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第2話『世界は、どうしてこうも残酷なんだ』

長い長い旅を終えて、空港に降り立った僕を待っていたのは多くのマスコミであった。


どこから僕の事を知ったのか。当たり前の様に、パシャパシャと写真を撮り、マイクを向けてくる。


しかし、今回僕が来たのは少しは仕事の事もあるけれど、殆どプライベートな事情だ。


こういう取材を受けるにしても、それらしい場所を選んで欲しいとは思う。


「ウィルソンさん! 今回は予告のない訪問という事ですが!」


「 新しい映画の撮影の為でしょうか!?」


「ドラマに出演するという話が」


「ウィルソンさん!!」


「きゃっ」


カメラマンが僕に向かって走ってきた為、僕の傍を歩いていた小さな子が倒れそうになってしまう。


僕は咄嗟にその子を受け止めるが、怖い思いをしたからか泣いてしまった。


「君たち。少しは場を考えたらどうだい? ここは一般の方も通る場で、僕は今日一般の人間としてここに立っている。君たちはどういう権利でここに居るんだ?」


「そ、それは」


「香菜!!」


「おがーざーん!」


「大丈夫だった!?」


「あぁ、申し訳ない。僕のせいで小さなお姫様に傷をつけてしまう所だった」


「いや、って、あなた!! もしかして、ジョージ・ウィルソン!?」


「えぇ。確かに僕はジョージ・ウィルソンだけど、今日はただのジョージなんだ。ごめんね。お姫様。怖い思いをしちゃったね。飴、食べるかい?」


「……うん」


少女に飴をあげ、動揺する少女のお母さんにサインをした後、僕はまだ解散しないマスコミを無視しサングラスを掛けると足早にこの場を去った。


どの道、彼らはここを離れる気は無いだろうし。それなら僕が去った方が良いと思ったからだ。


そして僕は早々にここを去る為に、この国で最も仲の良い男に連絡をとる事にした。


「もしもし? 耕作かい?」


『ジョージ! テレビで大騒ぎだぞ。来るなら来るで連絡しろ!』


「いや。バレないと思っていたんだがね。連中の鼻は大分良いらしい」


『まったく。もう車は空港にある。その場所に向かえ』


「助かるよ」


僕は足早に歩き、後ろから聞こえてくるシャッター音と声を無視して進み続ける。


そして、耕作に言われた車に乗り込むと、まだワラワラと群がっている連中を無理矢理どかして車を走らせるのだった。


「いやー。災難だった」


「まったく。少しは反省しろ」


「ハハハ。すまないな。耕作」


「大丈夫ですか? ジョージさん」


「おー! 佳織。君も迎えに来てくれたのか。ありがとう! また一段と綺麗になったね」


「そうですか?」


「おい! ジョージ!! 佳織に手を出したらどうなるか分かっているんだろうな!? このまま海に放り出すぞ!」


「分かっている! 手を出すつもりは無いよ。いくら佳織が魅力的な子でもね」


「ジョージ!!」


「ハハハ。そう怒るな。褒めただけだぞ」


「お前が言うと冗談に聞こえん」


僕は流れていく車の外の景色を見ながら、その懐かしさに目を細めた。


この国に来るのもいつ以来だろうか。


随分と久しぶりな様な気がする。


「それで? 今回はどういう要件で来たんだ?」


「あぁ。夢咲陽菜という子に会いに来たんだ」


「陽菜さんに! ですか!? もしかしてスカウトでしょうか!?」


「スカウト?」


「はい! 陽菜さんの演技は素晴らしいですからね! ジョージさんも拝見されたんですよね!?」


「……いや。興奮しているところ申し訳ないが、僕が彼女を知ったのは彼女がやっている配信だよ。昔の友達によく似ていてね。それで話を聞きたかったんだ」


「あ……そうだったんですね。騒いでしまい、申し訳ございません」


「いや、構わないよ。でも、そうか。彼女は演技もやるんだな。どこかでそれを見れるだろうか?」


「はい! 陽菜さんの出演された作品なら全て家にありますよ!」


「そうか。では見せてもらえるかな。佳織が絶賛する演技を」


「はい!」


僕はそれから車に乗ったまま耕作の家に向かい、家に着くなり佳織に手を引かれ奥の部屋へと案内された。


大きなテレビとソファーがあり、僕はそのソファーに座る。


そして佳織がセットしたドラマを見始めた。


なんて事はない。普通の作品だ。


ストーリーに目新しい物は見つからず、アイドル物と言われる様な作品だろうという事がわかる。


一話においては、そこまで語る事は無い。


しいて言うなら佳織の良くない癖が出ている事くらいだろうか。


しかし、その評価も二話、三話と続けていく内に大きく変わっていった。


陽菜の演技も、それをより高い次元へ押し上げようとする佳織の演技も、素晴らしい物へとなっていった。


大分ベテランであるはずの天王寺颯真が置き去りにされるほどに、二人の演技は演技という枠を超えて、そこにある現実へと成っていた。


そして、僕は陽菜の演技を視る度にある少女の姿が重なる様になる。


「……雛」


「はい。ここの陽菜さんは、とても素晴らしいですよね。呼吸すらも」


「違う。夢咲陽菜の事じゃない」


「え?」


「……そうだ、この演技は! 彼女の物じゃないか! 耕作! 君は気づいているんだろう!?」


「……さて、何のことかな」


僕は気が付けば部屋の中で一緒にドラマを見ていた耕作を見据える。


かつて共演した事のある耕作なら気づかないはずがない。


今、ここに映っているのは夢咲陽菜だが、夢咲陽菜ではない。


「星野雛」


この場に居た全員が息を呑んだのが分かった。


耕作も、佳織も、美嘉さんも皆、緊張し僕の言葉を待っている。


「夢咲陽菜の演技には、星野雛の影が見える!」


「偶然だろう。そういう事もあるさ」


「そんな訳があるか!! これは彼女のオリジナルだ。この僕でさえ再現出来なかった。彼女だけに与えられた天からの贈り物だ!! 彼女は引退したと聞いていたが、夢咲陽菜に教えているんだろう!? 今、どこに居るんだ!!」


「死んだよ」


「……は?」


「彼女は死んだ。もうどこにも居ない」


「そんな……バカな」


僕は力なくソファーに座り込み、未だ流れている映像に視線を向けた。


ただ一人、この世界でただ一人、僕が共演してワクワクする気持ちを抱かせた少女が居た。


全力で役に挑み、その存在全てで世界に生きる。そんな少女だった。


祖母と二人暮らしをしていると聞いていたが、こんな事になるのなら、引き取っておけば良かった。無理やりにでも。


彼女を説得するべきだった。


「世界は、どうしてこうも残酷なんだ」


「……ジョージ」


「ジョージさん。星野雛さんは生きています」


「……!?」


「佳織!」


「お父様。この方は知る権利があると思います。これだけあの方の事を想っている方なら、どの道陽菜さんに出会った時に気づかれてしまうでしょう。それならば無用な混乱を避けるためにも知らせるべきだと私は考えます」


「……それは」


「もし、陽菜さん達に怒られてしまうなら、私も精一杯謝りますから」


「佳織。聞かせてくれ。どういう事なんだ」


僕の問いに佳織は覚悟を決めた様な顔で、ゆっくりと衝撃の事実を語り始めた。


「夢咲陽菜さんが、星野雛さんに会ったのは子供の時だったと聞いています。ちょっとした病気で入院した陽菜さんはそこで、星野雛さんと出会い、二人は意気投合しました。まるで初めからそう定められていたかの様に」


「しかし、二人の時間はそう長くはありませんでした。星野雛さんの演技は自分の命を削る物だったからです。彼女の演技は時に現実を超えて存在しない物すら存在している様に見せる事が出来ました。しかし、その才能が星野雛さんを追い詰めました。存在しない病気を自らの体に再現してしまったのです」


「存在しない病に対処する事はお医者様でも出来ず、星野雛さんはその命を落としてしまいました」


「しかし亡くなる前に星野雛さんは陽菜さんに自らの命を託したと聞いています」


「演技がしたいという心と、その才能、そして星野雛さん自身の意思が……今もなお、信じがたい話かもしれませんが、星野雛さんは陽菜さんの中に生き続けているのです」


僕は佳織の語る言葉に何も言えずただ黙って聞いていた。


現実的ではない。ではないが、その非現実を現実にする方法を僕は知っていた。


世界中に存在してる願いを叶える天使の噂だ。


天野という男がどんな願いでも叶えるのだという。その命を対価にして。


つまりはそういう事なのだろう。


星野雛は、自らの才能によって命を喰われ、死する前に陽菜に自分自身を託したのだ。


その残り少ない命を対価として。


僕は、何も知らず呑気に暮らしていた自分を恨んだ。

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