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2 魔女との出会い


 冗談じゃない! 第一も第二もこの王国の王子はろくでもない!

 文句の一つでも言ってやろうと(言えないけど)思っている間に第一王子は帰っていった。


 殺害を予告されたこの日から、私は気の休まらない日々を過ごすことになる。敵はどうやって計画を実行に移すつもりか分からないけど、警戒は怠るべきじゃない。私は神殿内をやたらと浮遊して徘徊するようになった。

 この神殿は本当に何かの神に仕える人達のみが集まっている場所らしく、戦闘に長けた人はいないようだ。もし第一王子が実力者を送りこんできたなら、簡単に私のいる部屋まで侵入を許してしまうんじゃないだろうか。

 そんな私の心配は早々に現実のものとなる。


 ある日の深夜、妙な胸騒ぎで私は目を覚ました。魔力感知で神殿内の様子を探ると、案の定すでに何人かの神官達が倒れている模様。

 室内にいる侍女達に注意を促すべく、急いで私は魔力の微弱波を放った。うつらうつらとしていた二人の侍女が飛び起きる。


「居眠りしてすみません、聖女様!」

「いったいどうなさったのですか!」


 慌ててこちらに振り返った二人だったが、すぐに力が抜けたように揃って床に崩れた。他の神官達と同じく一瞬で意識を奪われたらしい。


 くっ、すでに刺客は部屋の中に! 手際の良さからしてかなりの手練れ! 第一王子め、赤子相手にプロの暗殺者を送りこんできたか!


 その手練れの暗殺者が陰から音もたてずに姿を現した。覆面で顔を隠した男性が持っていた吹き矢をしまい、短剣を鞘から抜く。

 やっぱり私に対しては意識じゃなくて命を奪う予定だ!

 黙って殺されてたまるか! 魔力防壁展開!


 私は籠の周囲に魔力の密度を高めてバリアを張った。

 これを見た暗殺者は一瞬戸惑うも、即座に気を取り直して短剣を構えて突進を開始。短剣はバリアを貫通したが、刃の真ん中辺りで止まった。

 刃の切っ先が私のすぐ眼前に。


 ……あ、危なかった! 強度がギリギリだったー!

 全然余裕ないしこうなったらやられる前にやれだ! 魔力弾発射!

 目の前に魔力の塊を球状に生成する。暗殺者がまた戸惑った様子を見せたので、この隙に彼めがけて放った。


 ドゴッ!


 魔力弾は暗殺者の胸部を直撃。彼の体を部屋の端まで吹っ飛ばした。

 しばらく警戒して見つめていたが、暗殺者が起き上がってくる気配はない。どうやら今の一撃で気絶してくれたらしい。


 ……はぁ、ずいぶんと油断してくれたおかげで助かったよ。まさかゼロ歳児が防御して反撃までしてくるとは思わなかったかな。……私もできるとは思わなかったけど、何とかなった。


 一息ついた後に倒れている侍女達と暗殺者を眺めながら思案に耽る。

 これは計画変更だな……、もう一日だってここにはいられない。

 よし、今すぐ逃げよう。

 侍女の皆、今日まで私を育ててくれてありがとう、お達者で。


 魔力を操作して部屋の窓を開けると、浮き上がらせた籠で一気に外の世界へと飛び出した。

 満月が照らす夜空をゆっくりと飛行する。眼下には明かりを放つ町並が、そして、少し離れた高台には石造りの大きな城が見えた。


 あそこの城にあのろくでもない王子兄弟が住んでいるのかな。私にもっと魔力があったなら、ここから魔力弾で砲撃してやるものを。

 いや、恨みに囚われている場合じゃない。この先どうするか考えないと。便利な魔力があっても私はまだ赤子だから誰かに育ててもらう必要があるんだよね。かといって、この王国内で暮らしていたらいずれまた捕まってしまうだろうし。


 町の上を低空飛行しながら頭を悩ませていると、不意に強い魔力を感知した。引き寄せられるように私はそちらへと向かう。

 辿り着いたのは露店の酒場だった。魔力はそこでお酒を飲んでいる一人の若い女性から発せられている。彼女はなかなか酒癖が悪いらしく、周りのおじさん達に絡んでいた。おかげで、魔力を耳に集中させて聞き耳をたてると、その素性を知ることができた。


 女性は旅の魔女で、この町で出会った男性と恋に落ちたのだとか。しかし、お付き合いを始めてわずか一週間でふられてしまったそうだ。「君の酒癖の悪さにはもう耐えられない……」と言われて。


 ……うーん、相当難ありだけど、この際贅沢は言ってられないか。

 散々おじさん達に愚痴った挙句、泣きながらお酒を飲む魔女の前に私は降下。彼女は目を丸くして籠の中の私を見つめる。


「空から、赤ちゃんが降ってきたわ……。これは、もう恋愛なんてやめて一足飛びで子育てをしろ、という天からのお告げ……?」


 ……なんかいい具合に解釈してくれた。まあちょうどいいかも。


 そうです、あなたは恋愛に向いていません。諦めて私を育ててください。

 と思念を魔力に込めて魔女に送った。すると、彼女は目をゴシゴシとこすってコップのお酒を一気にあおる。そのままテーブルにつっぷして寝てしまった。

 ちょっとちょっと!



 ――朝になって目を覚ました魔女は、テーブル上の籠の中にいる私を覗きこんできた。


「……夢じゃなかった、本当に赤ちゃんがいるわ」


 お酒が抜けたなら現実を受け入れてください。私はあなたに頼るしかないんですよ、早く私を連れてこの王国から脱出してください!

 嘆願の魔力を送ると彼女は考える仕草を見せる。


「何なの、この子の魔力……、絶対に普通じゃない。この国から一刻も早く逃げ出したい、という意思をビシビシ私に送ってきているし」


 ……明らかに面倒事を抱えた赤子だし、駄目か?

 私は固唾を飲んで魔女が出す答を待った。


 しばし悩んだ後に彼女は晴れやかな表情でポンと手を打ち鳴らす。


「これは大変な幸運なんじゃないかしら? 私はお腹を痛めずしてすごい後継者を得た!」


 この上なく楽観的に捉えてくれた!


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