウィルソンは未婚だしな。スキャンダルとかも一切ないし。異性に仕事以外で興味を示したのは陽菜ちゃんが初だしな。そら荒れるわ】


【流石は俺たちの陽菜ちゃんだぜ!!】


【何のかんの注目は増えてるし、これは凄い事ですよ】


【そうだね(アンチ君の数を見ながら)】


「ま。台所に出てくる虫の話は良いよ。私はそろそろこのモンスターを作りたいんだから! はい! みんな準備準備!」


「僕も参加して良いのかい?」


「とーぜん! 人手は足りないからね!」


「じゃあ、陽菜。少し失礼するよ」


僕は陽菜を抱き上げて、足の上に乗せてから自分のプラモデルをどかし、彼女が持っていた巨大な箱を置く。


パーフェクトなプラモデルか。これは随分と大きく出たな。


「ちょっ、なんで私ここ!?」


「刃物を使うのは危ないからね。僕が代わりにやろう」


「それは良い案だ。俺も協力しますね」


「ちょ、ちょっとー! 私も作りたいんですけどー!?」


「大丈夫。組み立ては陽菜の仕事だ。大仕事だぞ」


「そうだね。重要な仕事だ」


「おいこら! この過保護共!! 聞け!! 私もパチンパチンやりたいの!!」


「おいおい。こんな事を言っているぞ光佑」


「よし。ならこの端っこを限界まで切って、手で切ってもらうのはどうでしょうか。これなら危なくない」


「天才じゃないか。よし。光佑の案でいこう」


「どこが天才じゃ! 陽菜ちゃんのだぞ!」


【とんでもない事になってきたな】


【ジョージの奴、思っていたよりも陽菜ちゃんオタクだったんだな】


【まさか兄さんレベルの過保護が出てくるとは】


【よし。ここに佳織ちゃんを召喚して過保護同盟を結成しよう!】


【もうあらゆる行動を許されなそう。全て監視下に置かれるぞ】


【まぁ世界レベルのイケメンにここまで介護されるのなら、天国では?】


【これを天国と言うかについては議論が必要ですね】


その後、怒った陽菜が僕から飛び出して、ソファーの上に立ち僕と光佑に説教をして、この計画は崩壊した。


結局、危険なプラモデル制作作業で陽菜が怪我をしないかハラハラと見守る事になるのだった。




それから三日ほど経った日の夜。


僕は予想もしていなかった人と再会する事になる。


「お久しぶりですね。ジョージ」


「朝陽、か? 変わってないな」


「変わりましたよ。貴方の知っている朝陽から、大分」


「そうか。そうだよな」


「ジョージ?」


「ここ数日だけだが、僕も陽菜の父親として行動してよく分かったよ。親になるとは、頭で考えているよりも世界が大きく変わるんだな」


「……そうですね。私もあの子たちに教えられる事が多くあります」


「うん。そうだな。うん」


僕は朝陽の言葉に頷きながら、朝陽の隣に座っているやや冷たそうな印象を受ける男と、殆ど無表情でお茶を飲んでいる光佑、そして不安そうな顔をしている陽菜を順番に見た。


見て、僕はずっと心の奥底に抱えていた想いを口にする事にした。


「朝陽」


「なんでしょうか」


「会いたかったよ。君に、ずっと」


「……っ」


僕が言葉を発した瞬間、光佑の気配が一瞬鋭くなり、陽菜が怯えた様な気配を見せた。


朝陽は酷く驚いている様な風で、何を言えば良いか戸惑っている様だった。


でも、何かを言う必要なんて無いのだ。


別に僕は朝陽に恋をしていた訳では無いのだ。


だから、少しだけ勘違いをさせてしまっているのなら、訂正したいと思う。


「あの時。僕達三人はいつも一緒だった。それがいつの間にかバラバラになって、こんなに時間が過ぎるまで会う事も出来なかった」


「……そうですね」


「だから、幼馴染であり、親友でもある君に、また会えた事を嬉しく思うよ。朝陽」


「えぇ、私も同じですよ。ジョージ」


「あー。ただ一つ君には謝らないといけない事があるな」


「謝る?」


「そう。かつての僕は、君や里菜と共に居る事が世界の全てだった。でも、今は何よりも大切で、愛する人が居るんだ。そう。世界中のどんな物よりも大切にしたい人が出来たんだ」


「……里菜の事、ですか?」


「いや、陽菜の事だ。あ、いや、里菜も朝陽も変わらず愛してはいるが、今一番大事なのは陽菜なんだ」


「ふふ。そうですか」


「それに……里菜は僕に会いたくない様だしな」


「……? そう言われたんですか?」


「いや、そういう訳じゃないが……ここ十数年話した事も無いし。ここにも来ていないという事はそういう事だろう?」


「それは……」


「お母さんが居ないのは、その……今お仕事してるからだよ」


「そうか。忙しいんだな。しかし陽菜の事もあるし。話したいのだが、夜には帰ってくるのだろうか」


「ううん。来ないんじゃないかな」


「……陽菜さん」


朝陽が悲し気な顔をして、どこか冷めた顔で笑う陽菜を見つめる。


なんだ。何か妙な雰囲気だ。どういう事だ。


「今は泊まりで仕事をしているという事か? いつ頃には終わるのだろうか。ちょうど僕は今休暇だし、こっちから会いに行く事も出来るが」


「良いよ。そんな事しなくて。私だってもうずっと会って無いもん。話はするけどね」


「話はって、じゃあ陽菜はどうやって生活してたんだ。食事は、家は!」


「全部朝陽さんと幸太郎さんにお願いしてたんだよ。二人が居なかったら私はきっと死んでただろうね」


「そんな……」


僕は今の話が嘘だと、信じたくないと、全て陽菜が冗談で言っている事なんだろうと思いたくて、朝陽を見るが視線を逸らされてしまう。


それは、その反応は真実だという事だ。


どうしてこんな事になっているのか。


そんな事、考えるまでもない。僕のせいだ。


里菜がそれほどまでに金を稼がねばならなくなったのは僕が彼女の妊娠に気づけなかったからだ。


陽菜の存在に気づけなかったからだ。


「……すまない、陽菜」


「別にジョージさんが謝る事じゃないよ」


「いや! これは僕の責任だ。今更何をすれば君に償えるのか分からないが、償わせてくれないか」


「……別に、償いなんて要らないよ。ただ」


「ただ?」


「もし、私の事が大切だって、言うのなら……ずっと傍に居て」


「あぁ。分かった。任せてくれ! もう寂しい思いはさせないぞ」


僕は強く、強く陽菜を抱きしめた。


そして陽菜も僕の服を軽く掴みながら、小さく消えそうな声で呟いたのだった。


「……約束、だよ」

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