表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『婚約破棄の手紙から始まる、辺境伯との再婚生活』  作者: はる乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

第二話「辺境の屋敷にて」

馬車に揺られて三日。

理由も分からぬまま婚約を破棄された私は、

アレクシス辺境伯の領地へと向かっていた。


同行しているのは、侍女のアンナ一人だけ。

父は「荷物は最小限でいい」と言った。


「リリエル様、もうすぐ到着ですわ」


アンナが窓の外を指差した。

遠くに、灰色の石造りの屋敷が見えた。

王都の華やかな建物とは違い、質実剛健とした佇まい。

辺境、文字通り、王国の端にあるこの場所が、私の新しい居場所になるのだろうか。


馬車が屋敷の正面に停まり、扉が開けられた。


「ようこそ、リリエル様。私は執事のセバスチャンと申します」


初老の執事に案内され、静まり返った屋敷を進む。

セバスチャンによれば、

半年前に妻・セレスティーヌ様を亡くしてから

アレクシス様は、深く心を閉ざしてしまったという。


執務室の前で、セバスチャンが扉をノックした。

「アレクシス様、リリエル様がお見えです」


「入れ」


低く、心地よく響くが、温度を感じさせない声。

扉が開けられた瞬間、私は息を呑んだ。


執務机の前に立っていたのは、一際目を引く端正な容姿の青年だった。

透き通るような銀髪が、窓から差し込む冬の光を弾いて輝いている。

そして、こちらを射抜くような濃紺の青い瞳。

誰もが思わず振り返るほどの美男子だが、

その26歳という年齢に相応しい落ち着きの中には、

深い孤独が沈殿しているように見えた。


「リリエル・フォン・エーレンベルク伯爵令嬢、お初にお目にかかります」


私は丁寧に頭を下げた。

アレクシス様は、じっと私を見つめた。

その濃紺の瞳は、値踏みするようでも、拒絶するようでもあった。


「ジーク伯爵からは話を聞いている。婚約破棄されたそうだな」


その言葉に、胸が痛んだ。「……はい」


「理由は?」 「教えて、いただけませんでした」


アレクシス様は、小さく息をついた。

「そうか。……理由は、無理に聞かない。

‥‥どんな事情であれ、

君がここへ来た事実は変わらないからな。

こちらとしても、父の親友の頼みとあって断れなかっただけだ。率直に言おう。私には、後妻を迎える気はない」


亡き妻への自責の念を語る彼の声は、鋭く、痛切だった。


「ですが、父は私を婚約者候補として……」

「分かっている。だから、こう提案しよう」


アレクシス様は、私を真っ直ぐに見た。


「一年間、この屋敷に滞在してくれ。形だけの婚約者候補として。一年後には、君に相応しい結婚相手を見つける。資金も、紹介状も、私が用意する。それで、どうだ?」


私は、行き場のない自分の境遇を話し、侍女として雇ってほしいと懇願した。掃除も、洗濯も、帳簿管理もできると。


「……君は、伯爵令嬢だぞ。侍女になりたいなどと、正気か?」

「私は、誰からも必要とされていません。ならば、少しでも誰かの役に立ちたいのです。お願いします」


私は、誰からも必要とされていない。


そう思い込まなければ、ここに立っている自分を保てなかった。


私の震える声を聞き、アレクシス様は長い沈黙の後、深く息をついた。


「……分かった。だが、侍女としてではない。一年間、婚約者候補として住んでもらう。それが、父の親友の娘に対する、私の責任だ」


冷たい言葉の裏に、不思議と拒絶しきれない優しさが滲んでいた。

セバスチャンに案内され、私は客室へと向かった。


案内された部屋で、新しくお世話係となった侍女のメリッサが、私の顔をじっと見つめた。


「リリエル様、その前髪、少し長すぎませんか? お顔が見えません。物も見えづらいでしょう。もし、よろしければ、切らせていただけませんか?」


「可愛くない」「目立つだけで何の得にもならない」

母の言葉が頭をよぎる。

でも、正直言って長くなった前髪は不便でもある。


「……お願いできますか?」


メリッサは嬉しそうに鋏を取りに行った。 私は再び、窓の外を見た。白銀に濃紺の瞳を持つ、あの美しい辺境伯。


一年間。この場所で、私は何を見つけられるのだろうか。 右手首の外せずにるバングルが、夕日を反射して静かに輝いていた。

ルーカスの行動には、まだ語れない理由があります。

この先で少しずつ明らかになりますので、見守っていただけると嬉しいです。


次話もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ